異世界転生録~アヴェンジャー~

八雲 全一

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夜半に目が覚めた。エクスもアンジェリカも寝ていた。ふと窓を見てみる。そこには……死んだはずの茜の姿があった。窓辺に腰かけて俺を見つめている。
一体何が起きているんだ?茜は確かに黒仮面の男に殺されたはずだ。なのに何故ここに居る?
俺の脳では理解が追いつかなかった。ベッドに横たわったまま呆然としていると茜が口を開いた。
「兄さん。いつまでも私の仇を追いかけないで。このイスワルドで新しい人生を生きて生き抜いて頂戴。」
俺も口を開く。
「お前は本当に茜なのか?茜はもう死んだはずだ。もしかして黒仮面の男の精神攻撃か?俺は流されないぞ。必ず茜の仇を討つ。」
「私は…そうね。兄さんの中に残された来栖茜という情報の生命体よ。兄さんだけにしか見えない生命体。本当は現世に出てこない決まりになっているんだけど、兄さんが哀れで仕方がないから出てきたの。」
「お前は茜の残り香と言うわけだな。…それでも変わり無いさ。俺はお前の仇を討つ。新しい人生を歩むのはそれからだ。お前が望まなくてもそうする。俺がもう決めたことだからだ。決意は変わらない。茜、お前が生命体として俺を見守ると言うなら俺の勝利を信じて待っていてくれ。」
「あーあ。やっぱり兄さんの覚悟は変わらないか…私は確かに暗黒教団の贄に捧げられたけれど、こうやって魂は自由に成っているのよ。以前よりも肉の檻を捨てたから調子が良いくらいよ。そう言っても聞かないんでしょうね。所詮兄さん自身がやりたいことですもの。」
「そうだ。俺は必ず復讐を果たす。茜…名残惜しいが、君のような霊体が生者と関わってはいけない。安らかに眠ってくれ。いつか俺が宿業を果たし安らぎに包まれるまで。」
「分かったわ。口が聞けたのは今日が特別よ。二度と口を聞けないと思って頂戴。兄さん。さようなら。貴方達の復讐の旅路を見守っているわ。」
そう言うと風に吹かれてサラサラと砂のように茜の姿は消えた。はっきりいってもう一度会えて良かった。
復讐を絶対すると言うことよりも伝えるべき事が沢山あった気がする。
俺は静かに涙した。茜…待っていてくれ俺の妹よ。必ずお前の仇は討つ。そして新しい旅路を歩む。
…俺はそのままぼうっとしていたが気づいたら眠りについていた。
…目覚める朝だ。

私は目覚めた。紫音も目覚めているようだ。アンジェリカはまだ眠っている。
うーん。良い朝ね。
私は用意されていた朝食を食べた。山籠りでサヴァ缶詰ばかり食べていたので久し振りの手作りの味に感動していた。
美味しい。しかし私は大食らいではないのでお代わりはしない。
紫音はぼうっとしている。まるで魂が抜けてしまっているようだ。
「紫音!お早う。しっかりしなさい。もう朝食が来ているわよ。」
……リアクションが遅い。紫音はチラリとこちらを見ると一呼吸おいて口を開いた。
「お早う。エクス。昨日妙な夢を見てね…それからぼうっとしてしまうんだ。大丈夫。その内治ると思う。」
「ふーん。妙な夢ね。どんな夢だったのかしら?教えてくれない?」
「いや…語るほどの物ではないよ。懐かしい夢だった。それだけさ。さあ俺も朝食を食べよう。サヴァ缶詰以外の食事は久し振りだな。頂きます。」
流されてしまった。まあ言いたくないのなら無理に聞き出す事も無いわね。
さて今日はどうしましょうか…確か良い男祭りが開催予定なのよね。それに参加する手続きを取って、町を散策してみる…そんな所かしら。良い男祭りの賞金が幾らか非常に気になるわね。
紫音は食事を食べ終えたようだ。
アンジェリカはまだ寝ている。このままでは町に繰り出せないのでアンジェリカを起こすことにした。
頬を引っ張ってみる。ぐにぐにと柔らかい頬を動かす。寝苦しそうな顔をするアンジェリカ。起きるかしら?

