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修行編
第47話 逃避行 〜砂の海〜 その3
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カイルもレイラも、思わず目が見えてない事を忘れてしまいそうになるぐらいに、このテンジンと言う女性の表情は豊かだ。右へ左へと表情や話し相手に合わせて細やかに動く義眼は、あえて注意を払わなければそれと気づく事は無いだろう。
それどころか、彼女の黒く大きな瞳は義眼ならではの透き通った美しさで、コロコロと変わる表情に独特の怪しさを与えていた。
年の頃は二十代半ば。砂漠の民らしからぬ白い肌と腰まで伸びた黒く美しい髪。テンジンはいわゆる東洋的美女を連想させる不思議な魅力を持った女性であった。
そして、カイルとレイラが案内されたこの建物も――その不思議な外観と同様に、商店などの一般的な施設とは異なった特殊な人々が集う施設であった。
ちょうど今、テンジンの手拍子と共に彼女の後ろから現れた少年もその一人だ。どうやら彼はテンジンに言われてカイルとレイラの二人にお茶とお菓子を運んできたらしいのだが――お茶をテーブルに置く動作があまりにもぎこちなく危なっかしい。そしてテーブルの上を探る様な手つきと、二人の席とは少しズレてしまったカップの位置。
カイルが不思議に思いその視線を少年の目に移してみれば、予想通りその瞳が白く濁っている。どうやらこの少年もまたテンジンと同じく目が見えていないのだ。
「彼の目は生まれつきじゃないの、だからお茶運びもなかなか上手くいかなくて――だから無作法は大目に見て下さいね。」
テンジンは少年を後ろへと下がらせるとカイル達にそう言って、軽く頭を下げた。
しかし、カイルがこの建物に入った時から感じていた違和感はまさにこの事だったのだ。建物の入り口ですれ違った老婆も、遠くの椅子に座りこの場違いな兄妹達を訝しげに眺めている中年の男もそうだ。良く見れば、誰も彼もが少しずつ動きがぎこちない。それがさっきの少年のおかげでようやく合点がいった。カイルはこの時ようやくその事実に気がついたのだ。
「これってもしかして、この建物の中にいる人達は、みんな目が見えていない?」
「はい。お察しの通り皆さん様々な理由で視力を失った方たちばかりです。もちろん貴方がたの様に目が見える人が出入り禁止と言うわけではございませんが、この場所はいわゆる『盲人ギルド』ですので――」
あくまでも穏やかな口調のテンジン。
そしてこの時――カイル達はこのテンジンと言う女性こそが『盲人ギルド』のギルドマスターであると言う事実を直接本人の口から聞かされた。
しかし、カイルはこの時初めて『盲人ギルド』などというギルドが王国に存在していた事を知った。商人ギルドに冒険者ギルド、鍛冶師ギルドに裁縫ギルド。この王国には数え切れない数のギルドが存在するが、カイルはこの『盲人ギルド』なる名称を聞いたのは今回が初めてである。
「おそらく王国の方々にはあまり馴染みがないでしょうね」
そう言ってテンジンは笑う。
なぜなら、この盲人ギルドと言う組織は本来『盲仙幇《もうせんほう》』と呼ばれる東国の組織の別称なのである。
公には視覚に障害のある人々の自助団体――針や灸と言う東洋の医学や琴や笛などの芸事など、目が見えなくとも働ける職業を一手に取り仕切る組織。王国では無名でも東の国では、そこそこ名の知れた組織である。
だが、この『盲仙幇』にはもう一つの顔がある。それは生まれつき目の見えない者に与えられた特殊な能力を開花させる事を目的としたいわゆる人材育成である。
「このギルドは砂漠を渡る商人達と共に発展してきた経緯があります。貴方がたは砂漠の商人がいれば砂漠を渡れると思っていらっしゃるでしょうが実際はそうではありません。見渡す限り砂と空しか無い砂漠で、距離を知り方角を知るには私達『盲仙幇』の力が必ず必要なのですよ」
テンジンは自らの組織の事と共に、なぜ砂漠の商人が大金を積まれても道連れを断るのかを詳しくカイル達に説明した。
砂漠を渡る為には足の一歩一歩から正確に歩いた距離を測定出来る盲人の特殊能力が必要な事。それにあわせて砂漠の過酷さ、一人の勝手な行動が簡単に商隊を破滅へと追いやること。そして彼らは絶対的に信頼出来る仲間としか砂漠を渡らないと言うこと。
「つまり、彼らは口は悪いのですが危なっかしい貴方達に忠告をしてくれたのですよ――」
テンジンの話は色々と為になる事が多かったが、最後に彼女はそう言って兄妹を盲人ギルドの建物から送り出した。
結局のところ、砂漠の関所にさえたどりつけば国を脱出出来ると思っていたカイルの考えは甘過ぎたのだ
「砂漠の商人だって皆が信頼のおける善人ではありません。もし貴方がたが突然砂漠のど真ん中に置き去りにされたらどうします?砂漠では黄金一粒よりも水の一滴の方が確実に重いのは知っていますか?もし彼らが水を盾に取れば簡単に妹さんも奴隷の身分へと落とす契約が結べます。あの方々はそれを貴方達に教えてくれたんですよ――」
テンジン言葉のは、どれ一つを取っても言い返す言葉が見つからない。そしてその事実は、当初予定していた砂漠を渡るという作戦を断念するという事を意味していた。
