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武術大会編
第82話 ドーマ対エデン その7
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さて、そうは言っても――。
この騒がしい二人は、彼らにとって尊敬すべき師匠なのである。
会場中に響き渡る大声と、それに続く罵詈雑言の応酬は、聞くに絶えず今まさに弟子達の真剣勝負の最中とは思えぬものだった。
決勝戦の緊張感は一瞬にしてどこかへ消え去って、舞台の上で対峙していたドーマとエデンは、呆れたように顔を見合わせ、ついに笑みまでこぼす。
エデンはふっと肩の力を抜くと、構えていた棒を一度ゆっくりと下ろした。空気が緩んだせいで集中が途切れたのだろう。気を取り直さねば、真剣勝負にはならない。
対するドーマも同じく、軽く息を吐き、肩を回すようにして気持ちを切り替え始めた。
「お互いにやっかいな師匠を持ったものだな」
ぽつりと、ドーマがこぼす。それに心の底から頷きながら、エデンが応じた。
「本当だよな。すぐに適当なことを言うし、無茶振りばっかり……。でもさ、気がつけば腕が上がっちゃてるの。ほんと不思議だよ。それに、俺の師匠はマジであきれるくらいに強いんだ」
「それはエイリン様も同じだ。おそらく気位《きぐらい》が高いせいであろうが、あのお方は私に対して常に素っ気無い態度を取られる。しかし、必要な時には必ず私に手を差し伸べてくださるのだ。そして誰よりも賢くていらっしゃる」
「師匠ってのは、だからこそやっかいなんだよ……」
「確かにそうだな」
決戦のさなか二人の間に芽生えた不思議な共感。境遇も立場も異なるが、師匠という存在に振り回されながらも二人は今。師匠のおかげで決勝戦と言う最高の舞台に立てているのだ。
だからこそ――
「それでもお互いに、師匠のことを敬愛している。違うかな?」
「まぁそうかもな。馬鹿な師匠ほど可愛いって世間では言うだろう?」
「おい。言っておくが私の師匠は馬鹿では無いぞ」
「それって、今大声で響きまくってる二人の会話を聞いても言えるのかい?」
「そ、それは……」
エデンの鋭い一言に、ドーマは少しだけ目を逸らす。その様子に、エデンは思わず吹き出した。
「まぁ、無理すんなって。結局さ、変な展開になっちゃったけど、俺は師匠が言う通り今度こそ本気で行かせてもらう。それだけだよ」
「もとより私もそのつもりだ」
彼らはこのまま馴れ合いを続けていても意味のない事を知っていた。今はお互いが雌雄を決する決闘の最中。この二人にもうこれ以上の言葉を交わす時間は残ってはいない。
その証拠に、何気ない言葉を交わす二人の間には、徐々に緊張感が戻り始めていた。
いつしかドーマはその曲刀を鞘から抜き、エデンもまたそれに呼応するようにゆっくりと棒を前方へと突き出していた。
後はお互いの目で試合再開の合図を確認し合うだけである。
しかし。エデンにはその前に一つだけどうしても気になる事があった。それは先程、エイドリアンがドーマに向かって叫んでいた一言である。
「ところでさ。あんたの封印を解くってどう言うことよ?」
「さぁな。私にもわからん。だが、エイリン様はいつも万物の深淵を覗いておられる。私ごときに分からなくともあの方が仰っしゃられるのなら、何かがある」
「ふ~ん。万物の深淵ねぇ~。気になるなぁ……」
「なぁ、馴れ合いはもう十分だろ。さっさと始めよう」
焦れたドーマがその話題を断ち切って、あえて見せつけるように身体の重心を下げた。それはこの試合が始まった時と同じ、突撃のポーズ。相手の話に乗れば、タイミングを狂わされる。ドーマがそれを嫌ったのだ。
一方のエデンも、いつの間にかその下半身には充分な気の力を送り込んで、ドーマの突撃に備える。あれだけカイルに修正されれば、今度はドーマがタイミングを外すなんて事はあり得ない。エデンにもそれは分かっていた。
今度こそ、ドーマとエデンの決勝戦。まさに二人の正真正銘の激突なのだ。
「まったく。上のみっともない口喧嘩を止めさせる為には俺たちがさっさと決着をつけるしか無いな」
「そう言う事だ」
