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武術大会編
第86話 共闘 その1
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さて、先程から必死に魔人の攻撃を凌いでいるエデンとカイルではあるが、終始受けに回っており、反撃に転じることができずにいた。
というのも、魔人の繰り出す斬撃は時間の経過と共に威力と速度を増しており、彼らがそれを受け止めなければ、観客席にいる人々へ深刻な被害が及ぶ恐れがあったからだ。
しかし、突如として頭上に出現した透明なドーム状の結界により、戦闘は一時中断される。
それは膨大な魔力によって形成された魔力結界だった。魔人はその異質な魔力の存在を感知し、エデンとカイルへの攻撃を止めて辺りを警戒している。
そんな中、悠然と現れたのはエイドリアンだった。本人としては満を持しての登場。どこか余裕すら感じさせるその立ち振る舞いは、見方によっては場違いなほどに落ち着いている。
「おいメイド。これはいったい何だ?」
カイルは苛立ちを隠そうともしない。戦闘中だというのに悠長な態度を崩さないエイドリアンに、つい語気も荒くなる。
だが、エイドリアンは意に介さないどころか、むしろその態度はさらに余裕を増していた。
「魔力結界ですよ。私にこの場所はちょっと狭すぎるんですもの。私の魔法は少々お転婆ですから、巻き添えで観客を吹き飛ばしてしまっては困るでしょう?」
「チッ、偉そうに。要するにコントロールできねぇってことだろ。」
「なにをおっしゃいます。コントロールができないのではなく、あえて抑えないだけです。魔法というものは本来、縛られるものでなく、解き放つものでしょう? まぁ、そんな細かい理屈は魔法の素人に話しても仕方ありませんが……怪我をしたくなければ後ろに下がっていた方が身のためですよ?」
相変わらずの皮肉交じりの尊大な物言い。いかにもエイドリアンらしい態度だった。
しかし、そんな余裕な態度にカイルが水を差す。
「今さら格好つけたって無駄だぜ。お前さ、逃げようとしてたんだろ?」
唐突なその一言に、エイドリアンは一瞬、硬直した。
「は? な、何の話です?」
しらばっくれるも、声が上ずっている。本人も心当たりがあるのが丸わかりである。
「何のってさ……坊ちゃんとの芝居、聞こえてたぞ。ビビって逃げようとしてたところを、坊ちゃんに引き止められてたよな?」
「なっ……」
そのカイルの言葉は、エイドリアンにとって全く予想外の言葉であった。
「は?何を言っているのですか……」
状況がさっぱり飲み込めないといった様子のエイドリアン。
なぜなら、観客席での坊ちゃんとのやり取りを、必死で魔人と闘っていたカイルが知っているはずなどないのだ。
――エイドリアンは恐る恐る聞き返す。
「も、もしかして……聞こえていたんですか?」
「“聞こえてた”ってレベルじゃねぇな。会場中に響いてたぞ。お前さ、拡声の魔法、切り忘れてただろ?」
その瞬間、エイドリアンの顔が引きつる。
そう。彼女はドーマが優勢になってきた嬉しさのあまり、うっかり拡声の魔法の解除を忘れていた。つまりエイドリアンが発したすべての言葉は、ずっと会場中に響き渡っていたのだ。
「ま、まさか……あのくだり……最初から……?」
「ああ。ナントカって邪神の封印がどうしたこうした、からの、坊ちゃんとの三文芝居まで、ぜーんぶな」
エイドリアンは額に手を当て、静かにうなだれた。
だが——次の瞬間、その肩が不敵に震える。
カイルが一瞬訝しむ表情を浮かべた次の瞬間、エイドリアンは顔を上げ、信じがたいほど堂々とした声で言い放った。
「……まったく、高度な魔法ってのは便利すぎて困りものすね。うっかり最上級の秘密まで漏らしてしまうとは。」
