異世界転生録~アヴェンジャー~

八雲 全一

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俺達は目抜通りの奥…裏路地にやって来た。濃厚で粘っこい血の匂いが残っている。ここにアンジェリカを置いていくのは気が引けるが、囮は誰かが勤めなくてはならない。
それに俺自身が決めたことでもある。俺はアンジェリカを囮にする。
「アンジェリカ…ここで待機していてくれるか?囮としてお前には働いてもらう。殺人鬼を誘き寄せられたら満点だ。そうでなくても怪しい奴を炙り出せればそれでいい。ただ死ぬなよ。俺達の旅はまだまだ続くんだ。ここで倒れる事は許されない。俺が囮に選んだのにこんな事を言ってすまないな。でもお前には死んで欲しく無いんだ。ゲーニアに帰るという目標もあるしな。」
「分かってるさ。紫音。ボクはこんな事で死ぬような奴ではないさ。見事犯人を捕まえて魅せよう。どんな犯人が来ても大丈夫。きっとボクの方が剣の腕は上だと思うよ。それに君の言う通りゲーニアに帰って父上と母上を助けないといけないしね。まあ囮は任せてくれよ。」
「アンジェリカ…気を抜かないことよ。奴は女を殺すだけじゃなくて見張りの衛兵も簡単に殺すような奴よ。貴女の腕前よりスキルが高いかどうかは分からないけれど危険な相手だわ。万全の注意を持って挑みなさい。まあ私達も近くで監視しているのだけれどね。」
「そうだね。エクス。気は抜かないさ。まあ流石に一撃で即死するような事は無いと思うんだけれどね。君達のバックアップには期待しているよ。さあそろそろ始めようか。」
そうアンジェリカが言うとエクスと俺は顔を見合わせて頷き、裏路地にある物陰に隠れた。ここで何時間も張り込むのかと思うと気が滅入ってくるが仕方ないだろう。
アンジェリカはその場に呆然と立っていた。あからさまに気を抜いているのは獲物を釣るためだ。連続殺人犯はこんな分かりやすい餌に食いつくのかどうかは賭けだった。
今は昼…早くても夕方…遅ければ深夜まで犯人は現れないだろう。
ただじっと待っている。俺もアンジェリカも…獲物が掛かるまでは身動きする事はできない。
………どれだけの時間がたっただろうか。辺りはもう真っ暗になった。エクスも待ち疲れてぐったりしている。アンジェリカは相変わらずぼぅっと立ったままだった。現在は夜の入り口と言った所だ。まだ犯人は現れない。

