【大師匠は大嘘つき】〜俺はデタラメの剣術を教えたはずなのに、今や妹は剣聖と呼ばれています〜

鳥羽フシミ

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武術大会編

第83話 ドーマ対エデン その8

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そして舞台上に目を移せば――

ドーマとエデンの試合は、やはりと言うべきか、当然と言うべきか、剣の腕で優れるエデンが終始主導権を握る展開となっていた。

たとえるなら、スポーツカーに乗った素人と、軽自動車に乗ったプロレーサーの対決のようなものだ。たとえドーマが身体強化魔法によってスピードを得ていたとしても、彼女の武芸はあくまで急ごしらえ。その速さを活かす剣技――つまり応用力が、明らかに足りていない。

制御しきれないスピードは直線的で変化に乏しく、ドーマの曲刀はことごとくエデンの巧みな棒術によって受け流され、弾き返されていた。

「やっぱりスピードに頭が追いついてねぇんだよ。これじゃ、エデンが余裕で勝っちまうな……」

観客席の最上段から試合を見つめていたカイルが、少し残念そうに呟く。せっかくの身体強化も、剣技を知らぬ者が使えば宝の持ち腐れである。

そして――

今や“宿敵”とも言える、あのメイド魔女の弟子となってしまったドーマが、せっかくの能力を活かせずにいることに、カイルはもどかしさを覚えていた。

「十日もあれば、モノにしてやれるんだがなあ」

その言葉に、かつて妹に嘘を重ねていたカイルの頼りない面影はない。そこにあるのは、剣聖レイラ=バレンティンを育て上げ、そして今、弟子エデンをも決勝へ導いたという自負。そして、自身もまた舞台上のふたりを凌駕するほどの武術を手にしているという確かな自信だった。

しかし――

そのエデン優勢の流れに、突如として変化が訪れる。

もちろん、観客席で誰よりも早く異変に気づいたのは、闘技場の最上段から状況を見守っていたカイルである。

それは突然の出来事だった。

優位に立っていたはずのエデンが、ドーマの一撃によって突如舞台の端まで吹き飛ばされたのだ。

身体強化魔法を極めれば、確かにそれも不可能ではない。だが、それだけでは説明がつかないほどに、ドーマの動きが明らかにそれ以前とは別物になっていた。

「チッ。これがあのメイドの言ってた“封印を解く”ってやつか。さすがに、これはヤバいな……」

カイルは、先ほどエイドリアンが言った言葉を思い出していた。「封印を解く」――その意味は分からない。だが、この急激な変化を見る限り、あの魔女が何か手を打ったと考えるべきだろう。

もしも、これまでのスピードに加え、人間を吹き飛ばすほどの力までドーマが得てしまったとしたら、どれほど技で勝っていても、エデンに勝ち目はない。

何度も吹き飛ばされながらも、果敢に応戦するエデン。だが、カイルがさらなる異変に気づいたのはその時だった。

エデンと対峙するドーマの様子が、明らかにおかしい。

「お、おい……。ちょっと待てよ……」

沸き立つ歓声の中、カイルは急ぎ通路を駆け下りる。

「このまま試合を続けさせたら駄目だ!」

理屈ではない、肌が感じ取る。研ぎ澄まされた武芸者としての直感――それがカイルを突き動かした。

「やばいぞエデン! 相手の様子が変だ、早く降参しろ!」

師の叫びに、必死で攻撃を受け止めながらエデンが叫び返す。

「そんなの、さっきから分かってるっつの! でもよ、こいつをこのままにしておけねぇだろ!」

カイルが目にしたドーマの姿は、もはやエデンが戦っていた彼女とは別人だった。

黒いオーラが身体を包み、瞳は真紅に染まっていた。その姿からは徐々にドーマの面影が消え、代わりに――神話に語られる魔神のような、異形の存在が現れ始めていた。

「バカ。分かってたんなら、すぐに師匠の俺に助けを求めろ!」

怒鳴るようなカイルの声。

「すまねぇ師匠、助けてくれ!」

エデンは再び振るわれたドーマの一撃を辛くもかわし、叫んだ。

もはや、これは決勝戦などという次元の話ではない。カイルはそのまま舞台へと呼び降りると、エデンのもとへ駆け寄る。

「おいエデン、やっぱこいつ正気じゃねぇ。覚えてるか? 第一試合でこいつが女騎士と戦ったときのこと。最後に見せたあの状態と同じだ。完全に、何かに飲まれてやがる」

決勝戦の舞台に突如姿を現したカイルに、観衆はざわつくばかり。だが彼らには、この状況がどれほど危険なのか、まだ理解できていなかった――。
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