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第二章
第一話 三千年の記憶は道しるべ、同時にわたしはそれに囚われる
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一日を置いて。
厳戒態勢の中能力者たちの訓練は再開し、セーデルの攻撃もなく残り三日間の訓練を無事終了を迎えることができた。
末日、訓練就業のこの日は未来の優秀な魔法剣士をスカウトするため、その珍しい見目を手に入れるために、各地の領主が数多く集まっており、異様な熱気に満ちていた。
「この感じ・・・」
エレナは訓練が始まる時にも感じたが、この値踏みするような感じはいい気分では
ない。
それでも上級貴族にでも見初められれば好待遇での生活が望め、高みを目指せる立場となり生活は一変する。
能力者の中には貧しい地から来た者もおり、それを手に入れたいと望む者もいる。
女性教官が、集まった訓練生を前に声高に弁じる。
「皆さん、今日まで一人の脱落者なく厳しい訓練を耐え、頑張ったことをここにいる
教員一同誇りに思います。訓練は以上で解散となりますが、各地からあなた方を魔法
剣士として雇いたいと望む領主の方々がいらしているので、今後の事をしっかりと吟
味し決断してください。どこに仕えるかは、あなた方の自由です。」
自由、これは真実、地位が高かろうがどれだけ裕福だろうが、どこに仕えるかは能力者の自由。
だからこの後の惨劇が嫌なのだ、女性教官の顔がそう物語っている。
「では、あなた方の今後の健闘を祈ります、解散!」
訓練生たちが女性教官の言葉を最後まで聞こえたかは分からない。
何故ならそれを今か今かと待っていた領主たちが、いっせいに訓練生たちに大声を出
し、教官の最後の言葉をかき消すからだ。
予想はしていたがその多くは先駆けてエレナに近づいて行く、中には奇声を発しなが
ら必死になり転ぶものまでいる始末だ。
「エレナ殿、是非わが領主様の側近としてお迎えしたい!」
「エレナさん、我が領地でその剣技いかしてください!」
「エレナ僕と結婚・・・いや契約してくれっ!!」
乱雑としたその様相と、その中に勘違いした者が混じっている事に、アロが辟易とし
た眼差しを水色の瞳に押し殺して向けている。
勿論アシュベルやアロの時にも似たような騒動が起こったが、彼らはにはそれなりの地位と後ろ盾があったためそれほど強引に話を進めてくる者はいなかった。
だがエレナは遠い辺境の娘で付け入る隙が多い、金さえ積めばどうとでもなると思っている輩が私利私欲のままに声を上げる。
「口を閉じろ」
思わず隣に立っているシャルルが飛び出そうとするが、傍にいたアロにそれはあっさり止められた。
アロも当然この有様に苦言を呈したいところだが、ここから先はエレナが決める事。
あの白銀色のまつげの奥にある黒い瞳、一度それを見てしまった者はその甘やかな呪縛から逃れられない、アロはそう思う。
不本意ながら自分にもそれは多大な影響を与えていると今は認めざるを得ない、あの黒い瞳には磨き抜かれた黒曜石にも似たガラスのような儚さと、それとは別に、対照的な揺るぎない意思が混在しているように思う。
けれどもあくまでアシュベル様がアロにとっての一番優先すべき主であることに変わりはない。
カリーナがエレナに駆け寄る。
「わぁ、エレナ、すごい殺到してるね、どうするの?」
この展開を想定していなかったエレナは当惑しながら答える。
「特に考えてなかったのだけど、カリーナは?」
「色々お誘いはあったけど、あたしは実家で花嫁修業かなぁ、でもエレナが呼んだらすぐに飛んで行くよ!呼ばなくても押しかけちゃうけどね、」
カリーナがおどけてバチンとウインクをする。
色々誘いがあった・・・エレナはそのことを初めて知る。
