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修行編
第44話 逃避行 〜召集令状〜 その3
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ついに慣れ親しんだ村を離れ、修行の旅へと出発したカイルとレイラの兄妹。
しかしその旅は前途多難である。もちろん彼らの旅の目的がデタラメの剣技『千年九剣』の修行である事は間違い無い。しかし、今の現状では修行をしながらの物見遊山と言うわけにはいかないのである。兄のカイルが徴兵を拒否し村から逃げ出してしまった以上、彼の立場は王国の『お尋ね者』となってしまったのだ。
つまりこの兄妹にとって、まず修行よりも先に優先しなければならないのが一刻も早くこの王国から離れることであった。
オルマル村を後にした二人は、まず村の先に広がるオルマリア山地を抜けて、その先はなるべく人目につかぬように注意しながら王国の東端に位置する砂漠の関所へと真っ直ぐに向かった。
こちらの世界で、陸地の無い『大海』よりも渡り切るのが困難とされる砂漠は、別の名を『砂の海』と呼ばれている。そして、その海を渡り切る為には、一部の特殊な技能を持った人々の力を借りなければ、とうてい不可能であるとされている。
ただし、その事を知りながら砂漠を目指すこの兄妹は、もちろんその不可能と言われる砂の海を渡り切るつもりなのである。
そして――
砂漠へとつながる関所の町エルダートに兄妹二人が到着したのは、彼らが村を出てから一月《ひとつき》以上たった春の終わり。いわゆる雨季が始まる少し前の時期であった――
「本当にここが関所の町?なんだか賑やかで人もたくさんいるよ」
「そうだな。関所の町と言うから俺も背の高い城壁と鉄の扉を想像していたんだけど――案外普通だったな」
この二人にとって拍子抜けとはこの事であろうか。ここエルダートの町を抜けさえすれば、そこはもう王国の役人の目の届かない異国の地なのだ。
ただしそれは、ここから始まる広大な砂漠を渡りきれればの話である。カイルとレイラの二人はこの町で意地でも砂漠を渡り切る方法を見つけ出さなければならない。
それは、この国境の町で盲仙幇《もうせんほう》と言う組織を束ねる美しき盲目の女性テンジンとの出会いから始まった。
だが、その話を始める前に――
剣聖の兄カイル=バレンティンが作り出した『千年九剣』を一度整理する必要がある。なぜならこの物語はここから新たな展開を見せるからである。
現時点で本文中に登場した階層は四つ。
◆第一層 第15話より抜粋
『絶対空間認識』
それこそ、レイラが兄から初めて教わった第一の剣技。レイラがあのトンボを數える修行によって修得した技である。
全方位に向けたレイラの視覚は、瞬時に彼女の脳の深層へと直結する。そしてこの広場に集まった何百人と言う人々の情報。それは背丈、性別、衣装。そして目の色に至るまでそれら全てが、瞬時にしてレイラの脳内で再構築された。
人は物を見る時、その対象を脳の中である程度簡素化した後に自らの記憶と照合し認識する。例えば丸い点が3つ『∵』の配置で並ぶと人の顔に見えてしまうのもそのためである。
だが、この絶対空間認識は目から入った情報を直接認識する方法である。つまり例えるなら、普段の『見る』が頭の中に漫画を描くことだとすれば、この技法は脳の中にバーチャル空間を構築するようなものである。
その為、脳内で処理しなければならない情報量は想像を絶するほど膨大になり、いくら剣聖レイラといえども常に使い続けることはできない。
後の世。帝国との大戦の際に剣聖レイラが単身で敵軍の中に分け入りこの絶対空間認識を連続使用したと言われたが、それは誤りである。その時、彼女はこの技法を細かく断片的に使用することにより疑似的に連続使用と同じ状況を作り出したのである。
脳内に作り出された仮想空間には、見ると言う行為は必要とされない。それはまるで現代のコンピューターの如く瞬時に必要な情報が取り出すことが出来るのだ。
◆第ニ層 第16話より抜粋
『超身体制御』
それは、自らの体を視覚や聴覚に頼る事なく、筋肉から伝わる情報のみで制御する能力。
もし、レイラの推測に間違いが無ければ、少年はこのばら撒かれた石を『第一層の絶対空間認識』を使用して寸分たがわず記憶しているに違いない。
ならば次はおそらく、自分の記憶に従いながら『超身体制御』の能力を使い、客の指定した石だけをを拾い上げるはずである。
◆第三層 第23話より抜粋
『絶対分析』
たたいて、突き刺して、触って、撫でて、匂いをかいで、音を聞いて。
目の前にある岩と言うものを必死で分析するんだ。そして考えて考え抜いた末に、おそらく妹は成し遂げるだろう。『信念を持った者には必ず結果がついてくる。』それがこの世界の法則だ。
そして、その時に妹が身につけた物はなんだ?
巨岩の割り方か?
