深淵のエレナ

水澄りりか

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第二章

第三十七話 戦争の終結と旅立ちのはじまり

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「強行だが明日俺とエレナは早朝トワイス国へ旅立つ、」

「いいのですか、アルガノット国とは和平の道を開くことが出来ましたが、グラディス国周辺でもかなり大規模な戦争が勃発しています、それが今はグラディス国へ向けられていないとしても、いずれ標的にされるのは明白でしょう」

アロが難しい顔をしてアシュベルを見る、さすがに長期隊長を失って隊を率いるのは難しい。

「いや、アロとシャルル、リュカ、カリーナにも来てもらう、近衛隊の配置は先日確認した通りその陣形を崩さなければ、そうそう他の国はこのグラディス国へ侵入することは無理だからな」

アシュベルは涼しい顔でアロとシャルルを見る。

「トワイスへの同行了解しました、しかし最近の星はあまりに騒がしく移ろいやすい、わたしの星読みではかなりの危険が待っているようです、まぁ、世界大戦も始まってますしね」
「よかったー、あたし置いてかれるかと思ってひやひやしました」
リュカとカリーナが思い思いの言葉を口にする。

このグラディス国はアルガノット以外、深い渓谷で他国との距離をとっている。アシュベルの自信は渓流の要所要所に水の魔法剣士を配属させている点だ。水魔法を使えるものが絶えず川に渦を作り、容易に渡ってこれないようにしてある。もし命知らずの猛者がそれを無視して侵入しようとしたとしても、水魔法使いの後ろには弓使いが常に控えており、状況的に上陸は不可能、ということになる。

もし海から攻められても、風魔法使いが待機しておりやはりここでも上陸は不可能だろう。
火や闇使いは、万が一敵が上陸した場合、即座に対応できるよう近くで控えている。

防戦一方ではあるが、アシュベルが幾ばくかグラディス国を離れても、その間くらいは敵の侵入を防ぐこととは出来る。

これにはさすがのアロも舌をまく、これ以上の配置は考えられない程に完璧だ。
しかし指揮官がいなければ話にならない、アロが口を開こうとした時。

「第二近衛隊隊長は死んだ、反逆罪だ、だが第三近衛隊隊長が俺の居ない間の指揮を引き受けてくれたよ」
なるほど、話はすでについているようですね。
第三近衛隊隊長といえば、歳頃40近くこの手の指揮には慣れているだろう、部下からの信頼も厚い。なによりあのアシュベルの事だから、全指揮をとってもらう隊長には、恐らく何かがおこった時の為のマニュアルをわたしているはずだ。

「では、アシュベルさまがそこまでおぜん立てしてくださったからには、副隊長であるこのアロが必ず道中お役に立てるよう誠意をもって任務にあたりましょう」
そのアロの言葉に嬉しくもあるが、相変わらず堅苦しさはぬけないのだと最近は半ばあきらめている。
「わたしもエレナ様とアシュベル様のお役に立てるようがんばりますっ!!」
連れて行ってもらえると知ってシャルルは少々高揚しているよだ、無理もない、憧れのアシュベルに認められ同行させてもらう許可ができたのだから。

しかしアシュベルは本当に男性にもてる、なにかエレナの中でもやもやするが、それがなにかわからない。

あのリュカですら、最初は毛嫌いしていたのに、今ではアシュベルのいう事に反論などしない。
火と水、だからこその多少の衝突はあれど、日に日にアシュベルへの尊敬が深まっていくように見える。

あの輪の中にわたしも入りたい、エレナは遠巻きに彼らを見て軽く嫉妬を覚える。


      ※※※※※※※     ※※※※※※※    ※※※※※※※


早朝、エレナは日が昇る前から起きて、旅の準備をしていた。
トワイス国はグラディス国はと隣接しておらず、他の国を通って行くしか道がない、その周辺の国もやはり大戦に巻き込まれ道中は必ずしも安全と言えないだろう。
トワイスへは早くいきたいが、遠回りになるのは必至なので長旅に備え身支度をしていた、がなにやら隣の部屋が騒がしい、隣の部屋はアシュベルの寝室、まさかここに何者かが侵入したとは考えにくいが、王と王妃暗殺事件があったのだから、油断はできない。

エレナは武装すると、部屋を出てアシュベルの扉の前まで足音を立てずに忍び寄った。
言い争っている?・・・とも違うような雰囲気だ。
だが中には二人の男性がいて一人はアシュベル、もう一人は・・・この声聞いたことがある!
まさか。

「カミュ殿下!?」
「おー!これはエレナ様ではありませんか!」

思わずエレナはノックもなくアシュベルの部屋へ飛び込んでいった。

そら早速見つかったぞと言わんばかりにアシュベルが頭を抱える。

しかしなぜカミュ殿下がグラディス国にいらっしゃるのか、皆目見当がつかない。殿下のお立場なら和平交渉のためかララ王女殿下との会談・・・は恐らくセーデルが止めるから無理だとして、または??思いつかない。そもそも和平を締結すると約束したとはいえ第一王子が供も連れずに他国にいるなどど、常識的にも考えられない。戦争が終わり、彼には国を立て直すという大役があるはずだ、しかも第一王子ともなればその責任は重大、他国に来ている暇などない。

「カミュ殿下、ご好意は嬉しいですけどね、こちらは問題が山済みなのですよ」

エレナの光のマナを知る彼ならばわかるっているはずだ。
これからやらなければならない大仕事が待ち受けていることを。


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