深淵のエレナ

水澄りりか

文字の大きさ
87 / 92
第三章

第十六話 女王の冠はあるべき戴へと導かれる

しおりを挟む
「わたしは王族であり、あなたの姉であるエル・ローサだと公にするわ、そしてセーデルの悪事とおじい様、クアドラの栄誉をたたえ国民に知ってほしい、でも」

エレナは立ち上がり、ララに近寄る。

「一月後の戴冠式にはララ、あなたがこの国の女王になるのよ」
「・・・どうしてっ」
「わたしは戦士、そうおじい様に育てられてきた、その本質は今更変えようがないし、もしかしたらこれは本当のわたしの本質なのかもしれない、その点ララ、あなたはセーデルのもとにいながらにして魂を失わなかった、精神力がとてもつよい、いいつくせないほどに。わたしには悪癖があるようなの、周りからよく無謀だと言われるわ、後先を考えず行動するってね、だからもしもわたしとあなたが逆の立場なら、わたしは幼くしてセーデルに殺されていたと考えられる、だってわたしは待てないもの、自由になる前に飛び出して行ってしまう、」

ララは少しばかり消沈しているように見えた、でもどこかでそんな答えが返ってくる気がしていた。
それでも敬愛する姉に女王になってほしかった、その気持ちに偽りはない。

「お姉さま、わたし、女王になってこの国を率いる事が出来るでしょうか」

「ええ、保証するわ、あなたはあのセーデルを操っていたほどの策士なのよ、これからの国にそれはとても重要になってくるわ、あなたは自分が思っているよりも賢く聡明、そして素晴らしい度胸がある、だからわたしはあなたを支える立場になる、それが最良だと思うから・・・そうね、今世界は混乱している、だからこそ国と国の絆が必要だわ、わたしは王族であり、国賓級の使者になりうる」

「え、では国を留守にするのですか・・・」

寂しそうなララの顔にエレナはそっと顔を近づける。

「大丈夫よ、わたしの国はこのグラディス国、そしてわたしには唯一無二の家族がここにいる、わたしが帰る場所はここだけ、ララあなたのもとに必ず帰ってくる、」

ララは思う。この姉であるエレナにはこの国は小さすぎるのだと、彼女はもっと広い世界を見て知るべきことが沢山あり、それはエレナにとっても世界にとってお有益な事なんだと。

「そう・・そうね、わたしもお姉さまがお帰りになるまで女王になるのは自分しかいないと思っており、覚悟しておりました。ただひたすらに孤独で怖かった、この国の女王になり一人孤独になることが・・・でも今はエルお姉さまがいる、わたくしにはお姉さまの存在がいるというだけでどれだけ気持ちが楽になるか・・・。お姉さま、わたしは決めました、あなたの進言に従い女王になりましょう、」


「そう言ってくれてありがとう、あなたが私の妹で次期女王であることが誇らしいと」

エレナはララは互いの手を合わせる、そして二人の誓いを口にする。

「わたしはあなたの、あなたはわたしの心の様るべとなる、それは未来永劫変わらないことを誓うわ」

ふたりは笑いあった、時間を超えても家族であることは変わっておらず、そこに安らぎを見出す、王族という人によっては願ってもない位を、どれほど大変で閉塞的な権威であるかを知るものにとってはそれを受け継ぐにはそれ相応の覚悟がいる、しかも一度なってしまえば戻ることも覆すこともできない大きな責任となってのしかかってくる。
だが、人には役割というもんがある、エレナは逃げたわけでも押し付けたわけでもなく、その立場にふさわしくないと自分なりに判断した。

その分ララ王女の負担を共に背負う覚悟はできている。

「わたしたち、少しもハーブ茶に口をつけてないわ」

くすくすとララ王女は笑う、つられてエレナも笑顔になる。

「冷たくなってしまったけど、いただくわ、お菓子も・・うん、とても美味しい!ね、少しだけ公務を離れておしゃべりをしない?」

「ええ!賛成、わたくし聞いてみたかったことがあるの、あの殿方の中のどなたがお姉さまにとって好みなのか」

ララはこの手の話が好きなようで目がらんらんとしており、答えるまでは逃がしてくれそうもない。別に隠すつもりもないが、今まで戦いに宿命に身を置いており、そういう意識を持って異性を見たことがなかった。

「好み、そ・・ね・ララはいるの?」

「え、わたくし・・アロは顔が好みよ、ベネットがとても冷酷で嫌味だっていってたけど、ベネットは違う意味でお姉さま一筋ね、話し出すときりがないの、でもアシュベル様もリュカもとても有能でそれでいてとても女性から人気があるのよ、侍女たちがもう騒ぎ出しちゃって、わたくしが注意するの」

ベネット・・・鬼の居ぬ間になんてことを、くすりとエレナは笑う。
いつも一緒にいるからか、彼らの剣技や魔法、そして精神力など戦士としての一面にしか向けてこなかった目線を異性という立場に移すのは難しい、そしてそれほど彼らが(アシュベルは別として)城で噂になるほど人気があることも知らなかった。

「恋愛、できるのね、この現世では。結婚もいずれするのね・・・なんだかとても不思議な気分」

「ええ、だから愛する人ができたら必ず最初にわたくしに教えて下さらないとだめよ、まぁ、カリーナだったら許すけど、城にいる間は一番はわたくしよっ」

たわいもない話、だが最重要案件が決まったのだ。
ララ王女が国を継ぎ女王となる。

そしてこの後、セーデルの王、王妃殺しが公にされ、クアドラの命をかけ王族を護ろうとした行いは民衆にたたえられた。
すでに死んでいるセーデルだが、やはり事件がうやむやでは心にしこりがのこる。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません

しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」 ――それは私を縛る呪いの言葉だった。 家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。 痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。 でも、、そんな私、私じゃない!! ―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、私は、私に告げるだろう。 「私の人生に、おかえりなさい。」

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...