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修行編
第11話 敗北を知りたい妹 その4
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あの日。レイラはトンボの数が数えられずに泣きべそをかいた。
だが、それが今では、数だけに限らず、色、姿、移動している方向……そして距離。目の前にある景色の全てが見ると言う行為を通り越して、知覚としてダイレクトにレイラの頭の中に入ってくる。
「剣士が二十八人。恐らく短刀使いの冒険者が一人。それと掌法を使う者が三人。後は槍術が十人。男が三十五人で女が七人だ」
レイラは、さっき見た景色を言葉に出してみた。それはもちろん彼女が広場を見下ろしながら指折り数えた訳では無い。見た瞬間に知っているのだ。
「えっ?何ですかそれは……」
アイシアのキョトンとした瞳がレイラの顔を覗き込む。
しかしレイラはその表情の意味を直ぐには理解出来なかった。何故なら彼女は忘ていたのだ。その表情こそが、あの修行をしてこなかった者の当然の反応であるということを。
「さっき下の受付に並んでいた武芸者の数だよ」
遅れてその事にはたと気がついたレイラは、そう言って少し自嘲気味に笑う。
しかしその言葉は一般的な剣術の訓練しかしてこなかったアイシアにとって、全く予想外の言葉であったらしい。彼女の取り乱したような言葉が直ぐに帰ってくる。
「それってどう言うことですか?さっきって……。一瞬、広場を見下ろしただけですよね?周りには無関係の人や様子見の人もいましたし……。それを一瞬で見分けて数えたって言うのですか?」
考えるより先に思わず声が出てしまっていた。
確かに、数えようとすれば出来ない数ではないだろう。しかし実際にはどうだろうか、アイシアはさっき自分も見た光景をもう一度思い出して見た。そこには確かに受付を待つ人の列が出来ていた。しかしレイラはその性別や武器などの特徴まで数えているのだ。
果たしてそんな事が可能なのだうか。アイシアはその答えが知りたくてじっとレイラの言葉を待った。
「兄が初めて私につけてくれた修行がそれだよ。最初は何十匹ものトンボの数を数えろって言われてね。私は出来なくてべそをかいた」
「数を数えるのが、修行ですか?」
「そうだ。最初は危ないからと言って棒切れすら持たせてもらえなかったからね。過保護な兄さ。トンボが数えられなかった時も、代わりを用意してくれていて……。はじめは兄がカラフルに塗ってくれたおはじきからだった」
「おはじきって、庶民の子供が遊ぶあれですよね」
「まだまだ、そう言う年頃だったんだよ私は。おはじきは兄の手作りだったけど、それをバラバラって適当に地面にばら撒いて、その数を数えるのが最初の修行だった」
「それだけで、さっきみたいに瞬時に数えられるようになるんですか?」
「いや。数えると言うよりは知るに近いかな。でもそれはおはじきの修行をしていく上で身に付く感覚だから、うまくは説明出来ないけど……。ただ、この感覚が無いと絶対に次の段階に進めないから」
今まで、無敗の剣聖の剣技にばかりに目が行っていたアイシアは、この時に初めて彼女の強さの源を知った気がした。
次元の違いすぎる絶技に、真似をすることすらはばかられるような、その変幻自在な技の数々。それはアイシアだけでは無く彼女の剣技を見たものすべてを絶望へと突き落とすほどの高みであった。
だが、幼かった剣聖も、出来ないとべそを描くことがあったと言う事実。そして子供の玩具『おはじき』を数える事から始まった修行の第一歩。
アイシアは自分でも意外だった。
気がつけば目の前に差し込んだ一筋の光を、躊躇すること無く掴もうとするひたすら真っ直ぐな自分の姿がそこにあった。
「団長。もしよろしければ、そのおはじきの修行方法を、私にも教えて頂けませんか?」
アイシアは思わずそう声に出していた。
だが、それが今では、数だけに限らず、色、姿、移動している方向……そして距離。目の前にある景色の全てが見ると言う行為を通り越して、知覚としてダイレクトにレイラの頭の中に入ってくる。
「剣士が二十八人。恐らく短刀使いの冒険者が一人。それと掌法を使う者が三人。後は槍術が十人。男が三十五人で女が七人だ」
レイラは、さっき見た景色を言葉に出してみた。それはもちろん彼女が広場を見下ろしながら指折り数えた訳では無い。見た瞬間に知っているのだ。
「えっ?何ですかそれは……」
アイシアのキョトンとした瞳がレイラの顔を覗き込む。
しかしレイラはその表情の意味を直ぐには理解出来なかった。何故なら彼女は忘ていたのだ。その表情こそが、あの修行をしてこなかった者の当然の反応であるということを。
「さっき下の受付に並んでいた武芸者の数だよ」
遅れてその事にはたと気がついたレイラは、そう言って少し自嘲気味に笑う。
しかしその言葉は一般的な剣術の訓練しかしてこなかったアイシアにとって、全く予想外の言葉であったらしい。彼女の取り乱したような言葉が直ぐに帰ってくる。
「それってどう言うことですか?さっきって……。一瞬、広場を見下ろしただけですよね?周りには無関係の人や様子見の人もいましたし……。それを一瞬で見分けて数えたって言うのですか?」
考えるより先に思わず声が出てしまっていた。
確かに、数えようとすれば出来ない数ではないだろう。しかし実際にはどうだろうか、アイシアはさっき自分も見た光景をもう一度思い出して見た。そこには確かに受付を待つ人の列が出来ていた。しかしレイラはその性別や武器などの特徴まで数えているのだ。
果たしてそんな事が可能なのだうか。アイシアはその答えが知りたくてじっとレイラの言葉を待った。
「兄が初めて私につけてくれた修行がそれだよ。最初は何十匹ものトンボの数を数えろって言われてね。私は出来なくてべそをかいた」
「数を数えるのが、修行ですか?」
「そうだ。最初は危ないからと言って棒切れすら持たせてもらえなかったからね。過保護な兄さ。トンボが数えられなかった時も、代わりを用意してくれていて……。はじめは兄がカラフルに塗ってくれたおはじきからだった」
「おはじきって、庶民の子供が遊ぶあれですよね」
「まだまだ、そう言う年頃だったんだよ私は。おはじきは兄の手作りだったけど、それをバラバラって適当に地面にばら撒いて、その数を数えるのが最初の修行だった」
「それだけで、さっきみたいに瞬時に数えられるようになるんですか?」
「いや。数えると言うよりは知るに近いかな。でもそれはおはじきの修行をしていく上で身に付く感覚だから、うまくは説明出来ないけど……。ただ、この感覚が無いと絶対に次の段階に進めないから」
今まで、無敗の剣聖の剣技にばかりに目が行っていたアイシアは、この時に初めて彼女の強さの源を知った気がした。
次元の違いすぎる絶技に、真似をすることすらはばかられるような、その変幻自在な技の数々。それはアイシアだけでは無く彼女の剣技を見たものすべてを絶望へと突き落とすほどの高みであった。
だが、幼かった剣聖も、出来ないとべそを描くことがあったと言う事実。そして子供の玩具『おはじき』を数える事から始まった修行の第一歩。
アイシアは自分でも意外だった。
気がつけば目の前に差し込んだ一筋の光を、躊躇すること無く掴もうとするひたすら真っ直ぐな自分の姿がそこにあった。
「団長。もしよろしければ、そのおはじきの修行方法を、私にも教えて頂けませんか?」
アイシアは思わずそう声に出していた。
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