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第一章
第三十四話 戦いの幕は開ける
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「そう・・か」
彼女の意思を尊重する、アシュベルは自身に誓っていた。
ただ全てを話してくれたことでエレナが残ってくるのだと、勝手に思ってしまってい
たのを滑稽に思いながら、それが自身の希望的観測だったのだと思い知らされる。
そしてどこかで、やはり彼女はそれを選ぶのだと知っていたようにも思う。
「んー。あまりにも理論的ではないですね、その選択は。」
アロがなかば呆れたような視線でエレナを見て発言する。
「さきほどのあなたの話しを聞いたところ、この世界が混沌に沈んでしまったら、我
々人類どころかすべての生命が消失してしまう、そう解釈したのですが間違いないで
すか?」
「え、ええ。天の采配によっては必ずそうなる、とは断言はできないけれど人類の危
機は免れないと思うわ」
「あなたが死んでしまったら、その危機が回避できるという確率があまりにも低くな
る。ならば、何度も転生している中現生ではイレギュラーな事態に陥っていることか
ら考えると、今回それが成功する見込みがあなた自身にも予測できない、そうではな
いですか」
エレナの死、だと?あまりにもあけすけなアロの冷徹ともとれる意見に、アシュベル
の赤い瞳に紅蓮の炎が瞬時に映し出される。アシュベルの手には既に帯刀されている
腰の大剣の柄を握りしめられている。
切れ者だとは思ってはいたが、この男には感情の起伏は無いのか。
論理的であってもなくても、それ以前にアロの言葉はアシュベルにとって許せるもの
ではない。
そんなアシュベルをシャルルやリュカが両腕をそれぞれに掴み彼を落ち着かせようと
する。
「混沌の闇を滅することが出来るのはこの世でたった一人、エレナ殿しかいない、な
らば、我々はこの世界が混沌の闇に沈まないよう彼女を護る。世界を滅ぼす程の危機
が目前に控えている、少数の犠牲でこの世界を護れるのだとしたら、わたしは本望で
すよ、」
思いもよらないアロの提言。
リュカとシャルルに両腕を掴まれていたアシュベルは、自分の力を抜き、解放される。
リュカがアロの発言を踏まえ、彼自身の考えを述べる。
「僕もいいですか?、エレナのマナを覗けるのは僕だけ、彼女は特殊なマナを持って
いる。今は安定しているようみ見えるが、これからも変化する可能性はないとはいい
きれないはず、今後の彼女の安全のためにもエレナの側にはいるべきです、僕もアロ
様の意見に同意します、」
さすが水色の瞳を持つ者同士、意見が合うのだな、とアシュベルが思う・・・がそう
ではないように見える。リュカの輝く水面を思わせる水色の瞳と、アロの蒼に近い冬
の水底を思わせる水色の瞳が、バチバチと火花を散らしている。・・・これは同族嫌
悪という奴か。
「あたしは、エレナが初めての親友だった、皆同い年の女の子たちの話には宝石やド
レス社交界で出会ったという貴公子の話ばかりで息が詰まりそうだった。あたしはエ
レナなら何でも話せたよ、あのブレスレットを見た日から。親友を振りかざすのはど
うかと思うけど、せっかくできた親友をそうそう手放せないよ・・・つまり、エレナ
の近くに居たい、それが危険が伴う事態でも。」
カリーナは純粋に友人としてエレナに接する、それはなによりもアシュベルには尊い
ように感じる。
「じゃあ、僕もっ!僕はアシュベル様に従います、アシュベル様はどう考えてるんで
すか?」
シャルルが意見を言うのかと思いきや、彼はそれをアシュベルに投げる。
「俺は、」
とっくに決まっている自分の覚悟それを語る、それだけだ。
「俺はヒメちゃんの意思を尊重したい。ただ、ヒメの傍に仕えたいと思っているのは
誓って本当の事だ、貴族の内情にも通じているしセーデルがどこまで幅を利かせてい
