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序章

第0話 プロローグ

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終電間近で急いでいたのか、もしくは相手が急いでいたのか
よく覚えていないが一瞬の事だった。

雨粒が車のライトに照らされて宝石がちりばめられた世界を作り出したかと思えば、一瞬で俺は空中に舞っていた。

ドンッ!!

雨粒が作り出す雑音がその音と共に掻き消えたかと思うと静寂が訪れ、世界が回転しながらゆっくりになっていく。
散りばめられた宝石と回転もあいまってさながら万華鏡の様な光景が視界に広がる。


死にそうなほど痛い、うん...死にそうなほど....


死にそうなほど、で思い出したが以前にも死にかけた様な....


あぁ、あれはネットで話題になっていた某銀行の金融システム開発という
ピラミッド建造以上の工数を持ったファラオもビックリなプロジェクトに参加したときだ。
下請けに投げればいいものを...あの時ほど無能上司と営業を恨んだ事はない。


ギネス記録を塗り替えそうな勢いで徹夜が日常化し、最終日には夜なのに周りが
明るいという薬物中毒者の様な幻覚を見た覚えがある。
目の前で倒れていく仲間たち、絶え間無く続く攻防(仕様変更)まさに現代の戦争だった。


ブラックの真髄IT業界でプログラマーとして数多あまたの戦争(死の行進デスマーチ)を生き抜いてきた俺だがここで死ぬらしい。

睡眠&休養不足を除けば報酬とやりがいは、それなりに良かったので満足していた。
最後に妻と子供を残してしまうというのが本当に心残りだ...。

俺は思い返すことを全て吐き出した後ゆっくりと現実を受け入れる。



そして景色が段々と速度を上げて世界を再生し始めた。


そうして、この物語の主人公コウの前世は幕を下ろすのだった。

「おは...う。..。」

おかしい...現在は死の行進デスマーチ中では無いはずなのに幻聴が聞こえる。
貴重な睡眠を妨げられたくないので俺は言い訳を適当に呟く。

「もう少し寝かせてくれ...ビルドするものならさっき共有サーバーにアップしたはずだろ...」

「もう何言ってるんですか!起きてください。」

どうやらアップしたものにバグが見つかった様だ...上司に怒られないうちに起きるとするか....

「はいはい...ってアンタ、誰?」

俺の目の前には翼をばたつかせている女の子がいた。

「私はこの世界を司る女神だよー」

「あーはいはい、上司が変わったんだな...って可愛いな。」

女神と思わしき上司は照れながら頬を膨らませて怒る。

「違うー」

俺は会社ではない、を必死に見渡す。
重力の少ない水中のようで、見通しが良い不思議な空間にいた。

「ってどこだ?」

女神はニコリと笑いながら残酷な現実を突きつける。

「やっと理解してくれたね。君は死んじゃったんだよ。」

この言葉心当たりがある。貴重な癒しの一つ、深夜アニメでよく見た展開だ。

「もしかして、異世界転生か?」

「あったりー!なら話が早いや、できるけどする?」

そんなわけで、どうやら自分にもそのチャンスが回ってきたらしい、
おそらく20半ばにして一生分は働いたと思うのでそのお陰だろう。

俺はのんびり異世界を満喫しよう・・・そう心に決めた。

そしてお決まりの展開になりそうなので・・・条件付きで返答を即座に返す。

「特典付きなら考える。」

「んー?特典っていうのはありきたりな便利スキルとか?」

「そうだ。例えば不老不死とか無敵に近いものだな」

「はぁ...」

女神はため息を付き呆れ顔をする。

「君は本当に何も分かってないね。」

といった言葉が出てきそうな、あの態度は見ただけで人を不快にさせる態度No1だ。

上司に散々その行動を見せつけられ、そう言った耐性が付いているにも関わらず
いざ見るとやはり腹が立つ。

まぁ強力な特典獲得という重要イベントの前には些細な事だ。

「みんなそう言うよね。まぁ恒例で一つはあげてるし、いいよー。」

俺はお決まりの転生先ので目的を聞いておくことにする。
いざ転生して「んじゃぁ魔王狩って来てくださいね!」と言われようものなら、
たまったものではない。

「やはりけっこう転生者っているんだな。転生の目的とかあるのか?」

「いるよ。基本的に自由だけど魔王退治とかがメインかなー。」

まぁ強制で無いのならやらずに放置だろうな...
裏で『魔王倒しちゃったので前世に帰還してね』イベントが発生しても困る。

嫁と子供には悪いが...

ついでに女神様の目的も聞いておくか。

「じゃなくて、アンタの目的だよ。」

女神はそれを待ってましたと言わんばかりの笑顔で返答して来た。

「それが特典ってことでいいかな?ふふっ」

うまく探りを入れたつもりが女神に一蹴いっしゅうされてしまい沈黙で否定するしかなかった。
この女神アホな様で前世の無能上司よりも賢い様だ。

会話が続かないと判断した女神が続けて呟く。

「冗談、冗談。私これでも元転生者なんだー」

意外な言葉が返ってきて、少し驚くとともに目的について大体理解した。
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