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中等部編

第46話 絶望の果てに

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「さぁ決着だな。」

俺は聖剣をリンにかざしていた。
「くっ!」

次の瞬間鈍い金属音が響き渡る。
俺は空から降ってきた物を見逃さなかったのだが、そのせいで同時に動揺していた。
「なに!?」

どういうことだ・・・。
そこには俺が手にしている剣と同じ剣が雪原に刺さっていた。

とっさに降ってきたであろう上空を見上げると、そこには見慣れた姿があった。

「ギリギリ、間に合ったかな。」

相手は動揺する様子もなく、この事態をすべて知っているようだった。
「待て!どういうことだ!お前は誰だ!?」

「俺はコウ。正確に言うとオリジナルのお前だな。」

「は?どういうことだ??俺が本物のコウだろ??」

「あぁ、お前はそいつに作られた複製体だ。」

もう一人のコウはテムの方を指さしていた。

「どういうことだ!?」
俺は動揺して、いまいち状況が読み取れなかった。

それを脇目にテムとアルは呑気に雑談をしていた。
「あちゃー・・・バレちったかー」
「兄貴がもう少しの所で本体を取り逃したせいだろ。」

「どういうことだ!二人共!!」

しばらくして、ぼんやりとだが記憶が蘇ってくる・・・・。
ナシェを救うためにRLVで飛び立った俺達だが、途中で地上から謎の攻撃を受けとある国に不時着した。
そこで奇妙な二人と交戦になり、命からがら逃げ切ったはず・・・・だった。

まて、そこからの記憶がほとんどない。
俺は破壊(アル)と創造(テム)を指差し呟く。
「お前たちと交戦になったのは知っている!だがそこからの記憶がほとんど無い!」

破壊が鼻で笑う。
「ふっ。」
頭で手を組みながら創造は呑気に呟く。
「あぁ、だって複製体だからね。そりゃ無いさ。んで本体さんを殺しに向かわせたはずなんだけどなぁ。」

それを聞いて、今までの出来事に合点がいき、俺は歯を食いしばる。
俺が砦のようなところで監禁されていたこと・・・。
リンとアカネがやたら好戦的だったこと・・・。

「くっ!!」

「まぁ君のおかげで、のこのこと本体さんが出てきてくれたから結果オーライだけどね。」
「そういうことだ。じゃぁな!」

破壊がリンに向けて手をかざす。

「危ない!!」
とっさに俺はリンをかばい攻撃を受けた。

「がはっ・・・・・」
一瞬だった・・・俺は何故か、地面に伏せていた。

本体のコウはその瞬間に異常に気がつく。
「自動で回復されないだと!?」

「アハハハ、だって僕たちが君のシステムを掌握したからね。」

タブレット端末を操作するも画面は真っ暗なままであった。
そして二人の手元にあるタブレット端末を見て本物のコウは呟く。
「馬鹿な!」


もう一度瞬きをすると、そこにはなぜか泣いているリンがいた。
「コウさん!?」

どうやらは俺は半分以上体を欠損して、瀕死に近いようだ。
最後の気力を振り絞りもう一人の俺に伝える。
「ナシェやリンたちを頼む・・・・」

「あぁ。」

「コウさん・・・・わ、私ずっとあなたを愛しています!これからも!!」

「あぁ・・・お・・れ・・・も・・・・・だ・・・」

リンが強く手を握ってくれるが・・おかしい・・・握リ返す力が入らない・・・。


次の瞬間、複製体としての俺の体が塵となって消える。
リンは呆然と座っていた。
「コウ・・・・さん」

二人は手を広げてつぶやいた。
「アハハハ、僕の使い捨ての人形さん死んじゃったね♪おかげですべてを掌握したよん。」
「じゃぁ知己!!僕らにすべての力を!」

二人の持っていたタブレット端末から知己の声が聞こえる。
「はい、承知しました。アカシックレコード起動します。」

次の瞬間二人の目が赤く染まる。
「アハハハ、すごい!!すべてが見えるよ!この世流れ、森羅万象ってやつがね。」
「あぁ、すべてが可能になる。今なら神になることさえたやすいな。」