「は?」
もちろんカイル以外の人間も、「は?」としか言えないだろう。
今の一瞬で、エイドリアンは事実の解釈を無理矢理に捻じ曲げたのである。
「いいでしょう。聞かれていたのなら仕方ありません。そう、確かに私は一度この場を立ち去ろうとしました。ですが、それがどうしたというのです? この私、エイドリアン・アーカライトが、たとえ一度はこの場を放棄しようとしていたとしても、最後にはここに戻ってきたという事実。それこそが全てではないですか」
エイドリアンは淀みない高らかな声でそう言い切った。
「勘違いしてもらっては困りますが、この場を去ろうとしたのは、私が魔法を使えばその威力を抑えきれずにここの人々を巻き込んでしまうと判断したからです。それに――この場は私がでるまでもなく、貴方がたに任せても大丈夫と判断したからなのですが――」
あれだけの赤っ恥をさらしておきながら、この開き直りよう。だが、あまりにも堂々としたエイドリアンの姿に、それを“見苦しい”と切り捨てられないだけの奇妙な説得力があった。
「しかしまぁ、結局は私無しではどうしようも無かったわけですが――」
「フン……言うじゃねえか。」
あまりのこじつけに、カイルは鼻で笑う。
「でしょ? なので、一応確認しておきますが——あなた、私の邪魔はしませんよね?」
「ああ。少なくとも今はな。敵は魔人で、正直なところ味方は喉から手が出るほど欲しい。なら、今だけは背中は預けてやるよ」
「結構。じゃあ、派手にやりますので、目を閉じておいてくださいね。目を焼かれても文句は言わないように」
「……やれやれ。とことん性格悪ぃな、お前は――」
互いに火花を散らすような視線と言葉を交わしながらも、二人共に力を合わせなければこの場を乗り切れないことは十分に理解している。
カイルの言葉も終わらぬうちに、エイドリアンが詠唱を開始すると、その足元から空気が振動を始める。魔人も異変に気づき、再び殺意を向けるが——今度はエイドリアンが、正面からそれを迎え撃つ番である。
というのも、魔人の繰り出す斬撃は時間の経過と共に威力と速度を増しており、彼らがそれを受け止めなければ、観客席にいる人々へ深刻な被害が及ぶ恐れがあったからだ。
しかし、突如として頭上に出現した透明なドーム状の結界により、戦闘は一時中断される。
それは膨大な魔力によって形成された魔力結界だった。魔人はその異質な魔力の存在を感知し、エデンとカイルへの攻撃を止めて辺りを警戒している。
そんな中、悠然と現れたのはエイドリアンだった。本人としては満を持しての登場。どこか余裕すら感じさせるその立ち振る舞いは、見方によっては場違いなほどに落ち着いている。
「おいメイド。これはいったい何だ?」
カイルは苛立ちを隠そうともしない。戦闘中だというのに悠長な態度を崩さないエイドリアンに、つい語気も荒くなる。
だが、エイドリアンは意に介さないどころか、むしろその態度はさらに余裕を増していた。
「魔力結界ですよ。私にこの場所はちょっと狭すぎるんですもの。私の魔法は少々お転婆ですから、巻き添えで観客を吹き飛ばしてしまっては困るでしょう?」
「チッ、偉そうに。要するにコントロールできねぇってことだろ。」
「なにをおっしゃいます。コントロールができないのではなく、あえて抑えないだけです。魔法というものは本来、縛られるものでなく、解き放つものでしょう? まぁ、そんな細かい理屈は魔法の素人に話しても仕方ありませんが……怪我をしたくなければ後ろに下がっていた方が身のためですよ?」
相変わらずの皮肉交じりの尊大な物言い。いかにもエイドリアンらしい態度だった。
しかし、そんな余裕な態度にカイルが水を差す。
「今さら格好つけたって無駄だぜ。お前さ、逃げようとしてたんだろ?」
