豪運少女と不運少女

紫雲くろの

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第1章

私の豪運は不運を届ける。

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あれから私達はクッションの提案で一度クッション邸に戻り、奴隷ちゃんの身なりを整えた後テウリア領の端にある賭博場にいた。
仮にも今は領主であるクッションの私物という扱いなので体裁もあるのだろう。
私にはどうもそういった大人の事情という物が理解できなかった・・・16歳だし。

幸いにもこの世界に前世の偶数奇数を当てる半丁賭博に似たようなものがあるらしく、出た賽の目によって役があり払い戻し金額が違うらしい。

賭博場の席についた私は両手を組みながらゴキゴキと手を鳴らす。
とうとう私の豪運が本気を出すときが来たようだ・・・。

不幸のときに豪運は発動する。
すでに奴隷ちゃんとぶつかった時に、その条件は満たされていた。
ジャックポットは確実である。

博打の仕切り役が大声で叫ぶ。
「さぁ、張った張った!」

私は考えるまでもなく叫ぶ。
「丁!」

周りの犬の獣人は威勢よく叫ぶ。
「俺は半だぜ!」
「俺もだ!」

仕切り役が皿の中にサイコロを入れて振り、皿を開ける。

フッ、もらったぜ・・・。

「半!!」

「は!?」

次の瞬間、手を床に付き私は涙を流していた・・・。
そう、悲しさではなく嬉し涙である。
私にとって豪運は半ば、呪いのようなものでそれが消え失せたのだ。

「うぉー!」

「お前、そこまで泣くことないにゃよ。」

「だ、大丈夫ですか。ご主人様。やっぱり、私のせいで・・・」

ん???奴隷ちゃんのせい??どゆこと??

私は一旦席を離れ奴隷ちゃんと賭博場の裏へと行く。

ドンッ。

奴隷ちゃんに壁ドンする形で問いただす。
「奴隷ちゃん、私のせいって・・・どういうこと?」

「はわわ、ご主人様近いです!」

まさにガチ恋距離であった。

「わ、私・・・不運体質なんです。前のご主人もそれで・・・。」

「そういうことか・・・」

クッションの言っていたとおり、奴隷ちゃんは訳ありであった。

奴隷ちゃんのようなかわいい子なら近くに置いておきたいが、不幸が降り注ぐなら話は別だ。
貴族なら即売り払い、パーティーなら追放しているところだろう。

当然誰も欲しがらない・・・・そう、それは普通の人ならばということである。
大抵のことは運で何とかなってしまう、私の場合は更に違った話になる。

小学生の頃に一生分のお金を手に入れ、鉛筆を転がして地元の最難関高校へ合格した私は、努力という言葉を知らなかった。

そう思うと、私もある種の不運体質であった。
前世では親の作った未来予知のシステムを使用しようが、不幸だーと嘆いていた知人すら私に勝てなかった。

だが、この異世界で偶然にもぶつかった奴隷ちゃんはまさに運命の相手であった。
そして賭博場にて私の豪運が発動しなかったのである。

これも豪運はなのか・・・この時ばかりはあの自称神様に感謝せざる負えない。

私はしゃがんでいる奴隷ちゃんの手を握り呟く。
「や、やっと見つけた・・・。運命の相手・・・・。」

その言葉を聞いた奴隷ちゃんは頬を赤らめて恥ずかしそうに視線をそらした。
「えっ!?ご主人様・・・その・・・・女の子同士ですよ!?」

「関係ないよ。一緒に居てほしい!」

「それってつまり、婚約するってことですよね・・・。」

「えっ!?そこまで行っちゃうの!?」

「違うんですか・・・」

上目遣いで奴隷ちゃんはこちらを見つめてくる。
どうやら私は異世界で最強の武器というものを目にしてしまったらしい。
奴隷ちゃんの整った素顔に吸い込まれそうな瞳・・・これで落ちない男、いや生物は存在しないだろう。