勧誘には特に決まりがなく公には訓練終了後に行うとされているが、気に入った者がいれば訓練の途中でも雇
いたいという意思表示は禁止されていない。
その為優秀な能力者ほど訓練開始直後から勧誘が始まり、ほとんどの訓練生が終了後を待たずに雇い主が決まっている。
エレナには訓練が始まった時から熱烈な誘いがあった。
まだ未熟なわたしに声をかけてもらえて嬉しいがその後の自分自身の成長に不安が残る。
しかもその誘いは彼女の知ることなくそっけなく断りの返事が返ってくるばかりだった。
勧誘は訓練の合間等に行われるが、その間エレナが一人でいる事はほぼない。彼女の
傍にはいつもアシュベルがおり、剣技と魔法についての知識に貪欲なエレナは常にア
シュベルから多くの事を学ぶことに忙しい。
声をかける暇などないのだ、彼女の友人でなければ。
だから多くの領主がこの時を待ちわびていた、この時を逃すまいと。
我先にと好条件を提示してくる領主たちを見て不意に悟る。
――――― それが自分の人生とは無縁のものだと
カリーナ達のいる世界とは自分を切り離さねばならない、そう考えると自身と彼らの
間に見えない境界線が立ちはだかり、彼らの世界から自分は異質な存在であるという
倒錯に陥る。
自分と彼らのいる場所の色すらも違って見える、それは足元が揺らぐようで現生の皆
とのつながりが遠く、遥かなるものに感じる。ゆるやかに繋がったように思えた彼ら
との糸が綻んでいくように感じる。
ちくり、とエレナの胸に痛みが走る。
わたしには宿命がある、三千年に及ぶ記憶と共に。
ここまでくれば彼女の選択肢はおのずと決まっているのが分かる、天から与えられた
宿命をつつがなく果たする事が自分が生まれた理由そのもの。
これまで世界は滅亡の危機に直面することなく無事今日に至っている訳だ、それはエ
レナが転生を繰り返しながらそれを食い止める事が出来たという証。
それを現生でも必ず成し遂げなければならない。
残念ながら現生ではこの三千年の記憶が断片的にしか思い出せていない、それでも混
沌の闇をこの世界から滅する、今はそこに焦点をおくことが最良の選択であり唯一の
選択だ。
厳戒態勢の中能力者たちの訓練は再開し、セーデルの攻撃もなく残り三日間の訓練を無事終了を迎えることができた。
末日、訓練就業のこの日は未来の優秀な魔法剣士をスカウトするため、その珍しい見目を手に入れるために、各地の領主が数多く集まっており、異様な熱気に満ちていた。
「この感じ・・・」
エレナは訓練が始まる時にも感じたが、この値踏みするような感じはいい気分では
ない。
それでも上級貴族にでも見初められれば好待遇での生活が望め、高みを目指せる立場となり生活は一変する。
能力者の中には貧しい地から来た者もおり、それを手に入れたいと望む者もいる。
女性教官が、集まった訓練生を前に声高に弁じる。
「皆さん、今日まで一人の脱落者なく厳しい訓練を耐え、頑張ったことをここにいる
教員一同誇りに思います。訓練は以上で解散となりますが、各地からあなた方を魔法
剣士として雇いたいと望む領主の方々がいらしているので、今後の事をしっかりと吟
味し決断してください。どこに仕えるかは、あなた方の自由です。」
自由、これは真実、地位が高かろうがどれだけ裕福だろうが、どこに仕えるかは能力者の自由。
だからこの後の惨劇が嫌なのだ、女性教官の顔がそう物語っている。
「では、あなた方の今後の健闘を祈ります、解散!」
訓練生たちが女性教官の言葉を最後まで聞こえたかは分からない。
何故ならそれを今か今かと待っていた領主たちが、いっせいに訓練生たちに大声を出
し、教官の最後の言葉をかき消すからだ。
予想はしていたがその多くは先駆けてエレナに近づいて行く、中には奇声を発しなが
ら必死になり転ぶものまでいる始末だ。
「エレナ殿、是非わが領主様の側近としてお迎えしたい!」
「エレナさん、我が領地でその剣技いかしてください!」
