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レベル1 勇者アレス

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惑星レヴァリイースは魔王に支配されている惑星である。人々は魔王に恐怖し、神の加護を受けた勇者が魔王を倒す。そのサイクルを幾度となく辿っていた。決してはき違えてはいけない。人類の敵は魔王とその眷属、魔族である。ゆめ人間同士で争ったりせぬよう…そう学校では教えられている。私、魔王は危険で近寄ってはならないこの世界の滅亡の最終スイッチを連射しまくる存在なのだ。そう人類の間では教えられているし、過ちだとも思わない。物心ついた瞬間に既に人間を倒していた。別に憎くはないけどハエがブンブン目の前を飛び交っていたら邪魔だろう。それを眷属と言うハエたたきで叩き落すのだ。そこに感情など無い。都合がいいことにここには黒歴史で使われていた兵器がごまんとごろごろしている。これで勇者やたまに迷い込んでくる正規軍の兵士や強盗などを撃退している。魔王城はいつでもウエルカムだ。どんな危険な変質者でも受け入れる。社会のセーフティネットと言っていいだろう。我ながら名台詞だな…これは。ウムウム。
こんな魔王城で私、魔王ラミアは何百年という悠久の時を過ごしている。強敵の勇者もあれば歯ごたえの無い勇者もいる。当物件は人間たち最大のコロニー、ザレフガルドから海を渡ったところにあるので、海さえわたれれば誰でも侵入が出来てしまうのだ。魔王の掟で私も雁字搦めにされているので人間に侵入されないように処置ができない。
これは非常に不服を覚えているところである。確かに暇つぶしにはなるが、食事時でも風呂時でも人間どもはお構いないしだ。何故人間をシャットアウトできないのか?どうせ入ってきても羽虫の様に叩き落されるだけだ。そんな連中など放っておきたいにもほどがある。
それでも魔王法の定めるところによると人間の為に魔王城は解放しなければならないとある。無茶苦茶な話だ。初代の魔王など聞いた事も見たことも無いがこんな掟を作った奴は馬鹿だと言える。魔族ファーストで作るべきだとは思わないかね?画面の前の君の意見も聞きたいところだ。
「魔王様。また一人で考え事ですか?皴が増えてしまいますよ。」
「うるさいな。ロキ。君は私の部屋の掃除を終えたら早く洋間の掃除をしなさい。この間の人間の体液が付着していたぞ。うちは清潔第一だからな。そこ覚えておくように。」
小間使いの少女悪魔ロキが下らないことを突っ込んでくる。魔王の私室で色々と考え事をするのは私の癖だ。邪魔をしないでもらいたいものだ。
ロキは私がまだ新人の魔王だった時に召喚した悪魔だが全然年を取らないので何だかムカつく。クソ…肌の事や外見を一切気にしていないのにプルプルしているのは反則だろうと思う。
こっちがどれほど苦労してお肌を維持しているだろうか?魔界コンニャクパックに泥風呂、サウナ、魔界マッサージ等莫大な時間と労力を私は使って美貌を維持している。ただでさえ化粧をしていない時間に平然と勇者が押し入ってくるのだ。私も用心を欠かせない。魔王のすっぴんは残念でした…と言い触らされても困る。勇者は死んでも聖恩協会で即座に蘇生して、そのほかの魔王城を狙いに行く。まあ大抵は根性が無いので、もう一度私の魔王城に攻め込んでくる事はない。つまらない連中だ。冒険心という物がないのだろうか…一度倒されただけで諦めてしまい。乗り込むのを放棄する。それではあまりにも残念極まりない。いや私としては人間に攻め込まれるのが不快なんだよ?そこは理解を過たないで欲しいところだ。暇つぶしにはなるが勇者が来ても一文の得にもならない。
悪魔的住民税が魔王城の盤石たる基盤を支えている。
「ラミア様!勇者が来ました。迎撃どうしますか?」
「オーク部隊百体!オーガとでっかいオークも混ぜ混ぜでよろしくだ。」
「分かりました。仕事ですわ!みなさーん。」
ロキがそう声をかけると種々の魔物が大広間に顕在していた。このまま中庭まで攻め込ませよう。
「よし!ラミアだ!中庭のブローニング機銃とバレット狙撃銃で武装して勇者を迎え撃て!でかいのは私の近くで待機しろよ。」
勇者は中庭に侵攻開始した。銃撃を剣捌きでいなしているようだ。ヘッドセットで見れる戦況で久しぶりに驚いた。銃弾をいなせる勇者がいるのか。ブローニングの鈍い咆哮をものともせず勇者は機銃座に飛び込みなます切りにしていった。狙撃班引き付けよーい。発射!