「いや、婚約しよう。奴隷ちゃん!」

「はい!ご主人様!!」

そして、奴隷ちゃんの曇り一つ無い笑顔を見た私は、最強の武器は二段構え構成であったと確信した。
「可愛いなぁ、もう・・・」

その笑顔に油断していた私は主導権を奪われる形で奴隷ちゃんと唇が触れ合っていた。

「んっ・・・!?」

頭をハンマーで殴られて電流を流されたかのような、初めての刺激に私は放心状態となっていた。
初めて一目惚れした相手にキスをされるというのがこんなに刺激的だとは思っても見なかったのである。
しばらくしてそれを終えると、うっとりとした表情の奴隷ちゃんがこちらを見つめながら自身の唇の感触を指で確かめていた。

「ご主人様の唇・・・頂きました・・・。」

「うん・・・。」

どうやら奴隷ちゃんも同じ様な刺激を受けたようでうっとりした表情で再び唇を近づけてくる。

「ご主人様・・可愛い・・・。」

「んー!!!」

・・・

あれからどのぐらい時間が経ったのだろうか、横たわりながらお互いに見つめ合い何度もそれを繰り返した。徐々に刺激が弱まってきたところで冷静な思考が戻ってくる。

「あれ・・・。私何してるんだっけ・・・。」

うっすらとした視界の中で奴隷ちゃんは自分の服に手を掛けていた。
冷静な思考が戻ってきていたおかげでその行為の真の意味を理解した私は奴隷ちゃんの手を握る。

「奴隷ちゃん・・・そこまでにしておこう・・・・。」

「えっ!?ご主人様もしたいですよね?」

「えーっと・・・クッション達待たせてるから・・・。」

その言葉を聞いた奴隷ちゃんも徐々に冷静な思考を取り戻し始めた。
「あっ!?そうでした!!というか私・・・ごめんなさい!ご主人様!」

「いや、私の方こそごめん・・・。戻ろっか・・・。」

「はい!」

裏から賭博場へと戻ってきた私達を見つけたクッションは怒り出した。
「お前ら1時間も何やってたにゃ!!」

「1時間!?」

そこで私は正確な時間を知ることとなった。
体感的に5分程度であったが強烈な刺激のせいでかなりの時間が経過してしまったらしい。
これが噂に聞く相対性理論というやつなのであろう・・・。