むーんむーん。まだ眠りたいよお。苦しい…ほっぺが取れちゃうよ。ん?もう朝なのか…いてててて…誰だ?ボクの安眠を邪魔する奴は?目を開く。エクスだ。容赦なくボクの頬を蹂躙していた。
「はいはーい!もう起きた!起きたからその手をストップ!エクス!お早うございます!紫音も起きているんだね。お早う!」
エクスは少しも無表情を崩さずに頬を弄る手を止めた。
「お早う。アンジェリカ。少し寝過ぎよ。朝食を食べたらセルセタの町に出掛けるわよ。」
「はーい。分かったよ。手作りの朝食かイカす宿屋だね。場所によってはサヴァ缶詰みたいな保存食を出されるもの。頂きます!」
ボクはモグモグと朝食を食べた。中々美味しい。ソーセージとパンと目玉焼きだけなのだが結構旨いもんだ。
食べ終えると寝巻きから洋服に着替えてその上から鎧を装着した。これでボクは出かける準備ができた。紫音とエクスも着替え終えたようだ。知れた仲とは言え男女なので着替える時はパーティションを降ろしている。
エクスはパーティションを片付けるとボクに声を掛けてきた。
「もう町に出る用意は出来たわね?アンジェリカ。紫音はもう大丈夫みたい。」
「おうともさ!何時でも町に出掛けられるよ。エクスは大丈夫なの?」
「言い出しっぺだしね。勿論よ。それでは町に出掛けましょう。」

