【大師匠は大嘘つき】〜俺はデタラメの剣術を教えたはずなのに、今や妹は剣聖と呼ばれています〜

鳥羽フシミ

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修行編

第39話 剣聖への道 〜萬寿香(マンジュコウ)〜 その6

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はっきり言ってそんなの見たことあるわけ無いじゃんね。世の中に出回るのが数十年に一回ですよ、数十年に一回――そりゃもう、いっそのこと王様だって見たこと無いかも知れないぐらいの稀少価値ですよ。

でも、それって『萬寿香』を誰も見たこと無いのと同じ意味なんじゃ無いかなぁ――。だったらさ、ここで俺が適当な事言ったって『何の問題もなし』だよね。

萬寿香なんか、どうせ見つかりっこないんだから。


でも、だからって――

「そうだな――まぁ樹液が固まったっていうんだからおそらく色は茶色か黄色……もしくは赤か黒だな。……でも種類によっては青とか緑の場合もあるぞ」

なんてのはちょっと適当すぎたか。これではまるでクレヨン全色セットだ。

しかし、妹はこの適当な言葉を聞いた途端に――

「分かったぁ!」

と大きな声を上げて山の中へと飛び出して行った。

いやいや、今の特徴で何が分かるってのよレイラさん。もっと人の話はちゃんと聞いってってば。色は言ったけど、まだ形が分からないでしょ。

「ちょ、ちょっと待て。形は丸か三角か四角で、これも場合あによってはもっと複雑な場合もあるからな!」

と、俺は妹の背中に向かって大声で捕捉説明をしてやった。ここまで言えば妹にも俺が適当に言ってるってのが分かるでしょう……。

しかし、勝手に飛び出して行った妹からまた大きな返事が返ってきて

「分かったぁ!」

だって――。まったく……この妹はバカなのか? 

クソッ。なんだか無性に腹が立ってきたぞ――。もうなんて言うのかね――生きていて世の中の何に腹が立つってさ、一番腹が立つのが冗談を真に受けられた時じゃない?

なんてのは少し言いすぎかも知れないけど、このレイラの『あまりにも人の言葉を真に受けすぎる』性格には困ったものだ。

「おい、レイラ!何が『分かったぁ!』だよ。さっきから俺は冗談のつもりで言ってるんだぞ!さっさと戻って来いよ。」

俺は、いつの間にか豆粒までとは行かないものの親指位には小さくなった妹を呼び戻す為に、再び妹の背中に向かって大声で叫ぶ。

しかし返ってきた返事は――

「そんなこと無いよ。私、よ~く分かったもん」

「だ~か~ら~。お前はいったい何が分かったんだよ?」

正直、俺も少しお叱りモード。しかしその時、妹から返ってきた返事ってのが――

「お兄ちゃんが、その萬寿香っていうのを一回も見たこと無いのが――分かった~!」

それがまた、嬉しそうに言いやがるんだ。

「…………」

そりゃそうだ……。そりゃ分かって当然だよな。萬寿香なんて超レアなお宝を俺が見たことあるわけ無いもんな。

――ごめんよレイラ……一瞬でもお前の事を馬鹿にしたお兄ちゃんを許してくれ。ハァ~。もう、ぐうの音もでねぇよ――

考えてみれば、このデタラメ剣法の修行を初めてから既に四年。妹も今年でもう十二歳になる。修行の事ではまだまだ俺の言う事を信じ切っているけれど、そんなレイラだって何時までも子供で居るわけではない。

年相応に心も身体も成長しているのだ。

それに、正直考え無いたくはないが――そろそろあの『お年頃』ってやつが目の前まで近づいてきているのでは無いだろうか。

その名はもちろん『ザ・思春期』である。

もちろん噂でしか知らないが、思春期の娘とは相当厄介な代物らし良い。「お父さん足臭い」だとか「勝手に部屋に入ってこないで」だとか「最悪。私の服とお父さんの服は一緒に洗わないでって言ったよね」だとか、そんなひどい事をズケズケと言って、まるでバイ菌でも見るような目で見てくると――世の娘を持つお父さん方が、寂しそうに語っているのをテレビで見たことがある。

もしかして、俺の『絶望』へのカウントダウンはもう既に始まっているのかもしれない……。


妹の姿はいつの間にか山の木々に隠れて見えなくなっていた。

しかしだ。

耳をすませば山の上から、相変わらず元気な妹が今も俺を呼んでいるではないか。

「ねぇお兄ちゃん。早く登っておいでよ。どっちが先に萬寿香を見つけるか競争しよう!」

まぁ、たまにはしんみりとするのも良いけれど。

もともと俺は嫌なことは出来る限り先送りにして、今を思いっきり楽しむ主義なのだ。その瞬間を全力で楽しめば――後で後悔する事なんか絶対に無い(たぶん……)

だからこそ今は、妹を全力で喜ばしてやるために――

俺も妹と一緒に、萬寿香を、天下のお宝を全力で探してやろう。

「良いぞレイラ。負けた方が今日から1週間水くみ当番だぞ!」

妹に負けじと俺も大きく声を張り上げた。

「分かった~」

相変わらずだがさっきよりも嬉しそうな声が返ってくる。だったら俺が知っている事は教えてやらなくちゃ。

「俺はお前の言う通り萬寿香を見たことがない。でも木の樹液が固まって出来るらしいから木のウロや根っこの辺りにあるはずだ。で、探す木は春になると沈丁花《ジンチョウゲ》に似た良い香りのする花を咲かせる木だ。もう蕾はつけてるはずだから分かるよな!」

そして――「よ~いドン」の掛け声と共に俺達兄妹の『萬寿香を見つけて億万長者になろう大作戦』が始まった。
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