奴隷ちゃんは恥ずかしそうに縮こまる。
「ごめんなさい・・・」

周りの視線が集まる中、空気に飲まれそうになった私は勢い良く叫んだ。
「私達、婚約いたしましたーっ!」

「ご、ご主人様!?そんな・・・恥ずかしいです・・・。」

「にゃにゃ!?どういうことにゃ!?」

賭博場の客たちは一瞬、驚くも拍手が始まる。
「おめでとうだな!」
「おめでとうだぜ!」

私はクッションにグーサインを見せる。
「そういうことだよ。クッション☆」

「意味がわからないにゃ。あの時間に色々致したってことかにゃぁ・・・?」

「秘密☆」

「にゃぁ・・・。」
「うぅ・・・。」

気を取り直して私はワクワクしながら席に着いた。さぁ、始めよう新たな私の世界を!
奴隷ちゃんの不運があれば行けると確信した私は元気よく叫ぶ。
「丁!」

「半!」
「俺も半!」

仕切り役が皿の中にサイコロを入れて振り、皿を開ける。

さぁ結果は・・・当然分かり切ったことだ。

これでやっと努力の味を噛みしめることができると思うと、居ても立っても居られなかった。


「丁!し、しかも8つで・・・ピンゾロだぁ!!!!!」


周りが一瞬静まり返り、歓声が響き渡る。

「お、おい。ピンゾロって・・・」

近くにいた獣人たちが壁に張ってある倍率表を一斉に見る。

「ひゃ・・・・100万倍だぁああああああ!」

次の瞬間、人生で最も大きな声で私は叫んでいた。

「はぁああああああああああ?」

「ご主人様!?」

私はその場で号泣した。
当然今度は正真正銘の悲しい方だ。

「にゃにゃ!?お前これ・・・・嬉しくてもそんなに泣かなくていいにゃよ!!」

その出来事に、主人の不運を看取ってきた奴隷ちゃんもまた驚愕していた。
「ご、ご主人様、これは一体!!??」

そう、奴隷ちゃんの不運で掻き消したであろう豪運が消えていなかったのである。
そして、何かがおかしい・・・私はその違和感を見逃さなかった。

いつもの感覚とは違う、見返りの倍率がこれもまたハンマーで殴られたかのようにケタ違いで返ってきているのだ。
ハンマー・・・もしかして奴隷ちゃんを幸せにすると幸運になって返ってきたりするのだろうかと仮説を立ててみるがそれでもこの倍率はおかしい・・・・。
あの時とはまた違った刺激にやられた私はフラフラになりながら席を立とうとする。

「そ、そんな・・・・・馬鹿な・・・・。」

すると足が痺れていたのか躓いてコケる。
ジャックポットの条件がまた揃ってしまった。

豪運発動前の不幸の感覚もいつもよりも短い・・・やはり何かが・・・・。

(奴隷ちゃんが持っているのは不運・・・・。)
そして改めて考えた私は、ある結論にたどり着いた。

「そ、そういうことか・・・。」

「だ、大丈夫ですか。ご主人様?」

そう、奴隷ちゃんの不運は周りのその人にとっての不運だという可能性だ。

そうすると全て辻褄が合う。
私にとっての不運・・・・それは・・・・圧倒的豪運以外の何物でもなかった。

あんなに可愛い少女を不運でいじめて、こんなに可愛い美少女を豪運でいじめるクソ運命に私は両手を握りしめながら叫んだ。
「く、くそがああああああああああああああああああっ!」

「ご、ご主人様!?」

取り敢えずこれ以上の不運が起きないように私は急いで部屋を出ようとする。
逃げるのは癪だが仕方ない、これは戦略的撤退と言うやつだ。

「は!?」

手をかけ、力を入れたはずの扉が開かなかったのである・・・そしてこれも不運。
不運が立て続けに続いたことは今まで一度もなかった・・・明らかに異常である。
その場合の見返りの倍率を考えただけでも私は生きた心地がしなかった。

私の肩をディーラーと思わしき獣人が優しく叩く。
「お客様おめでとうございます。勝ちとはいえ勝負の途中退場はできませんのでこちらに。」

「はい・・・・。」

クッションが言うには振り向いた時の私は涙目であったという。
その獣人からすればイタズラをしてくる奴のそんな表情をみるだけで愉快痛快という気分になったらしい。
彼女もまたその不運に巻き込まれ、それを味わうとは思っても見なかったという。

「にゃ!?どしたにゃ。」
「ご主人様!?」

その後は100円ほどの価値しかない銅貨一枚が天文学的な金額へと成長していき・・・。

「おかしいにゃ。こんなやつが・・・イカサマもなしに」
なぜか隣りにいたクッションは表情が暗くなり、終盤にはすすり泣いていた。

一時間後やっとの思いで開放された、私達は賭博場の換金所に居た。
大量の金塊を目の前に私は叫ぶ。
「う、受け取るか!こんなもんっ!」

そんな私を前に支配人は困惑する。
「で、ですが決まりですので・・・困ります。」

クッションはほとんど涙目であった。
「そうにゃ・・・。と言っても私が運営してるから大赤字だにゃ。総資産のほとんどを失ったにゃ・・・」

「そういうことか・・・。」

渋々金塊を詰めた箱を積んだ台車を運ぶ。

「ふええ。やっぱり私周りの人を・・・・。」

そして支払えない分として領主の称号を譲渡された私はテウリアの領主となった。
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