ものひろいの能力もらったけど魔法と恋愛に夢中です。

紫雲くろの

文字の大きさ
63 / 67
亡国の姫君編

第62話 悪い虫

しおりを挟む
王城の大広間では、午前中にもかかわらず社交界のような優雅な雰囲気を醸しながら作戦会議が行われていた。
純白のシーツが掛かった大きなテーブルに普段とはまた違った豪勢な料理がこれでもかと言わんばかりにならんでいる。
その近くで見慣れないこの国の要人と思われる人物たちが飲食をしながら壇上の王女の説明を聞いていた。

タブレット端末で見たであろう電子戦の情報を元に手書きでスケッチされた資料が壁に貼られ、それを次々と雄弁に説明していく。
それらは当初彼女が目を輝かせるほどのエゴに過ぎなかったが、此処の会場にいる全員に突き通せるほど鋭意なものになっていた。
説明から見事に昇華した演説が終わると会場はヒートアップし拍手喝采に包まれる。
その興奮が冷めないのか優雅に飲食をしていたはずの要人達は獅子奮迅の如く我先にと大広間を飛び出していく。
傍から見ていたこちらにもその熱気がひしひしと伝わってきた。

「王女様の演説すごかったにゃ。」
「ははっ、こりゃ策士だな」

先程まで対抗心を燃やしていた少女もそれに圧倒されたのか称賛を送るほどであった。
「相手ながらあっぱれですね。」

「あぁ・・・。そうだな・・・。」

俺はその熱気と共にあの時感じていた違和感も感じていた。
演説から分かる圧倒的なカリスマ性・・・彼女ならば羽虫をグリフォンに、何処かの獣人を白虎に見せる事は造作もないだろう。
だからこそ勘定が合わない・・・アカネ同様に奪取者を簡単に屠(ほふ)る事が出来るであろう人物がこちらを頼ってくることに・・・。

(考え過ぎか・・・)

そんな思惑や熱気をお構いなしに幼馴染は平然としながら話しかけてくる。
こんな時だからこそ、ナシェの存在、その無邪気がありがたかった。
「コウくん、マフラーなんかして寒いの?」

「あぁ・・・それはだな・・・(まずいな・・・)」
その後の展開を悟った俺は冷静に対処する。
寒いと言おうものなら、彼女は喜んで倒れるほど温めてくれるだろうが・・・・。

「これは虫さされを隠すためにしてるんだよ。」

そういうと俺はマフラーの一部を避けて首に出来た赤い斑点の箇所を彼女に見せる。
「うわっ!ひどい虫刺されだね!!」

「あぁ、寝室に悪い虫がいたんだ・・・。そのせいで若干寝不足だ。」

そう言うと隣りにいた犯人がこちらの脇腹を見えないようにつねってくる。
「いっ・・・」

「えぇ、わ・る・い・虫がいたんですよ。」

「リンちゃんは大丈夫だったんだね。」

少女は赤面しながら目を逸らし返答した。
「は、はい・・・何故か大丈夫でした。」

その様子を見ていた獣人は何かを察したのか、犯人を見ながらツッコミを入れてきた。
「随分と行儀の悪い虫もいたものにゃねぇ・・・。」

「うぅ・・・そうですね・・・。」

グラスは酒瓶を片手に、顔を赤くして気持ち良さそうに酔っ払っていた。
「俺も気をつけねえとなぁ!!」

モニカは口元に手を当てそんな先祖を叱る。
「酒臭いです!!あなたは虫の方でしょ!!もしかして相手はユリアさんですか?」

「ハッハッハ、流石に嫁ぐらいにしかしてねえよ!!嬢ちゃんにもしておくか!」

「キモ過ぎて、引きますね・・・。」

次の瞬間、仰向けに男は倒れた。
「ぐっ・・・。嬢ちゃん・・・・いつの間に・・・。」

「さぁ、いつでしょうか?」

モニカとその先祖の他愛の無いやり取りを見ていた俺は彼女の祖母チエミを思い出していた。
前世ではチエミによくキスマークを付けられていたのだ。

「遺伝か・・・・」

「あ?なんて言ったガキ!?」

「いや、なんでも・・・。」

「あっ・・・此処にも虫さされが!」

そう言うとモニカはこちらの首元に顔を近づけてきた。

チュッ!

