68 / 96
武術大会編
第68話 徴兵官殺し 〜あの日〜 その2
しおりを挟む
男をやり過ごすべくカイルとレイラは木の陰にじっと身を潜める。再び風が2人の間を通り過ぎ、草の葉がかすかに揺れた。
だが、足音はゆっくりとした足取りでも、まるで2人がそこにいるのを確信しているかのように迷いなくこちらへと向かっていた。。
姿は見えずとも、踏みしめる音は確かに近づいてきている。
カイルは思わず息を止め、レイラもじっと足音と兄の背中に意識を集中した。
そして――
足音は、二人が隠れている場所の、すぐ近くで止まった。
茂みの向こうから、自信に満ちた声が聞こえてくる。
「そちらの木の陰に隠れておいでなのでしょう?」
カイルの背中がわずかに強張った。
なぜ?とばかりにレイラは兄の服をぎゅっと握った。
ここは開き直って返事をするべきか、黙って木の陰からでていくか――それともこのままだんまりを決め込むか。だが男はその判断を下す時間をカイル達に与えない。
「どこに隠れていても私には意味はありませんよ。なぜなら私はもともと目が見えないのですから」
その余裕ぶった言葉が、かえって二人に得も言われぬ不気味さを感じさせた。
もしこの男の目が見えていないなら、始めから隠れていても仕方が無いのは当然である。
「……盲人ギルドがなんの用だよ」
“目が見えない”という言葉を聞いて、咄嗟に盲人ギルドの言葉が出てしまったが、木の陰から低く投げかけたカイルの声は、緊張でかすかに上ずっている。
数日前、砂漠の関所を眼の前にして訪れた盲人ギルド。そこで自らギルド長を名乗った女性、テンジンのことをカイルは思い出す。
確かにあの時も驚いた。信じがたいことだが彼女の動きには、目の不自由さを感じさせるものが全くと言っていいほど感じられなかったからだ。
それを思えば、今ここにいるこの男も、目が見えないというだけで侮るべきでは無い。
逆に目が見えない分だけ、あの女と同じく視力以外の感覚が特別に鋭くなっているのだろう。カイルはそう理解していた。
その上で、妙に低姿勢な男の言葉遣いは、むしろ逆に警戒を強めさせる。穏やかであるはずの男の口調に、カイルは胡散臭さを感じずにはいられなかった。
しかし男は、そんなカイルの警戒心を気にする素振りすら見せずに――
「ギルドと言うか私個人の用事なんですが――。まぁ、もしお困りならば貴方お2人に私が砂漠を渡るお手伝いをしてさしあげたいなと思いまして……ここでようやく貴方に追いついたと言うわけです」
ひょうひょうと、そう言ってのけた。
背中越しにレイラが不安気にカイルを見上げる。
相手が王国の役人でなかったことに、確かに一息つく思いはあった。だが、それだけで警戒を解くほど今回の旅が甘いものでないことは、まだ幼いレイラにもわかっている。
言葉の裏を読むように、カイルは黙って思考を巡らせていた。男の申し出は、あまりにも唐突で胡散臭い。そして何より、ただそれだけの為に“見ず知らずの自分たちを、なぜここまで追ってきたのか”。
男が何者か、そしてその厚顔の裏に隠された本来の目的は何か――男が5日もかけて自分たちを追ってきた以上、何かしらの見返りを求めているのは間違いないはずである。
カイルは木の陰から問いかける。
「……で、何が目的なんだ。報酬ならもう話しただろ。俺は砂漠の商人にも“千年霊芝”を渡すつもりでいた」
男は少し間を置いてから、苦笑するような声で言った。
「まぁそれは確かに魅力的ですが……私の欲しいものは、それじゃありません」
カイルの表情がわずかに強張った。
千年霊芝は、兄妹二人を安全に砂漠の向こうまで運ばせるには十分すぎる代物であるはずだ。
にも関わらずそれを断る男の本来の目的とは――カイルは嫌な予感がして咄嗟に背中の荷物を手で確認した。
まさにその時。
「それ以外にも、あなたがたは“もっと価値のあるもの”をお持ちでしょう?そうその背中の荷物の中に――」
男は、口元にいやらしい笑みをたたえて確かにそう言った
その瞬間。カイルの動揺に気がついたレイラがギュッと兄の袖を握る。
もちろんカイルは未だ誰にもそれを見せたことも、ましてや口にしたことも無い。
“万寿香”
この男がそれを知っているはずがないのだ。だからこそカイルは心の動揺を気取られぬように無言を貫いた。
だが、男はあっさりとその言葉を口にする。
「万寿香ですよ……。あなた……持っていらっしゃるんでしょ?」
そして、カイルの返事を待たぬまま、男は続けた。
「なんで目の見えぬ私が貴方がたを追って来れたと思います? それはね……匂いですよ。こう見えて私は誰よりも鼻が効くんです」
