アヴァロンズゲート

八雲 全一

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八節 異邦人

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俺達は二十日程歩き続けただろうか、目標としている聖都レーヴェは眼前まで迫っていた。
二人でやる事も無いので話しながら歩く。いつもの日常だ。盗賊にも化物にも今はまだ目をつけられていないので俺もリラックスしていた。エリーは大きく手を振りながら歩いている。そうしないと俺の歩幅に追いつかないようだ。薄い笑みを浮かべたエリーが話しかけてくる。
「後どのくらい歩けば聖都レーヴェに辿り着くのかしら。」
「後二日ってとこだろうな。今回の旅は順調で何よりだ。」
「いつも山賊だったり、軍隊と闘いになっていたものね。」
「本当にプリマスまでの旅は命がいくつあっても足りないよ。」
「それは同意するわ。どれだけ闘ってきた事かしら。」
「両手で数えきれないぐらいは闘っているな。それだけは確実だ。」
「いつか闘いの無い世界に行きたいわ。のんびり過ごせる…。」
「妖精舞う島に辿り着けば問題ないさ。」
「そのために今日も今日とて歩かないとね。」
「そうだな。俺達にできる事はゆっくり歩くか急いで歩くだけだ。」
「空飛ぶ絨毯でもないかしら。亜空跳躍って遠距離まで飛べないの?」
「あくまで攻撃用の呪文に過ぎないからな。飛べて三十mが限界だろう。」
「そうなのね。結構不便だわ。世界中のどこにでも飛んでいけたらいいのにね。」
「それこそ神の御業の領域だろう。霊体になればそんな観念は捨てられるんじゃないか?死ななきゃならないが。」
「そうね。神様達はとっくの昔に死んでいるんだもの。ネームレス様もそうなんでしょうね。」
「きっと相当の手練れだったんだろう。女だてらに戦の神になるくらいだ。」
「私達が今まで戦ってきた敵なんて一撃なのかしら。」
「神の権能を使えばそうだろう。どれ程のものかは推測するしかないな。おれも霊信できるようになって日が浅い上にこちらからは話しかけられないからな。」
「…無銘。あれってアーマーじゃない。」
「何だって…確かにそうだな人類開放騎士団か?」
俺達は前方五十mほど先のアーマーを凝視した。人類開放騎士団のスピア及びナイトクラスのアーマーではない。スピアクラスは最下級量産型のアーマーで、ナイトクラスが騎士階級専用の高級量産アーマーだ。まさか上級指揮官機のパラディンなのか?
なぜこんなところに展開しているのだろう?追手だろうか?俺達の手で倒せるか?敵は一機やってやれない事はない…思考はどんどん加速していく。
アーマーの亜空跳躍!
な、なに!アーマーごとの亜空跳躍だと!そんな事が出来るのか?
アーマーから神声が発信される。
「こちら大紅蓮中華神アームドフォート部隊であーる!諸君ら穢れた人類は中華神の敵として認定されたため、地球上から廃滅しなくてはならない!」
「…理解不能だな。黒歴史の産物か?」
「一万年前の中華神戦争の生き残りの可能性が高いわ。」
「そんなに昔の機体が何故こんな所にいるんだ?」
「全く不明ね。ワープ事故でも起こしたんじゃないかしら。先方仕掛けてくるわよ。」
「諸君らは穢れた地球の人類だな!地球人五三六号発見!掃滅開始!ダブルレールガン展開!発射!」
黒歴史のアーマーからレールガンと呼ばれる武器が断続して発射された。無茶苦茶な乱射だが体をかすめる。ナイトイーターと同じ系列の武器。当たれば即死するだろう。それが二門もあるのだ。
「エリー!逃げろ。風圧だけで腕が骨折した。」
「回復!回復しなさい!無銘!」
回復祈祷!プライ!
俺の左腕の骨折が癒えていく。どう闘う?
「レーザーカノンはっしゃよーいはっしゃあよおいどぉん!」
アーマーが今度はレーザーカノンを乱射し始めた。寸での所で岩に隠れてやり過ごす。
俺達が人類開放騎士団で与えられていたスピアクラスがオモチャに見えるような性能だ。
ナイトイーターを物陰から構える!ナイトイーター孔天開始!発射!
胸部に命中!装甲がはじけ飛ぶ。被害中。
「オールレンジアタック!行けドラゴンシステム!」
小型の子機がこちらに飛んできてレーザーを発射し始めた。
無銘の詠唱破棄!女神楯!アイギス!
「私も天理展開するわ。」
天理展開…神の領域に達した特別な呪詛領域の事だ。最上位の威力や精度で呪詛が展開される。
エリーの詠唱!汝護り給え!七天の楯よ!顕現せよ!天理アイアスの楯!
岩の裏側まで回ってきた子機のレーザー攻撃を何とかいなす。
「エリー!俺は真言詠唱で行く!君もありったけで攻撃するんだ。」
「了解したわ。行くわよ無銘!」
無銘の真言詠唱!第三の虹の扉よりいでし覇王!トールよ!その怒りで現世を掃滅するがいい!掃滅のミョルニル!
雷の鉄槌がアーマーを叩き潰す。更に装甲がはじけ飛ぶ。中には…エリーよりも幼い少女だ。どう見ても助けを請う目を此方に向けている。血で塗れているがまだ助かる。レールガンとレーザーカノン、ドラグーンシステムも全部止まっている。
エリーの詠唱!偉大なるオーディンよ!そなたの巫女を穢す究極の害悪現れたり。グングニルを借り受ける!未来永劫の時の狭間まで消え果よ!ヘルレイズスパーク!
不味い!エリーやめろ。もう正気に戻っている!
「エリー!もう討つな!終わった。終わったんだ。」
「無銘!もう間に合わないよ。呪詛が発動してしまったら地球の果てまで追尾するの…」
衛星軌道上から神速のグングニルが降ってくる!俺はストームブリンガーで激突寸前の神槍に斬りかかり、グングニルを弾いた。衝撃で俺の両手が骨折してしまった。何とか間に合ったようだが、様子がおかしい。
少女が語り掛けてくる。
「お兄さん。助けてくれてありがとうございます。離れてください。この機体は私の心臓が止まると自爆するようになっています。もう私に残された命は少ないでしょう。」
「俺達の回復法術じゃ君を助けられないのか。」
「アームドフォートが破壊された時点で制裁の毒薬が全身を巡っているんです。私が負けた時点でもう…後三分ほどの命でしょう。ゲホゲホ」
怒りの表情に染まったエリーが叫んだ。
「そんなひど過ぎるわ。人を何だと思っているのよ。」
「貴女からは懐かしい気を感じます…この気…恵理射様ですね。」
「私はエリーゼ・ハーン。過去の世界では恵理射と呼ばれているみたいね。」
「そうなんですね。ここはそんなに未来なんだ。最後に私の知っている人や優しいお兄さんに出会えて良かったです。」
「過去の世界はどうしてこんなにおかしくなってしまったの?」
「全ては月の女神嫦娥様が地球人類に対して神との戦争を行うように洗脳した事から始まったと聞きます。私も洗脳されておかしくなった月の指導者にこのアームドフォートに乗せられて出撃させられました。」
「そんな…貴女は何年彷徨ったの?」
「この世界で五十年前に眠りから覚めて、道行く人を襲う化物と化していました。貴方達に終りにしてもらえて良かった…です。さようなら…」
「待て!駄目だ。死ぬな。何とかならないのか?」
「駄目…で…す。もう…心臓が…離れて…」
少女はそういうと絶命し、機体は爆散した。少女の御霊は天に帰っていく…

