【大師匠は大嘘つき】〜俺はデタラメの剣術を教えたはずなのに、今や妹は剣聖と呼ばれています〜

鳥羽フシミ

文字の大きさ
67 / 96
武術大会編

第67話 徴兵官殺し 〜あの日〜 その1

しおりを挟む
砂漠から遠ざかるにつれて乾いた風は次第に和らぎ、見渡す景色にはちらほらと緑が戻りはじめていた。低木の影に揺れる命の気配。見渡せばつい先日までの荒れた荒野とはまるで別の世界。

それは砂漠の関所を後にして五日目の朝。

カイルとレイラは、街道から少し外れた大樹の陰に腰を下ろしていた。木漏れ日が二人の肩を静かに照らす。レイラは水袋を兄に手渡しながら、木の根元にもたれて深く息をついた。

「随分、木が増えてきたね。ずっと砂だらけだったから、ちょっと変な感じ」

「そうだな。でも結局元いた場所に戻ってきて振り出しに戻るだな……」

カイルは水を一口飲み、澄んだ空を見上げた。しかしその表情には迷いの色が見て取れる。

レイラはそれに気づいて、黙って兄の横顔を見守った。

「レイラ。話がある」

「うん」

カイルはしばらく言葉を探すように沈黙した後、静かに続けた。

「砂漠は、もう無理そうだな。あそこを渡り切るには金よりも信頼なんだよ、砂漠を渡ると言うことはそれほどまでに過酷なんだろう。今回ばかりは、はっきり言って俺の考えが甘かったよ。だからこのままもう一度オルマルの山まで戻って……この後のことを考えないといけない」

「……うん」

「選択肢は、二つだ。一つは、北に向かう。帝国軍の目をかいくぐって、混乱の中に紛れ込む。ただ、あそこはもう戦場だ。いつなんどき争いに巻き込まれてもおかしくない」

「もう一つは?」

「南。海を渡って、未開の大地へ行く。誰も俺たちを知らない場所に行ける。でも、そこは地図にもほとんど載ってないし正直何があるかも分からない。だが海を渡るのも砂漠を渡るのと同じぐらいに過酷なはずだ」

レイラは少し考え込む様子を見せたが、やがてきっぱりと頷いた。

「どっちでもいい。お兄ちゃんが選んだ方に行く」

「……いいのか?」

「だって、お兄ちゃんは私の師匠なんだもの」

兄はふっと微笑んだ。砂漠の風が去り、木々の間を吹く穏やかな風が、少しだけその表情をやわらげた。

だが、その瞬間だった。

レイラがぴくりと眉を動かし、耳を澄ました。

「……誰かいる」

「どうした?」

だがそう言いながらカイルも同時にその違和感を感じ取っていた。

「分からない。でも、音がした。草を踏む音」

レイラはそっと兄の腕をつかみ確認するようにもう一度言った。

「……音、したよね?」

「……ああ」

二人は顔を見合わせた。どう動くべきか咄嗟の判断が試される場面だ。

高鳴る鼓動を抑えながらカイル周囲を見回し、小さな声で言った。

「木の陰に。見つかる前に隠れよう」

レイラは頷き、兄の後について木の裏側へと身をひそめた。葉の匂いと、地面の温もり。風がかすかに枝葉を揺らしている。

足音は、一歩ずつ確かに近づいてきていた。

二人はぴたりと動きを止め、ただ静かに、息を潜めた。

「気付かれちゃったのかな? お役人だったら……どうする?」

レイラの囁きに、カイルは小さく頷く。だが、その足音の主が誰なのか、それを知るには情報が少な過ぎる。

「分からない。まずは姿を見ないと。声も聞こえないしただの旅人かもしれない……」

「でも、もしお役人だったら……?」

カイルは少しだけ目線を上げて、木のすき間から向こうの茂みをうかがった。
見えるのは、木々の間をゆっくりと進む黒い影。はっきりとその姿を捉えることは出来ない。

「気づかれてないなら……このまま、やり過ごせるかも」

レイラは不安そうにカイルの腕を握った。今は師匠である兄の判断に従うしかない。だがカイルもまた、不安を隠しきれずにいることはその表情を見れば明らかだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

処理中です...