深淵のエレナ

水澄りりか

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第二章

第二十四話 死神は闇へと沈む

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盗賊を相手にした時とはまるで違う、レンはアシュベルには劣るものの非常に卓越した剣技を身につけている、第二近衛隊隊長となったのはセーデルの根回しのおかげではあるが、彼はその地位にふさわしい力の持ち主であることは誰もが認めるところだ。

だが所詮混沌の闇を使っているなら、エレナには効かないはず。
それなのにこうも自信ありげなのがひっかかる。

その時、彼の影が持つ剣が彼女の頬をかすめ咄嗟にかわす。光の結界が効かない!?
しかもあろうことか避けたはずのその剣が、グニャリと曲がってエレナの喉元を貫こうと迫ってくる。エレナは素早くその剣を自身の剣で払いのける。
「くっ、重い・・・」
光の結界が全く効いてない!?
結界が効かない以上、この戦いはエレナにとって少々手間取ることになりそうだ。

「その結界があれば、俺の攻撃なんか食らわないとでも思った?意外と浅はかだなーエレナちゃんは。この影は先程見せた通り俺の血を糧に動いている、いわば俺自身なんだよ。君の結界は聞かないよ」
レンがしゃべっている間にも、影の軍団は容赦なくエレナに剣をむける、そしてその剣は自由自在に曲がったり伸びたりして、彼女を翻弄していた。
「――――――っ!」
これではまるでリンチだ、避けても避けても影の剣が追ってくる。
かわし切れない、彼を模した影らはまるで死神のカマのように追いかけ逃げ場を無くし、無数のそれは容赦なく彼女を狩り取ろうとしてくる。
気付けばエレナのあちこちに傷が出来、血が流れている。

「どう、俺の影は優秀でしょ」

したり顔で戦闘に加わらない彼の行動に、違和感を感じる。

「闇の薔薇よ、その力をもって敵を封じろ!!」
彼女の叫びに応じ、空を切って鋳薔薇のツルは絡まり合いながら本体であるレンの足元を捉える。
「棘よ、その者の心を闇へ引きずり込め!」
黒い薔薇の棘は、彼女の言葉通り、彼を貫きエレナの内の闇と結合する。
「ぐあっ!!やめろ俺の内を覗くな!」
あまり使いたく魔法の具現化、ともすれば相手の強力な闇にこちらが引きずり込められてしまう可能性がある。だが勝算はあったようだ、流れてくるレンの感情、この影にも弱みがある!

この影の全ては血の契約で本人のレンと繋がっている、そのうえ混沌の闇がいしずえとなり、その契約は強固になっている一方、副作用も相当大きい。本人が思っている以上に。
つまり影というのは操り人形以上のものとなり、彼本人と全てが繋がっているどころか、影が彼自身といっても過言ではない。
「なるほど、やはり混沌の闇とかかわるべきではなかったようだな」
エレナは頬から流れる血を、グイと手の甲でぬぐい取ると、黒く鋭い瞳でレンを捉える。

ならば。
彼女の意思が伝わったのか、レンの表情が恐れに変わる。
「!!」

エレナは無詠唱で、複数の影を黒の鋳薔薇で縛り上げる。そして瞬時に現し身である影の一人のその足に思い切り剣を付きさす。剣は太ももを貫通した、それを刺したままエレナは傷口を広げるように剣をねじり引き抜く。
思った通りだ、この影は全て彼自身。

視界の隅で本体であるレンの足がえぐられ血があふれ出ており、その表情は苦痛にもだえている。
「くそう、くそう、まだだ、まだお前を殺れる!お前に地獄をみせてやるっ!!」
「そう、楽しみね」

影から攻撃される際、剣が歪み形を変えるのは、エレナにとってかなり不利な状況であることは言うまでもない、彼女の戦いは相手の動きを読みその身軽さを生かし相手の急所をとること。
だがこの戦いではそれが通要しない。
繰り出される読み切れない影からの攻撃を、すんでのところでかわすことが精いっぱい。
だが、それに怯むことなく、魔法の具現化を駆使し対抗する。

――――――ハァハァ
息が荒くなっていく。
無数の敵を相手をかわしながら反撃を試みる。だがそれとともに体力の消耗も激しい。

使ううちに無詠唱で使う事も慣れてきて、咄嗟の状況で思うだけで魔法を具現化できるようになってきた。
黒の鋳薔薇を複数の影の腕に絡みつかせる、それでもその手に持つ剣を歪めてエレナを攻撃してくる。
本体であるレンを縛り上げたいが、影が邪魔をして思うように闇魔法を発動できない。
それでも隙を見て影への攻撃を止めず、抗い続けた。
なかなか致命傷には至らない、すんでのところで邪魔が入る。

「口ほどにもない、そろそろ腕も足も切り落としてあげましょう」
ざわ・・・。
エレナの心にさざ波が立つ、逃げ回ってばかりでは駄目だ、殺すつもりでやらなければ殺られる。
進化、そう呼ぶべきか分からないが、彼女の気持ちに応えるように闇のマナが脈打つのを感じた。
「黒き薔薇よ、その花びらを舞い散らせ!」
彼女が叫ぶと同時に天から黒い薔薇の花びらが無数に舞い降りてくる。

レンのまわりで現身である影が次々と切られていくのを、その身で感じる。

あの花びらの向こうで何が起こっているのかわからないが、エレナが影を次々と切りつけていくのを、自身の体に刻まれてゆく剣による傷により取り返したの着かない事態だと悟っていく。
「ぐぁ・・・はっ」
腹に手をやると手のひらが真っ赤に染まる、そして口からは血が流れ落ちていく。

花びらは目くらまし、影すらもその視覚を奪われ、気付いた時には背後にまわられている。
この魔法の具現化は、それを呼び出したは魔法剣士には効力がない、ただ舞い散る花びらの残影が透明のまま降り注ぎ、エレナの視界を邪魔することは無い。

全ての花びらが舞い落ちた時、全ての影が倒れていた。

レンはひざまずき剣を地面に突き立て立ち上がろうとする、出血がとまらず彼の周りは血で染まっていた。
「さい・・ごに土産を、置いてってやる・・よ」
そう言ってレンは地面に広がる血に、バシャッと手をつくと呪いの呪文を吐いた。
「俺はただの足止め・・・たのしかったよ、」
彼がなにを言いたかったのかよくわからず、倒れていくレンを見つめる。
―――――――刹那

彼女の視界が暗くなり、背後に何者かの気配を感じた。
レンとの戦いは終わったのだと安堵していたエレナはそれに気づくのが遅すぎた、振り返った彼女が見たものは無情にも自分自身に振り下ろされる剣。
反応するには遅すぎた。

キイィィィンッ

振り返ると、そこにいるはずのないアシュベルがレンの現身である影の剣を受け止めていた。
彼は、そのまま大剣でその影を引き裂いた。
「ア・・シュ?」

レンは最後に彼女の背後に魔防円陣を造り出し、エレナを殺そうとしていたのだ。
「クソッ・・アシュベルか、最後まで邪魔しやがっ・・て」
その言葉を最後にレンは自らの血だまりの中で息絶えた。
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