カイルとレイラはその日のうちに、砂漠へとつながる関所の町エルダートを後にする。この町では少々目立ちすぎた、ここからは再び人目を忍んでの旅が始まるのである――
しかし、この時。
一人の中年の男がこっそりとその後を付けていたことに、この兄妹はまだ気がついていない。
それどころか、彼女の黒く大きな瞳は義眼ならではの透き通った美しさで、コロコロと変わる表情に独特の怪しさを与えていた。
年の頃は二十代半ば。砂漠の民らしからぬ白い肌と腰まで伸びた黒く美しい髪。テンジンはいわゆる東洋的美女を連想させる不思議な魅力を持った女性であった。
そして、カイルとレイラが案内されたこの建物も――その不思議な外観と同様に、商店などの一般的な施設とは異なった特殊な人々が集う施設であった。
ちょうど今、テンジンの手拍子と共に彼女の後ろから現れた少年もその一人だ。どうやら彼はテンジンに言われてカイルとレイラの二人にお茶とお菓子を運んできたらしいのだが――お茶をテーブルに置く動作があまりにもぎこちなく危なっかしい。そしてテーブルの上を探る様な手つきと、二人の席とは少しズレてしまったカップの位置。
カイルが不思議に思いその視線を少年の目に移してみれば、予想通りその瞳が白く濁っている。どうやらこの少年もまたテンジンと同じく目が見えていないのだ。
「彼の目は生まれつきじゃないの、だからお茶運びもなかなか上手くいかなくて――だから無作法は大目に見て下さいね。」
テンジンは少年を後ろへと下がらせるとカイル達にそう言って、軽く頭を下げた。
しかし、カイルがこの建物に入った時から感じていた違和感はまさにこの事だったのだ。建物の入り口ですれ違った老婆も、遠くの椅子に座りこの場違いな兄妹達を訝しげに眺めている中年の男もそうだ。良く見れば、誰も彼もが少しずつ動きがぎこちない。それがさっきの少年のおかげでようやく合点がいった。カイルはこの時ようやくその事実に気がついたのだ。
「これってもしかして、この建物の中にいる人達は、みんな目が見えていない?」
「はい。お察しの通り皆さん様々な理由で視力を失った方たちばかりです。もちろん貴方がたの様に目が見える人が出入り禁止と言うわけではございませんが、この場所はいわゆる『盲人ギルド』ですので――」
あくまでも穏やかな口調のテンジン。
そしてこの時――カイル達はこのテンジンと言う女性こそが『盲人ギルド』のギルドマスターであると言う事実を直接本人の口から聞かされた。
しかし、カイルはこの時初めて『盲人ギルド』などというギルドが王国に存在していた事を知った。商人ギルドに冒険者ギルド、鍛冶師ギルドに裁縫ギルド。この王国には数え切れない数のギルドが存在するが、カイルはこの『盲人ギルド』なる名称を聞いたのは今回が初めてである。
「おそらく王国の方々にはあまり馴染みがないでしょうね」
そう言ってテンジンは笑う。
なぜなら、この盲人ギルドと言う組織は本来『盲仙幇《もうせんほう》』と呼ばれる東国の組織の別称なのである。
公には視覚に障害のある人々の自助団体――針や灸と言う東洋の医学や琴や笛などの芸事など、目が見えなくとも働ける職業を一手に取り仕切る組織。王国では無名でも東の国では、そこそこ名の知れた組織である。
だが、この『盲仙幇』にはもう一つの顔がある。それは生まれつき目の見えない者に与えられた特殊な能力を開花させる事を目的としたいわゆる人材育成である。
「このギルドは砂漠を渡る商人達と共に発展してきた経緯があります。貴方がたは砂漠の商人がいれば砂漠を渡れると思っていらっしゃるでしょうが実際はそうではありません。見渡す限り砂と空しか無い砂漠で、距離を知り方角を知るには私達『盲仙幇』の力が必ず必要なのですよ」
テンジンは自らの組織の事と共に、なぜ砂漠の商人が大金を積まれても道連れを断るのかを詳しくカイル達に説明した。
砂漠を渡る為には足の一歩一歩から正確に歩いた距離を測定出来る盲人の特殊能力が必要な事。それにあわせて砂漠の過酷さ、一人の勝手な行動が簡単に商隊を破滅へと追いやること。そして彼らは絶対的に信頼出来る仲間としか砂漠を渡らないと言うこと。
「つまり、彼らは口は悪いのですが危なっかしい貴方達に忠告をしてくれたのですよ――」
テンジンの話は色々と為になる事が多かったが、最後に彼女はそう言って兄妹を盲人ギルドの建物から送り出した。
結局のところ、砂漠の関所にさえたどりつけば国を脱出出来ると思っていたカイルの考えは甘過ぎたのだ
「砂漠の商人だって皆が信頼のおける善人ではありません。もし貴方がたが突然砂漠のど真ん中に置き去りにされたらどうします?砂漠では黄金一粒よりも水の一滴の方が確実に重いのは知っていますか?もし彼らが水を盾に取れば簡単に妹さんも奴隷の身分へと落とす契約が結べます。あの方々はそれを貴方達に教えてくれたんですよ――」
テンジン言葉のは、どれ一つを取っても言い返す言葉が見つからない。そしてその事実は、当初予定していた砂漠を渡るという作戦を断念するという事を意味していた。
カイルとレイラはその日のうちに、砂漠へとつながる関所の町エルダートを後にする。この町では少々目立ちすぎた、ここからは再び人目を忍んでの旅が始まるのである――
しかし、この時。
一人の中年の男がこっそりとその後を付けていたことに、この兄妹はまだ気がついていない。
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