10 / 96
修行編
第10話 敗北を知りたい妹 その3
しおりを挟む
五日後に迫った武術大会を前に、王都ナンバークは普段とはまた違った賑わいを見せていた。もともと商業都市として発展したこのナンバークは王侯貴族よりもどちらかと言えば商人達が幅を効かせる珍しい都市なのだが、このときばかりは大会の参加不参加に関わらず大陸各地より腕自慢の武芸者が集まって、祭りの前の浮かれた空気の中にも少々物々しい雰囲気が漂っていた。
昨日から始まった大会へのエントリーは、王城正面の広場に設けられた特設の受付で行われる。大会の発起人である白騎士団長レイラは、今日やっと城壁の上から、大会受付のある正面広場を見下ろすことが出来た。しかしそれも王城警備の巡回のついでの僅かな時間ではあるのだが。
「エントリーの締め切りは明後日の正午です。この調子じゃあ、まだまだ来るでしょうね」
騎士団幹部の紅一点、いつもレイラと行動を共にするアイシアが、同じ様に広場を見下ろして嬉しそうに言った。
アイシアによると、初日の昨日にはおよそ五十名ほどの出場希望者がエントリーを終えたようである。しかし二日目の今日は初日よりも多くの武芸者達が受付に集まっているように見える。まだ時刻前だというのに、既にもう何人もの出場希望者が受付の前に列を作っているのが眼下に見て取れた。
そして、今年は列を取り囲む見物人の中に、昨年には見られなかった冒険者の一党が、チラチラと受付の様子を伺う様に集まっている。
「冒険者の姿がちらほら見えるようだが……」
レイラが少し意外だといった表情で、眼下の広場から隣を歩くアイシアに視線を移した。
「そうですね。今年から運営に冒険者ギルドも参加しましたので、募集でもかけたんじゃないですか?」
「なるほど、そうだったか。だが彼等の誉れはドラゴン退治のはずだろ……。いくらギルドが募集したからと言って、こんな新参の武術大会に彼らが本当にエントリーするとは思えんのだがな」
そんな疑問に、アイシアは手元の台帳のページを捲る。主にレイラの秘書的役目を担う彼女の手元には騎士団の業務におけるあらゆる情報が集められていた。
「今のところ五名がエントリーしてますね。それだけこの武術大会が世の中に知れ渡ってきたということでしょう。それに賞金も破格ですし」
「なるほど賞金目当てか……それなら冒険者らしい。しかし冒険者の真骨頂は各々の特技を活かしたチーム戦だ。はたして魔物相手の戦い方が人間にも通用するのだろうか――」
「私はまだ冒険者と手合わせをしたことは無いので、少し楽しみです」
「そうか。そう言えば、君もエントリーするんだったな」
「はい。自分の腕がどこまで通用するのか見定めたいと思っています」
そんなアイシアの言葉に、レイラの口元が少し緩んだ。普段から事務作業ばかりを押し付けている彼女が、手合わせを楽しみと言ったことが少し意外で、そしてただひたすらに羨ましかった。
「なるほど、だが、無茶をして怪我だけはするなよ。私も師匠からは怪我だけはするなと、こっぴどく言われていたからな」
何故かレイラの脳裏にあの懐かしい修行の日々の兄の言葉が蘇る。きっかけは、間違いなく隣を歩くアイシアのさっきの言葉。
――あの頃の自分は、剣術の腕が上がる事が、ただただ嬉しくてたまらなかった……。
「師匠とは、行方知れずのお兄様の?」
アイシアの『お兄様』と言う言葉にレイラは一瞬戸惑った。思い起こせば、自分から誰かに兄の話を持ち出したのは何年ぶりだろうか。
だが、嫌では無い。
「あぁ。本人は兄弟子だと思えと言っていたけど、私にしてみればずっと師匠だったよ。いつも私の怪我のことばっかり心配して……」
「お優しい、お兄様だったんですね。私はてっきり凄く厳しいお方かと勝手に思っていたのですが。だってレイラ団長がこんなにもお強いんですもの」