一瞬そんな音が聞こえ痛みが走った。

「おい、モニカ・・・。」
「モニカさん・・・」

「な、何でしょうか!?私の薬をつければすぐに治りますよ。」
笑顔でモニカが薬の入った瓶を渡してくる。
それをリンはすかさず掴んだ。

「ありがとうございます、モニカさん!!」

「なぜ、リンさんが受け取るんですか?」

「後で、私が彼に付けておきますから大丈夫です・・・」

「それなら、今ここで私が彼に優しく付けます!!キスマークと一緒に!!」

「いいえ!悪い虫に付けてもらわなくても大丈夫ですから!!」

「あなたに言われたくありませんよ!!」

両者は一歩も譲らず、薬の入った瓶の掴み合いが始まった。
虫さされ程度であれば低級回復薬で十分なのだが・・・。
当然、付けた当人達がそれを許してくれるわけもない。

「はぁ・・・・」

王女は悠然と歩きながら話しかけてきた。
「変ですね・・・ここは虫一匹通さない程の警備をしているはずなのですが・・・」

先程まで大勢の前で演説を行いこの場を最高潮へと導いた人物は揺らぐこともなく平然としている。
薬の掴み合いをしていたはずの少女達は自然と息を合わせ、警戒するように王女の前へと立ちはだかった。

お互いに瓶を掴みながら少女達は息を合わせて王女に問いただす。
「王女様は何の用で?」

「用も何もこれから準備をするんですよ。そこのコウさんと。」

「2人でですか!?」

「そのつもりですけど・・・手伝ってもらえますか?」

「もちろんです!!」

「二人共息ぴったりにゃね・・・。」


・・・・・


その後俺達が訪れた場所は、あの夜王女と過ごした静寂に包まれたの思い出の地とは違い、湖の周りには剥き出しの茶色い大地が広がっていた。
遠くには草木が青々と生い茂る森が広がっているものの、湖の周りには何も遮るものがないのか水面は荒立っており、少女達の未だ煮えきらない思いを表現しているようであった。
先の悪い虫達が寄ってこないように俺の周りには幼馴染と獣人が待機している。
こちらから少し離れた王女は不思議そうな顔をする。
「コウさん、ここでよろしかったでしょうか?」
「あぁ、十分だよ。」

「こんな湖で何をするつもりにゃ。」

「まぁ見ていてくれ。知己、周囲への影響を最小限にして例のアイテムを取り出してくれ。」

「はい。」

次の瞬間、巨大な灰色の鉄の塊が湖の上空に出現した。
その塊は重力に従い湖の水面(みなも)を大きく歪ませた後、浮上しその姿をはっきりと現した。

「なんですか、あれは!?ロミウル王国の船ですか・・・。」
「なんと!?」

「あぁ。詳しい説明を・・・・と言いたいところだが・・・・まずいな。」
イージス艦を浮かべた衝撃で発生した水面の歪みは想定上の大きさでこちらに向かってきていた。

「って言ってる場合かにゃ!?逃げにゃいと!」

獣人は少年と近くに居た少女を担ぎあげ湖周辺から退避する。

「姫様、失礼します。」

マイルは杖をかざし姿をくらませた。

先程まで喧嘩していたはず少女達は置き去りにされたことに気が付き、打って変わって困惑した表情でうろたえていた。
「あれ?コウさんは?」
「ちょっと!私達は!?」
その様子をグラスは呆れながら見ていた。
「嬢ちゃん達・・・もうちっと器用さがあっても良いんじゃねえかぁ?」

「文句を言う暇があったらなんとかしてください!!」

男は背負っていた鎚を取り出し、地面に大きく叩きつけた。
「仕方ねえなぁ!!グランドアース!」

すると辺りの地面が台形の様ににせり上がっていく。

「わわわっ!」

「グラス坊、助かったにゃ。」

近くに居た少女は悲鳴を上げた。
「きゃーっ!」

「モニカ!?」

少女はせり上がった地面とぶつかった水飛沫を全身で浴びていた。
恥ずかしそうに透けた胸元を隠しながら少年の方を見ていた。
「うぅ・・・・。」

近くに居た男は感心しながらその少女を見ていた。
「まぁ、器用さはあるのか・・」

「ご先祖様は見ないでください!」

「あぁ、すまねえな。」

少年は目を逸らした。
「コウさんは見てください!」

呆れながら少年は持ち物からバスタオルを取り出した。
「はぁ・・・風邪引くぞ・・・・。」

「ありがとうございます・・・。」

「私も飛び込んでおくかにゃぁ・・・。」

「引き上げないからな・・・。」

しばらくしてフィオナとマイルが戻ってきた。
「コウ様、これは?」

「電子戦の要、イージス艦・・・高度なシステムを備えた軍艦だな。ここを作戦の拠点にしたい。」

「分かりました。」
「まずは船内調査だな・・・」

「調査をするのですか?」

「あぁ、入手してから手付かずの状態で放置していたからな。」

「そういうことであれば、マイルお願いします。」

「はっ。」

「ロモ、頼むよ。」

「一緒に行くなら手伝ってやらないこともないにゃ!」

「はぁ・・・それじゃあ行くか。後は悪い虫が出ないことを願うだけだな・・・。」

「そ、そうにゃね・・・。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

処理中です...