るか、俺は自分の地位を利用して調べれば確信に迫れると思う、こういう情報だけで
なく俺は何かとあなたの役に立つ」
自己過大評価、という言葉もあるがアシュベルに限ってはそれは当てはまらない。
シャルルはアシュベルの真摯なその姿に感極まったかのように同調する。
「じゃあ、僕もアシュベル様のようにお役に立つようがんばりますっ!」
「ここにいる皆は全員が君の仲間だ、シャルルとアロはこれからって事で。一度仲間
になったらお互いを助け合うものだよ、ヒメちゃん」
アシュベルの言葉に周りの皆の顔をそれぞれ見ると、その意が見て取れた。
再びアロがエレナに言う。
「つまり、皆あなたが一人混沌の闇に立ち向かうのは、妥当ではないと思っているん
です」
此処にいる人たちはわたしが残ることを望んでくれている、ならば。
そっと瞼を閉じる。
もう迷わなくていい、覚悟は決まった。
エレナは再び瞼を開く、白銀色のまつげの奥に闇を宿した真っ黒な瞳には凛とした輝
きが静かに満ちている。
アシュベルはその瞳を見て思い出す、エレナに初めて会った時の事を思い出す。
彼女の瞳はあの時も、夜の海のように静かに煌めいていた。
会った時から変わらない、純粋な彼女の想い。
「ありがとう、ここにいる事が許されるならわたしはここに残りたい。そのために
も」
エレナが言葉を噛みしめながら丁寧に言葉を紡ぐ。
「わたしがあなた達を必ず守る、この世界を悪意と混沌の闇から守り抜いてみせる」
彼女の決意は本物であり、命を懸けたものだ、それは彼女の全てから滲み出ている。
「皆がいる、エレナ君はもう一人じゃないんだ、これからの事をここにいる全員で考
えよう」
アシュベルの言葉にエレナは確かめる様に頷く。
皆がそれぞれ部屋を出て行き、エレナの部屋は静けさを取り戻した。
ぎゅうぎゅう詰めだった部屋を思い返し、くすりと笑う。
そして窓を開き冷たくも心地よい風が入ってくるのを、その白銀色の長い髪がなびく
ことで感じる。
ここから巻き返す。
この世界を混沌の闇になど滅ぼさせない、必ずこの手で滅して見せる。
エレナは決意も新たにセーデルの居る城の方を窓から見据える。
彼女の意思を尊重する、アシュベルは自身に誓っていた。
ただ全てを話してくれたことでエレナが残ってくるのだと、勝手に思ってしまってい
たのを滑稽に思いながら、それが自身の希望的観測だったのだと思い知らされる。
そしてどこかで、やはり彼女はそれを選ぶのだと知っていたようにも思う。
「んー。あまりにも理論的ではないですね、その選択は。」
アロがなかば呆れたような視線でエレナを見て発言する。
「さきほどのあなたの話しを聞いたところ、この世界が混沌に沈んでしまったら、我
々人類どころかすべての生命が消失してしまう、そう解釈したのですが間違いないで
すか?」
「え、ええ。天の采配によっては必ずそうなる、とは断言はできないけれど人類の危
機は免れないと思うわ」
「あなたが死んでしまったら、その危機が回避できるという確率があまりにも低くな
る。ならば、何度も転生している中現生ではイレギュラーな事態に陥っていることか
ら考えると、今回それが成功する見込みがあなた自身にも予測できない、そうではな
いですか」
エレナの死、だと?あまりにもあけすけなアロの冷徹ともとれる意見に、アシュベル
の赤い瞳に紅蓮の炎が瞬時に映し出される。アシュベルの手には既に帯刀されている
腰の大剣の柄を握りしめられている。
切れ者だとは思ってはいたが、この男には感情の起伏は無いのか。
論理的であってもなくても、それ以前にアロの言葉はアシュベルにとって許せるもの
ではない。
そんなアシュベルをシャルルやリュカが両腕をそれぞれに掴み彼を落ち着かせようと
する。
「混沌の闇を滅することが出来るのはこの世でたった一人、エレナ殿しかいない、な
らば、我々はこの世界が混沌の闇に沈まないよう彼女を護る。世界を滅ぼす程の危機
が目前に控えている、少数の犠牲でこの世界を護れるのだとしたら、わたしは本望で
すよ、」
思いもよらないアロの提言。
