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三節 仕事の日々
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・ミノタウルス
今エリーと俺は様々な仕事をこなしながら日々を過ごしている。カルベコの街についてから一週間が経とうとしていた。
今日は日差しが強く燃え滾る太陽のマナが最高潮になる日だった。
酒場で依頼を受ける。恐らくは大量発生している魔物の討伐だろうと思っていたが当てが外れた。今日の討伐対象はミノタウルスだ。近くのヤヴォイス山に巣くう牛の頭を持った人間の化け物らしい。黒歴史の化物…人類種が繁栄をかつて極めたと言われる何万年も前の時代から生息が確認されている化物の事だ。付近を通りかかる人間を悉く殺して食べてしまうそうだ。
こいつは中々な手間になりそうだと思う。銃弾は効かないだろう。俺とエリーの魔術頼みの案件という事だ。まずは情報収集をする事に決めた。
街の外れにある一軒家の旦那をこの化け物に殺されてしまった奥さんに話を聞く。
年は三十代半ばほどだ。暗くやつれた顔をしている。まあ旦那が殺されたのなら仕方がないな。刺激をしないように話を聞かなくては。
「うちの亭主は畑仕事の帰りにヤヴォイス山を通りかかって、この牛野郎に殺されてしまったんだ。死体も綺麗じゃない!まるで大砲に吹き飛ばされてしまったような死体だったんだよ。絶対に許せない。あの牛の怪物め!」
「お悔やみを申し上げます。マダム。必ず俺達が牛の怪物を討伐しましょう。」
「心から深く慰霊の祈りを捧げさせてください。旦那様の御霊にイグドラシルの加護があらん事を」
「御兄さん方で大丈夫かしら?本当に危険な怪物だから油断をしてはだめよ。こんな若いお嬢さんなんて絶対に殺されてしまうわ。そうなったらどうしましょう。」
「大丈夫です。彼女はこう見えても魔術を使える魔法戦士なのです。それに俺がいる限りは彼女には手を出させませんよ。」
「彼に比べれば劣りますけど、私も立派な戦士です。きっと無事に闘いから帰ってきますから心配しないでください。奥様。」
「あんな怪物を人間がどうこう出来るとは思えないわ。本当に心配ね。」
「そういう魔物を倒すために俺達の様な戦士がいるんです。安心してください。」
動揺する奥さんをなだめると俺達は他の住人に話を聞きに行った。
討伐をするために大けがを負ってしまった猟師のセージだ。マサセック病院の病室で彼はゴホゴホと苦しそうにせき込んでいる。全身を複雑骨折する傷を負ってしまったらしい。粗末なつくりの彼の病室が哀れみを増幅させていた。
「やあ。セージというのは貴方かな?」
「そうだ。何の用だ?俺は喋るのもつらいんだ。手短にしてくれないか。おっほげほハァハァ」
「単刀直入に聞く。ミノタウルスに銃弾は効いたか?」
「あんたらあの化け物を相手にするのか?信じられない馬鹿者だな。絶対にやめておいた方がいいと思うが。どうしてもというなら止めないさ。銃弾?余程の大口径銃じゃないと効かないね。黒歴史の出土品を扱うブラックマーケットでやり取りされている銃でもないと通用しないだろうな。ゲホゲホ。」
エリーと目配せをする。
「そう。分かったわ。教えてくれてありがとうございます。叔父様。」
「いや教えるのは良いんだが、こんな若い娘を連れて観光気分で倒せる相手じゃないのは最初から言っておくぜ。あいつは本物の化け物だ。気をつけな。」
「ありがとう。セージ。それでは俺達は退散するよ。」
そういうと彼のみすぼらしい病室から俺達は引き上げた。後ろから人一倍大きい音で咳き込むのが聞こえる。やってしまった。興奮させ過ぎて傷が開いているらしい。俺は医者を呼ぶとセージの容体が悪化しかけている事を伝えた。
二人から話を聞いたが、もう集めるべき情報は十分だろうか?良く思案を練ってみるが、これで十分だという確証に至った。俺は背伸びをするとエリーの手を掴み、狼と子羊亭へと向かって行った。まずは戦の前に腹ごしらえをしなくてはならないだろう。相手はミノタウルス…体調に不良がある状態で闘える相手ではない。
エリー…ミノタウルスは本当に私達の手に負えるか疑問ね。無銘には詠唱破棄やちゃんとした詠唱の業があるけれど、私は…有効打があるのかしら?攻撃呪術が効くとも思えないし…どうしましょうか。回復に徹して無銘をサポートするしかないのかもしれないし、攻撃呪術を少しでも撃った方が良い気もするわね。無銘はどうすればいいか何も教えてくれないわ。戦いの経験が浅いから色々と教えて欲しいのだけどね。その場その場の指示で何とかするしかない…か。私も戦士の頭数にちゃんと入っていればだけれど。そもそも私をきちんと戦闘員としてカウントしているかがの問題よ。私だって戦えるんだし、頼って欲しいものね。
…俺とエリーは「狼と子羊亭」で腹ごしらえをするとヤヴォイス山へと向かった。カルベコの町から、歩いて二時間ほどの山だ。標高は千m程で登山客はほとんどいない。今回の犠牲者はいずれも山の街道を通りかかったところを襲われている。
俺達もヤヴォイス山の街道を歩き回り、対象への接触を図った。獲物を探し回って何時間たった事だろう?時計を見てみる夜半十九時頃にそれは現れた。黒い牛の頭を持つ三m程の怪人だ。手には大きな斧を持っている。
まずは自分たちの安全を確保せねば、俺は女神楯!アイギス!と詠唱し、自分とエリーのガードを固めた。
ミノタウルスは斧を大きく被りを振って投げてきた。俺はエリーの手を引いて咄嗟に避ける。危なかった。当たっていたら即死だ。
「エリー!協調して魔術を連射して倒すぞ!」
「分かったわ!無銘!何の魔術を使えばいい?」
「雷系統の魔術を頼む!」
「了解!」
無銘の詠唱!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!
エリーの詠唱!汝の庭を荒らす不届き者に神罰を下したまえ!ゼウスの雷撃!汝の庭を荒らす不届き者に神罰を下したまえ!ゼウスの雷撃!汝の庭を荒らす不届き者に神罰を下したまえ!ゼウスの雷撃!汝の庭を荒らす不届き者に神罰を下したまえ!ゼウスの雷撃!…
雷の嵐がミノタウルスを焼払うが、ミノタウルスは素早く斧を拾い身を護った。斧で何本も呪詛が潰されており致命傷を与え切れていない。ミノタウルスはプスプスと煙を上げる体をむくりと立ち上がらせてこちらにのそのそと接近してくる。不味い。俺は魔術の連射のし過ぎでオドが焼け付いて身動きが取れない。対象は最早眼前に迫っている。ハァハァ動いて退避しなくては!
エリー…私も魔術の詠唱のし過ぎで軽い立ち眩みを起こしてしまった。無銘にミノタウルスが近づいているのは見えるけれど私のサポートが間に合わない!私は体を震わせて全力で叫んだ。
「逃げなさい!無銘。死ぬわよ!」
そしてミノタウルスは手に持っている血錆だらけの大斧を俺に振り下ろす。縦一文字に俺は切り裂かれてしまった。
「ガはッッ!ゴバハッ…ハァハァ。」
夥しい血が胸と腹から出ている。不味い。死ぬのかな。即座に蘇生は出来るだろうが。ミノタウルスは俺を仕留めたと思い込み立ち去っていった。
後ろに控えていたエリーが走って近寄ってくる。魔術詠唱の準備を始めたようだ。
「無銘!立ち上がりなさい!ここで死ぬわけにはいかないでしょ!」
エリーの詠唱!偉大なる癒しの加護を与え給え!主神イグドラシルよ!ヒーリング!
「大丈夫!無銘。あいつはまた別の場所にうろつきに行ったわ。」
「ありがとう。エリー。死ぬところだった。またこれで闘えるな。」
「無理は禁物とは言い切れないわね。」
真剣な眼差しでエリーが顔を覗き込む。ふと彼女の美しさに見惚れてしまった。…今はそんな事に呆けている場合ではない!
傷は何とか塞がった。ハァハァ牛野郎!借りは高くつくぞ!
俺はエリーを連れてミノタウルスをまた探しに行く事にした。付近の通り道にはいない。
更に進んで探してみる。山小屋にもいない。…いた。奴はなんと敵がいるのに呑気に水浴びをしていた。卑怯かもしれないがそこを狙って攻撃する。強敵相手に正面から闘うほうが愚かだ。隙を縫って打ち倒すべし。
俺も真言詠唱で狙い撃とう。それを使うに相応しい敵だ。
無銘真言詠唱!第三の虹の扉よりいでし覇王!トールよ!その怒りで現世を掃滅するがいい!掃滅のミョルニル!
巨大な雷の塊がミノタウルスに命中し感電している。ブスブスと黒い煙を上げて悶えている。ようやく有効射。
「エリー!さっきの詠唱を続けてやってくれ!」
「分かったわ。無銘!行くわよ。」
エリーの詠唱!汝の庭を荒らす不届き者に神罰を下したまえ!ゼウスの雷撃!
無銘の真言詠唱!第三の虹の扉よりいでし覇王!トールよ!その怒りで現世を掃滅するがいい!掃滅のミョルニル!
