【大師匠は大嘘つき】〜俺はデタラメの剣術を教えたはずなのに、今や妹は剣聖と呼ばれています〜

鳥羽フシミ

文字の大きさ
94 / 96
武術大会編

第94話 兄妹 THE LAST MASTER その4

しおりを挟む
それにしてもこの邪神ってやつは……まるでゾウか、はたまた恐竜か。

いずれにせよそんな巨体ならば、それなりに動きが緩慢になりそうなものなのだが――驚くべきことに、邪神テスカポリカはその大きすぎる身体を持て余すことなく自由自在に操って、闘技場の中を縦横無尽に飛び回っていた。

邪神が暴れる度にズシンズシンと地面が揺れる。そして石材とコンクリートで固められた闘技場の外壁はその衝撃に耐えかねて、その度にバラバラと崩れ落ちてゆく。



駄目だ。

まだ五体の感覚が戻っただけで、身体に力までは戻っていない。

しかし……。

それでも俺はなんとか起き上がろうと、無理やりに身体に力を入れた。ガクガクと震える身体に鞭をうって、躓《つまず》こうがひっくり返ろうが、這いつくばってでも俺はレイラを助けに行かなければならない。

今、一人で邪神と戦っている妹を助けてやれるのは俺しかいないのだ。


しかし……。俺が無理に上体を起こして、バランスを崩した時。俺の身体が突然誰かの手によって支えられた。

「カイルさん。少しだけじっとしていてください。今『治癒の法』を使います」

それは聞き慣れない若い男の声だったが、身体を支えてくれた少年のその気品溢れる姿に俺は見覚えがある。

彼もまた、剣聖と一緒でこの場所から逃げ出さなかった人間の一人。さっきまでこの会場にバカでかい結界を張っていたエイドリアンの幼き主人ことショーン少年である。

「お前……。メイドの方はいいのか?」

俺は咄嗟にそう答える。確かに回復魔法は嬉しいが、先に気を失ってしまったエイドリアンは、自力で起き上がれた俺よりも状態は深刻なはずなのだ。

しかし、少年の口からは出た言葉は、いかにもエイドリアンらしい愉快な事実を教えてくれた。

「大丈夫です。エイリンならギリギリの所で『仮死の魔法』を使っていましたから。彼女ならもう既に魔法を解いて復活しています。今はエデンさんの治療をしているので、彼も心配ありません」

俺はその言葉を聞いた時、思わず笑ってしまった。エイドリアンは何と食えない女なのだろうか。あのような芝居じみた事を言っておきながらも、あの絶望的な状況下で自らに延命の作を施して、微かな望みをつないでいたのである。

本当に笑うしかない。

そして、これほど頼もしい事もない。

エイドリアンは無茶苦茶な女ではあるが、先ほど見せつけられた魔法の実力はまさに想像以上なのだ。


だが、これでようやく絶望的な状況に光が差した。

俺は、少年の魔法によってその身体がみる間に機能を回復していくのを実感しながら、その視線はレイラと邪神へと送っていた。

まるで獲物に飛びかかるサバンナの猛獣ライオンの様に、邪神は幾度となくレイラへと飛びかかる。だがそれでも彼女が邪神と渡り合えているのはただひたすら逃げに徹しているからであった。

ここで俺がレイラの助けに入れば勝機は確実にある。俺はそう確信した。

しかし、本当にそうなのだろうか……。

この邪神は一つの国を一瞬にして滅ぼしたとエイドリアンは言っていた。

それがこの程度で……



だが、今はとやかく言っている暇はない。俺はショーン少年の回復魔法もそこそこに、その身体が動くようになるやいなや、全速力で邪神の眼の前へと飛び出した。

「やっと、戻って来た……」

背後から聞こえたのはレイラの声。

そう。本当にやっとだ。あの山深い村を出てから約6年。その間に俺はそうとう拗らせてしまったが、やはりこうして再び妹の前に立つのは嬉しいものだ。

本当は、妹が一人で強くなっていくのが怖かった。

そして、嘘がバレるのが怖かった。

今こうしてレイラの目の前に立って見ても、やっぱり妹の顔を直視するのは怖い。だって俺は、弱い自分のせいで妹に罪を犯させてしまったのだから――


だが、もう腹を括ろう。あれから俺だって妹に追いつこうと沢山修行をしたんだ。まだまだ、剣聖とまで呼ばれる妹の足元にも及ばないかもしれないけど、今なら言える。

共に戦おうと――



しかし……

妹は、俺の姿を確認した途端、手にした剣《つるぎ》を静かに鞘へおさめると――

小さな声で、こう言ったんだ……

「あとはお兄ちゃんに任せるね――」

って……
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...