違うな。
この第三層で得られる力は、人間として可能な全ての感覚を駆使して対象を観察する力。そしてその中から確実に相手の弱点を見つけ出す能力。
◆第四層 第32話より抜粋
『無形式』
「2日と同じ剣を振るな。百日あれば百。千日あれば千の剣を振るえ。」
それがレイラに与えられた第四層の修行方法である。無形とはそのままの意味で形が無いことを指す。
レイラは兄が見守る中で、切る、突く、薙ぐ、払う。それ以外にも思いつく限りのありとあらゆる形を試し、その先を目指した。
もちろんこれは、剣聖レイラの兄カイル=バレンティンが異世界の知識をもとに考え出した体現を伴わないデタラメの剣術であるはずだった。
でも、もしもこの異世界に――
カイルと同じ事を考え、実際にそれを体現した人物がいたとしたら――
しかしその旅は前途多難である。もちろん彼らの旅の目的がデタラメの剣技『千年九剣』の修行である事は間違い無い。しかし、今の現状では修行をしながらの物見遊山と言うわけにはいかないのである。兄のカイルが徴兵を拒否し村から逃げ出してしまった以上、彼の立場は王国の『お尋ね者』となってしまったのだ。
つまりこの兄妹にとって、まず修行よりも先に優先しなければならないのが一刻も早くこの王国から離れることであった。
オルマル村を後にした二人は、まず村の先に広がるオルマリア山地を抜けて、その先はなるべく人目につかぬように注意しながら王国の東端に位置する砂漠の関所へと真っ直ぐに向かった。
こちらの世界で、陸地の無い『大海』よりも渡り切るのが困難とされる砂漠は、別の名を『砂の海』と呼ばれている。そして、その海を渡り切る為には、一部の特殊な技能を持った人々の力を借りなければ、とうてい不可能であるとされている。
ただし、その事を知りながら砂漠を目指すこの兄妹は、もちろんその不可能と言われる砂の海を渡り切るつもりなのである。
そして――
砂漠へとつながる関所の町エルダートに兄妹二人が到着したのは、彼らが村を出てから一月《ひとつき》以上たった春の終わり。いわゆる雨季が始まる少し前の時期であった――
「本当にここが関所の町?なんだか賑やかで人もたくさんいるよ」
「そうだな。関所の町と言うから俺も背の高い城壁と鉄の扉を想像していたんだけど――案外普通だったな」
この二人にとって拍子抜けとはこの事であろうか。ここエルダートの町を抜けさえすれば、そこはもう王国の役人の目の届かない異国の地なのだ。
ただしそれは、ここから始まる広大な砂漠を渡りきれればの話である。カイルとレイラの二人はこの町で意地でも砂漠を渡り切る方法を見つけ出さなければならない。
それは、この国境の町で盲仙幇《もうせんほう》と言う組織を束ねる美しき盲目の女性テンジンとの出会いから始まった。
だが、その話を始める前に――
剣聖の兄カイル=バレンティンが作り出した『千年九剣』を一度整理する必要がある。なぜならこの物語はここから新たな展開を見せるからである。
現時点で本文中に登場した階層は四つ。
◆第一層 第15話より抜粋
『絶対空間認識』
それこそ、レイラが兄から初めて教わった第一の剣技。レイラがあのトンボを數える修行によって修得した技である。
全方位に向けたレイラの視覚は、瞬時に彼女の脳の深層へと直結する。そしてこの広場に集まった何百人と言う人々の情報。それは背丈、性別、衣装。そして目の色に至るまでそれら全てが、瞬時にしてレイラの脳内で再構築された。
人は物を見る時、その対象を脳の中である程度簡素化した後に自らの記憶と照合し認識する。例えば丸い点が3つ『∵』の配置で並ぶと人の顔に見えてしまうのもそのためである。
だが、この絶対空間認識は目から入った情報を直接認識する方法である。つまり例えるなら、普段の『見る』が頭の中に漫画を描くことだとすれば、この技法は脳の中にバーチャル空間を構築するようなものである。
その為、脳内で処理しなければならない情報量は想像を絶するほど膨大になり、いくら剣聖レイラといえども常に使い続けることはできない。
後の世。帝国との大戦の際に剣聖レイラが単身で敵軍の中に分け入りこの絶対空間認識を連続使用したと言われたが、それは誤りである。その時、彼女はこの技法を細かく断片的に使用することにより疑似的に連続使用と同じ状況を作り出したのである。
脳内に作り出された仮想空間には、見ると言う行為は必要とされない。それはまるで現代のコンピューターの如く瞬時に必要な情報が取り出すことが出来るのだ。
◆第ニ層 第16話より抜粋
『超身体制御』
それは、自らの体を視覚や聴覚に頼る事なく、筋肉から伝わる情報のみで制御する能力。
もし、レイラの推測に間違いが無ければ、少年はこのばら撒かれた石を『第一層の絶対空間認識』を使用して寸分たがわず記憶しているに違いない。
ならば次はおそらく、自分の記憶に従いながら『超身体制御』の能力を使い、客の指定した石だけをを拾い上げるはずである。
◆第三層 第23話より抜粋
『絶対分析』
たたいて、突き刺して、触って、撫でて、匂いをかいで、音を聞いて。
目の前にある岩と言うものを必死で分析するんだ。そして考えて考え抜いた末に、おそらく妹は成し遂げるだろう。『信念を持った者には必ず結果がついてくる。』それがこの世界の法則だ。
そして、その時に妹が身につけた物はなんだ?
巨岩の割り方か?
違うな。
この第三層で得られる力は、人間として可能な全ての感覚を駆使して対象を観察する力。そしてその中から確実に相手の弱点を見つけ出す能力。
◆第四層 第32話より抜粋
『無形式』
「2日と同じ剣を振るな。百日あれば百。千日あれば千の剣を振るえ。」
それがレイラに与えられた第四層の修行方法である。無形とはそのままの意味で形が無いことを指す。
レイラは兄が見守る中で、切る、突く、薙ぐ、払う。それ以外にも思いつく限りのありとあらゆる形を試し、その先を目指した。
もちろんこれは、剣聖レイラの兄カイル=バレンティンが異世界の知識をもとに考え出した体現を伴わないデタラメの剣術であるはずだった。
でも、もしもこの異世界に――
カイルと同じ事を考え、実際にそれを体現した人物がいたとしたら――
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