二つの雷の呪詛が螺旋を描きミノタウルスを穿った。やった。ミノタウルスは物理的に上半身が破裂して無くなっている。これにてミノタウルスの討伐を終了しよう。
俺はオドが焼け付いて動けなくなったのでその場でしばし休憩をした。真言詠唱を何度も使うべきではない。体には動悸がひっきりなしに起きている。幻影が頭の中を駆け巡り意識を揺さぶってくる。エリーは心配そうにのぞき込むが、大丈夫だと言って近寄らせなかった。
「よし。もう大丈夫だ。オドの焼き付きは収まった。行こうかエリー。」
「分かったわ。無銘。それにしても手強い敵だったわ。」
大げさな手ぶりでエリーはあの化物の物真似をして見せる。本当に手強い敵だったな…
「手強いを超えてあのタフネスは無茶苦茶だと思わないか。」
「そうね。まるでうわさに聞くオーガみたいだったわよ。」
「そうだなオーガならあの強さも納得がいくが…牛人間がなあ。」
「世の中どんな猛者がいるか分からないものよ。さあ次の仕事をこなしましょう。」
「ああ。一晩休んだらまた新しい仕事に取り掛かる事にしよう。今日は疲れたよ。帰って寝る。」
エリー…ミノタウルスは無銘が一回切られて瀕死になったけれど何とか倒せたわ。私の雷の呪詛も効いていたようで嬉しいわね。それでも危険な事に変わりは無かった。無銘が無茶をしすぎて死なない様に私がこれからもサポートしなくてはならないと感じたわ。これが今後の私の仕事になりそうね。どうかどんな依頼でも無銘が無事でありますように。偉大なる主神イグドラシルよ。我々の魂を護り給え。
…エリーも何件も仕事をこなしてきて度胸がついたようで嬉しい。また新しい仕事を見つけたらこの戦記に記録したいと思う。
・サイクロプス
メイフ…バスベル街道というカルベコの町とモストゥーン王国をつなぐ、北の街道がある。多くの旅人が通行する交通の要所だった。そして最近その場所に怪物が出没するという噂が立っている。
何でも一つ目の化け物らしい。とてつもない怪力で行商人の馬車を引っ繰り返してしまうと酒場では持ちきりの話題だ。皆俺に限って大丈夫だろうと思う。俺もそのうちの一人だった。
行商人の俺、メイフから言わせてもらうとモストゥーンで産出される貴重な絹や茶を戦争の最中でも売買できる今はチャンスなのだ。人類開放騎士団の領地では両方とも目が飛び出るような値段で売れる。
これは余程信頼を得ていない行商人以外にはエルフが絹と茶を売らない為であり、俺は十五の時から取引を続けているからエルフ達から売ってもらえるのだ。一度通商を途切れさせてしまえば次はない可能性がある。
そう思い全身を苛む恐怖心に打ち勝ちながら、俺はバスベル街道を進んだ。行きは特段何もなかった。黒歴史の諺の「行きはよいよい。帰りは怖い。」を想い出した。
時刻は既に十八時頃、逢魔刻である。馬車を走らせるスピードを上げるため、俺は馬のメサドの尻を打つ回数を上げた。しかしメサドは動かなくなってしまった。嘶き前足を上げる。
…目の前に何かが立ちはだかっていたのだ。四m程はあるだろう黒い皮膚に赤い目をした巨人だ。
その巨人の鉄拳がメサドを打ち抜く。俺の大事な荷馬車の馬は即死した。俺自身も逃げようとした所を大きな腕で捕まえられて締め上げられる。全身の激痛と骨が砕かれる音を聞きながら俺の意識は落ちていった。ああ…強欲な商人の末路って訳か。畜生…ここで記憶は途切れているようだな。
…俺とエリーは行商人が何組も被害に遭っているサイクロプス退治の依頼を引き受けていた。今目の前に先日亡くなったと思われる行商人の遺骸がある。その遺骸から先程の亡くなる直前までの霊子記憶を魔術で引き出した。
どうやらここでサイクロプスが行商人を襲っているのは間違いないらしい。しかも相当凶暴なようだ。殺す事を目的にしており、食べる事が目的ではない。残忍極まりない魔物。
正直な話、エリーを連れて行って闘いたくはなかった。あまりにも危険すぎる…危険じゃない依頼でも怪我をされるとエリーに心理的外傷が残る恐れがある。そんな状態になった娘を連れてプリマスに向かうのは危険だ。
エリー…霊視記憶は私には見えなかったけれど無銘の表情が強張ったのを見落としてはいない。サイクロプスも相当な難敵なようね。私の魔術は通用するのかしら?この間のミノタウルスの様に通用すればいいのだけれど。自問自答をしながら私は無銘とバスベル街道で待機を続けたわ。
…俺達は化物が出てくるまでひたすらに待機をしていた。焦っては元も子もない。どのくらい時間が経っただろう?
「サイクロプスはまだ出てこないのかしら。」
「そのうち俺達を襲いに出てくるよ。」
「でももう三時間もこうしてちょっと待ちくたびれたわね。」
「まあそうだな。直に出てくるさ。それまで今少し待とう。」
エリーは腰を左右に振りながらサイクロプスを呼び出す音頭を取った。
「はーい。分かりました。ピチピチのエルフだよ。サイクロプス出ておいで!」
「そんな迷子の犬を探しているんじゃないんだから…」
「えー。見つけるまでは迷子の子犬を探しているのと一緒だわ。実質は地獄の番犬みたいなものだけれど。」
「サイクロプスとケルベロスどちらが厄介かまるで分らないな。」
「大きくて乱暴なのはサイクロプスの方じゃないかしら?ケルベロスは地獄の業火を吐き出してきそうで怖いわ。」
「どちらも相手にしない事に限るな。」
「お仕事だからサイクロプスは駄目ね。早く出てこないかしら。正直お腹が減ってきた。」
グーっとお腹が鳴り始めたエリー。食う量が凄い上に腹が減るのも早いのか参ったね。
「おいおい。さっき食べたばっかりだろう。エリーは結構食いしん坊なんだな。人は見かけによらないというか。びっくりだ。」
「普通の人間よりエルフの方がはるかに長生きだからエネルギーがいるのよ。」
「もっともらしい事を言っても何もこの場では出せないぞ。狼と子羊亭に戻るまで我慢だな。」
「仕方ないわね。早く出てこいサイクロプス!」
そんな事を言いながら獲物を待っていると街道の物陰から突如巨大な生命体が出てきた!全身真っ黒で赤い瞳が一つだけある巨人!サイクロプスのお出ましだ。
「エリー!待った甲斐があったな!お客さんだぞ!」
「怪我はしないようにさっさと倒しましょう!」
そういうとエリーも両手を胸に合わせて魔術詠唱の構えに入った。俺は騎兵銃で対応する。
サイクロプスは俺に向かって突撃をしてきた。騎兵銃で応射。マガジンを撃ち尽くした。動きを止める程度の威力しかないようだ…
エリーの詠唱!生命の危機認定!大いなる主神イグドラシルの巫女を穢すものよ!滅びるがいい!ミストルティンバースト!
神霊樹のヤドリギがサイクロプスを串刺しにする。損害は中。
俺からサイクロプスを引き離す事が出来たが、エリーはオドの酷使でその場で卒倒した。
不味いな…雷系魔術の連続詠唱で討つ!
無銘の詠唱!詠唱破棄!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!
無数の雷閃が機銃の様にサイクロプスの躰を焼いた。後ろにのけぞり身震いをするサイクロプス。
「ウグオオアアアアオオオオオオオアアアアア!」
形容しがたい咆哮を上げて、こちらに突っ込んでくる。いなすべき魔術を撃つ暇もない。眼前に迫ったサイクロプスの丸太のような腕が俺に向かって振り下ろされた。
俺は霊気で形成した刀である霊刃を右手手刀から展開。奴の剛腕による攻撃を受け止める。
「ギイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
サイクロプスの勢いのこもった攻撃はそのまま自分自身に跳ね返り、奴の両腕は霊刃のカウンターで切断されてしまった。
よし動きが止まった!このまま押し切るぞ!後十秒だけ動かないでくれ!
俺は真言詠唱をする準備に入った。周囲のマナが俺を喰らいつくす様に取り巻く!神罰の雷を使う!
無銘の真言詠唱!第三の虹の扉よりいでし覇王!トールよ!その怒りで現世を掃滅するがいい!掃滅のミョルニル!