勇者の左腕に五十口径対物狙撃銃弾が着弾した。身悶えするものの回復呪詛で治療をしたようだ。
いやいや体の頑丈さが幻想種並みね。おかしいったらありゃしない。バレットで狙撃していたオークも投げナイフで片付けられてしまった。不味い。中庭を抜かれる。そうすると私が控えている大広間だ。でっかいオークに頑張ってもらうしかなくなってしまう。
「でっかいオークとえーとあとオーガ!勇者をやっつけてしまいなさい!」
「あいよ!」
「わかりましたー!」
気のない返事だ。どうせ死んでも幽界に戻るだけなのだから感覚がお気軽なのだろうか。これだから魔物は嫌だ。こっちは受肉して生命の危機にさらされてるっていうのに。
「ここか魔王のいる間は!勇者アレス参るぞ!」
うーん…結構イケメンかもしれないわね。肉の器にしては美しいじゃない。殺すにも惜しい…ここで飼い殺しにしたいわ。
勇者に向かっていくでっかいオークとオーガ。しかし勇者の究極の連撃の前にあえなく命を散らしてしまうのであった。
勇者流!究極十字斬!爆裂斬!燕返し!隼二連!
「うーん限界ですね。」
「やーらーれーたー。」
そんな間抜けな声を上げてやられる従者たち。私がやるしかないのか。重い腰を上げる。
「お前が世界を支配し混乱に陥れる魔王か…美しい女人の姿で俺を惑わそうとしても無駄だ。さあ黄泉路へ旅立つ時が来たぞ!女魔王。」
「それはこちらのセリフだ。下品で汚らわしい人の器を抜け出しきれない蛆虫よ。我が究極の呪詛の前に消え去るがいい。」
あーめんどくさいけどあれやるか…ここまでこれたご褒美。カオスアルティミットヴァジュラ!カオスコスモイグニッションフレア!これ適当に見えて究極呪術。
魔王の究極級の神代魔術を前に勇者はズタボロのぼろきれの様に何度も床に叩きつけられた。今の彼を見て勇者と称賛するものはいまい。体の中のオドも防御呪文に回していた所為で尽き果てている。
「まだ俺は死んでないぞ。魔王!俺の村の勇者を葬り去った魔物の蛮行赦すわけにはいかないのだ。魔を統べるもの魔王よ!消え果よ!光の女神の加護!全ステータスランク不明強化!」
勇者を輝かしい光が包み込む。暗雲立ち込める魔王城の中でもここだけが光の神の領地だと主張するようだ。勇者は最後の一撃を掛けようとしていた。捨て身の本当の最後の一撃。命の花びらを最後の一片まで燃やし尽くすその名は…
「アルテマゴッドスパーク!」
どこかダサい名前だが死ぬ気の一撃を放ってきたことにラミアは動揺していた。
「どうしようこれ死んだあと蘇生しない奴じゃない。肉の器と言え貴重なイケメンが死ぬ。でも…その心意気で私にぶつかろうとするのは良し!受け止めてやろう!」
ラミアの詠唱!カオスグラビティブレイク!勇者を重力の一撃が叩き潰す。あと一歩のところで彼の剣先はラミアには届かなかった。
アレスは全生命力エネルギーをほぼ使い果たしたので瀕死になったが、すぐに聖恩協会のサポートが入り、近場の聖恩協会に転移していく。
フフッ久しぶりに骨のある勇者じゃない。我が魔王城は夜間を除きイケメン勇者様ウェルカム何時でもどんと来なさい!私が受け止めてあげるわ。
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