【大師匠は大嘘つき】〜俺はデタラメの剣術を教えたはずなのに、今や妹は剣聖と呼ばれています〜

鳥羽フシミ

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武術大会編

第95話 兄妹 THE LAST MASTER その5

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いったい何がどうなっている?

突然のつれない妹の態度に――俺は状況を上手く飲み込むことが出来なかった。

だって、ここからが本番だろ?

強敵を目の前にして数年ぶりにに再会した兄と妹が再会の喜びもそこそこに、共に剣を手にとって強敵に立ち向かう――

ここはそんな流れになる場面でしょうが。それなのに、ここで剣を収めちゃってどうするんですか!

俺は、そんな思ってもない展開に、思わず「なんで……?」としか言えなかった。

状況は最悪だ。結界が破られた今、邪神はさっきよりヤバい存在感を放っている。

そんな状況でもレイラは、剣を再び抜こうとはしなかった。それどころか彼女の瞳には「決して剣を抜くものか」と言うような固い意思すら感じられるのだ。

この数年でレイラにいったいどんな心境の変化があったというのだろう。

『千年九剣』の修行を始め山で稽古をしていた時は、あんなに俺と一緒に戦う日を楽しみにしていたと言うのに――

俺にはレイラのつれない態度の意味がわからなかった

だって――今、その時が来ているんですよ、レイラさん。もしかして、最初に戦うのはあの日の言葉通りドラゴンが良いんですか?

なんて、頭の中で色々考えたりもしたけれど――

妹は、何故かうつ向いてシュンとしたままこう言うのだ。

「だって私はお兄ちゃんと一緒には戦え無いから――」

「いや、だからなんで戦えないんだよ。」

今の俺はそれが知りたいのである、どうしたら邪神がたおせるかよりも、なぜレイラがいじけちゃっているのかを知りたいのだ。

そしてそんな疑問に――妹は、こう答えた。

「だって、私――お兄ちゃんに破門されちゃったんでしょ――」


――は?

それは俺が全く予想していない言葉だった。

「あの時――私がお兄ちゃんとの約束を破っちゃったから――だから私の事を迎えに来てくれなかったんでしょ」

あの時?

俺との約束?

俺には一切身に覚えの無い言葉が妹の口からつむがれる。そんな言葉の一つ一つが切実で、その事で酷く心を痛めていることが痛いほど伝わってくる。

だがこの時の俺は、適当な分析で邪神を解放してしまったエイドリアンの如く、過去の適当なでまかせで、妹を追い詰めてしまっていたことに気がついてはいない。

それは、俺が過去に『千年九剣』は一子相伝と言っくせに、エデンと言う弟子を取ってしまったのが原因だったのだが――邪神を目の前にした切羽詰まった状況で、そんな過去に適当に言った言葉を俺が思い出せるはずも無く――

その時、俺が咄嗟に取った選択。それは――

「良くやったなレイラ! お前は合格だ!」

そう妹に向かって師匠らしく告げる事だった。



何をよくやた?

――そんな事は知らん。

いったい何に合格した?

――とりあえず今までが何かの試験だったんだよ。

今はそれで押し通して、なんとか妹に協力してもらうしか無いだろ?

全く、この妹は今でも俺が強いと思ってやがる。そりゃ最初にドラゴンを倒したとか言って騙したのは俺だけど、それでも俺への評価が高過ぎだって。たぶん今だって邪神くらいなら俺が一人で倒せると思っていたに違いないんだ。

でも、やっぱり思った通りだったよ。

「お兄ちゃん! 合格ってどういう事?」

って――

まったく妹ときたら、俺が合格って言葉を伝えた瞬間声が裏返りやがった。小さな時から嬉しい時に声が裏返る癖はぜんぜん変わってねぇな。

だったらここで畳み掛けるしか無い。

「合格って言ったら合格だよ。お前、今『千年九剣』の何層で止まってたっけ?」

「第四層! 四層の無形式《むけいしき》です!」

そう、それそれ。俺もあまりにも昔の事で忘れかけてたけど、その修行の途中で俺達は離れ離れになっちゃたんだ。

確か――無形式と言えば

剣に形を与えず常に異なった剣を振るう――だったよな。

つまりここは――

剣を使わない事こそ本当の無形とかなんとか理屈をつけて、この場で四層の免許皆伝をレイラに与えてやるのだ。

今ここで、それさえ与えてしまえば――

もうこれ以上、俺はレイラに嘘の『千年九剣』の修行をつけてやる必用は無くなる。だって、今の俺にはデタラメの剣術に頼らなくても、妹に教えてやれることがたくさんあるんだから。

「さぁレイラ! お前は俺に破門なんかされちゃいない。だからさっさとこの化け物を一緒に倒しちゃおうぜ!」

そうして、兄妹一緒に強敵に立ち向かうと言う昔からの夢をやっと叶える事になるのだが、そんな俺達の姿を見て、珍しくエイドリアンが笑っていた。

傍らにはついさっき俺に治癒の魔法をかけてくれたショーン少年が立っている。

突然、エイドリアンがよく通る高らかな声で語り始めた。

「レイラさん」

それは、今しがた剣で魔法結界を打ち壊すと言う、道理を通り越した離れ業を見せた剣聖レイラに向けてであった。

「あなたも相当に拗《こじ》らせてはいるようですが、今この場で私はあなたにお礼をいわなければなりません。さきほど結界を破る際に貴方は私達にとって最悪の方法を選ばなかった事に心から感謝いたします。当然、結界を破るにはショーン坊ちゃまを殺すと言う方法もあったはず――。その方法を選ばなかった貴方に心から感謝いたします」

もちろん俺達にとって、そんなお礼など後回しでも良かった。と言うか、今は、まさに邪神と向き合っている場面でそんなエイドリアンの口上に付き合っている暇など無い。

しかし、それはこの最悪の場面を作り上げた、エイドリアンとショーンのけじめの言葉であったのだろう。

自ら大陸最強の大魔道士と豪語する二人である。この二人がそろって、このまま俺とレイラが邪神を倒すのを、ただ指を咥えて見守っていると言うことなど有りはしないのだ。
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