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亡国の姫君編

第61話 純粋無垢

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ここへ来てようやく少女達は、熾烈を極める王女の勢いを意識し始めたのか、モニカ優勢の陣形を組み直していた。
この騒動の元となったあの杖は、開発者共に触れるだけでも危険な薬液の入った壺に沈められ少女達の厳重な監視下に置かれた。
あの虫眼鏡も含めて豊富な手札を持つ王女は依然として泰然自若な様子を保っており、少女達もそれを感じ取ったのか不穏な空気が漂っていた。

「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。」

「いえ、私は何も緊張などしていませんよ!」

そう言いつつ緊張の糸を緩めようとしないリンに見守られながら、俺と王女は机越しに話し合っていた。
大量に山積みされた金塊を見て少し表情を強張らせた後に王女は口を開いた。

「にしても、これほどの財・・・個人で持つにしては多すぎますね。やはりその秘技はズルです・・・。」

「ズルというか、そういう事が得意だっただけだよ。フィオナと同じような職業だったからな。」

「多くの者を指揮して統率していたと?」

「あぁ、人ではなく物の方だが・・・。」

両者の間でその様子を見ていた少女は腕を組み直した後に、ジト目で不満そうにこちらを見てくる。
「フィオナ・・・そう呼んでいるなんて、お二人とも随分と仲が宜しいようですね。」

「えぇ、どうやら私達は赤い糸で結ばれているようなので。」

その言葉を聞いた少女は笑顔で王女に手を見せる。
「今、此処でその糸を貴女ごと断ち切ってもいいんですよ?」

「まぁ!怖いですね。」

「リン、これは違くてだな・・・・」

「何が!どう!違うのか!後できっちり説明してもらいますからね!」

「ふふっ。あなたの赤い糸も随分と繋がっていそうですけれど。」

「当たり前です!繋がりすぎて編み物が出来るぐらいです!!」

「繋がるというか・・・絡まったの間違いじゃ・・・。」

「どうやら今夜、仕立て直す必要があるみたいですね。ってどうしました?王女様。」

王女は安心するように手を合わせながら微笑んだ。
「いえ・・・てっきりその編み物はあなたのお腹に・・と思っていましたが安心しました。」

王女の言う、編み物の意味を理解した少女は赤面しながら慌てだす。
「お腹?・・・はっ!?居ます!居ますとも!!」

「お、おい。リン・・・。」

「まぁ!そうでしたか。」

「王女様まで・・・やめてくれ。冗談だ・・・」

「あの時みたいに、フィオナで構いませんよ?」

「あの時って・・どういうことですか!!」

「ふふっ、面白い方ですね。」

王女は微笑んだ後に羊皮紙にサインをする。
「金貨40万枚相当・・・確かにいただきました。」

「まさか、リンまで王城で魔法を放つとは・・。」

「私だって、心配したんですから!それに頼るって言いましたよね・・・。」

「すまない。」

「今回の作戦でマイルは内密に動きたかったそうなので・・・。」

「そうでしたか・・・。コウさん、今夜は私と寝てもらいますから!」

「あぁ、分かったよ。」

「ふふっ、私もご一緒しましょうか。」

少女は渡すまいと俺を抱きしめてくる。
「王女様はダメです!コウさんが惚れてしまいます。」

「まぁ!残念ですね。」

「はぁ・・・・勘弁してくれ・・・・。」

・・・

寝室のベッドで俺は少女の赤い髪から漂う甘い匂いに包まれながら抱きしめられていた。
日頃の鍛錬の成果なのか、彼女の引き締まった体は程よい暖かさでこちらを包んでくる。
少女はこちらの腰と背中に手を回して、こちらを求めるかのように力強く押さえてくる。