だが、足音はゆっくりとした足取りでも、まるで2人がそこにいるのを確信しているかのように迷いなくこちらへと向かっていた。。
姿は見えずとも、踏みしめる音は確かに近づいてきている。
カイルは思わず息を止め、レイラもじっと足音と兄の背中に意識を集中した。
そして――
足音は、二人が隠れている場所の、すぐ近くで止まった。
茂みの向こうから、自信に満ちた声が聞こえてくる。
「そちらの木の陰に隠れておいでなのでしょう?」
カイルの背中がわずかに強張った。
なぜ?とばかりにレイラは兄の服をぎゅっと握った。
ここは開き直って返事をするべきか、黙って木の陰からでていくか――それともこのままだんまりを決め込むか。だが男はその判断を下す時間をカイル達に与えない。
「どこに隠れていても私には意味はありませんよ。なぜなら私はもともと目が見えないのですから」
その余裕ぶった言葉が、かえって二人に得も言われぬ不気味さを感じさせた。
もしこの男の目が見えていないなら、始めから隠れていても仕方が無いのは当然である。
「……盲人ギルドがなんの用だよ」
“目が見えない”という言葉を聞いて、咄嗟に盲人ギルドの言葉が出てしまったが、木の陰から低く投げかけたカイルの声は、緊張でかすかに上ずっている。
数日前、砂漠の関所を眼の前にして訪れた盲人ギルド。そこで自らギルド長を名乗った女性、テンジンのことをカイルは思い出す。
確かにあの時も驚いた。信じがたいことだが彼女の動きには、目の不自由さを感じさせるものが全くと言っていいほど感じられなかったからだ。
それを思えば、今ここにいるこの男も、目が見えないというだけで侮るべきでは無い。
逆に目が見えない分だけ、あの女と同じく視力以外の感覚が特別に鋭くなっているのだろう。カイルはそう理解していた。
その上で、妙に低姿勢な男の言葉遣いは、むしろ逆に警戒を強めさせる。穏やかであるはずの男の口調に、カイルは胡散臭さを感じずにはいられなかった。
しかし男は、そんなカイルの警戒心を気にする素振りすら見せずに――
「ギルドと言うか私個人の用事なんですが――。まぁ、もしお困りならば貴方お2人に私が砂漠を渡るお手伝いをしてさしあげたいなと思いまして……ここでようやく貴方に追いついたと言うわけです」
ひょうひょうと、そう言ってのけた。
背中越しにレイラが不安気にカイルを見上げる。
相手が王国の役人でなかったことに、確かに一息つく思いはあった。だが、それだけで警戒を解くほど今回の旅が甘いものでないことは、まだ幼いレイラにもわかっている。
言葉の裏を読むように、カイルは黙って思考を巡らせていた。男の申し出は、あまりにも唐突で胡散臭い。そして何より、ただそれだけの為に“見ず知らずの自分たちを、なぜここまで追ってきたのか”。
男が何者か、そしてその厚顔の裏に隠された本来の目的は何か――男が5日もかけて自分たちを追ってきた以上、何かしらの見返りを求めているのは間違いないはずである。
カイルは木の陰から問いかける。
「……で、何が目的なんだ。報酬ならもう話しただろ。俺は砂漠の商人にも“千年霊芝”を渡すつもりでいた」
男は少し間を置いてから、苦笑するような声で言った。
「まぁそれは確かに魅力的ですが……私の欲しいものは、それじゃありません」
カイルの表情がわずかに強張った。
千年霊芝は、兄妹二人を安全に砂漠の向こうまで運ばせるには十分すぎる代物であるはずだ。
にも関わらずそれを断る男の本来の目的とは――カイルは嫌な予感がして咄嗟に背中の荷物を手で確認した。
まさにその時。
「それ以外にも、あなたがたは“もっと価値のあるもの”をお持ちでしょう?そうその背中の荷物の中に――」
男は、口元にいやらしい笑みをたたえて確かにそう言った
その瞬間。カイルの動揺に気がついたレイラがギュッと兄の袖を握る。
もちろんカイルは未だ誰にもそれを見せたことも、ましてや口にしたことも無い。
“万寿香”
この男がそれを知っているはずがないのだ。だからこそカイルは心の動揺を気取られぬように無言を貫いた。
だが、男はあっさりとその言葉を口にする。
「万寿香ですよ……。あなた……持っていらっしゃるんでしょ?」
そして、カイルの返事を待たぬまま、男は続けた。
「なんで目の見えぬ私が貴方がたを追って来れたと思います? それはね……匂いですよ。こう見えて私は誰よりも鼻が効くんです」
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる