【大師匠は大嘘つき】〜俺はデタラメの剣術を教えたはずなのに、今や妹は剣聖と呼ばれています〜

鳥羽フシミ

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修行編

第9話 剣聖への道 その1

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「うっ、う~ん」(大きなあくび)

「うぐぐぐぐぐ~」(伸びと同時に変な声出た)

「はぁ~」(深呼吸)

秋の朝は夏と違ってちょっとひんやりしていて、そしてどこまでも空気が澄んでいる。

俺と妹は村の外れにある泉の前で、ようやく山の合間から顔を出したお日様の光を浴びて、仲良く一緒に精一杯の伸びと深呼吸をした。

「さて、始めるか」

とうとうこの時がやって来た。これから始まる修行。伝説の剣聖に近付く第一歩は、まず目を鍛える事に始まる。

良くバトル漫画とかにあるでしょ。

「お、お前。今の攻撃見えたか?」

「いや、俺には全然見えなかった……」

なんていうあれですよ、あれ。

あれって大抵、アニメや漫画では圧倒的に素早いやつとか強いやつにしか見えないんです。でもさぁ~、おかしくないです?

あの世界観って、見えるイコール避けられる、反応出来るの世界だから、キャラクターの強さの尺度を図るにはとっても分かりやすいんだけど……。あれって、間違いなく動体視力でしょ。

動体視力って、強く無くても鍛える事出来るよね。

ってことで、俺はまず妹に見える達人になって貰おうって言うわけ。動体視力を鍛えるだけなら、怪我とか絶対にしないじゃん。

そして、あわよくばこの第一段階で挫折して俺のドラゴン退治なんかも、どうでも良くなってくれれば……なんてね。

それで、俺が選んだ修行場所は、この泉ってわけ。

ん?なんで泉かって?そりゃあれですよ。秋の水辺とくりゃ………。ほら、下ばかり見てないで顔を上げて。

たくさんいるでしょ。むちゃくちゃ素早いやつらが。そう、赤トンボだ。つまり、今から妹には、この赤トンボの数を全部数えて貰おうってわけさ。

まぁ~出来るわけない。本当。どう考えても無理でしょ。だってみんなトンボだし、ひっきりなしに動いてるし、五十匹?百匹?俺には見当すらつきません。


だから、俺が妹にトンボの数を数えろって言ったらキョトンとしてたよ。でもやっぱりそこは八歳の女の子。俺が出来ると言ったら信じちゃうんだよなぁ……。

「いち、にぃ、さん……よん……。あぁ~そっちに行っちゃ駄目だって」

慌ててもう一度数え直して

「いち、にぃ、さん……」

まずは指差し確認で一匹ずつ数えようと試みる妹。当然そんな数え方じゃあ無理なんだけど根気だけはあるから、何回でも試すわけ。なんとか十までは行けるみたいだけど、それ以上はやっぱり無理でやり直し。俺もさすがに健気過ぎて可哀想になってくる。

しまいには、数字を数える声が涙ぐんできた。

「あゝもう……ストップ。ストップ~!」

俺のほうが耐えられないわ。

「だって……トンボが動くから……」

目にいっぱいの涙をためた妹が、それでも、もう一度最初っから数えようと涙を拭う。

あぁ~。俺が本当に剣の達人だったら、こんなふうに妹を泣かせずにすんだと言うのに。(俺がついた嘘のことはもう忘れてくだだい……)
でもまぁ、八歳児なんてこんなものですよ。こうなることは最初っから分かってました。だって兄妹なんですもの。

だから。もちろん次の手も用意してますよ。このトンボは『かまし』ってやつです。修行の大変さを伝える為に私が妹に一発かましたったわけです。

さて、そこで、取り出しましたるたくさんのカラフルな石。妹が寝ている間に私が頑張って色を塗りました。五色に色分けして百個ほど袋に入ってます。

それを袋の中で混ぜ混ぜして、片手で握れるだけ握ったら……。地面にポイッと放り投げます。

「さて。全部で何個ある?」

トンボを数えるのを中断して、俺がなにかを始めようとしていたのを横で見ていた妹。突然振られてちょっと驚いたみたいだったけど、すぐにこれは修行なんだと理解したようだ。

「いち、に、さん、し、ご……」

あくまでも指差しだけど、数えるのがさっきよりも早い。まぁ当たり前っちゃぁ当たり前。だって石は動かないしね。


でもさぁ、そんなことが修行になるなんて思ってる奴いねぇよなぁ~。

俺は、妹がまだ数え終わらないうちに、その石を拾い始める。そして少し厳しめの口調でこう言った。

「おい。それでは駄目だ。これは修行だぞ。普通に数えてどうするんだ?」

さてさて、ここからが修行の本番ってわけ。妹はどう言うこと?って顔をしてるけど、この目を鍛える修行は、まずはこのカラフルな石の数を一瞬で数える練習から始まる。それこそが(わたしの考えた)剣聖への第一歩なのだ。
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