「リン、痛いから離してくれ・・・。」

「嫌です・・・。もう何処にも行かないでください・・・。何なら一生養いますから。」

「面倒くさい彼女みたいになってるぞ・・・。」

「コウさんを守れるなら私は、それで良いです。」
そういうとこちらに顔を埋め、更に力強くこちらを抱きしめてきた。

「どうしてそこまで・・・・。」

「前も言いましたが、コウさんは修学旅行の時から私の憧れだったんです。」

「あぁ、知ってる。でも俺は転生者で、王女様のいうズルの力でやってきたに過ぎない。」

「だから、あなたを越えられた時嬉しかったんです。やっと守れるときが来たって。」

「リン・・・。」

目の前の少女は頬を膨らませながらこちらを見てくる
「それなのになんで、私に内緒で王女様とデートを?」

「なんで分かって・・・。」

「あのやり取りでバレバレですよ。女の勘を甘く見過ぎです。」

「うっ・・・。それにしてもやりすぎだろ・・・。」

「そうですか??んっ・・・・」

俺は目の前の少女と、かれこれ20回以上はキスを交わしていた。
無論唇だけではなく首周りにも5箇所以上キスマークが付けられていた。

「ちょっと待ってくれ・・・。流石に息が切れて・・・」

「私を出し抜いて逢引していたんですから、今夜ぐらいは甘えさせてくださいね。」

「あぁ、分かったから!ちょっと待って・・・ッ!!」

少女は馬乗りになりながら何かを貪るようにこちらの両手を抑え、唇を求めてくる。
こちらが油断していると少女はさらなる刺激を求めて、舌を入れてくる様になっていた。

「コウさん・・・もっとです・・・」

「あぁ・・・」

うっとりとしながら顔を上げる。
「はぁっ、はぁっ・・・。これで、赤ちゃん出来ましたよね・・・。」

「は?・・・・・あぁ、そうかもしれない・・・な・・・」

その言葉を聞いた俺は唖然としていた。
キスをされすぎて感覚が麻痺しているとかではなく・・・たった今麻痺してしまったのだが・・・。
いつも真剣で真っ直ぐな、目の前の少女の真っ直ぐすぎる知識に驚いていた。
(待て待て・・・どういう・・・。)

少女は真っ赤になりながら恥ずかしそうに下をうつむく。
「いや、1回でも危ないんですから!初めてされたときは焦りましたよ!!」

テウリアの出来事で、てっきり少女はそういう事を知っていると思っていたがそうではなかった。
目の前の少女は学園では風紀委員である・・・純粋であるがゆえに・・・あの元嫁に高く評価されていた。

「リン、モニカが普段俺に何をしようとしてたか分かるか?」

「えっ!?当然キスじゃないですか!!なぜ服を脱ぐのかは分かりませんけど・・・。」

「そうだよな・・・。」

ここで目の前の純粋無垢な少女に事実を突き付けて良いのか、俺は苦悩し始めていた。
(待て・・・リンの先輩であるアカネも、これまで事実を伝えていない・・・ということは・・・。)

「でも不思議と、お股が熱くなるんですよね・・・・・何でなんでしょうか。」

「あぁ・・・・な、何でだろうなー」

俺は目を逸らしながら、吹き出しそうになるのを必至で堪えていた。
文武両道の優秀な少女は、ナシェがまともに見えるぐらいに天然だった。

「もしかして、もう赤ちゃんが!!」

そういいながら少女はお腹を嬉しそうに擦る。
(そう、その感覚は正しい。正しいのだが・・・・)

「あぁ・・・そうだな・・・。」

優秀な彼女であれば、真相を知った途端、モニカを超える勢いでそれに耽るだろう。
間違った知識とはいえ、必至でこちらを求めてきたことから想像に難くない。
そして俺は屋敷の露天風呂での出来事を思い出していた。
(そういうことだったか・・・・)

俺の知っている少女達は本来は興奮するだろうあの展開に、目の前の少女は焦りもせずに抱きしめてくれたことに。
そのおかげで一念発起してナシェを救うことが出来たのだが・・・。


俺はゆっくりと服を脱いだ。
目の前の少女は興奮するどころか不思議そうにその様子を見つめている。
何処かの変態少女のような気分を味わった俺は羞恥心で死にそうになっていた。

「コウさん?何で服を脱ぐんですか?」

「そうか・・・。ごめんな、リン・・・。」

「えっ?何がですか!?」

「いや、なんでもないよ・・・。」

俺はゆっくりと少女に優しくキスをした。

・・・

翌朝、部屋から出た俺は待ち構えていたであろう王女に挨拶をした。
「おはよう王女様・・・・」
「おはよう御座います。コウさん・・・」

首元に多くの赤い斑点を付け、げっそりとしていた少年を見て微笑む。
「昨日はたっぷりと絞られ・・・いえ、搾られた。と表現したほうがよろしいでしょうか?」

「おい・・・。」
「はい、王女様に興味が持てないほどたっぷりと!搾り取らせていただきました。」

隣でこちらに抱きついている少女は、対抗心に薪を焼(く)べながら笑顔で最大火力を維持していた。
腕にかかる力から、その火の勢いはしばらくは衰える事がなさそうだと判断した。

「リン・・・。」

「ふふっ、こちらも負けていられませんね・・・」

「王女様はそのまま負けてください!」

「えぇ、敗者は敗者なりにこの国を守ると致しましょう。」

そういうと王女は一枚の紙を渡してきた。

「これは?」

「パーティーと言う名の作戦会議とでもしましょうか。」
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