巨大な雷の槌がサイクロプスに襲い掛かり、サイクロプスの上半身は爆裂し死亡した。
これでようやく終わりだ。待ち伏せをした甲斐があった。これで行商人が襲われる事はないだろう。
しかしオドが焼け付く。呼吸が荒くなり頭の中を幻影が躍りまわる。今にも気絶しそうなのを堪える。
エリーはオドの酷使から解放されたようで此方に寄ってきた。
「無銘、あれでサイクロプスは死んだのかしら?」
「ああ、もう大丈夫だ。エリー。下半身から上半身が生えてきたりしなければサイクロプスは蘇生しないだろう。手伝ってくれてありがとう。」
「ミストルティンバーストは未だに使うと体にダメージが残るわね。」
「使える魔術から使うしかないだろうよ。戦闘中に倒れてしまうようでは戦士失格だ。」
「私は戦士というより、偉大な祖霊イグドラシルに仕える巫女よ。間違いないでね。」
「了解したよ。巫女様。さあカルベコの町に戻って食事にしよう。」
「今日はオオカミ盛りを食べるわよ。お腹がすいたわ。」
えっ突然この娘は何を言い出すんだろう。オオカミ盛りは普通の子羊盛りの三倍の値段がするのだ。勘弁してほしい。
「あれ結構高いから、財布事情が厳しくてな。子羊盛りはもう飽きたのか?」
「飽きたというよりお腹が減ってしまって耐えられないのよ。」
「勘弁してくれよ。それじゃあ俺が食べさせてないみたいじゃないか。」
「そこまではいわないけど食事事情の改善をお願いしたいわね。」
「分かったよ。御嬢さん。それよりも前に今回の犠牲者を何とかしよう。」
「そうね。残念だけどカルベコには連れていけないわね。」
「ああ、黙祷して身なりを整えてやろう。…よしこれでいい。」
俺は今回犠牲になった行商人の死体を魔術で開けた穴の中に埋葬した。本当は俺が坊さんだったらもっとましな弔い方もあるのだが、所詮脱走兵。これ以上できる事はあるまい。
俺はエリーを連れてバスベル街道を南に戻り、カルベコの町へと戻った。
…現在は狼と子羊亭の中だ。酒場の親父に念写したサイクロプスの死体の映像を見せて報酬を受け取った。
エリー…ようやくこれで依頼が終わったわね。待ちに待ったオオカミ盛りがやっと食べられる。ミストルティンバーストを撃って体力を消耗しているからその疲れを癒さないと。無銘が何と言おうとこれは譲れないわね。大体なんでこんなにお腹がすくのかしら。無銘よりも私の方がよっぽど神様に聞きたいわ。「どうしてこんなにお腹がすくようなエルフにしたんですかってね。」まあ食事にありつけるだけで有難い状態なんだけれど今後もオオカミ盛りを継続したいわね。
眼をランランと輝かせながらエリーが言う。
「さあ無銘、今日はオオカミ盛りよ!」
「分かったよ。エリー!いい年なんだからそんな子供みたいに騒がないでくれ!」
エルフは長命種なので明らかにエリーは俺より年上である。報酬を受け取ってすぐに食事の話で騒がないで頂きたい。正直とても恥ずかしいものだ。
俺は親父に子羊盛りとオオカミ盛りを一つずつ注文するとエリーと食事をした。
食事中にふとエリーが口を開く。
「まだこの町で仕事を続けるの?」
「そうだな。後一件か二件はこなすと思う。どうしても旅には金が必要でね。俺達は闘いから逃れられないだろう?魔術を使う対価にオドが消耗、それを回復させるために宝石を捧げる。だからどうしても金が必要になるんだ。」
「そうね。私もオドの消耗が最近激しいわ。」
「どうしても戦闘用の魔術行使はオドをすり減らすからな。まあ宝石が勝手に砕けて石ころになるだけだから自覚はないだろうけど夥しい費用が魔法戦士にはかかる。」
そう無銘はしみじみという。結構魔法戦士の財布事情は厳しいのだ。
「それで仕事をこなさないといけないのね。ふーん。仕方ないか。オオカミ盛りご馳走様でした。」
「満足したか?」
「ええ、いつもこのくらい食べられるといいわね。満腹だわ。」
「君は女なのに体重の事とかをあまり気にしないんだな?」
「うーん。私は特に太りにくいから全く気にした事はないわね。世間の人はそんな事を気にしているの?短い人の生の中でさらにそんな悩みがあるなんて人間は地獄みたい。」
「みんな気にしているさ。戦で飢えた事がある連中だけは別だと思うけどね。」
「私は普段からお腹いっぱい食べる事しか考えてなかったわね。狩りとかにも全然いかなかったし。」
「なんで攻撃魔術をあんなに覚えていたんだ?」
「ずっと前に狩りで死んでしまったお父様に叩き込まれていたのよ。狩りに出るときの為にオドを鍛えておけってね。おかげさまで一部の魔術以外でオドが著しく痛む事はないわ。」
「そうだったのか。素晴らしいお父さんだ。俺は詠唱破棄の魔術行使をするだけで、オドが痛みだすな。真言詠唱なんかすると全身を焼かれる痛みを味わっているよ。」
驚いたように身を竦めるエリー。そして口を開いた。
「なんでそんな事になっているの?デミエルフなんだから常人より魔術適性が高いはずなんだけど、人間の魔術師でもそこまでひどくないでしょう。」
「俺達ナンバーズは無理やりオドや脳みそを魔術でいじくりまわしているからな。威力の高い魔術を雨の様に詠唱破棄で使える代わりに、オドの劣化が激しいんだ。だから一回闘うごとに宝石で癒さないと持たない。」
少しはにかみながらエリーは応える。
「貴方も苦しんでいるのよね。自分の腹の具合しか考えてない私が少し恥ずかしくなってきたわ。」
「素晴らしい反省心だ。これからは子羊盛りにしてくれないか?オオカミ盛りの三割の価格になっている。家計にお優しい。」
「でも厳しい環境だからこそ、しっかり食べるものを食べないといけないわね。却下します。明日もオオカミ盛りで行くわよ。」
無銘は無に感じ入っている。無我の境地でショックな報告をやり過ごしているのだ。
「……済まない。ショックで反応が遅れた。やはり食つなぐためにも毎日のように依頼をこなさないと行けないだろう。うーん何時になったらプリマスに到着する事やら。」
「まあそのうち着くわよ。そのうち。人間とエルフの戦争が終われば一番いいんだけどね。」
「そうだな。そうすればコソコソせずにモストゥーンの森を突切て進んでプリマスに向かえる。それか俺達二人が住める場所が見つかるだろう。」
「貴方は人類開放騎士団に戻るつもりはないの?」
「下手をすれば敵前逃亡で銃殺。そうでなくてもまた対エルフ戦争で最前線に投下されるからね。もう勘弁してほしいものだ。俺は一切戻る気はない。」
「そう。猶更早くプリマスから約束の地とやらに向かわないとね。」
「エルフ達に神託の夢で告げられたという妖精舞う島の話か。」
「噂によると天界だって話よ。デミエルフの貴方が天界に入れるかどうかは分からないけど。」
「まあ行く宛てがそもそもないからな。プリマス行きで良いじゃないか。よし…そろそろ今日は寝るとしよう。」
「そうしましょうか。」
そういうと俺達は食べ終えた食器を片付け、狼と子羊亭の宿屋で一晩を過ごした。また明日になれば仕事をしなければなと思う。エリーとの凹凸コンビも何だか悪くないものだ。もうエルフも人間も殺しをしたくないが、この先どうなる事やら…
エリー…神託の土地軍港プリマスまで無銘とパートナーを組んで進むのは良いのだけど、しっかりとした食糧供給がなされるかが心配ね。腹が減っては戦が出来ぬというしね。それと私も魔術の腕を磨かなくてはね。狩りをサボっていたツケが回ってきているわ。無銘の助けをしっかりこなさないとならないわ。
・蜘蛛女
カルベコの町の最後の依頼となった事件だ。よく覚えている。町のはずれに住んでいるレスターという男が「自分の伴侶が欲しい」という理由で黒魔術の召喚をしてしまったのだ。結果は巨大蜘蛛の下半身を持つ女を産み出してしまい。頭から貪られてしまったらしい。
何パーティーかの冒険者集団も対決を挑んだのだが、全員死亡。誰も帰って来はしなかった。
どうやら相当に手強い魔物の様だ。俺はエリーを護りながら戦える自信はない。今までもこれからもそうだろう。彼女にはパートナーとして横に立って共に戦うか、宿で待機してもらうしかないだろう。
「エリー、今回の事件はあまりにも危険すぎる。何人も死んでいるんだ。君を連れていく事はできないよ。」
「私もあんたのパートナーとしてそんな危険な現場に一人で行かせる事はできないわ。私だって戦えるし、ヒーリングも出来るもの。」
「それが危険なんだ。君は自分の実力を過信しているわけではないが、どうしてもこの世には通用しない敵が一人や二人いる事を覚えておいた方がいい。それがこの蜘蛛女だったって事だ。」
エリーは怒り顔で足を踏み鳴らして答える。
「どうしてもっていうなら…と普段は譲るけどコレだけはだめ!あんたに死なれるとプリマス行きがパーになるのよ。それに何か寂しいしね。」
「どうなっても知らないぞ。相手は何人も殺した実績のある危険な魔物だ。それ相応の覚悟を持つんだな。」
