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第五章 しあわせな休日
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その日から、私は梨菜の机にしょっちゅう寄るようになった。
約束を果たしたい、という気持ちはある。
それに、坂詰さんから、梨菜をガードするような気持ちも。
だけどそれ以上に、梨菜と一緒にいることが楽しかった。
全然違う性格だと思ってたけど、不思議に気が合う。
私って、梨菜のこと何も知らなかったんだ。
いつも一緒に移動したり、ご飯を食べたりしてた美玖と鞠絵は、最初は遠巻きに見ていることが多かった。
でも、私がくだらない間違いをするたびに、梨菜が楽しそうにツッコミを入れる様子だったり、入れたツッコミがまた間違ってて二人で笑っちゃうなんてところを見ている内に、梨菜の良いところが伝わってきたらしい。
今日のお昼は四人で、机を合わせて食べたりした。
行き帰りは方向が違うから無理だけど、学校にいる間はいつも一緒だ。
これだけ第三者がいる状態じゃ、さすがの坂詰さんも、梨菜に構う隙がないらしい。
梨菜へのいじめは、影を潜めていた。
少し安心した私は、久しぶりに図書室に行くことにした。
「今日の放課後は、私、図書室に寄ろうと思うの」
「市立図書館じゃなくて?」
「うん、高校の図書室。えっと……クラスメイトの楠原くんって知ってる?」
「名前と顔は分かるけど。あの、休み時間に本読んでる子でしょ」
「そう。最近いつも、放課後は図書室で色々紹介して貰ってるの」
「ああ、楠原って、図書室にいたんだ。なるほど……」
楠原くんってどんな子だっけって、全然分からなかった私よりもよく知ってると思う。
私は頷いて、鞄から本を抜き出した。
『デッド・ゾーン』――楠原くんの好きなスティーブン・キングのサイキック・サスペンスだ。
「これを、楠原くんからすすめてもらって、図書室から借りてたの。だから、返しに行かなくちゃ」
「ふーん、図書室か……あそこって、ほとんど誰もいなくない?」
「うん。楠原くんと二人になることが多いかなぁ」
「二人きりねぇ……ふーん」
思わせぶりな表情を浮かべる梨華。
「えっと、梨菜も本とか読んだりする? 一緒に行く?」
「うーん……じゃあ、行こうかな。そう言えば学校の図書室って、あんま行ったことなかったし。……お邪魔じゃなければ、だけど」
「邪魔? 図書室だよ? うるさくしなければ邪魔なんて……」
「いや、あんたがそうでも、向こうはどうか――ああ、もういいや。行く行く。そんで自分で様子見るわ」
「え、うん……?」
変なやり取りに首を傾げつつも、図書室に向かう。
先に図書室にいた楠原くんは、私たちの顔を見て、「やっぱり」という納得の表情を浮かべた。
「最近、日上さんと新関さん、仲良くしてるみたいだし、新関さんならいつか来ると思ってた」
「やー、こっちは蔵書が少ないって聞いてたしさ、新刊もあんま入ってないみたいだし、来てもイマイチかなって思ってたからさあ」
「うん。だけどその分、静かだから」
よく見知った風に言葉を交わす二人を見て、私の方が驚いてしまった。
「あれ……梨菜と楠原くんって、以前から知り合いなの?」
「知り合いってほどでもないけど。この辺りだと、本好きが集まるのは、駅前の本屋か市立図書館っていうのがパターンなのよね」
「新関さんは、よく図書館の方にいるね」
どうやら、お互いに顔だけは知っている本好き仲間だったらしい。
それで、楠原くんは、梨菜のいじめを心配してたのだろう。
持ってきた『デッド・ゾーン』の返却処理をしながら、楠原くんが私の方へ顔を向ける。
「日上さん、次はどうする? 俺だと、延々とスティーブン・キングをすすめそうだから、新関さんからも何かおすすめの本を聞いてみる? スティーブン・キングは多作だしどれも面白いから、俺もまだすすめたい本はあるけど……」
楠原くんの視線を受けて、梨菜はぱっと両手を上げた。
「うんうん。状況は大体わかったわ。それじゃ、日上のことは楠原に任せておくから」
「えっ、梨菜?」
「俺に任せるって……」
「だって、日上はそのために来てる訳だし、楠原も受け入れてるし……あんたら、時間かかりそうだしね。わたしは勝手に散策してるからさ。どーぞお二人はわたしのことなんか意識せず、いつも通りにしてて」
「ちょっと、梨菜!」
「そう? じゃあ、日上さん、今日もスティーブン・キングでもいいかな」
梨菜の言葉をどうとったのか、楠原くんはさっさと奥の棚へ向かっていった。
私は慌ててその背中を追いかける。
ふと後ろを振り返ると、梨菜が片目をぱちんと閉じて、ウィンクしてきた。
えっと、そのウィンク……ん、もう! さっきから態度がおかしいと思った!
そもそも、私と楠原くんは、そんなんじゃないから!
