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86、のんびりした昼下がりの午後
しおりを挟む「美味いでござる! 美味いでござるぅ!」
涙を流しながらご飯を食べるトシゾウと、激しく飛び散るご飯。
「あんた、もう少し落ち着いて食べなって」
呆れ顔のアリスさん。
「アリス殿の料理は世界一でござる!」
「‥‥‥ありがとう」
調教開始から3ヶ月。
トシゾウはある程度走れるようになり、腕立てと腹筋も30回出来るようになっていた。
元々上背もあり良い体格をしているのだから、やればできるのだ。
そして何よりも変わったのが見た目。
そう、トシゾウは痩せた。
たるんでいた顔は引き締まり、腹のブヨブヨもかなりへこんでいる。
今まで部屋から出ることすらほとんどしなかった男が、この短期間で良く頑張ったものだと思う。
「拙者は幸せでござるぅ!」
「‥‥‥相変わらず大袈裟だね」
トシゾウはアリスさんとも、普通に会話出来るようになっていた。
「ニア殿が羨ましいでござる。いつもこんな美味しいご飯を‥‥‥」
「トシゾウさんも、アリスさんの宿屋に泊まれば良いんじゃない? 毎日食べれますよ」
パンを口に放り込みながら俺。
「むむっ! そんなことが許されるのでござるか?!」
チラチラとアリスさんを見るトシゾウ。
「‥‥‥別に客で来るなら泊めるけど?」
「本当でござるか!」
急に立ち上がり両腕を突き上げるトシゾウ。
「‥‥‥だから、あんたは大袈裟なんだよ」
「嬉しくて泣きそうでござる!」
すでに泣いているのだが‥‥‥。
「私もここを出たら、アリスさんの所に行こうかしら‥‥‥」
俺の隣で頬杖を付いているイレイザ。
「‥‥‥イレイザは魔王城に戻りなよ」
「ダーリンと離れたくないわ」
‥‥‥そうですか。
「さて、トシゾウさん食べ終わったら、昼からは外に行きましょうか」
「走り込みでござるな。頑張るでござる!」
目をキラキラとさせながら、ご飯を掻き込むトシゾウ。
良い顔をしている。
──そろそろかな。
祠の外に出て、準備運動をするトシゾウ。
──今日も良い天気だ。
「ニア殿、いつでも良いでござるぞ! 今日の拙者は燃えているでござる!」
アリスさんの宿屋に泊まれるのが、相当嬉しいようだ。
「じゃあ今日はいつもより、厳しくしましょうかね」
「どんと来いでござる!」
俺は遥か先に見える山を指差した。
「トシゾウさん、行ってみましょうか」
「‥‥‥遂に目標の山に向かうでござるな」
「日が暮れるまでにあの山にたどり着いたら、目標達成ってことでどうです?」
「面白いでござるな。ニア殿、成長した拙者を見て驚くが良いでござる」
ニヤリと笑うトシゾウ。
「是非驚かせてください。俺は先に行って待ってますんで」
「任せろでござる! 根性で時間内に走り切るでござる!」
「では。よーいスタート!」
山の麓。
祠から俺の足なら走って30分程。
そこいらのモンスターに小石を投げて殲滅中。
道中で目に付いた個体も、一応倒しておいた。
「一応ね‥‥‥」
人間にとって脅威でしかないモンスター。
本来なら、そのモンスターがうじゃうじゃといる森を、普通の一般人よりはっきり言って弱いトシゾウが走るなど、自殺行為でしかないのだ。
──創造主か‥‥‥。
ここ数ヶ月一緒に居てわかった。
モンスターはトシゾウを襲わない。
二人で森を走っていても、隣の俺には攻撃してくるのだが、トシゾウには全く反応しないのだ。
トシゾウが創造主であることを再確認させられた。
「さてと」
ドサッ。
ある程度モンスターを倒した俺は、山の斜面の草原で寝転がって空を見ていた。
──やっぱり良い天気。
陽の光がポカポカと暖かい。
「‥‥‥女神様、怒ってるかな」
祠から外に出ているので、おそらくここ数ヶ月の俺とトシゾウの姿は女神様に見えているだろう。
殺せと言われたにも関わらず、仲良くジョギングしているのだから、絶対に怒ってるはずだ。
女神様がトシゾウを殺したい程憎むのには、それなりの理由はあるのだろう。
──トシゾウはそんな悪い奴じゃない。
どういう経緯で創造主になったのか、或いは産まれた時からそうなのかは知らないが、力を手にし過ぎた人間はおかしくなる。
たぶん、トシゾウは我儘になっていただけなんだ。
──そう思いたい。
「みんな仲良く出来ないものだろうか‥‥‥」
暖かい日差しが降り注ぐ穏やかな草原。
草花の匂いがいい感じだ。
こんな陽気で、難しいことを考えていると眠くなる。
トシゾウがここに辿り着くには、まだまだ時間がかかるだろう。
俺はゆっくりと意識を手放した。
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