唐突なその一言に、エイドリアンは一瞬、硬直した。
「は? な、何の話です?」
しらばっくれるも、声が上ずっている。本人も心当たりがあるのが丸わかりである。
「何のってさ……坊ちゃんとの芝居、聞こえてたぞ。ビビって逃げようとしてたところを、坊ちゃんに引き止められてたよな?」
「なっ……」
そのカイルの言葉は、エイドリアンにとって全く予想外の言葉であった。
「は?何を言っているのですか……」
状況がさっぱり飲み込めないといった様子のエイドリアン。
なぜなら、観客席での坊ちゃんとのやり取りを、必死で魔人と闘っていたカイルが知っているはずなどないのだ。
――エイドリアンは恐る恐る聞き返す。
「も、もしかして……聞こえていたんですか?」
「“聞こえてた”ってレベルじゃねぇな。会場中に響いてたぞ。お前さ、拡声の魔法、切り忘れてただろ?」
その瞬間、エイドリアンの顔が引きつる。
そう。彼女はドーマが優勢になってきた嬉しさのあまり、うっかり拡声の魔法の解除を忘れていた。つまりエイドリアンが発したすべての言葉は、ずっと会場中に響き渡っていたのだ。
「ま、まさか……あのくだり……最初から……?」
「ああ。ナントカって邪神の封印がどうしたこうした、からの、坊ちゃんとの三文芝居まで、ぜーんぶな」
エイドリアンは額に手を当て、静かにうなだれた。
だが——次の瞬間、その肩が不敵に震える。
カイルが一瞬訝しむ表情を浮かべた次の瞬間、エイドリアンは顔を上げ、信じがたいほど堂々とした声で言い放った。
「……まったく、高度な魔法ってのは便利すぎて困りものすね。うっかり最上級の秘密まで漏らしてしまうとは。」
「は?」
もちろんカイル以外の人間も、「は?」としか言えないだろう。
今の一瞬で、エイドリアンは事実の解釈を無理矢理に捻じ曲げたのである。
「いいでしょう。聞かれていたのなら仕方ありません。そう、確かに私は一度この場を立ち去ろうとしました。ですが、それがどうしたというのです? この私、エイドリアン・アーカライトが、たとえ一度はこの場を放棄しようとしていたとしても、最後にはここに戻ってきたという事実。それこそが全てではないですか」
エイドリアンは淀みない高らかな声でそう言い切った。
「勘違いしてもらっては困りますが、この場を去ろうとしたのは、私が魔法を使えばその威力を抑えきれずにここの人々を巻き込んでしまうと判断したからです。それに――この場は私がでるまでもなく、貴方がたに任せても大丈夫と判断したからなのですが――」
あれだけの赤っ恥をさらしておきながら、この開き直りよう。だが、あまりにも堂々としたエイドリアンの姿に、それを“見苦しい”と切り捨てられないだけの奇妙な説得力があった。
「しかしまぁ、結局は私無しではどうしようも無かったわけですが――」
「フン……言うじゃねえか。」
あまりのこじつけに、カイルは鼻で笑う。
「でしょ? なので、一応確認しておきますが——あなた、私の邪魔はしませんよね?」
「ああ。少なくとも今はな。敵は魔人で、正直なところ味方は喉から手が出るほど欲しい。なら、今だけは背中は預けてやるよ」
「結構。じゃあ、派手にやりますので、目を閉じておいてくださいね。目を焼かれても文句は言わないように」
「……やれやれ。とことん性格悪ぃな、お前は――」
互いに火花を散らすような視線と言葉を交わしながらも、二人共に力を合わせなければこの場を乗り切れないことは十分に理解している。
カイルの言葉も終わらぬうちに、エイドリアンが詠唱を開始すると、その足元から空気が振動を始める。魔人も異変に気づき、再び殺意を向けるが——今度はエイドリアンが、正面からそれを迎え撃つ番である。
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