リュカとシャルルに両腕を掴まれていたアシュベルは、自分の力を抜き、解放される。
リュカがアロの発言を踏まえ、彼自身の考えを述べる。
「僕もいいですか?、エレナのマナを覗けるのは僕だけ、彼女は特殊なマナを持って
いる。今は安定しているようみ見えるが、これからも変化する可能性はないとはいい
きれないはず、今後の彼女の安全のためにもエレナの側にはいるべきです、僕もアロ
様の意見に同意します、」
さすが水色の瞳を持つ者同士、意見が合うのだな、とアシュベルが思う・・・がそう
ではないように見える。リュカの輝く水面を思わせる水色の瞳と、アロの蒼に近い冬
の水底を思わせる水色の瞳が、バチバチと火花を散らしている。・・・これは同族嫌
悪という奴か。
「あたしは、エレナが初めての親友だった、皆同い年の女の子たちの話には宝石やド
レス社交界で出会ったという貴公子の話ばかりで息が詰まりそうだった。あたしはエ
レナなら何でも話せたよ、あのブレスレットを見た日から。親友を振りかざすのはど
うかと思うけど、せっかくできた親友をそうそう手放せないよ・・・つまり、エレナ
の近くに居たい、それが危険が伴う事態でも。」
カリーナは純粋に友人としてエレナに接する、それはなによりもアシュベルには尊い
ように感じる。
「じゃあ、僕もっ!僕はアシュベル様に従います、アシュベル様はどう考えてるんで
すか?」
シャルルが意見を言うのかと思いきや、彼はそれをアシュベルに投げる。
「俺は、」
とっくに決まっている自分の覚悟それを語る、それだけだ。
「俺はヒメちゃんの意思を尊重したい。ただ、ヒメの傍に仕えたいと思っているのは
誓って本当の事だ、貴族の内情にも通じているしセーデルがどこまで幅を利かせてい
るか、俺は自分の地位を利用して調べれば確信に迫れると思う、こういう情報だけで
なく俺は何かとあなたの役に立つ」
自己過大評価、という言葉もあるがアシュベルに限ってはそれは当てはまらない。
シャルルはアシュベルの真摯なその姿に感極まったかのように同調する。
「じゃあ、僕もアシュベル様のようにお役に立つようがんばりますっ!」
「ここにいる皆は全員が君の仲間だ、シャルルとアロはこれからって事で。一度仲間
になったらお互いを助け合うものだよ、ヒメちゃん」
アシュベルの言葉に周りの皆の顔をそれぞれ見ると、その意が見て取れた。
再びアロがエレナに言う。
「つまり、皆あなたが一人混沌の闇に立ち向かうのは、妥当ではないと思っているん
です」
此処にいる人たちはわたしが残ることを望んでくれている、ならば。
そっと瞼を閉じる。
もう迷わなくていい、覚悟は決まった。
エレナは再び瞼を開く、白銀色のまつげの奥に闇を宿した真っ黒な瞳には凛とした輝
きが静かに満ちている。
アシュベルはその瞳を見て思い出す、エレナに初めて会った時の事を思い出す。
彼女の瞳はあの時も、夜の海のように静かに煌めいていた。
会った時から変わらない、純粋な彼女の想い。
「ありがとう、ここにいる事が許されるならわたしはここに残りたい。そのために
も」
エレナが言葉を噛みしめながら丁寧に言葉を紡ぐ。
「わたしがあなた達を必ず守る、この世界を悪意と混沌の闇から守り抜いてみせる」
彼女の決意は本物であり、命を懸けたものだ、それは彼女の全てから滲み出ている。
「皆がいる、エレナ君はもう一人じゃないんだ、これからの事をここにいる全員で考
えよう」
アシュベルの言葉にエレナは確かめる様に頷く。
皆がそれぞれ部屋を出て行き、エレナの部屋は静けさを取り戻した。
ぎゅうぎゅう詰めだった部屋を思い返し、くすりと笑う。
そして窓を開き冷たくも心地よい風が入ってくるのを、その白銀色の長い髪がなびく
ことで感じる。
ここから巻き返す。
この世界を混沌の闇になど滅ぼさせない、必ずこの手で滅して見せる。
エレナは決意も新たにセーデルの居る城の方を窓から見据える。
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