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武術大会編
第57話 敗北を知りたい妹 〜兄の気配〜 その2
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その後。レイラとアイシアの話題は、あの閃光の正体へと移っていった。
アイシアが魔法の類いではないかとの見解を示すと、レイラは魔法などありえないと異を唱える。そんなやり取りがしばらく続いた後。ふと、レイラが第一試合最後の局面でのドーマについて話題を移した。
「なぁ。ところであの女はどうして君を殺そうとしたのだろうか」
さて……レイラは剣聖と呼ばれるだけあって、その強さは凡人には測りしれない。だがそれ故に、時々このように凡人から見れば的外れな事を言う時がある。
アイシアはそんなレイラの言葉に、ただ笑うしか無かった。
「団長はお強いので……」
思わず、そう言葉を濁してみた。だが、レイラは恐らく濁した言葉の意味など、まったく理解することは出来無いだろう。
それほどまでに、この剣聖は強い。だからこそこの剣聖は、真の意味での命のやり取りと言うものを、恐らくは一度も経験したことがないのだ。
「私も最後の一撃は、あの女を殺すつもりでしたよ。」
アイシアは、レイラにも分かりやすいように、もう一度言葉を選び直した。そう。あの瞬間。アイシアもまた確実にドーマの眉間を狙って槍を突いたのだ。もちろん全身の殺気をその一撃に込めて。
「しかし君は途中で思い止まったろ?」
「はい。だから負けました。不利だったからこそ相手を殺す気で挑まなくてはならなかったのに……。欲をかいてしまったんです」
アイシアも今なら分かる。恐らくはその瞬間に殺気が消えたのをドーマに気取られたのだ。
「結局。決勝戦であの小生意気なエデンと言う名の少年と再戦するという欲が、ギリギリの瞬間に反則負けを意識させてしまったんです」
まさにそれこそが勝機を逃した瞬間だった。
「なるほどな。必殺の覚悟の差が二人の勝敗を分けたというわけか……」
「はい。私はそうだと思っております。なので、あの閃光がなければ、私も只では済まなかったでしょう。あの女も私に必殺の覚悟を向けていましたから」
確かにアイシアの言う通りである。だからこそレイラも慌てて自らの席を飛び出したのだ。
あの瞬間。レイラの目にはドーマの動きが、突然別のものにでも変化した様に見えたのだ。今までも見事なスピードと身のこなしを見せつけていたドーマだが、あの一瞬だけはレイラの想定を超えていた。
そして――
驚く事に、その想定以上の変化に瞬時に対応した何者かがいる。
「いったい誰なのでしょうか、私の命を救ってくれた方は……」
アイシアには、剣聖にすら見抜けないほどの絶技を持った達人がこの世に存在するとはとうてい思えなかった。
しかし、あえて一人の名前を上げるとすれば……。
カイル=バレンティン。
剣聖レイラに神の如き剣技を授けた男の名である。
「もしかして、お兄様だとお考えですか?」
アイシアは、しばし考え込む用にうつむいたレイラに向かってそう言葉をかけた。
「あぁ……」
つぶやく様な小さな声が帰ってくる。
不安なのだろうか?いつもあまり感情を表に出さないレイラが、今は何時になく気弱に見えた。だが、アイシアにもその気持ちは分からなくもない。恐らく期待をしてしまうことが怖いのだ。
何故なら。
このアイシアより5つも年若い剣聖は、もう5年以上も前から、ただひたすら兄との再会のみを夢見ているのである。
しかし。
たとえ、期待が裏切られたとしても。
レイラにとって、それは諦めることと同意ではない。あの閃光が走った瞬間。レイラは迷わずに『超空間認識』を会場全体へと放った。
そして見つけた兄と思しき男の影。その傍らにはあのエデン少年の姿もあった。
確証はない。しかし……。
もし、あれが兄だとしたら……。
――例え自分が破門されていたとしても、影から見守るなんていかにも兄らしいじゃないか。それに兄が会場に来ていたのなら、当然アイシアの危機を見逃すわけが無い。だって。兄は昔から目の前で誰かが傷つけられる事に耐えられない優しい人だったから――