……と、いうことを身振り手振りと表情で伝えたつもりだったけど、静かにすべき図書室で、梨菜にうまく伝わったかしら……。
約束を果たしたい、という気持ちはある。
それに、坂詰さんから、梨菜をガードするような気持ちも。
だけどそれ以上に、梨菜と一緒にいることが楽しかった。
全然違う性格だと思ってたけど、不思議に気が合う。
私って、梨菜のこと何も知らなかったんだ。
いつも一緒に移動したり、ご飯を食べたりしてた美玖と鞠絵は、最初は遠巻きに見ていることが多かった。
でも、私がくだらない間違いをするたびに、梨菜が楽しそうにツッコミを入れる様子だったり、入れたツッコミがまた間違ってて二人で笑っちゃうなんてところを見ている内に、梨菜の良いところが伝わってきたらしい。
今日のお昼は四人で、机を合わせて食べたりした。
行き帰りは方向が違うから無理だけど、学校にいる間はいつも一緒だ。
これだけ第三者がいる状態じゃ、さすがの坂詰さんも、梨菜に構う隙がないらしい。
梨菜へのいじめは、影を潜めていた。
少し安心した私は、久しぶりに図書室に行くことにした。
「今日の放課後は、私、図書室に寄ろうと思うの」
「市立図書館じゃなくて?」
「うん、高校の図書室。えっと……クラスメイトの楠原くんって知ってる?」
「名前と顔は分かるけど。あの、休み時間に本読んでる子でしょ」
「そう。最近いつも、放課後は図書室で色々紹介して貰ってるの」
「ああ、楠原って、図書室にいたんだ。なるほど……」
楠原くんってどんな子だっけって、全然分からなかった私よりもよく知ってると思う。
私は頷いて、鞄から本を抜き出した。
『デッド・ゾーン』――楠原くんの好きなスティーブン・キングのサイキック・サスペンスだ。
「これを、楠原くんからすすめてもらって、図書室から借りてたの。だから、返しに行かなくちゃ」
「ふーん、図書室か……あそこって、ほとんど誰もいなくない?」
「うん。楠原くんと二人になることが多いかなぁ」
「二人きりねぇ……ふーん」
思わせぶりな表情を浮かべる梨華。
「えっと、梨菜も本とか読んだりする? 一緒に行く?」
「うーん……じゃあ、行こうかな。そう言えば学校の図書室って、あんま行ったことなかったし。……お邪魔じゃなければ、だけど」
「邪魔? 図書室だよ? うるさくしなければ邪魔なんて……」
「いや、あんたがそうでも、向こうはどうか――ああ、もういいや。行く行く。そんで自分で様子見るわ」
「え、うん……?」
変なやり取りに首を傾げつつも、図書室に向かう。
先に図書室にいた楠原くんは、私たちの顔を見て、「やっぱり」という納得の表情を浮かべた。
「最近、日上さんと新関さん、仲良くしてるみたいだし、新関さんならいつか来ると思ってた」
「やー、こっちは蔵書が少ないって聞いてたしさ、新刊もあんま入ってないみたいだし、来てもイマイチかなって思ってたからさあ」
「うん。だけどその分、静かだから」
よく見知った風に言葉を交わす二人を見て、私の方が驚いてしまった。
「あれ……梨菜と楠原くんって、以前から知り合いなの?」
「知り合いってほどでもないけど。この辺りだと、本好きが集まるのは、駅前の本屋か市立図書館っていうのがパターンなのよね」
「新関さんは、よく図書館の方にいるね」
どうやら、お互いに顔だけは知っている本好き仲間だったらしい。
それで、楠原くんは、梨菜のいじめを心配してたのだろう。
持ってきた『デッド・ゾーン』の返却処理をしながら、楠原くんが私の方へ顔を向ける。
「日上さん、次はどうする? 俺だと、延々とスティーブン・キングをすすめそうだから、新関さんからも何かおすすめの本を聞いてみる? スティーブン・キングは多作だしどれも面白いから、俺もまだすすめたい本はあるけど……」
楠原くんの視線を受けて、梨菜はぱっと両手を上げた。
「うんうん。状況は大体わかったわ。それじゃ、日上のことは楠原に任せておくから」
「えっ、梨菜?」
「俺に任せるって……」
「だって、日上はそのために来てる訳だし、楠原も受け入れてるし……あんたら、時間かかりそうだしね。わたしは勝手に散策してるからさ。どーぞお二人はわたしのことなんか意識せず、いつも通りにしてて」
「ちょっと、梨菜!」
「そう? じゃあ、日上さん、今日もスティーブン・キングでもいいかな」
梨菜の言葉をどうとったのか、楠原くんはさっさと奥の棚へ向かっていった。
私は慌ててその背中を追いかける。
ふと後ろを振り返ると、梨菜が片目をぱちんと閉じて、ウィンクしてきた。
えっと、そのウィンク……ん、もう! さっきから態度がおかしいと思った!
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