その言葉を合図に、両者はまったくの同時に相手に向かって飛び出した。今度こそ会場に大きな音を響かせて激突する両者の武器。
今ここに、お互いの師匠の身勝手な喧嘩を肩代わりするエデンとドーマの闘い………もとい、剣と魔法の代理戦争の火蓋が再び切って落とされたのである。
今度こそ誰にも遠慮することなく全力をぶつける事が出来るのだ
しかし――
その頃、観客席の上段。賑わいから少し離れたVIP席の隅では、一人の少年とその傍らのメイドが、決して聞き逃せない会話を交わしていたのである。
「ねぇ。エイリン。さっきの封印を解くとはどう言うこと?」
少年が何気ない調子で問いかけると、エイドリアンは少し首を傾けるようにして返した。
「坊ちゃまはドーマが王族の末裔だということ、ご存知ですか?」
その問いに、少年は少しはずんだ声で答えた。
「うん。エルドラ王国でしょ? 遠い昔、ある日突然国が全部消えちゃったんだよね」
「そうですよ。坊ちゃまはよくご存知ですね。彼女には、その王族が代々受け継いできた秘めたる神の力が宿っているようなのです」
そう言いながら、彼女はわずかに目を細めた。自分の知識を披露するのが、いかにも嬉しそうだ。
「……それを、エイリンが解いちゃうの?」
驚いたようにエイドリアンの顔を見上げながら少年は尋ねる。
「ええ。もちろんドーマが負けそうになったらの話です」
そう言ってエイドリアンはさも当前のことであるように、うなずいて見せた。
「ねぇ、それって……本当に大丈夫なの? 封印なんでしょ」
「ご心配には及びません。エルドラが崇拝していた神は“ククルカン”と呼ばれる善良な神です。封印を解くとは言いましたが、あの力を少しだけお借りするだけのこと。さほど気にすることはございません」
エイドリアンの口からは当然の事実を述べるように、すらすらと言葉が繋がれた。
「な~んだ。物知りなエイリンは全部知ってるんだ。なら大丈夫だね。僕、ちょっとだけ心配しちゃったよ。」
少年は安心したように笑い、椅子の背にもたれた。
「はい。大丈夫でございます。魔法のことならこのエイリンめにお任せ下さい。何でも知ってるんですから。」
そう言い切ったエイリンは、胸を張るでもなく、ただ当然のように微笑む。
この騒がしい二人は、彼らにとって尊敬すべき師匠なのである。
会場中に響き渡る大声と、それに続く罵詈雑言の応酬は、聞くに絶えず今まさに弟子達の真剣勝負の最中とは思えぬものだった。
決勝戦の緊張感は一瞬にしてどこかへ消え去って、舞台の上で対峙していたドーマとエデンは、呆れたように顔を見合わせ、ついに笑みまでこぼす。
エデンはふっと肩の力を抜くと、構えていた棒を一度ゆっくりと下ろした。空気が緩んだせいで集中が途切れたのだろう。気を取り直さねば、真剣勝負にはならない。
対するドーマも同じく、軽く息を吐き、肩を回すようにして気持ちを切り替え始めた。
「お互いにやっかいな師匠を持ったものだな」
ぽつりと、ドーマがこぼす。それに心の底から頷きながら、エデンが応じた。
「本当だよな。すぐに適当なことを言うし、無茶振りばっかり……。でもさ、気がつけば腕が上がっちゃてるの。ほんと不思議だよ。それに、俺の師匠はマジであきれるくらいに強いんだ」
「それはエイリン様も同じだ。おそらく気位《きぐらい》が高いせいであろうが、あのお方は私に対して常に素っ気無い態度を取られる。しかし、必要な時には必ず私に手を差し伸べてくださるのだ。そして誰よりも賢くていらっしゃる」
「師匠ってのは、だからこそやっかいなんだよ……」
「確かにそうだな」
決戦のさなか二人の間に芽生えた不思議な共感。境遇も立場も異なるが、師匠という存在に振り回されながらも二人は今。師匠のおかげで決勝戦と言う最高の舞台に立てているのだ。
だからこそ――
「それでもお互いに、師匠のことを敬愛している。違うかな?」
「まぁそうかもな。馬鹿な師匠ほど可愛いって世間では言うだろう?」
「おい。言っておくが私の師匠は馬鹿では無いぞ」
「それって、今大声で響きまくってる二人の会話を聞いても言えるのかい?」
「そ、それは……」
エデンの鋭い一言に、ドーマは少しだけ目を逸らす。その様子に、エデンは思わず吹き出した。
