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修行編
第32話 敗北を知りたい妹 〜破門〜 その4
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今年の武術大会の予選は、計五日間をかけて執り行われる事になっていた。試合はトーナメント方式が採用されて、合計三百人を超える参加者をこの5日間の間に8人にまでに絞り込むのである。
レイラとアイシアの二人は人で溢れる大通りから横道へと外れて、今目の前にあるのはこの王都で王城の次に巨大な建造物、丸い円形の建物――いわゆる闘技場《コロシアム》である。
もちろん明日の予選初日からは観衆で溢れかえり熱狂に包まれるであろうこの闘技場。しかし開催前日の今はまだ大通りのお祭り騒ぎとは対照的に人通りもまばらでひっそりと静まり返っている。
「予選登録者の中に、あの大道芸の少年エデン=カスピの名前はありましたが、カイル=バレンティンの名前はありませんでした……」
コロシアム内に設置された大会運営事務所から駆け足で戻ってきたアイシアは、広場の噴水脇に腰掛けていたレイラに駆け寄るなり息を弾ませてそう言った。
「ありがとう。でも分かっていたよ、もし兄が大会に出るというなら真っ先に私に会いに来てくれるはずだから――でも、やっぱり兄は今年もこの王都には来てはくれて無かったね……」
レイラはいつも兄の事となると情緒が不安定になる。そして経験からそれを知っているアイシアは、今も少し覇気のない剣聖の姿を見て、その傍《かたわ》らへとゆっくり腰を下ろした。
「気を落としていらっしゃいますか?」
アイシアはいつもの整然とした言葉を改め、そっと優しい声色でレイラに語りかける時がある。そして、そんな時はいつもレイラの言葉も肩肘を張った言葉ではなく、少しだけ年相応の娘《むすめ》らしい言葉に戻った。
「あぁ、少しだけ――。ごめんね気を使わせて」
「かまいませんよ。でも、もし胸に支《つか》えている事があれば言葉にした方が楽になるんじゃないですか?」
「ありがとうアイシア」
いつもより素直なレイラの声が返ってきた――
「私はね――年々不安になってくるんだ。こんなやり方で本当にあの兄が見つかるのかって」
「確かそれが国王陛下とのお約束でしたっけ」
レイラがポツリと漏らし始めた不安。それをアイシアが優しく汲み取る様に相槌を打った。いつからか始まったこの姉と妹の様な関係。最初は気難しい少女だと思っていたレイラにアイシアが親しみを覚えるようになったのもそんな関係が始まってからだ。
「うん――。でも時々、この方法が本当に正しかったのかって思ってしまう時がある」
それは、この武術大会のこと。そして上手いように国王の言葉に乗せられてしまったこと。
「それでも、国中に触れ書きが回っていますし手を尽くしていないわけでは無いでしょ?」
「私もね――時々、村にも使いを出しているんだ。でも兄が戻って来た形跡は全く無くて――。もしかして兄は私に会いたく無いんじゃないかって……そう思う時がある」
「そんな――。だって団長は救国の英雄ですよ。お兄様だって会いたく無いはずありません。何かやむにやまれぬご事情があるはずです。それに――今回はあの少年がいるじゃないですか。もし許可をいただけるなら、私が明日の試合終了後にエデンという少年に直接聞いてみても――」
アイシアの言う通り、レイラの兄の情報を得るためにはどう考えてもそれが最善の方法であった。
しかし――
「それは駄目だ……」
突然レイラがアイシアの言葉をキッパリと遮った。だがその反応はアイシアも予想はしていた事だ。
「なぜです? あの少年が使った技は隊長のお使いになる技と酷似していたのでしょう? ならば――。」
すかさずアイシアはレイラに問いただした。
「あぁ、確かに同じだった。と言うかそのものだった」
「でしたら――やっぱり直接話を聞けば――」
「違う。違うんだよアイシア。同じだったからこそ私は彼の話を聞くのが怖いんだ」
「どういう意味です?」
「ややこしくてごめんアイシア。でも――彼の話を聞く前に私はもう一度だけあの少年の使う剣技が見たいんだ。例えば武器《えもの》が剣ではなく棍《こん》だったとしても、もう一度この目で確かめたい。あの少年の技が本当に兄の手ほどきを受けたものなのかどうかを、どうしてもこの目で確かめたいんだ――」
レイラとアイシアの二人は人で溢れる大通りから横道へと外れて、今目の前にあるのはこの王都で王城の次に巨大な建造物、丸い円形の建物――いわゆる闘技場《コロシアム》である。
もちろん明日の予選初日からは観衆で溢れかえり熱狂に包まれるであろうこの闘技場。しかし開催前日の今はまだ大通りのお祭り騒ぎとは対照的に人通りもまばらでひっそりと静まり返っている。
「予選登録者の中に、あの大道芸の少年エデン=カスピの名前はありましたが、カイル=バレンティンの名前はありませんでした……」
コロシアム内に設置された大会運営事務所から駆け足で戻ってきたアイシアは、広場の噴水脇に腰掛けていたレイラに駆け寄るなり息を弾ませてそう言った。
「ありがとう。でも分かっていたよ、もし兄が大会に出るというなら真っ先に私に会いに来てくれるはずだから――でも、やっぱり兄は今年もこの王都には来てはくれて無かったね……」
レイラはいつも兄の事となると情緒が不安定になる。そして経験からそれを知っているアイシアは、今も少し覇気のない剣聖の姿を見て、その傍《かたわ》らへとゆっくり腰を下ろした。
「気を落としていらっしゃいますか?」
アイシアはいつもの整然とした言葉を改め、そっと優しい声色でレイラに語りかける時がある。そして、そんな時はいつもレイラの言葉も肩肘を張った言葉ではなく、少しだけ年相応の娘《むすめ》らしい言葉に戻った。
「あぁ、少しだけ――。ごめんね気を使わせて」
「かまいませんよ。でも、もし胸に支《つか》えている事があれば言葉にした方が楽になるんじゃないですか?」
「ありがとうアイシア」
いつもより素直なレイラの声が返ってきた――
「私はね――年々不安になってくるんだ。こんなやり方で本当にあの兄が見つかるのかって」
「確かそれが国王陛下とのお約束でしたっけ」
レイラがポツリと漏らし始めた不安。それをアイシアが優しく汲み取る様に相槌を打った。いつからか始まったこの姉と妹の様な関係。最初は気難しい少女だと思っていたレイラにアイシアが親しみを覚えるようになったのもそんな関係が始まってからだ。
「うん――。でも時々、この方法が本当に正しかったのかって思ってしまう時がある」
それは、この武術大会のこと。そして上手いように国王の言葉に乗せられてしまったこと。
「それでも、国中に触れ書きが回っていますし手を尽くしていないわけでは無いでしょ?」
「私もね――時々、村にも使いを出しているんだ。でも兄が戻って来た形跡は全く無くて――。もしかして兄は私に会いたく無いんじゃないかって……そう思う時がある」
「そんな――。だって団長は救国の英雄ですよ。お兄様だって会いたく無いはずありません。何かやむにやまれぬご事情があるはずです。それに――今回はあの少年がいるじゃないですか。もし許可をいただけるなら、私が明日の試合終了後にエデンという少年に直接聞いてみても――」
アイシアの言う通り、レイラの兄の情報を得るためにはどう考えてもそれが最善の方法であった。
しかし――
「それは駄目だ……」
突然レイラがアイシアの言葉をキッパリと遮った。だがその反応はアイシアも予想はしていた事だ。
「なぜです? あの少年が使った技は隊長のお使いになる技と酷似していたのでしょう? ならば――。」
すかさずアイシアはレイラに問いただした。
「あぁ、確かに同じだった。と言うかそのものだった」
「でしたら――やっぱり直接話を聞けば――」
「違う。違うんだよアイシア。同じだったからこそ私は彼の話を聞くのが怖いんだ」
「どういう意味です?」
「ややこしくてごめんアイシア。でも――彼の話を聞く前に私はもう一度だけあの少年の使う剣技が見たいんだ。例えば武器《えもの》が剣ではなく棍《こん》だったとしても、もう一度この目で確かめたい。あの少年の技が本当に兄の手ほどきを受けたものなのかどうかを、どうしてもこの目で確かめたいんだ――」
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