神々のログ!盗み見禁止!勅命
少女の天空に上っていく魂を補足!神様候補生!李桜花!アヴァロンが魂を接収する!
ここは…天界ですか…花吹雪、妖精舞う…
「私は死んでしまったんですね。神様候補生失格です。」
「そんな君でもアヴァロンはウェルカムだ。」
「貴女は…レンコさんですか?」
「しーっしーっ幼名は恥ずかしいからやめてよ!今はネームレスっていう立派な神名があるんだ。」
「それは失礼しました。ネームレス様。…私はこれからどうしましょう。」
「恵理射とあの無銘の行き先を見守るとしよう。一万年の閉じた円環の始まりであり終りを産むものでもある。まあ私達に時の概念は無用だけれどね。」
「はい。あのお兄さんの行く末はとても気になります。まだ天界にも神様としていらっしゃらないようですしね。」
「一万年前の現世で本物の中華神戦争の犯人を誰かさんが討ち取るまでこの円環は続いてしまう。それだけは避けられないだ。だから彼もまだ囚われのままさ。」
「人類との戦争の主犯は嫦娥様とお聞きしましたが、違うんですか。」
「私もこっちに来てびっくりしたけど、全然違うみたいなんだよね。非常に嫦娥に近いジェネシックコードをもつ誰かさんがいるみたいなんだ。それを天界では見つけられないから事態の収拾が時を超えて困難になっている。」
「全ては生きている彼ら次第ですね。」
「そう何度やり直しても最後に道を開くのは現世を生きているものだ。それは間違いないだろう。」
神々のログ停止

俺はそのあとぼぅっとその場で立っていた。ずっと何かを待ち続ける老人の様に…
「無銘…哀しいなら泣きなさい。」
「泣くための涙はとっくに枯れた。」
エリーの平手打ち。痛いな。
「泣けって言っているのよ。無銘。」
痛いな痛すぎて涙が出てきた。とめどなくあふれていく涙。ようやく流せた。俺はエリーより幼い女の子を殺してしまった。哀しいというより胸にぽっかり穴が開いてしまったような感覚だ。
「ようやく泣けたよ。ありがとうエリー。」
「もう二度とあんな下種な真似はさせない。行くわよ。」
今日はエリーに腕を引かれていく。まるで呆然としている大きな子供のような無銘の手を引いてエリーは歩き続けた。
その後、立ち止まって寝て朝起きる頃には、莫大な喪失感は俺の中では夢幻と薄らいでいった。でも忘れない。俺が命を奪った少女の事を俺は忘れたくない。
重たいものを心の中で抱えたまま。俺達は聖都レーヴェに到着した。
エリー…無銘は悲しむ心を失った振りをしているだけよ。本当はちゃんと哀しみ、悼む事が出来る筈だわ。あの女の子を殺してしまった事がショックとして尾を引かなければいいのだけれど。私もショックが大きかったけれど何故か無銘ほどは落ち込めなかった。私が無銘を引っ張らなきゃと思っている所が大きいのかもしれないわね。旅はまだ続くわ。こんなところで足止めを喰らうわけには行かない。聖都レーヴェは目前。無銘の魂が抜けてしまっても私が引っ張っていかないと。なんせパートナーなんだから。
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