「まぁ、無理すんなって。結局さ、変な展開になっちゃったけど、俺は師匠が言う通り今度こそ本気で行かせてもらう。それだけだよ」
「もとより私もそのつもりだ」
彼らはこのまま馴れ合いを続けていても意味のない事を知っていた。今はお互いが雌雄を決する決闘の最中。この二人にもうこれ以上の言葉を交わす時間は残ってはいない。
その証拠に、何気ない言葉を交わす二人の間には、徐々に緊張感が戻り始めていた。
いつしかドーマはその曲刀を鞘から抜き、エデンもまたそれに呼応するようにゆっくりと棒を前方へと突き出していた。
後はお互いの目で試合再開の合図を確認し合うだけである。
しかし。エデンにはその前に一つだけどうしても気になる事があった。それは先程、エイドリアンがドーマに向かって叫んでいた一言である。
「ところでさ。あんたの封印を解くってどう言うことよ?」
「さぁな。私にもわからん。だが、エイリン様はいつも万物の深淵を覗いておられる。私ごときに分からなくともあの方が仰っしゃられるのなら、何かがある」
「ふ~ん。万物の深淵ねぇ~。気になるなぁ……」
「なぁ、馴れ合いはもう十分だろ。さっさと始めよう」
焦れたドーマがその話題を断ち切って、あえて見せつけるように身体の重心を下げた。それはこの試合が始まった時と同じ、突撃のポーズ。相手の話に乗れば、タイミングを狂わされる。ドーマがそれを嫌ったのだ。
一方のエデンも、いつの間にかその下半身には充分な気の力を送り込んで、ドーマの突撃に備える。あれだけカイルに修正されれば、今度はドーマがタイミングを外すなんて事はあり得ない。エデンにもそれは分かっていた。
今度こそ、ドーマとエデンの決勝戦。まさに二人の正真正銘の激突なのだ。
「まったく。上のみっともない口喧嘩を止めさせる為には俺たちがさっさと決着をつけるしか無いな」
「そう言う事だ」
その言葉を合図に、両者はまったくの同時に相手に向かって飛び出した。今度こそ会場に大きな音を響かせて激突する両者の武器。
今ここに、お互いの師匠の身勝手な喧嘩を肩代わりするエデンとドーマの闘い………もとい、剣と魔法の代理戦争の火蓋が再び切って落とされたのである。
今度こそ誰にも遠慮することなく全力をぶつける事が出来るのだ
しかし――
その頃、観客席の上段。賑わいから少し離れたVIP席の隅では、一人の少年とその傍らのメイドが、決して聞き逃せない会話を交わしていたのである。
「ねぇ。エイリン。さっきの封印を解くとはどう言うこと?」
少年が何気ない調子で問いかけると、エイドリアンは少し首を傾けるようにして返した。
「坊ちゃまはドーマが王族の末裔だということ、ご存知ですか?」
その問いに、少年は少しはずんだ声で答えた。
「うん。エルドラ王国でしょ? 遠い昔、ある日突然国が全部消えちゃったんだよね」
「そうですよ。坊ちゃまはよくご存知ですね。彼女には、その王族が代々受け継いできた秘めたる神の力が宿っているようなのです」
そう言いながら、彼女はわずかに目を細めた。自分の知識を披露するのが、いかにも嬉しそうだ。
「……それを、エイリンが解いちゃうの?」
驚いたようにエイドリアンの顔を見上げながら少年は尋ねる。
「ええ。もちろんドーマが負けそうになったらの話です」
そう言ってエイドリアンはさも当前のことであるように、うなずいて見せた。
「ねぇ、それって……本当に大丈夫なの? 封印なんでしょ」
「ご心配には及びません。エルドラが崇拝していた神は“ククルカン”と呼ばれる善良な神です。封印を解くとは言いましたが、あの力を少しだけお借りするだけのこと。さほど気にすることはございません」
エイドリアンの口からは当然の事実を述べるように、すらすらと言葉が繋がれた。
「な~んだ。物知りなエイリンは全部知ってるんだ。なら大丈夫だね。僕、ちょっとだけ心配しちゃったよ。」
少年は安心したように笑い、椅子の背にもたれた。
「はい。大丈夫でございます。魔法のことならこのエイリンめにお任せ下さい。何でも知ってるんですから。」
そう言い切ったエイリンは、胸を張るでもなく、ただ当然のように微笑む。
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