「分かったわよ。今回はミストルティンバーストを何発でも使えるように気合を入れていくわ。」
「あの大魔術は気迫の問題で済むのか?オドの限界に即座に達しているように見えたけど?」
「体内の魔術経路は何とか拡張して卒倒しないようにするわ。一晩だけ時間を頂戴。」
「分かった。明日の昼間に討伐に行くぞ。間に合わなかったら置いていく。」
そう告げると受けた依頼の魔物の事が頭から離れないが、俺はその晩の休みを取る事にした。エリーはどうやってオドを拡張安定させるつもりなのだろうか?気になってこっそり彼女の宿の部屋をのぞき込んでみる。
そこには半裸になって下着姿のまま手を合わせて呪詛を練っているエリーの姿があった。マナが体を嘗め回すように循環しており、苦痛から苦悶の声を漏らしている。
自分の許容量以上のマナを宿し、循環させてオドの拡張を行うという事か。俺には出来ないが真っ当な方法なのだろう。彼女は狩りをさぼっていたと言っていたが、真剣にやっていたら相当腕の立つエルフの戦士だったに違いない。
俺は部屋の扉をそっと閉めるとその晩は休息についた。明日は蜘蛛女退治だ。
エリー…全身が軋み、妄念が脳裏を駆け巡る。魔術経路に負荷をかけるのは殆ど初めてだけどここまで大変だったとは思わなかったわ。それでもミストルティンバーストを一回使っただけで卒倒しないようにしないと。私はお荷物じゃない。無銘のパートナーのエリーゼ・ハーンよ!ハーン族の誇りに掛けてやり抜くわ。私の修行は夜遅くまで続いた。そして疲れの所為でベットに卒倒してしまった…
翌朝―
俺は太陽の日差しを浴びて目を覚ました。目の前には寝不足な様子のエリーがいる。
「おはよう。エリー。寝不足みたいだけど大丈夫か?」
「おはよう。無銘。オドの拡張は終わったわ。もう貴方の足手まといにはならないと誓いましょう。」
「頼もしいな。それでは蜘蛛退治に出かけよう。」
「ええ、私の魔術の冴えをお目に入れましょう。」
そう答えるとニヤリと笑みを浮かべるエリー。
相当気合が入っているなと感じる。悪い事ではないが気負い過ぎも戦場では問題だ。死を招いてしまうだろう。
宿屋を二人で出ると町はずれの今や蜘蛛女の屋敷に俺達は足を踏み入れようとしていた。
…魔術結界で感知呪詛が張ってある。解呪を試みる。…成功した。
これで不意打ちはかけられないだろう。中へ進んでいく。様々な魔術のトラップが張ってあったが、エリーと俺で協力して全て外してしまった。
今まで来たパーティは魔術のトラップの事など分からずに突っ込んで餌食になってしまったという事なのだろう。
「異常な量のトラップね。」
「余程疑い深い魔物なんだろう。だけど俺達は見過ごさないように進んでいるからまだばれていないな。」
窘める表情を浮かべてエリーは言う。
「そういう思い込みが危険の元でしょ!気をつけなさいよ。」
「分かったよ!御嬢さん!」
歩を進めて一階を歩き回ったが、それらしき魔物はいなかった。ひたすらトラップの山が積んであるだけである。
この家から逃げ出したという事は考えられない。後考えられるのは二階及びあるのなら地下室と言ったところだろうか。
二階から俺達は調べる事にする。階段も忍び足で上がる。こんな事で探知されてしまってはいけない。二階との境界線にもトラップ。解呪成功。
…絶句する。二階には繭に包まれた犠牲者の山が転がっていた。ここを保管室にしていたというのだろうか。ここは違う。蜘蛛女はいない…ちょっとした恐慌状態に自分が陥ってしまった。俺がしっかりしなくてはいけないのに…呼吸を深くして再度落ち着く。
エリーには現場の惨状を見せずにこういった。
「ここにも奴はいない。地下に行くぞ。」
「分かったわ。無銘、貴方顔が真っ青だけど…大丈夫?」
「ああ、立ち眩みか何かだろう。大丈夫だよ。エリー。さあ地下に向かおう。」
さあさあと急かしエリーを下に向かわせる。あれを見せるわけにはいかなかった。確実に彼女なら混乱状態に陥るだろう。
そして、地下室の扉の前…ギィーっとゆっくり開く。中には蜘蛛女の姿はないか…
「一体何処に行ったのかしら?もぬけの殻じゃない?」
「確かにな。だが近いと思うぞ。いつでも魔術を撃てる準備をしておくんだ。」
「了解。待機状態に入っておくわ。」
エリーの周りを暖かい星のマナが包みだした。
俺は捜索を続ける。地下室には何もないが第六感が何かを告げている。
「不味い。不味い。引き返せ。このままだと大変な事が起こるぞ。」という無意識下からの警告。それはしばらくの間、心のノイズだったが、すぐに的中する事になった。
「きゃあ!何なのよこいつ!無銘!上上!あんたの上にいる!」
エリーは胸の前で両腕をクロスして迎撃の準備を急いで整えた。
「ッッ出たな!蜘蛛女!殺す!」
俺の真上に件の蜘蛛女がいる事にエリーが気付いた。そして蜘蛛の糸を俺に飛ばしてくる。魔術を撃とうとしたが間に合わない。
クソッ身動きが取れない上に口をふさがれて詠唱破棄すら撃てない。後はエリーに勝敗がかかっている状況だ。
「もごもごもごもご!もごもごもご!」
「何を言っているか分からないけど!私がやるしかないわね!」
エリー詠唱!生命の危機!大いなる主神イグドラシルの巫女を穢すものよ!滅びるがいい!ミストルティンバースト!
ヤドリギが蜘蛛女の中から生えた!蜘蛛女は痛みと恐怖から糸を吐くのをやめたものの、俺を引きずって絞め殺そうとしている。
「もう一発食らえ!」
エリー詠唱!生命の危機!大いなる主神イグドラシルの巫女を穢すものよ!滅びるがいい!ミストルティンバースト!
今度は蜘蛛女の脳を直接ヤドリギが伸びて貫通した。どうやらこれで死んだらしい。助かった。
糸をかき分けてエリーが話しかけてくる。
「無銘!生きている?」
「ああ。何とか生きている。ありがとうエリー。助かったよ。俺一人できていたら今頃死んでいたな。」
涙を堪えながらエリーが話しかけてくる。
「そんな悲しい事言わないで頂戴。貴方は絶対死なせないから。」
そういうとエリーの瞳からは大粒の涙が零れ出していた。余程ショックだったのだろう。
「おいおい泣くなよ。俺には不死刻印という物が刻まれていて二回までは死ねるんだからさ。落ち着くんだ!エリー。」
「一回だって嫌よ。貴方が死にそうって思った時、頭がおかしくなりそうだったから!もう絶対に軽々しく死にそうな依頼を受けないで!私も一緒に連れて行きなさい。」
参ったな。本格的にエリーは俺の前に膝をついて泣き出してしまった。
「分かった。君の事を二度と侮ったりはしないよ。誓おう。」
涙を急いで拭くエリー。そして口を開く。
「分かればよろしい。行くわよ。蜘蛛女は死んだわ。」
「ああ、行こう!依頼完了だ。」
エリー…もう絶対に無銘を死なせないわ。私が付いているうちはそんな危険な目に合わせたくはない。何でか分からないけれどそう思うの。私は無銘を絶対に失いたくない。それだけは私の真実よ。泣いている場合じゃないのは分かっていたけれど涙が出てしまった。私がもっとしっかりしないとだめね。あの蜘蛛女の様な強敵を私だけでも倒せるようにならなければ…
…頼もしいパートナーにエリーは成長したものだと嬉しく思う。小隊の事は胸のどこかに引っかかっているけれど、新しいパートナーに背を預けて生きていくのも悪くないさ。
その後俺達は蜘蛛女を討伐した事を狼と子羊亭の親父に伝えた。エリーが倒したと伝えると親父は目を白黒していたのが面白い。
「立派なパートナーとして当然の務めよ!」とエリーが胸を張る。
でも驚くのも仕方がない。何パーティーも冒険者を葬ってきた依頼を若くて小さいエルフが自力で倒してしまったのだ。
酔っ払い達がエリーの武勇伝を聞くために集まってきた。
「やるじゃないか!御嬢ちゃん。どうやって倒したんだい!」
「そうだ。俺達にも教えてくれよ。あんなおっかない化け物をどうやって相手にしたんだ?」
「天井に張り付いているのをね、エイッミストルティンバーストって唱えてヤドリギで串刺しにして倒したのよ。」
酔っ払い達に動揺が広がる。
「旦那はどうしていたんだい?おたくらの主戦力じゃないか。」
「俺は蜘蛛女に糸を吐かれてグルグル巻き。窒息死しそうになっていた所をエリーに助けてもらったんだ。」
「なるほどな。無銘の旦那は既にノされていたわけだ。それでお嬢ちゃんがねえ。」
「ああ。エリーがいなかったら俺は死んでいたよ。今回の手柄は全部エリーさ。認めよう。」
「そう言われると照れるわね。魔法のトラップを一緒に何個も解除したりしたじゃない。」
「そんな事もあったな。蜘蛛女の衝撃が凄すぎて忘れていたよ。」
「ともかく旦那もお嬢ちゃんも無事で帰って来たからよかったよ。オラッのめのめ~」
その後の酒場の話題はエリー一辺倒だったのは言うまでもないだろう。
カルベコの町で依頼を受け続けた事で、次の町に行く十分な資金もたまった。それにここにはもう依頼も無いようなので俺とエリーは名残惜しいが新たな町へと旅立つ事にした。
エリー…カルベコの町を離れるのに若干の寂しさを覚えるけれど、これでプリマスに向かう第一歩が踏み出せるのね。そう思うと胸がドキドキしてきた。約束の場所。誰にも危害を加えられないという神託の土地。そこへの冒険の新たな一ページが加わるのよ。
今エリーと俺は様々な仕事をこなしながら日々を過ごしている。カルベコの街についてから一週間が経とうとしていた。
今日は日差しが強く燃え滾る太陽のマナが最高潮になる日だった。
酒場で依頼を受ける。恐らくは大量発生している魔物の討伐だろうと思っていたが当てが外れた。今日の討伐対象はミノタウルスだ。近くのヤヴォイス山に巣くう牛の頭を持った人間の化け物らしい。黒歴史の化物…人類種が繁栄をかつて極めたと言われる何万年も前の時代から生息が確認されている化物の事だ。付近を通りかかる人間を悉く殺して食べてしまうそうだ。
こいつは中々な手間になりそうだと思う。銃弾は効かないだろう。俺とエリーの魔術頼みの案件という事だ。まずは情報収集をする事に決めた。
街の外れにある一軒家の旦那をこの化け物に殺されてしまった奥さんに話を聞く。
年は三十代半ばほどだ。暗くやつれた顔をしている。まあ旦那が殺されたのなら仕方がないな。刺激をしないように話を聞かなくては。
「うちの亭主は畑仕事の帰りにヤヴォイス山を通りかかって、この牛野郎に殺されてしまったんだ。死体も綺麗じゃない!まるで大砲に吹き飛ばされてしまったような死体だったんだよ。絶対に許せない。あの牛の怪物め!」
「お悔やみを申し上げます。マダム。必ず俺達が牛の怪物を討伐しましょう。」
「心から深く慰霊の祈りを捧げさせてください。旦那様の御霊にイグドラシルの加護があらん事を」
「御兄さん方で大丈夫かしら?本当に危険な怪物だから油断をしてはだめよ。こんな若いお嬢さんなんて絶対に殺されてしまうわ。そうなったらどうしましょう。」
「大丈夫です。彼女はこう見えても魔術を使える魔法戦士なのです。それに俺がいる限りは彼女には手を出させませんよ。」
「彼に比べれば劣りますけど、私も立派な戦士です。きっと無事に闘いから帰ってきますから心配しないでください。奥様。」
「あんな怪物を人間がどうこう出来るとは思えないわ。本当に心配ね。」
「そういう魔物を倒すために俺達の様な戦士がいるんです。安心してください。」
動揺する奥さんをなだめると俺達は他の住人に話を聞きに行った。
討伐をするために大けがを負ってしまった猟師のセージだ。マサセック病院の病室で彼はゴホゴホと苦しそうにせき込んでいる。全身を複雑骨折する傷を負ってしまったらしい。粗末なつくりの彼の病室が哀れみを増幅させていた。
「やあ。セージというのは貴方かな?」
「そうだ。何の用だ?俺は喋るのもつらいんだ。手短にしてくれないか。おっほげほハァハァ」
「単刀直入に聞く。ミノタウルスに銃弾は効いたか?」
「あんたらあの化け物を相手にするのか?信じられない馬鹿者だな。絶対にやめておいた方がいいと思うが。どうしてもというなら止めないさ。銃弾?余程の大口径銃じゃないと効かないね。黒歴史の出土品を扱うブラックマーケットでやり取りされている銃でもないと通用しないだろうな。ゲホゲホ。」
エリーと目配せをする。
「そう。分かったわ。教えてくれてありがとうございます。叔父様。」
「いや教えるのは良いんだが、こんな若い娘を連れて観光気分で倒せる相手じゃないのは最初から言っておくぜ。あいつは本物の化け物だ。気をつけな。」
「ありがとう。セージ。それでは俺達は退散するよ。」
そういうと彼のみすぼらしい病室から俺達は引き上げた。後ろから人一倍大きい音で咳き込むのが聞こえる。やってしまった。興奮させ過ぎて傷が開いているらしい。俺は医者を呼ぶとセージの容体が悪化しかけている事を伝えた。
二人から話を聞いたが、もう集めるべき情報は十分だろうか?良く思案を練ってみるが、これで十分だという確証に至った。俺は背伸びをするとエリーの手を掴み、狼と子羊亭へと向かって行った。まずは戦の前に腹ごしらえをしなくてはならないだろう。相手はミノタウルス…体調に不良がある状態で闘える相手ではない。
エリー…ミノタウルスは本当に私達の手に負えるか疑問ね。無銘には詠唱破棄やちゃんとした詠唱の業があるけれど、私は…有効打があるのかしら?攻撃呪術が効くとも思えないし…どうしましょうか。回復に徹して無銘をサポートするしかないのかもしれないし、攻撃呪術を少しでも撃った方が良い気もするわね。無銘はどうすればいいか何も教えてくれないわ。戦いの経験が浅いから色々と教えて欲しいのだけどね。その場その場の指示で何とかするしかない…か。私も戦士の頭数にちゃんと入っていればだけれど。そもそも私をきちんと戦闘員としてカウントしているかがの問題よ。私だって戦えるんだし、頼って欲しいものね。
…俺とエリーは「狼と子羊亭」で腹ごしらえをするとヤヴォイス山へと向かった。カルベコの町から、歩いて二時間ほどの山だ。標高は千m程で登山客はほとんどいない。今回の犠牲者はいずれも山の街道を通りかかったところを襲われている。
俺達もヤヴォイス山の街道を歩き回り、対象への接触を図った。獲物を探し回って何時間たった事だろう?時計を見てみる夜半十九時頃にそれは現れた。黒い牛の頭を持つ三m程の怪人だ。手には大きな斧を持っている。
まずは自分たちの安全を確保せねば、俺は女神楯!アイギス!と詠唱し、自分とエリーのガードを固めた。
ミノタウルスは斧を大きく被りを振って投げてきた。俺はエリーの手を引いて咄嗟に避ける。危なかった。当たっていたら即死だ。
「エリー!協調して魔術を連射して倒すぞ!」
「分かったわ!無銘!何の魔術を使えばいい?」
「雷系統の魔術を頼む!」
「了解!」
無銘の詠唱!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!
エリーの詠唱!汝の庭を荒らす不届き者に神罰を下したまえ!ゼウスの雷撃!汝の庭を荒らす不届き者に神罰を下したまえ!ゼウスの雷撃!汝の庭を荒らす不届き者に神罰を下したまえ!ゼウスの雷撃!汝の庭を荒らす不届き者に神罰を下したまえ!ゼウスの雷撃!…
雷の嵐がミノタウルスを焼払うが、ミノタウルスは素早く斧を拾い身を護った。斧で何本も呪詛が潰されており致命傷を与え切れていない。ミノタウルスはプスプスと煙を上げる体をむくりと立ち上がらせてこちらにのそのそと接近してくる。不味い。俺は魔術の連射のし過ぎでオドが焼け付いて身動きが取れない。対象は最早眼前に迫っている。ハァハァ動いて退避しなくては!
エリー…私も魔術の詠唱のし過ぎで軽い立ち眩みを起こしてしまった。無銘にミノタウルスが近づいているのは見えるけれど私のサポートが間に合わない!私は体を震わせて全力で叫んだ。
「逃げなさい!無銘。死ぬわよ!」
そしてミノタウルスは手に持っている血錆だらけの大斧を俺に振り下ろす。縦一文字に俺は切り裂かれてしまった。
「ガはッッ!ゴバハッ…ハァハァ。」
夥しい血が胸と腹から出ている。不味い。死ぬのかな。即座に蘇生は出来るだろうが。ミノタウルスは俺を仕留めたと思い込み立ち去っていった。
後ろに控えていたエリーが走って近寄ってくる。魔術詠唱の準備を始めたようだ。
「無銘!立ち上がりなさい!ここで死ぬわけにはいかないでしょ!」
エリーの詠唱!偉大なる癒しの加護を与え給え!主神イグドラシルよ!ヒーリング!
「大丈夫!無銘。あいつはまた別の場所にうろつきに行ったわ。」
「ありがとう。エリー。死ぬところだった。またこれで闘えるな。」
「無理は禁物とは言い切れないわね。」
真剣な眼差しでエリーが顔を覗き込む。ふと彼女の美しさに見惚れてしまった。…今はそんな事に呆けている場合ではない!
傷は何とか塞がった。ハァハァ牛野郎!借りは高くつくぞ!
俺はエリーを連れてミノタウルスをまた探しに行く事にした。付近の通り道にはいない。
更に進んで探してみる。山小屋にもいない。…いた。奴はなんと敵がいるのに呑気に水浴びをしていた。卑怯かもしれないがそこを狙って攻撃する。強敵相手に正面から闘うほうが愚かだ。隙を縫って打ち倒すべし。
俺も真言詠唱で狙い撃とう。それを使うに相応しい敵だ。
無銘真言詠唱!第三の虹の扉よりいでし覇王!トールよ!その怒りで現世を掃滅するがいい!掃滅のミョルニル!
巨大な雷の塊がミノタウルスに命中し感電している。ブスブスと黒い煙を上げて悶えている。ようやく有効射。
「エリー!さっきの詠唱を続けてやってくれ!」
「分かったわ。無銘!行くわよ。」
エリーの詠唱!汝の庭を荒らす不届き者に神罰を下したまえ!ゼウスの雷撃!
無銘の真言詠唱!第三の虹の扉よりいでし覇王!トールよ!その怒りで現世を掃滅するがいい!掃滅のミョルニル!
二つの雷の呪詛が螺旋を描きミノタウルスを穿った。やった。ミノタウルスは物理的に上半身が破裂して無くなっている。これにてミノタウルスの討伐を終了しよう。
俺はオドが焼け付いて動けなくなったのでその場でしばし休憩をした。真言詠唱を何度も使うべきではない。体には動悸がひっきりなしに起きている。幻影が頭の中を駆け巡り意識を揺さぶってくる。エリーは心配そうにのぞき込むが、大丈夫だと言って近寄らせなかった。
「よし。もう大丈夫だ。オドの焼き付きは収まった。行こうかエリー。」
「分かったわ。無銘。それにしても手強い敵だったわ。」
大げさな手ぶりでエリーはあの化物の物真似をして見せる。本当に手強い敵だったな…
「手強いを超えてあのタフネスは無茶苦茶だと思わないか。」
「そうね。まるでうわさに聞くオーガみたいだったわよ。」
「そうだなオーガならあの強さも納得がいくが…牛人間がなあ。」
「世の中どんな猛者がいるか分からないものよ。さあ次の仕事をこなしましょう。」
「ああ。一晩休んだらまた新しい仕事に取り掛かる事にしよう。今日は疲れたよ。帰って寝る。」
エリー…ミノタウルスは無銘が一回切られて瀕死になったけれど何とか倒せたわ。私の雷の呪詛も効いていたようで嬉しいわね。それでも危険な事に変わりは無かった。無銘が無茶をしすぎて死なない様に私がこれからもサポートしなくてはならないと感じたわ。これが今後の私の仕事になりそうね。どうかどんな依頼でも無銘が無事でありますように。偉大なる主神イグドラシルよ。我々の魂を護り給え。
…エリーも何件も仕事をこなしてきて度胸がついたようで嬉しい。また新しい仕事を見つけたらこの戦記に記録したいと思う。
・サイクロプス
メイフ…バスベル街道というカルベコの町とモストゥーン王国をつなぐ、北の街道がある。多くの旅人が通行する交通の要所だった。そして最近その場所に怪物が出没するという噂が立っている。
何でも一つ目の化け物らしい。とてつもない怪力で行商人の馬車を引っ繰り返してしまうと酒場では持ちきりの話題だ。皆俺に限って大丈夫だろうと思う。俺もそのうちの一人だった。
行商人の俺、メイフから言わせてもらうとモストゥーンで産出される貴重な絹や茶を戦争の最中でも売買できる今はチャンスなのだ。人類開放騎士団の領地では両方とも目が飛び出るような値段で売れる。
これは余程信頼を得ていない行商人以外にはエルフが絹と茶を売らない為であり、俺は十五の時から取引を続けているからエルフ達から売ってもらえるのだ。一度通商を途切れさせてしまえば次はない可能性がある。
そう思い全身を苛む恐怖心に打ち勝ちながら、俺はバスベル街道を進んだ。行きは特段何もなかった。黒歴史の諺の「行きはよいよい。帰りは怖い。」を想い出した。
時刻は既に十八時頃、逢魔刻である。馬車を走らせるスピードを上げるため、俺は馬のメサドの尻を打つ回数を上げた。しかしメサドは動かなくなってしまった。嘶き前足を上げる。
…目の前に何かが立ちはだかっていたのだ。四m程はあるだろう黒い皮膚に赤い目をした巨人だ。
その巨人の鉄拳がメサドを打ち抜く。俺の大事な荷馬車の馬は即死した。俺自身も逃げようとした所を大きな腕で捕まえられて締め上げられる。全身の激痛と骨が砕かれる音を聞きながら俺の意識は落ちていった。ああ…強欲な商人の末路って訳か。畜生…ここで記憶は途切れているようだな。
…俺とエリーは行商人が何組も被害に遭っているサイクロプス退治の依頼を引き受けていた。今目の前に先日亡くなったと思われる行商人の遺骸がある。その遺骸から先程の亡くなる直前までの霊子記憶を魔術で引き出した。
どうやらここでサイクロプスが行商人を襲っているのは間違いないらしい。しかも相当凶暴なようだ。殺す事を目的にしており、食べる事が目的ではない。残忍極まりない魔物。
正直な話、エリーを連れて行って闘いたくはなかった。あまりにも危険すぎる…危険じゃない依頼でも怪我をされるとエリーに心理的外傷が残る恐れがある。そんな状態になった娘を連れてプリマスに向かうのは危険だ。
エリー…霊視記憶は私には見えなかったけれど無銘の表情が強張ったのを見落としてはいない。サイクロプスも相当な難敵なようね。私の魔術は通用するのかしら?この間のミノタウルスの様に通用すればいいのだけれど。自問自答をしながら私は無銘とバスベル街道で待機を続けたわ。
…俺達は化物が出てくるまでひたすらに待機をしていた。焦っては元も子もない。どのくらい時間が経っただろう?
「サイクロプスはまだ出てこないのかしら。」
「そのうち俺達を襲いに出てくるよ。」
「でももう三時間もこうしてちょっと待ちくたびれたわね。」
「まあそうだな。直に出てくるさ。それまで今少し待とう。」
エリーは腰を左右に振りながらサイクロプスを呼び出す音頭を取った。
「はーい。分かりました。ピチピチのエルフだよ。サイクロプス出ておいで!」
「そんな迷子の犬を探しているんじゃないんだから…」
「えー。見つけるまでは迷子の子犬を探しているのと一緒だわ。実質は地獄の番犬みたいなものだけれど。」
「サイクロプスとケルベロスどちらが厄介かまるで分らないな。」
「大きくて乱暴なのはサイクロプスの方じゃないかしら?ケルベロスは地獄の業火を吐き出してきそうで怖いわ。」
「どちらも相手にしない事に限るな。」
「お仕事だからサイクロプスは駄目ね。早く出てこないかしら。正直お腹が減ってきた。」
グーっとお腹が鳴り始めたエリー。食う量が凄い上に腹が減るのも早いのか参ったね。
「おいおい。さっき食べたばっかりだろう。エリーは結構食いしん坊なんだな。人は見かけによらないというか。びっくりだ。」
「普通の人間よりエルフの方がはるかに長生きだからエネルギーがいるのよ。」
「もっともらしい事を言っても何もこの場では出せないぞ。狼と子羊亭に戻るまで我慢だな。」
「仕方ないわね。早く出てこいサイクロプス!」
そんな事を言いながら獲物を待っていると街道の物陰から突如巨大な生命体が出てきた!全身真っ黒で赤い瞳が一つだけある巨人!サイクロプスのお出ましだ。
「エリー!待った甲斐があったな!お客さんだぞ!」
「怪我はしないようにさっさと倒しましょう!」
そういうとエリーも両手を胸に合わせて魔術詠唱の構えに入った。俺は騎兵銃で対応する。
サイクロプスは俺に向かって突撃をしてきた。騎兵銃で応射。マガジンを撃ち尽くした。動きを止める程度の威力しかないようだ…
エリーの詠唱!生命の危機認定!大いなる主神イグドラシルの巫女を穢すものよ!滅びるがいい!ミストルティンバースト!
神霊樹のヤドリギがサイクロプスを串刺しにする。損害は中。
俺からサイクロプスを引き離す事が出来たが、エリーはオドの酷使でその場で卒倒した。
不味いな…雷系魔術の連続詠唱で討つ!
無銘の詠唱!詠唱破棄!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!
無数の雷閃が機銃の様にサイクロプスの躰を焼いた。後ろにのけぞり身震いをするサイクロプス。
「ウグオオアアアアオオオオオオオアアアアア!」
形容しがたい咆哮を上げて、こちらに突っ込んでくる。いなすべき魔術を撃つ暇もない。眼前に迫ったサイクロプスの丸太のような腕が俺に向かって振り下ろされた。
俺は霊気で形成した刀である霊刃を右手手刀から展開。奴の剛腕による攻撃を受け止める。
「ギイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
サイクロプスの勢いのこもった攻撃はそのまま自分自身に跳ね返り、奴の両腕は霊刃のカウンターで切断されてしまった。
よし動きが止まった!このまま押し切るぞ!後十秒だけ動かないでくれ!
俺は真言詠唱をする準備に入った。周囲のマナが俺を喰らいつくす様に取り巻く!神罰の雷を使う!
無銘の真言詠唱!第三の虹の扉よりいでし覇王!トールよ!その怒りで現世を掃滅するがいい!掃滅のミョルニル!
巨大な雷の槌がサイクロプスに襲い掛かり、サイクロプスの上半身は爆裂し死亡した。
これでようやく終わりだ。待ち伏せをした甲斐があった。これで行商人が襲われる事はないだろう。
しかしオドが焼け付く。呼吸が荒くなり頭の中を幻影が躍りまわる。今にも気絶しそうなのを堪える。
エリーはオドの酷使から解放されたようで此方に寄ってきた。
「無銘、あれでサイクロプスは死んだのかしら?」
「ああ、もう大丈夫だ。エリー。下半身から上半身が生えてきたりしなければサイクロプスは蘇生しないだろう。手伝ってくれてありがとう。」
「ミストルティンバーストは未だに使うと体にダメージが残るわね。」
「使える魔術から使うしかないだろうよ。戦闘中に倒れてしまうようでは戦士失格だ。」
「私は戦士というより、偉大な祖霊イグドラシルに仕える巫女よ。間違いないでね。」
「了解したよ。巫女様。さあカルベコの町に戻って食事にしよう。」
「今日はオオカミ盛りを食べるわよ。お腹がすいたわ。」
えっ突然この娘は何を言い出すんだろう。オオカミ盛りは普通の子羊盛りの三倍の値段がするのだ。勘弁してほしい。
「あれ結構高いから、財布事情が厳しくてな。子羊盛りはもう飽きたのか?」
「飽きたというよりお腹が減ってしまって耐えられないのよ。」
「勘弁してくれよ。それじゃあ俺が食べさせてないみたいじゃないか。」
「そこまではいわないけど食事事情の改善をお願いしたいわね。」
「分かったよ。御嬢さん。それよりも前に今回の犠牲者を何とかしよう。」
「そうね。残念だけどカルベコには連れていけないわね。」
「ああ、黙祷して身なりを整えてやろう。…よしこれでいい。」
俺は今回犠牲になった行商人の死体を魔術で開けた穴の中に埋葬した。本当は俺が坊さんだったらもっとましな弔い方もあるのだが、所詮脱走兵。これ以上できる事はあるまい。
俺はエリーを連れてバスベル街道を南に戻り、カルベコの町へと戻った。
…現在は狼と子羊亭の中だ。酒場の親父に念写したサイクロプスの死体の映像を見せて報酬を受け取った。
エリー…ようやくこれで依頼が終わったわね。待ちに待ったオオカミ盛りがやっと食べられる。ミストルティンバーストを撃って体力を消耗しているからその疲れを癒さないと。無銘が何と言おうとこれは譲れないわね。大体なんでこんなにお腹がすくのかしら。無銘よりも私の方がよっぽど神様に聞きたいわ。「どうしてこんなにお腹がすくようなエルフにしたんですかってね。」まあ食事にありつけるだけで有難い状態なんだけれど今後もオオカミ盛りを継続したいわね。
眼をランランと輝かせながらエリーが言う。
「さあ無銘、今日はオオカミ盛りよ!」
「分かったよ。エリー!いい年なんだからそんな子供みたいに騒がないでくれ!」
エルフは長命種なので明らかにエリーは俺より年上である。報酬を受け取ってすぐに食事の話で騒がないで頂きたい。正直とても恥ずかしいものだ。
俺は親父に子羊盛りとオオカミ盛りを一つずつ注文するとエリーと食事をした。
食事中にふとエリーが口を開く。
「まだこの町で仕事を続けるの?」
「そうだな。後一件か二件はこなすと思う。どうしても旅には金が必要でね。俺達は闘いから逃れられないだろう?魔術を使う対価にオドが消耗、それを回復させるために宝石を捧げる。だからどうしても金が必要になるんだ。」
「そうね。私もオドの消耗が最近激しいわ。」
「どうしても戦闘用の魔術行使はオドをすり減らすからな。まあ宝石が勝手に砕けて石ころになるだけだから自覚はないだろうけど夥しい費用が魔法戦士にはかかる。」
そう無銘はしみじみという。結構魔法戦士の財布事情は厳しいのだ。
「それで仕事をこなさないといけないのね。ふーん。仕方ないか。オオカミ盛りご馳走様でした。」
「満足したか?」
「ええ、いつもこのくらい食べられるといいわね。満腹だわ。」
「君は女なのに体重の事とかをあまり気にしないんだな?」
「うーん。私は特に太りにくいから全く気にした事はないわね。世間の人はそんな事を気にしているの?短い人の生の中でさらにそんな悩みがあるなんて人間は地獄みたい。」
「みんな気にしているさ。戦で飢えた事がある連中だけは別だと思うけどね。」
「私は普段からお腹いっぱい食べる事しか考えてなかったわね。狩りとかにも全然いかなかったし。」
「なんで攻撃魔術をあんなに覚えていたんだ?」
「ずっと前に狩りで死んでしまったお父様に叩き込まれていたのよ。狩りに出るときの為にオドを鍛えておけってね。おかげさまで一部の魔術以外でオドが著しく痛む事はないわ。」
「そうだったのか。素晴らしいお父さんだ。俺は詠唱破棄の魔術行使をするだけで、オドが痛みだすな。真言詠唱なんかすると全身を焼かれる痛みを味わっているよ。」
驚いたように身を竦めるエリー。そして口を開いた。
「なんでそんな事になっているの?デミエルフなんだから常人より魔術適性が高いはずなんだけど、人間の魔術師でもそこまでひどくないでしょう。」
「俺達ナンバーズは無理やりオドや脳みそを魔術でいじくりまわしているからな。威力の高い魔術を雨の様に詠唱破棄で使える代わりに、オドの劣化が激しいんだ。だから一回闘うごとに宝石で癒さないと持たない。」
少しはにかみながらエリーは応える。
「貴方も苦しんでいるのよね。自分の腹の具合しか考えてない私が少し恥ずかしくなってきたわ。」
「素晴らしい反省心だ。これからは子羊盛りにしてくれないか?オオカミ盛りの三割の価格になっている。家計にお優しい。」
「でも厳しい環境だからこそ、しっかり食べるものを食べないといけないわね。却下します。明日もオオカミ盛りで行くわよ。」
無銘は無に感じ入っている。無我の境地でショックな報告をやり過ごしているのだ。
「……済まない。ショックで反応が遅れた。やはり食つなぐためにも毎日のように依頼をこなさないと行けないだろう。うーん何時になったらプリマスに到着する事やら。」
「まあそのうち着くわよ。そのうち。人間とエルフの戦争が終われば一番いいんだけどね。」
「そうだな。そうすればコソコソせずにモストゥーンの森を突切て進んでプリマスに向かえる。それか俺達二人が住める場所が見つかるだろう。」
「貴方は人類開放騎士団に戻るつもりはないの?」
「下手をすれば敵前逃亡で銃殺。そうでなくてもまた対エルフ戦争で最前線に投下されるからね。もう勘弁してほしいものだ。俺は一切戻る気はない。」
「そう。猶更早くプリマスから約束の地とやらに向かわないとね。」
「エルフ達に神託の夢で告げられたという妖精舞う島の話か。」
「噂によると天界だって話よ。デミエルフの貴方が天界に入れるかどうかは分からないけど。」
「まあ行く宛てがそもそもないからな。プリマス行きで良いじゃないか。よし…そろそろ今日は寝るとしよう。」
「そうしましょうか。」
そういうと俺達は食べ終えた食器を片付け、狼と子羊亭の宿屋で一晩を過ごした。また明日になれば仕事をしなければなと思う。エリーとの凹凸コンビも何だか悪くないものだ。もうエルフも人間も殺しをしたくないが、この先どうなる事やら…
エリー…神託の土地軍港プリマスまで無銘とパートナーを組んで進むのは良いのだけど、しっかりとした食糧供給がなされるかが心配ね。腹が減っては戦が出来ぬというしね。それと私も魔術の腕を磨かなくてはね。狩りをサボっていたツケが回ってきているわ。無銘の助けをしっかりこなさないとならないわ。
・蜘蛛女
カルベコの町の最後の依頼となった事件だ。よく覚えている。町のはずれに住んでいるレスターという男が「自分の伴侶が欲しい」という理由で黒魔術の召喚をしてしまったのだ。結果は巨大蜘蛛の下半身を持つ女を産み出してしまい。頭から貪られてしまったらしい。
何パーティーかの冒険者集団も対決を挑んだのだが、全員死亡。誰も帰って来はしなかった。
どうやら相当に手強い魔物の様だ。俺はエリーを護りながら戦える自信はない。今までもこれからもそうだろう。彼女にはパートナーとして横に立って共に戦うか、宿で待機してもらうしかないだろう。
「エリー、今回の事件はあまりにも危険すぎる。何人も死んでいるんだ。君を連れていく事はできないよ。」
「私もあんたのパートナーとしてそんな危険な現場に一人で行かせる事はできないわ。私だって戦えるし、ヒーリングも出来るもの。」
「それが危険なんだ。君は自分の実力を過信しているわけではないが、どうしてもこの世には通用しない敵が一人や二人いる事を覚えておいた方がいい。それがこの蜘蛛女だったって事だ。」
エリーは怒り顔で足を踏み鳴らして答える。
「どうしてもっていうなら…と普段は譲るけどコレだけはだめ!あんたに死なれるとプリマス行きがパーになるのよ。それに何か寂しいしね。」
「どうなっても知らないぞ。相手は何人も殺した実績のある危険な魔物だ。それ相応の覚悟を持つんだな。」
「分かったわよ。今回はミストルティンバーストを何発でも使えるように気合を入れていくわ。」
「あの大魔術は気迫の問題で済むのか?オドの限界に即座に達しているように見えたけど?」
「体内の魔術経路は何とか拡張して卒倒しないようにするわ。一晩だけ時間を頂戴。」
「分かった。明日の昼間に討伐に行くぞ。間に合わなかったら置いていく。」
そう告げると受けた依頼の魔物の事が頭から離れないが、俺はその晩の休みを取る事にした。エリーはどうやってオドを拡張安定させるつもりなのだろうか?気になってこっそり彼女の宿の部屋をのぞき込んでみる。
そこには半裸になって下着姿のまま手を合わせて呪詛を練っているエリーの姿があった。マナが体を嘗め回すように循環しており、苦痛から苦悶の声を漏らしている。
自分の許容量以上のマナを宿し、循環させてオドの拡張を行うという事か。俺には出来ないが真っ当な方法なのだろう。彼女は狩りをさぼっていたと言っていたが、真剣にやっていたら相当腕の立つエルフの戦士だったに違いない。
俺は部屋の扉をそっと閉めるとその晩は休息についた。明日は蜘蛛女退治だ。
エリー…全身が軋み、妄念が脳裏を駆け巡る。魔術経路に負荷をかけるのは殆ど初めてだけどここまで大変だったとは思わなかったわ。それでもミストルティンバーストを一回使っただけで卒倒しないようにしないと。私はお荷物じゃない。無銘のパートナーのエリーゼ・ハーンよ!ハーン族の誇りに掛けてやり抜くわ。私の修行は夜遅くまで続いた。そして疲れの所為でベットに卒倒してしまった…
翌朝―
俺は太陽の日差しを浴びて目を覚ました。目の前には寝不足な様子のエリーがいる。
「おはよう。エリー。寝不足みたいだけど大丈夫か?」
「おはよう。無銘。オドの拡張は終わったわ。もう貴方の足手まといにはならないと誓いましょう。」
「頼もしいな。それでは蜘蛛退治に出かけよう。」
「ええ、私の魔術の冴えをお目に入れましょう。」
そう答えるとニヤリと笑みを浮かべるエリー。
相当気合が入っているなと感じる。悪い事ではないが気負い過ぎも戦場では問題だ。死を招いてしまうだろう。
宿屋を二人で出ると町はずれの今や蜘蛛女の屋敷に俺達は足を踏み入れようとしていた。
…魔術結界で感知呪詛が張ってある。解呪を試みる。…成功した。
これで不意打ちはかけられないだろう。中へ進んでいく。様々な魔術のトラップが張ってあったが、エリーと俺で協力して全て外してしまった。
今まで来たパーティは魔術のトラップの事など分からずに突っ込んで餌食になってしまったという事なのだろう。
「異常な量のトラップね。」
「余程疑い深い魔物なんだろう。だけど俺達は見過ごさないように進んでいるからまだばれていないな。」
窘める表情を浮かべてエリーは言う。
「そういう思い込みが危険の元でしょ!気をつけなさいよ。」
「分かったよ!御嬢さん!」
歩を進めて一階を歩き回ったが、それらしき魔物はいなかった。ひたすらトラップの山が積んであるだけである。
この家から逃げ出したという事は考えられない。後考えられるのは二階及びあるのなら地下室と言ったところだろうか。
二階から俺達は調べる事にする。階段も忍び足で上がる。こんな事で探知されてしまってはいけない。二階との境界線にもトラップ。解呪成功。
…絶句する。二階には繭に包まれた犠牲者の山が転がっていた。ここを保管室にしていたというのだろうか。ここは違う。蜘蛛女はいない…ちょっとした恐慌状態に自分が陥ってしまった。俺がしっかりしなくてはいけないのに…呼吸を深くして再度落ち着く。
エリーには現場の惨状を見せずにこういった。
「ここにも奴はいない。地下に行くぞ。」
「分かったわ。無銘、貴方顔が真っ青だけど…大丈夫?」
「ああ、立ち眩みか何かだろう。大丈夫だよ。エリー。さあ地下に向かおう。」
さあさあと急かしエリーを下に向かわせる。あれを見せるわけにはいかなかった。確実に彼女なら混乱状態に陥るだろう。
そして、地下室の扉の前…ギィーっとゆっくり開く。中には蜘蛛女の姿はないか…
「一体何処に行ったのかしら?もぬけの殻じゃない?」
「確かにな。だが近いと思うぞ。いつでも魔術を撃てる準備をしておくんだ。」
「了解。待機状態に入っておくわ。」
エリーの周りを暖かい星のマナが包みだした。
俺は捜索を続ける。地下室には何もないが第六感が何かを告げている。
「不味い。不味い。引き返せ。このままだと大変な事が起こるぞ。」という無意識下からの警告。それはしばらくの間、心のノイズだったが、すぐに的中する事になった。
「きゃあ!何なのよこいつ!無銘!上上!あんたの上にいる!」
エリーは胸の前で両腕をクロスして迎撃の準備を急いで整えた。
「ッッ出たな!蜘蛛女!殺す!」
俺の真上に件の蜘蛛女がいる事にエリーが気付いた。そして蜘蛛の糸を俺に飛ばしてくる。魔術を撃とうとしたが間に合わない。
クソッ身動きが取れない上に口をふさがれて詠唱破棄すら撃てない。後はエリーに勝敗がかかっている状況だ。
「もごもごもごもご!もごもごもご!」
「何を言っているか分からないけど!私がやるしかないわね!」
エリー詠唱!生命の危機!大いなる主神イグドラシルの巫女を穢すものよ!滅びるがいい!ミストルティンバースト!
ヤドリギが蜘蛛女の中から生えた!蜘蛛女は痛みと恐怖から糸を吐くのをやめたものの、俺を引きずって絞め殺そうとしている。
「もう一発食らえ!」
エリー詠唱!生命の危機!大いなる主神イグドラシルの巫女を穢すものよ!滅びるがいい!ミストルティンバースト!
今度は蜘蛛女の脳を直接ヤドリギが伸びて貫通した。どうやらこれで死んだらしい。助かった。
糸をかき分けてエリーが話しかけてくる。
「無銘!生きている?」
「ああ。何とか生きている。ありがとうエリー。助かったよ。俺一人できていたら今頃死んでいたな。」
涙を堪えながらエリーが話しかけてくる。
「そんな悲しい事言わないで頂戴。貴方は絶対死なせないから。」
そういうとエリーの瞳からは大粒の涙が零れ出していた。余程ショックだったのだろう。
「おいおい泣くなよ。俺には不死刻印という物が刻まれていて二回までは死ねるんだからさ。落ち着くんだ!エリー。」
「一回だって嫌よ。貴方が死にそうって思った時、頭がおかしくなりそうだったから!もう絶対に軽々しく死にそうな依頼を受けないで!私も一緒に連れて行きなさい。」
参ったな。本格的にエリーは俺の前に膝をついて泣き出してしまった。
「分かった。君の事を二度と侮ったりはしないよ。誓おう。」
涙を急いで拭くエリー。そして口を開く。
「分かればよろしい。行くわよ。蜘蛛女は死んだわ。」
「ああ、行こう!依頼完了だ。」
エリー…もう絶対に無銘を死なせないわ。私が付いているうちはそんな危険な目に合わせたくはない。何でか分からないけれどそう思うの。私は無銘を絶対に失いたくない。それだけは私の真実よ。泣いている場合じゃないのは分かっていたけれど涙が出てしまった。私がもっとしっかりしないとだめね。あの蜘蛛女の様な強敵を私だけでも倒せるようにならなければ…
…頼もしいパートナーにエリーは成長したものだと嬉しく思う。小隊の事は胸のどこかに引っかかっているけれど、新しいパートナーに背を預けて生きていくのも悪くないさ。
その後俺達は蜘蛛女を討伐した事を狼と子羊亭の親父に伝えた。エリーが倒したと伝えると親父は目を白黒していたのが面白い。
「立派なパートナーとして当然の務めよ!」とエリーが胸を張る。
でも驚くのも仕方がない。何パーティーも冒険者を葬ってきた依頼を若くて小さいエルフが自力で倒してしまったのだ。
酔っ払い達がエリーの武勇伝を聞くために集まってきた。
「やるじゃないか!御嬢ちゃん。どうやって倒したんだい!」
「そうだ。俺達にも教えてくれよ。あんなおっかない化け物をどうやって相手にしたんだ?」
「天井に張り付いているのをね、エイッミストルティンバーストって唱えてヤドリギで串刺しにして倒したのよ。」
酔っ払い達に動揺が広がる。
「旦那はどうしていたんだい?おたくらの主戦力じゃないか。」
「俺は蜘蛛女に糸を吐かれてグルグル巻き。窒息死しそうになっていた所をエリーに助けてもらったんだ。」
「なるほどな。無銘の旦那は既にノされていたわけだ。それでお嬢ちゃんがねえ。」
「ああ。エリーがいなかったら俺は死んでいたよ。今回の手柄は全部エリーさ。認めよう。」
「そう言われると照れるわね。魔法のトラップを一緒に何個も解除したりしたじゃない。」
「そんな事もあったな。蜘蛛女の衝撃が凄すぎて忘れていたよ。」
「ともかく旦那もお嬢ちゃんも無事で帰って来たからよかったよ。オラッのめのめ~」
その後の酒場の話題はエリー一辺倒だったのは言うまでもないだろう。
カルベコの町で依頼を受け続けた事で、次の町に行く十分な資金もたまった。それにここにはもう依頼も無いようなので俺とエリーは名残惜しいが新たな町へと旅立つ事にした。
エリー…カルベコの町を離れるのに若干の寂しさを覚えるけれど、これでプリマスに向かう第一歩が踏み出せるのね。そう思うと胸がドキドキしてきた。約束の場所。誰にも危害を加えられないという神託の土地。そこへの冒険の新たな一ページが加わるのよ。
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