「フフッ。あれは単なる猫っ可愛がりだ。でも一方で、無茶ばかりを言う師匠だった」
あまりにも囚われすぎて、逆に遠ざけていた兄との思い出を、レイラは不思議と今日なら話せる様な気がした。
昨日から始まった大会へのエントリーは、王城正面の広場に設けられた特設の受付で行われる。大会の発起人である白騎士団長レイラは、今日やっと城壁の上から、大会受付のある正面広場を見下ろすことが出来た。しかしそれも王城警備の巡回のついでの僅かな時間ではあるのだが。
「エントリーの締め切りは明後日の正午です。この調子じゃあ、まだまだ来るでしょうね」
騎士団幹部の紅一点、いつもレイラと行動を共にするアイシアが、同じ様に広場を見下ろして嬉しそうに言った。
アイシアによると、初日の昨日にはおよそ五十名ほどの出場希望者がエントリーを終えたようである。しかし二日目の今日は初日よりも多くの武芸者達が受付に集まっているように見える。まだ時刻前だというのに、既にもう何人もの出場希望者が受付の前に列を作っているのが眼下に見て取れた。
そして、今年は列を取り囲む見物人の中に、昨年には見られなかった冒険者の一党が、チラチラと受付の様子を伺う様に集まっている。
「冒険者の姿がちらほら見えるようだが……」
レイラが少し意外だといった表情で、眼下の広場から隣を歩くアイシアに視線を移した。
「そうですね。今年から運営に冒険者ギルドも参加しましたので、募集でもかけたんじゃないですか?」
「なるほど、そうだったか。だが彼等の誉れはドラゴン退治のはずだろ……。いくらギルドが募集したからと言って、こんな新参の武術大会に彼らが本当にエントリーするとは思えんのだがな」
そんな疑問に、アイシアは手元の台帳のページを捲る。主にレイラの秘書的役目を担う彼女の手元には騎士団の業務におけるあらゆる情報が集められていた。
「今のところ五名がエントリーしてますね。それだけこの武術大会が世の中に知れ渡ってきたということでしょう。それに賞金も破格ですし」
「なるほど賞金目当てか……それなら冒険者らしい。しかし冒険者の真骨頂は各々の特技を活かしたチーム戦だ。はたして魔物相手の戦い方が人間にも通用するのだろうか――」
「私はまだ冒険者と手合わせをしたことは無いので、少し楽しみです」
「そうか。そう言えば、君もエントリーするんだったな」
「はい。自分の腕がどこまで通用するのか見定めたいと思っています」
そんなアイシアの言葉に、レイラの口元が少し緩んだ。普段から事務作業ばかりを押し付けている彼女が、手合わせを楽しみと言ったことが少し意外で、そしてただひたすらに羨ましかった。
「なるほど、だが、無茶をして怪我だけはするなよ。私も師匠からは怪我だけはするなと、こっぴどく言われていたからな」
何故かレイラの脳裏にあの懐かしい修行の日々の兄の言葉が蘇る。きっかけは、間違いなく隣を歩くアイシアのさっきの言葉。
――あの頃の自分は、剣術の腕が上がる事が、ただただ嬉しくてたまらなかった……。
「師匠とは、行方知れずのお兄様の?」
アイシアの『お兄様』と言う言葉にレイラは一瞬戸惑った。思い起こせば、自分から誰かに兄の話を持ち出したのは何年ぶりだろうか。
だが、嫌では無い。
「あぁ。本人は兄弟子だと思えと言っていたけど、私にしてみればずっと師匠だったよ。いつも私の怪我のことばっかり心配して……」
「お優しい、お兄様だったんですね。私はてっきり凄く厳しいお方かと勝手に思っていたのですが。だってレイラ団長がこんなにもお強いんですもの」
「フフッ。あれは単なる猫っ可愛がりだ。でも一方で、無茶ばかりを言う師匠だった」
あまりにも囚われすぎて、逆に遠ざけていた兄との思い出を、レイラは不思議と今日なら話せる様な気がした。
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる