豪運少女と不運少女

紫雲くろの

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第1章

私の豪運は回想を届ける。

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銃声が続く中でテーブルの下に隠れていた私はどうすればいいかを考えていた。
アミさんならどうするか・・・。

手元のうっとりした少女がこちらを引き続き見てくる
「おねえちゃ・・・」

どうやら落ち着かせる為の行為が、我がギルドの最高魔法責任者(CMO)を
使えなくしてしまったらしい。

「ご主人様、銃声が!」

先程から銃声が少なくなって来ているような・・・。
「ちょっと、外見るね。」

手元の少女が強く抱きつき、駄々を捏ね出す。
「いやーあーっ」
「うっ。レアちゃん状況確認を!」

「はい!」

すばやくレアちゃんがテーブルの外を見る。
「はわわ。どうやら周りに人は居ないようです。」

「え、どういう事!?」

私は慌ててテーブルの外へ顔を出す。
渡りを見渡すも死体だらけで、人の気配はなかった。

少女の視界を遮る。
「ロリは見ちゃダメ。冒険者もみんな・・・死んでるね」

「ですね。」

「よいしょっと・・・。ってそろそろ離れて欲しい・・・」

「いーや。」

「ふふっ、甘えん坊さんですね。」

「あっ、ロモさんが居ませんよ!」

レアちゃんの言葉に中央のステージを見渡す。
あの時、凶弾に倒れたクッションの姿がそこにはなかった。
不老不死で蘇り、反撃を開始したのだろう。
しかし冒険者が大量に死んでいる事に不信感を覚える。

「襲撃者が全員倒したってこと・・・?」

ここは合流すべきだろう・・・。

私は再び、手をかざした。
「やっぱり召喚されないかぁ・・・・」

「おかしいですね。もしかしてやられたんじゃ・・・。」

「クッションは不老不死だから大丈夫だと思う。」

「そうなんですね。とりあえず船内探しませんか?」

「だね。ロリ手伝って。」

「おねーちゃんと一緒じゃないとやー」

「だそうです」

「先程からどうしたんでしょうか・・・。」

「やりすぎたのかも・・・。」

少女が顔を近づけてくる。
「おねーちゃ・・・。もっとちゅー!ちゅーして・・・。」

ただでさえ幼い当ギルドCMOの年齢が更に下がってしまったらしい。
「リロが頑張ったらね。」

「うん。」

クッションを探して、私達は甲板に出た。
「うーん、ここにも死体が・・・。」

私はマジカルシャイニーライフルを構えながら見渡す。
如何せん、取り回しは悪いが無いよりはマシだ。
「用心して。」

遠くの方から金属音が聞こえた。
「ご主人様、貨物室のようです。」

「行こう!」

・・・

私は暗闇の中で考えていた。

会場最奥の物陰に居た怪しげな人物が握っていた杖、
それは私の親友が考えた武器に似ていた。

その杖から放たれたであろう何かに頭を貫かれた私は、いつの間にか床に横になっていた。

この一瞬痛みが走り力が抜ける様な感覚・・・前も何処かで・・・・・。

凄まじい場面が刹那に脳裏を駆け抜けていく。

それは50年前の記憶。
そうこの世界に飛ばされる以前の私の記憶だった。

人類の繁栄の象徴とも取れる摩天楼が立ち並ぶ中、
その間を縫う様にして歩く人混みの中で私は歩いていた。

手持ちの電子デバイスからふと目を離すと、
遠くの空が赤く染まり、キノコ雲が上がった。

映画やゲームの様な映像が目の前で繰り広げられたのだ。
写真を撮る人、驚く人、ただ見つめる人。
しかし彼らは数分後同じ行動を取り出した。

私も何かを求めて、必死で自宅に向かった。


そこからの記憶は殆ど無かった、残ったのは最後の忌々しい記憶だけだ。

弄ばれぐったりした私に対して向けられた銃口、
さようならも無く切なく銃声だけが鳴り響いた。

生きたかった・・・。

それだけを願いに込めてこの世界にやって来た。

そして私に対し笑顔を向けてくれる、あの親友が為に尽くせる事は何でもしようと誓った。
ただ・・・この世界では幸せになれる様に。


あの記憶は思い出さなかったと言うよりも
思い出せなかった。

それが再び向けられるまでは。

そして静寂が終わるかの様にゆっくりと阿鼻叫喚が耳に入ってくる。


この世界でも私を不幸にするのは、またしてもあの武器・・・。
再び私から大切なものを奪おうとするのか、と思うと悔しくてたまらなかった。

横になっていた私は唇を強く噛み締めた後、私は全力で叫んでいた。

「あああああああああああっ!」

・・・

パーティー会場が銃声で染まる中、襲撃者と激しい戦闘をしていた近くの私の冒険者仲間が叫んだ。

「何だあれは!?」
「なにか変だ・・・・逃げろ!!」

それは夜空の様に薄暗いパーティー会場を飛び交う流れ星のようであった。
次々と近くに居た冒険者が悲鳴を上げて倒れだした。
「うがっ!!」

「赤い・・・・光・・・・?」

ゆっくりと近づいてきたそれを、私は目を細めながらそれをよく見る。

それは血で赤く染まった、殺されたはずのテウリア領主の猫の獣人であった。
真紅の鉤爪だと思っていた武器は、更に血で染まった彼女の爪だった。

「ちょっと!私は冒険者で味方です!!」

こちらの言葉には全く聞く耳を持たないようだった。
「次はお前か・・・」

「ひいっ!!ば、化け猫っ!!」

一瞬であった。
手持ちの剣で防御するも、鉄製の篭手が易易と切り裂かれていた。
「いっ!!」

その刹那、私は持っていた煙玉を地面に叩きつけていた。
煙に紛れながら切り裂かれた腕を抑えて、必死でパーティー会場を抜け出した。
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