「エレナ僕と結婚・・・いや契約してくれっ!!」
乱雑としたその様相と、その中に勘違いした者が混じっている事に、アロが辟易とし
た眼差しを水色の瞳に押し殺して向けている。
勿論アシュベルやアロの時にも似たような騒動が起こったが、彼らはにはそれなりの地位と後ろ盾があったためそれほど強引に話を進めてくる者はいなかった。
だがエレナは遠い辺境の娘で付け入る隙が多い、金さえ積めばどうとでもなると思っている輩が私利私欲のままに声を上げる。
「口を閉じろ」
思わず隣に立っているシャルルが飛び出そうとするが、傍にいたアロにそれはあっさり止められた。
アロも当然この有様に苦言を呈したいところだが、ここから先はエレナが決める事。
あの白銀色のまつげの奥にある黒い瞳、一度それを見てしまった者はその甘やかな呪縛から逃れられない、アロはそう思う。
不本意ながら自分にもそれは多大な影響を与えていると今は認めざるを得ない、あの黒い瞳には磨き抜かれた黒曜石にも似たガラスのような儚さと、それとは別に、対照的な揺るぎない意思が混在しているように思う。
けれどもあくまでアシュベル様がアロにとっての一番優先すべき主であることに変わりはない。
カリーナがエレナに駆け寄る。
「わぁ、エレナ、すごい殺到してるね、どうするの?」
この展開を想定していなかったエレナは当惑しながら答える。
「特に考えてなかったのだけど、カリーナは?」
「色々お誘いはあったけど、あたしは実家で花嫁修業かなぁ、でもエレナが呼んだらすぐに飛んで行くよ!呼ばなくても押しかけちゃうけどね、」
カリーナがおどけてバチンとウインクをする。
色々誘いがあった・・・エレナはそのことを初めて知る。
勧誘には特に決まりがなく公には訓練終了後に行うとされているが、気に入った者がいれば訓練の途中でも雇
いたいという意思表示は禁止されていない。
その為優秀な能力者ほど訓練開始直後から勧誘が始まり、ほとんどの訓練生が終了後を待たずに雇い主が決まっている。
エレナには訓練が始まった時から熱烈な誘いがあった。
まだ未熟なわたしに声をかけてもらえて嬉しいがその後の自分自身の成長に不安が残る。
しかもその誘いは彼女の知ることなくそっけなく断りの返事が返ってくるばかりだった。
勧誘は訓練の合間等に行われるが、その間エレナが一人でいる事はほぼない。彼女の
傍にはいつもアシュベルがおり、剣技と魔法についての知識に貪欲なエレナは常にア
シュベルから多くの事を学ぶことに忙しい。
声をかける暇などないのだ、彼女の友人でなければ。
だから多くの領主がこの時を待ちわびていた、この時を逃すまいと。
我先にと好条件を提示してくる領主たちを見て不意に悟る。
――――― それが自分の人生とは無縁のものだと
カリーナ達のいる世界とは自分を切り離さねばならない、そう考えると自身と彼らの
間に見えない境界線が立ちはだかり、彼らの世界から自分は異質な存在であるという
倒錯に陥る。
自分と彼らのいる場所の色すらも違って見える、それは足元が揺らぐようで現生の皆
とのつながりが遠く、遥かなるものに感じる。ゆるやかに繋がったように思えた彼ら
との糸が綻んでいくように感じる。
ちくり、とエレナの胸に痛みが走る。
わたしには宿命がある、三千年に及ぶ記憶と共に。
ここまでくれば彼女の選択肢はおのずと決まっているのが分かる、天から与えられた
宿命をつつがなく果たする事が自分が生まれた理由そのもの。
これまで世界は滅亡の危機に直面することなく無事今日に至っている訳だ、それはエ
レナが転生を繰り返しながらそれを食い止める事が出来たという証。
それを現生でも必ず成し遂げなければならない。
残念ながら現生ではこの三千年の記憶が断片的にしか思い出せていない、それでも混
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