エクスの掛け声で俺達は町へ出掛ける事になった。
もう既に回った場所が多い。初日に寺院をしらみ潰しに回ったお陰だ。
現在の目標は良い男祭りの参加する場所だ。
色々歩き回った。二時間は経っただろうか。
アンジェリカが口を開く。
「あーん。見つからないよ!何処にあるんだ?良い男祭りの参加場所。エクス!何処か検討着けてたんじゃ無いのかい?」
「いいえ。ごめんなさい。ここまで探すのが難しいとは思わなかったわ。自力で探すのは諦めて知っている人を当たってみましょう。」
俺も口を挟む。
「それもそうだな。誰にしようか?今は町の広場…ここで探すのが理にかなってる気がするな。」
「そうだね。ボクもそう思うよ。紫音。あの青い鎧の騎士なんてどうだろうか?」
アンジェリカが指差す先には全身を高そうな青い鎧で固めた騎士の姿があった。
「そうだな。俺が聞いてみるよ。ちょっと行ってみる。」
「行ってらっしゃい。紫音」とエクス。
俺は十メートル程先にいる騎士を目指して歩いていった。騎士の前で止まる。そして話し掛けた。
「やあ。騎士様。良い男祭りって知ってるか?この町で開かれる格闘大会らしいんだが…具体的に何処で受付をやっているか知っているかな?是非教えて欲しいんだが。」
青い騎士は兜ごしに恐らくこちらを凝視すると口を開いた。
「君も旅の剣士か?…同じ境遇のもの同士助け合わなくちゃ行けないな。良い男祭りなら道具屋のカウンターで受け付けているよ。そこにいけば祭りに参加できるし、条件等も教えてもらえるよ。」
「ありがたい。助けてもらって悪いな。騎士様。あんたも良い男祭りに参加するのか?」
「勿論さ。ここで金を稼いでおかないとまた別の町に行くのに金欠になるしね。君の表情、姿、立ち振舞いには他者と隔絶した物を感じる。相当な武芸の達人なんだろう。良い男祭りでは決勝で会おう。真の剣撃の極致をお見せしよう。それでは去らばだ。剣士よ。」
「ああ…じゃあな。あんたからもただならぬオーラが溢れ出てるのを感じる。決勝で会おう。騎士様。」
そう言葉を交わすと俺達は別れた。奴は間違いなく優勝候補だ。勝てるかどうか頭の中でシミュレーションしてみるが、敗北の予感で頭は埋め尽くされた。
クソ…上には上が居るってことか…こんな所であんな逸材に出会うなんてな。
後は闘ってみないと分からないか…
俺は歩いてエクスとアンジェリカの元に戻った。
「ねえねえ。紫音?どうだった?あの騎士からなんか情報は引き出せたかい?」
「ああ…道具屋のカウンターに行けば祭りに参加できるらしい。盲点だったな。俺は酒場かなんかだとずっと思っていたよ。そしてアイツは強敵だ。間違いなく決勝でぶつかるだろう。」
「高い鎧を着ているとは思ったけどそこまで強敵だとはね。ボクの見る目も衰えたかもしれないな。まあボクは参加できないし、紫音!君に任せたよ。」
「フフ…面白いじゃない。紫音。特訓の成果を見せるときよ。貴方が認める強敵ならば役に不足は無いわね。必ず勝ちなさい。まず最初に道具屋に向かいましょう。」
「分かったよ。エクス。君の言うとおり彼は越えるべき壁なんだろうな。ああ…死力を尽くす。黒仮面の男を葬るまで俺には敗北は許されない。」
俺がそう締め括ると俺達は広場から道具屋まで歩いて行った。十分程かかったと思う。
道具屋の暖簾をくぐるとカウンターに主人が着いていた。
「よう。ご主人。俺は良い男祭りに参加したいんだがどうすれば良いかな?」
「へっ。あんたもあの祭りに参加するのかい。あの祭りは何時もと次元が違う。良い男でも血祭りに上げられる祭りに変わっているんだぜ。それでも参加するのかい?」
…コショコショとアンジェリカとエクスが話している。
「このご主人大丈夫なのかな?エクス?ただの格闘大会なのに血祭りに上げる危険な祭りとか次元が違うとか言ってるけど…ボクにはとても正気には思えないよ。」
「うーん。そうね…そう断言するくらい危険な参加者が集まっているんじゃないかしら?まあ紫音なら大丈夫でしょう。多少は不安があるけれど私が鍛えた弟子だもの。十分優勝は狙えるわよ。」
というやり取りが小耳に挟んだが受け流す。
「ご主人…危険でも良いさ。どんとこいだ!良い男祭りに参加させてもらおう。俺の名前は紫音。参加費用とかはかかるのか?」
「ヒェーヒェッヒェ!生きの良いのが一匹増えたなあ!参加費用は千ゴールド!これで死んだやつの葬式を挙げるのさ!賞金は二万ゴールドだ。紫音とやらあんたの参加受け付けたぜ。明日良い男祭りは開催される。祭りはトーナメント形式で行われる闘いだ。決勝に勝ち上がるまで三回勝利しなきゃならないぜ。四回目の対決に勝つと優勝さ。さあ参加費用をよこしな。」
俺は財布から千ゴールド分の金貨を取り出すと道具屋のご主人に渡した。
「これでいいか?ご主人。」
「ああ…確かに受け取ったぜぇ。あんたが最後の参加者だ。主役が揃ったところで明日の朝一番から第一試合開始だ。精々今日は体を休めると良い。明日で一気に決勝戦までやるからな。ヒッヒッヒ。あんたがどうなるか楽しみで仕方がない。フヒ…じゃあな。」
そう言うとご主人はカウンターの奥に下がって行った。
「よし。参加準備は終わったし、町をまたぷらぷらするか?エクス…アンジェリカ?」
「いいえ…明日の激戦に備えて今日は宿屋で休んだ方が良いわ。明日は何度も死にかけるかもしれないもの。体の傷は鞘で防げても心が折れればそこで闘えなくなるわ。」
「そこはボクもエクスに賛成。あのおかしなご主人の言うとおり次元の違う参加者ばっかりだったら毎試合死にかけても可笑しくないね。本当に心が折れたらどうしようも無いもの。今日は宿屋に戻って休もう?」
「そう言われちゃ…仕方ないな。宿屋に戻って体を休めるとするか…」
青い騎士と言い他の参加者と言い強敵揃いか…腕試しには丁度良いと考えるのは嘗めすぎているのかもしれない。
彼女達の言うとおり宿屋で休むのが適切だろう。
俺達は道具屋を後にすると宿屋に戻ってその日は体を休める事にした。
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