アイシアが魔法の類いではないかとの見解を示すと、レイラは魔法などありえないと異を唱える。そんなやり取りがしばらく続いた後。ふと、レイラが第一試合最後の局面でのドーマについて話題を移した。
「なぁ。ところであの女はどうして君を殺そうとしたのだろうか」
さて……レイラは剣聖と呼ばれるだけあって、その強さは凡人には測りしれない。だがそれ故に、時々このように凡人から見れば的外れな事を言う時がある。
アイシアはそんなレイラの言葉に、ただ笑うしか無かった。
「団長はお強いので……」
思わず、そう言葉を濁してみた。だが、レイラは恐らく濁した言葉の意味など、まったく理解することは出来無いだろう。
それほどまでに、この剣聖は強い。だからこそこの剣聖は、真の意味での命のやり取りと言うものを、恐らくは一度も経験したことがないのだ。
「私も最後の一撃は、あの女を殺すつもりでしたよ。」
アイシアは、レイラにも分かりやすいように、もう一度言葉を選び直した。そう。あの瞬間。アイシアもまた確実にドーマの眉間を狙って槍を突いたのだ。もちろん全身の殺気をその一撃に込めて。
「しかし君は途中で思い止まったろ?」
「はい。だから負けました。不利だったからこそ相手を殺す気で挑まなくてはならなかったのに……。欲をかいてしまったんです」
アイシアも今なら分かる。恐らくはその瞬間に殺気が消えたのをドーマに気取られたのだ。
「結局。決勝戦であの小生意気なエデンと言う名の少年と再戦するという欲が、ギリギリの瞬間に反則負けを意識させてしまったんです」
まさにそれこそが勝機を逃した瞬間だった。
「なるほどな。必殺の覚悟の差が二人の勝敗を分けたというわけか……」
「はい。私はそうだと思っております。なので、あの閃光がなければ、私も只では済まなかったでしょう。あの女も私に必殺の覚悟を向けていましたから」
確かにアイシアの言う通りである。だからこそレイラも慌てて自らの席を飛び出したのだ。
あの瞬間。レイラの目にはドーマの動きが、突然別のものにでも変化した様に見えたのだ。今までも見事なスピードと身のこなしを見せつけていたドーマだが、あの一瞬だけはレイラの想定を超えていた。
そして――
驚く事に、その想定以上の変化に瞬時に対応した何者かがいる。
「いったい誰なのでしょうか、私の命を救ってくれた方は……」
アイシアには、剣聖にすら見抜けないほどの絶技を持った達人がこの世に存在するとはとうてい思えなかった。
しかし、あえて一人の名前を上げるとすれば……。
カイル=バレンティン。
剣聖レイラに神の如き剣技を授けた男の名である。
「もしかして、お兄様だとお考えですか?」
アイシアは、しばし考え込む用にうつむいたレイラに向かってそう言葉をかけた。
「あぁ……」
つぶやく様な小さな声が帰ってくる。
不安なのだろうか?いつもあまり感情を表に出さないレイラが、今は何時になく気弱に見えた。だが、アイシアにもその気持ちは分からなくもない。恐らく期待をしてしまうことが怖いのだ。
何故なら。
このアイシアより5つも年若い剣聖は、もう5年以上も前から、ただひたすら兄との再会のみを夢見ているのである。
しかし。
たとえ、期待が裏切られたとしても。
レイラにとって、それは諦めることと同意ではない。あの閃光が走った瞬間。レイラは迷わずに『超空間認識』を会場全体へと放った。
そして見つけた兄と思しき男の影。その傍らにはあのエデン少年の姿もあった。
確証はない。しかし……。
もし、あれが兄だとしたら……。
――例え自分が破門されていたとしても、影から見守るなんていかにも兄らしいじゃないか。それに兄が会場に来ていたのなら、当然アイシアの危機を見逃すわけが無い。だって。兄は昔から目の前で誰かが傷つけられる事に耐えられない優しい人だったから――
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