それから更に待った。深夜帯に差し掛かっている。アンジェリカは疲れを見せる様子は無い。一方俺とエクスは狭い物陰に隠れていたので疲労困憊だった。今日はもうやめようか…そう思った時…動きはあった。
アンジェリカは相変わらず呆然と立っている。そこに透明な何かがスルスルと近づいていった。
確かに俺には見えた。周囲と同じ色に同化しているが不自然に見える何かがアンジェリカにすり寄っていた。
俺は声を張り上げる。
「アンジェリカ!後ろだ!後ろから変な者がお前に近づいている。剣を抜け!殺されるぞ!」
俺の呼び掛けにハッとしたアンジェリカは急いで朧村正を抜いた。彼女も透明な何かを視認できたらしい。一瞬の隙を縫ってアンジェリカは三連突を畳み掛ける。
何かは火花を散らしながらアンジェリカの剣を防いだ。相当できる奴みたいだな。
何かの身に付けている武器だけは視認できる。それは短剣の二刀流だった。
一対一でもアンジェリカは負けないだろうが、俺も黙って指を咥えている訳にはいかない。卑怯とは言うなよ。殺人鬼!
俺はエクスカリバーを抜刀すると物陰から飛び出た。何かにはアンジェリカが正面から向き合って睨み合いになっている。俺は後ろに着いた形だ。
そのまま静かに剣を構える。そして渾身の無双一閃を繰り出した。これも頭の中で自然と思い付いた新技だ。三回の袈裟斬りを因果を無視して一閃で同時に繰り出す技だ。相手は防ぐ事すらままならないだろう。
何かの背後から三連の袈裟斬りは叩き込まれ、何かは崩れ落ちた。心臓を貫いた。最早立てまい…そう思っていたが俺の予想は外れた。
何かは透明になる装備を解除して立ち上がった。俺の一撃でステルス装備が駄目になったのだろう。そいつは黒いローブに身を纏った仮面の男だった。その姿にゾクリと来た。
こいつは黒仮面の男と繋がっている。暗黒教団へのミッシングリングだ。
「こいつは…何者なんだ?明らかに普通の人種じゃない。ボクはこんな奴見たこと無いよ。紫音の言う暗黒教団の手先なんだろうか?」
アンジェリカはそう言うと朧村正を構え直した。黒装束の男に気圧されているのだろう。
アンジェリカは黒装束の男に話し掛けた。
「お前は誰なんだ?仮面の男?何の目的で女の心臓を狩るんだ。」
「是非も無し。語るに及ばず。貴様らを血祭りに挙げるとしよう。加護発動…アイアンフェレスへの信仰を捧げる。加護よ!この身に来たれ!」
そう男が唱えると黒いヘドロの様な物が天から降り注ぎ男を覆った。そしてどす黒いオーラを纏った黒装束の男がそこには居た。
「それではいくぞ!前の賊から片付けるとしよう。暗黒五連殺陣!」
男は叫ぶ!その咆哮と共に自身の二刀流に加えた三本の霊気の刃を身に纏いアンジェリカに突貫した。
黒い剣閃が流れるようにアンジェリカを穿つ。
アンジェリカは回避の剣舞を舞うがかわしきれずに黒い暴風を受けてしまった。
胸を裂き、腹を穿ち、腕を断つ剣閃…彼女はその場に崩れ落ちた。
「くそっ。アンジェリカをやるくらいの腕前とはな。そんな奴がノースメリカンに居たなんて信じられないぜ。待ってろ。アンジェリカ。すぐにこいつを倒して回復してやるからな。行くぞ!」
エクスカリバーの中に憑依していたエクスが語りかけてくる。
「相手は邪神の加護を受けた暗殺者よ。一撃を貰う前に必殺の一撃で片をつけなさい。夢幻泡影の使用許可を出すわ。」
「了解!聖剣使いの本気を見せてやるぜ!」
背後の俺に振り替える黒装束の男…吐き出しそうになる重圧とどす黒いオーラが溢れ出ている…一撃でも貰っちゃまずい。ここは手数で勝負だ。
俺は正宗を抜いた。エクスカリバーと二刀流の様に運用する事になる。
「お前を狩れば終わりだな。少年。喜べアイアンフェレス様の元にお前を捧げよう。行くぞ!暗黒十刃!」
そう宣言すると男から無数の霊刃が伸び始めた。これを全部振り回す気か…とても防ぎきれないな。
俺は構えている男の視界から一瞬だけ消える事が出来る。それに全てを賭ける。そう縮地だ。
俺は目の前の男の裏を取るように縮地した。
男は動揺している。そして彼の裏から渾身の攻撃を放った。正宗の攻撃も織り混ぜていく。ただし正宗は神名解放出来ないので良く切れる刀位にしか扱えない。
袈裟斬り、切り上げ、直突、雷閃…と連続で技を叩き込んでいく。百続く技の奔流…これを夢幻泡影と呼ぶ。
黒装束の男の骨を絶ち内臓をぶちまけ肉をバターの様に切り裂いた。男は断末魔の悲鳴を上げる事すら許されない。
百手終わる頃にはズタボロの一人の男が居るだけだった。鞘の効能で死なないように回復しているので全身の苦痛で苦しむものの死ねないと言うひどい有り様になっていた。
黒装束の男の治療も程々にしてアンジェリカの元に向かう。
全身から血を流しながらぐったりとしているアンジェリカ。俺は最悪の事態を想わざるを得なかった。
エクスがエクスカリバーの中から出てきた。
「アンジェリカ!しっかりしなさい。こんな所で死ぬのは許されないわよ!紫音…鞘を貸しなさい!これで治る筈よ。一件落着ね。それにしてもアンジェリカに致命打を与えるなんてその仮面の男は余程の腕前ね。縮地は知らなかったみたいだけれど。」
アンジェリカはしばらくすると目を覚ました。
「皆…心配かけてゴメン。まさかあの仮面の男があそこまで強いとは思わなかったんだ。全力を尽くしたけどボクの負けだよ。でも紫音がボクの代わりに勝ってくれたんだろう?それならオーケー。ボクももっともっと強くならないとな。こんな所でやられてられないっての。」
「アンジェリカ…本当に良かったよ。死んだかと思ったじゃないか!心配かけるなよ。こっちの胃に穴がそのうち空いちまうよ。まあこいつには色々と聞きたいことがある。アンジェリカもそうだろう?早速聞いてみようぜ。口ぐらいは聞けるように回復してある。」
「遂に暗黒教団について分かるかもしれないわね。ここまでの旅でまったくかすりもしなかったんですもの。期待も膨らむと言うものだわ。あんまり拷問じみたことは好きでは無いけれど色々聞き出すためには必要かもしれないわね。紫音。まずは縄で手足を拘束しましょう。それから尋問します。」
俺はエクスに促されて黒装束の男の手足を縄で拘束した。これで逃げられないだろう。本当にこいつが暗黒教団の手下なのかどうかそして連続殺人事件の犯人なのかを聞き出さなくてはならない。中々骨が折れそうだ。
 
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