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修行編
第38話 剣聖への道 〜萬寿香(マンジュコウ)〜 その5
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さて――
その日からと言うもの俺は四つ目の山で薬草を集め、妹はその一つ手前の山で修行に精を出す。そんな毎日が雪の降り積もる季節まで続き――そして季節は巡って春。それは雪解けの季節。
俺と妹は、再びあの修行の山を訪れていた。
「どうだ?お兄ちゃんはまた先の山まで行ってみるけど、お前はこの辺りでまた修行の続きをするかい?」
「う~ん。今日はやめておく。だってここの柴、ほとんど切り尽くしちゃったんだもん。」
そう言われてみて、俺は改めて山を見回してみる。
確かに妹の言う通りだ。去年の秋にはあんなに鬱蒼としていたと言うのに、雪が降るまでの数週間の間に、一面に生い茂っていた藪は妹に刈り尽くされて綺麗さっぱりなくなっていた。
「なるほど。そう言われてみればもう他の山と変わらなくなってしまったなぁ。これだったらもう少しこの奥の方まで行けそうだ。」
今までは藪漕ぎの面倒くささに敬遠していたこの山も、妹のおかげで今なら何処まででも入って行けそうだ。
まぁしかし、よくぞこれだけの剣をあの短期間で振るったもんだ。この調子だとさっそく明日にでも二つ三つの手頃な山を見つけておかなければすぐに妹の修行が滞ってしまう。
西の山か――はたまた南の山か――
俺は記憶の中で妹の修行にちょうど良い山を探してみる。だが、この山に似た藪の生い茂る山というのはなかなかに見つからない。
いくらこの場所が僻地だと言っても村から近い山は、どれも人の手が入っていたり、明らかな所有者がいたりするものだ。
すると――。何となく時間を持て余していた妹が――
「ねぇ。まだけっこう雪が残ってるけど、せっかくだからちょっと行ってみようよ」
と、思いがけない事を言う。てっきり俺は新しい修行場所を求められると思っていたのだが、確かにそれは俺的には有りな選択肢だ。
せっかく妹がすっきりと刈り込んでくれたんだ、今日は調査がてら分け入ってみるのも悪くはない。
「良いなその提案。じゃぁ今日は二人でこの大捜索といこう」
と言うことで、さっそく俺と妹はこの三つ目の山の探検に乗り出した。一般的に冬を越す草や虫は薬効が高いと言われている。もちろん俺はそんな厳しい冬を雪の下で耐えてきた植物や虫などがお目当てだ。
しかし、まだまだ幼さの向け切らない妹はというと――大捜索と言っても、探し出しすのは雪の間から黄色い花を覗かせる福寿草や、枝の先からひょっこりと顔をだした木の芽などの春の訪れを感じさせるものばかり。あっちへこっちへと跳ね回ってはしゃいでいる。
もちろん兄として、楽しそうにしている妹を見るのは嬉しい。そして、時々こっちを見て微笑みかけてくるのも可愛い。
今日は妹をこの山に連れてきて正解だった。それはまさに至福の一時《ひととき》と言っても過言ではない。
だが、そんな一時を突然こじ開ける様に――
「そうだ! 私、あれを探したい!」
まるで宝の地図でも見つけたかのような、妹の嬉々とした声が山の中に木霊した。
「前にお兄ちゃんが言ってたでしょ。この山には――何だっけあの……ナントカコウっていうのがあるかも知れないって」
「ナントカコウってなんだよ。もしかして萬寿香《マンジュコウ》か?」
「それそれ!そのマンジュコウ」
そう言えば去年、この修行を始める前にそんな話をした。確かあの時はちょうど書物で萬寿香の存在を知ってすぐだったのだ。
なんでもその萬寿香っていうのは、もともと暖かい南方の山岳地帯で採れるはずの香木の一種だそうで、本当ならば冬になると雪が積もるこの辺りでは採れるはずがない代物である。しかし稀に寒い北の地方で香木が採取されることがある。それを萬寿香と呼ぶらしい。
なんでも、ある特定の樹木に溜まった樹液が長い年月を経て香り高い萬寿香に変化すると言うのだが……
実は、その特定の樹木っていうのがこの山にはたくさん自生しているのだ。
まぁ、これだけ足場が開けてれば探しやすいかも知れないけれど……。
「そもそも萬寿香ってのはな、この国でも十年――いや数十年に一回しか市場に出回らないと言われる超稀少価値の高い代物だぞ。さすがに見つかりっこ無い。」
「良いじゃん見つからなくっても。ダメ元で探してみようよ。だって、もし見つかったら私達、大金持ちになれるんでしょ。」
「そりゃあもちろん、麓の町に豪邸を建てても一生贅沢に暮らせるだけのお金は手に入るだろうな」
「町に豪邸?ホントに!」
もちろんそれは萬寿香が見つかればの話だけれど……。まぁ夢のある話ではある。どこの世界でも一緒だ。もし宝くじで10億円が当たったらなんて話が盛り上がらないわけが無い。
「じゃぁ、もしかしたら甘いパンケーキも毎日食べれる?」
「当たり前だろ。嫌になるほど食べれるぞ」
「だったら探す。絶対見つける。毎日パンケーキを食べる!」
もちろんまだまだ子供の妹が思いつく贅沢なんて、たかだかパンケーキと豪邸くらいなものだけど。この際だから妹と一緒にパンケーキの夢を見るのも悪くはないだろう。
ところで――
「そのナントカ香ってどんな型してるの?」
この妹の質問にはどう答えたら良いのだろうか。
だって、その萬寿香とやらを俺は一度も見たことが無いんだから。
その日からと言うもの俺は四つ目の山で薬草を集め、妹はその一つ手前の山で修行に精を出す。そんな毎日が雪の降り積もる季節まで続き――そして季節は巡って春。それは雪解けの季節。
俺と妹は、再びあの修行の山を訪れていた。
「どうだ?お兄ちゃんはまた先の山まで行ってみるけど、お前はこの辺りでまた修行の続きをするかい?」
「う~ん。今日はやめておく。だってここの柴、ほとんど切り尽くしちゃったんだもん。」
そう言われてみて、俺は改めて山を見回してみる。
確かに妹の言う通りだ。去年の秋にはあんなに鬱蒼としていたと言うのに、雪が降るまでの数週間の間に、一面に生い茂っていた藪は妹に刈り尽くされて綺麗さっぱりなくなっていた。
「なるほど。そう言われてみればもう他の山と変わらなくなってしまったなぁ。これだったらもう少しこの奥の方まで行けそうだ。」
今までは藪漕ぎの面倒くささに敬遠していたこの山も、妹のおかげで今なら何処まででも入って行けそうだ。
まぁしかし、よくぞこれだけの剣をあの短期間で振るったもんだ。この調子だとさっそく明日にでも二つ三つの手頃な山を見つけておかなければすぐに妹の修行が滞ってしまう。
西の山か――はたまた南の山か――
俺は記憶の中で妹の修行にちょうど良い山を探してみる。だが、この山に似た藪の生い茂る山というのはなかなかに見つからない。
いくらこの場所が僻地だと言っても村から近い山は、どれも人の手が入っていたり、明らかな所有者がいたりするものだ。
すると――。何となく時間を持て余していた妹が――
「ねぇ。まだけっこう雪が残ってるけど、せっかくだからちょっと行ってみようよ」
と、思いがけない事を言う。てっきり俺は新しい修行場所を求められると思っていたのだが、確かにそれは俺的には有りな選択肢だ。
せっかく妹がすっきりと刈り込んでくれたんだ、今日は調査がてら分け入ってみるのも悪くはない。
「良いなその提案。じゃぁ今日は二人でこの大捜索といこう」
と言うことで、さっそく俺と妹はこの三つ目の山の探検に乗り出した。一般的に冬を越す草や虫は薬効が高いと言われている。もちろん俺はそんな厳しい冬を雪の下で耐えてきた植物や虫などがお目当てだ。
しかし、まだまだ幼さの向け切らない妹はというと――大捜索と言っても、探し出しすのは雪の間から黄色い花を覗かせる福寿草や、枝の先からひょっこりと顔をだした木の芽などの春の訪れを感じさせるものばかり。あっちへこっちへと跳ね回ってはしゃいでいる。
もちろん兄として、楽しそうにしている妹を見るのは嬉しい。そして、時々こっちを見て微笑みかけてくるのも可愛い。
今日は妹をこの山に連れてきて正解だった。それはまさに至福の一時《ひととき》と言っても過言ではない。
だが、そんな一時を突然こじ開ける様に――
「そうだ! 私、あれを探したい!」
まるで宝の地図でも見つけたかのような、妹の嬉々とした声が山の中に木霊した。
「前にお兄ちゃんが言ってたでしょ。この山には――何だっけあの……ナントカコウっていうのがあるかも知れないって」
「ナントカコウってなんだよ。もしかして萬寿香《マンジュコウ》か?」
「それそれ!そのマンジュコウ」
そう言えば去年、この修行を始める前にそんな話をした。確かあの時はちょうど書物で萬寿香の存在を知ってすぐだったのだ。
なんでもその萬寿香っていうのは、もともと暖かい南方の山岳地帯で採れるはずの香木の一種だそうで、本当ならば冬になると雪が積もるこの辺りでは採れるはずがない代物である。しかし稀に寒い北の地方で香木が採取されることがある。それを萬寿香と呼ぶらしい。
なんでも、ある特定の樹木に溜まった樹液が長い年月を経て香り高い萬寿香に変化すると言うのだが……
実は、その特定の樹木っていうのがこの山にはたくさん自生しているのだ。
まぁ、これだけ足場が開けてれば探しやすいかも知れないけれど……。
「そもそも萬寿香ってのはな、この国でも十年――いや数十年に一回しか市場に出回らないと言われる超稀少価値の高い代物だぞ。さすがに見つかりっこ無い。」
「良いじゃん見つからなくっても。ダメ元で探してみようよ。だって、もし見つかったら私達、大金持ちになれるんでしょ。」
「そりゃあもちろん、麓の町に豪邸を建てても一生贅沢に暮らせるだけのお金は手に入るだろうな」
「町に豪邸?ホントに!」
もちろんそれは萬寿香が見つかればの話だけれど……。まぁ夢のある話ではある。どこの世界でも一緒だ。もし宝くじで10億円が当たったらなんて話が盛り上がらないわけが無い。
「じゃぁ、もしかしたら甘いパンケーキも毎日食べれる?」
「当たり前だろ。嫌になるほど食べれるぞ」
「だったら探す。絶対見つける。毎日パンケーキを食べる!」
もちろんまだまだ子供の妹が思いつく贅沢なんて、たかだかパンケーキと豪邸くらいなものだけど。この際だから妹と一緒にパンケーキの夢を見るのも悪くはないだろう。
ところで――
「そのナントカ香ってどんな型してるの?」
この妹の質問にはどう答えたら良いのだろうか。
だって、その萬寿香とやらを俺は一度も見たことが無いんだから。
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