「コウさんを・・・・よくもっ!!!よくも!!」
リンがビームを繰り出す。

二人は網目状に複雑に絡み合ったビームの魔法を難なく避ける。
「ん、その程度ね。」
「まぁ、こんなものだな・・・・邪魔だ!」

破壊が手をかざし漆黒の空間で生み出す。
アカシックレコードにより必中となっていたことを察したコウはどうすることもできなかった。

「リン!!」
とっさにリンを抱きしめる。
「ばいばーい!本体さん!」

次の瞬間、真っ白な光が漆黒の空間を相殺した。

「何っ!?」

光の中から手をかざしていたアカネが現れる。
「ギリギリといったところね。」

「アカネ!!」
「アカネさん!」


「あぁ君も、システムを使えていたの忘れていたよ。それで予言できなかったわけだ・・・」
「あいつもほしいな。」

「まずい!アカネ!!」
創造が手をかざすと複製体のアカネが周辺に次々と現れる。

「ふふっ、もう遅い。これで本当に終わりだね。」

しかし次の瞬間複製して配下に置いたはずのアカネが創造に襲いかかる。
「深淵魔法・・・・」

「させるかっ!」
とっさに破壊が魔法を消滅させる。

制御下に置いてある複製体に裏切られたことにより創造は動揺していた。
「馬鹿な!僕の複製は完璧のはず!?」

「えぇ。完璧ね。私のナノマシンを完全に再現しているわ。」

「ナノマシンだと!?それごときでっ!!!」
創造がアカネの複製体を複数召喚する。
召喚したはずの複製体はアカネの方には向かずに、創造の方に向いていた。
「無駄ね。」

アカネのナノマシンに自我はなく複製された瞬間、アカネの意識を自動的に人工衛星経由でダウンロードする。
わかりやすく説明するなら創造が複製したのはスマホだけで、中身のソフトウェアは空っぽだったのである。
まさに創造に対してアカネは天敵であった。

「ならこれでどうだ!!!」
創造がコウの複製体を5人召喚する。

聖剣を構えたコウたちがこちらを睨み付けていた。

「まずいわね。」
「コウ・・・さん」
リンはともかくアカネは状況を冷静に分析できているのか弱気であった。

物量無限の創造とほぼ物量無限のアカネ・・・。
この状況、創造とアカネ同士が戦い合うと泥仕合になるのは明白。
何ならシステムをほぼ掌握されている分、こちらのほうが不利であった・・・。

だが、打開策が無いわけではなくその万が一の可能性をかけて俺は呟く。
「あぁ、二人共任せろ!」

「へー、この状況でまだ余裕なんだぁ。じゃぁ見せてよ切り札。僕たちが退屈しない内にさぁ!!」
「さぁ、最後だ、自分たちと殺し合え!」

「あぁ、最後らしいな。」

「あ?何を言って!?」

完全複製・・・ほぼ無敵と言っていい能力であるが、コンピュータの世界にいればほぼ日常のように使う。
当然その疑問を目の前にすることもある。

俺は二人を指さしながら呟く。
「んで、お前らもその使い捨ての人形ってわけだ!」

「あ!? 勝ち目がないからって今更!!何を言ってる!!」
不意を突かれた二人はこちらを睨み付ける。

「だってそうだろ、じゃぁお前らの一番古い記憶はなんだ?」

「あ?んだって、そんなもん何処にでも・・!!」
「!?」

その言葉に二人はうろたえる。
そう、二人にも途中の記憶がなかった。

「そうだろうなぁ!俺だったら複製体をポンポン出して相手を倒してくるのを待つからな。」

「お、俺は・・・・・」

「今頃、本体様は世界の一番安全なところでお前たちがボロボロになるまで見てるだろうな。」

その言葉を受けて一番影響のなさそうな創造が頭を抱えだす。
「あ・・・・・・あ・・・・・・」
「兄貴、気にすること無い。こんなやつのこと・・・・・」

「だまれっ!!偽物っ!!」
「何を・・・!?」

「お前だって何体目か、分からないくせに!!」
「兄貴!?」

余裕振っていた創造が暗い表情をしてこちらに呟く。
「お、俺達はなんのために・・・・・」

「さぁ、俺なら本体さんを世界中で探し回るなぁ。」

「よくも兄貴を!」
破壊がこちらに手をかざすが創造がその手を遮る。

「もういいんだ。こいつらはどうでもいい。本体を見つける。」
「!?・・・・・あぁ・・・わかったよ兄貴。」


次の瞬間複製体が塵となる。

破壊が創造の肩を担ぐ形でゆっくりと歩き始める。
「お前らとはいずれ会うかもしれないし、会わないかもしれない・・・じゃあな」



次の瞬間小石が創造の背中に当たった。

「!?」

俺はそれに戸惑い、投げられた方向を見ると必死で涙を堪えるリンの姿があった。
「わ・・・、私の・・・・コウさんを返してよ!!」

それに腹を立てた破壊が怒鳴る。
「あ?ガキ、潰されてえか!?」

「何?、あんただって兄貴殺されたら怒るじゃない!」
「っ!?」
破壊は感情的に反論されて言い返すことができなかった。

「騙されても必死で私を守ってくれて最後は思いを残していってくれたのに・・うっ、うっ・・」
感情が決壊したリンの号泣した声だけが辺りに響き渡る。

俺はその感情に押しつぶされそうになるもリンをしばらくしてから抱きしめる。
「リン、大丈夫だ・・・俺が居る。」
「コウくん、ありがとう・・・・」

創造がぼそっと呟く。
「すまなかったな。」

リンが泣きながらも創造を睨みつけて、恨みのこもった声で呟く。
「私・・・絶対お前たちを許さない!!!お前たちが世界中を探すなら私も、世界中お前たちを見つけ出して殺す!!」

「あぁ、わかった・・・」

二人はその後白い雪の中に消えた。
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