豪運少女と不運少女

紫雲くろの

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第1章

私の豪運は復讐を届ける。

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気が付くと私は砂浜に横たわっていた。
そこは曇り空ながらも、すべてが終わった様に静寂が広がっている。
隣には、私を海中から引き揚げたであろうびしょ濡れのアイネが倒れ込んでいた。

「はぁ・・・はぁ・・・。ロモさん、やりましたね!」

「にゃ・・・やったにゃか・・・。奴は何処に・・・・・。」

「あそこです・・・。」

アイネの視線の先には砂浜に打ち上げられた奴の姿があった。
2年前のあの場所で起きた惨劇・・・・自身の心の弱さからの決別・・・・次第に無駄ではなかったという思いがこみ上げてきた。
仰向けで眺めていたはずの曇り空が、私の心を反映していくかのように次第に潤んでいく。
獣人は隣に居る少女にそれを見せまいと腕を顔に当てるも、どうやら止みそうにない様でゆっくりと頬を伝っていった。

(無駄ではなかった・・・本当に・・・。)

湧き上がる別の感情もあり、叫びたい気持ちで一杯だったがどうやら声すら上げれないほどに疲労が溜まっているようだ。
だが体が思った以上に重い・・・・どうやら疲労や衣服に溜まっている水分のせいではない。
ふと目線を下げると泣きながらアイネが私に抱きついていた。

「ロモさん・・・私、心配したんですからね・・・。」

「重いから離れるにゃ・・・。」

「嫌です・・・やはり・・・あなたは私の憧れで、英雄です。」

「英雄?どういうことにゃ・・・・。」

「覚えていないと思いますが・・・子供の頃、ロモさんに救われたんです。」

「お前・・・確か・・。」

アイネの顔を見ていると微かに見覚えがあった。
確か、あれは昔に受けた近隣の村で行ったモンスターからの守護の依頼だ。
簡単な依頼だったが、子供の頃の彼女からすれば英雄にも見えたのだろう。
獣人は、他人に施した恩というものは、こうして巡り巡って自分に返ってくるのだと実感した。

「そうか・・・。あの時の子供にゃ・・・。」

「はい、でもあんな形で知り合うなんて・・・。」

「あの船の事件にゃね・・・。」

「はい・・・仇であるのと同時に、あの英雄にも似ていたので葛藤しました・・・」

「すまなかったにゃ。」

「だから・・・その、これからも私の英雄として一緒に居てください!」

「にゃ・・・わ、分かったから離すにゃ。」

「す、すいません・・・。」

先程から右手に握りしめていたスフィアブレットをまじまじと見る。
黄色く煌めくそれは、いつ見ても綺麗な宝石のようだった。

「にしてもどうしてこれが水中に・・・・・。」

「私が投げ込んだんです!」

「でもこれは杖に装填されていたはずにゃ。」

アイネは気まずそうな表情をした後、私の疑問にしばらく立ってから返答した。

「あー、えっと・・・・その、ごめんなさい!」

私は彼女から事情を聞いた。
眠っている2年の間にテアと形見の杖を持ち出して遊んでいたらしい。
当然銃とは知らないので鈍器として振り回したり、スフィアブレットを取り出して遊んでいたようだ。
あのドワーフが見たら目を丸くしそうだが、現代人以外は銃すら知らないので仕方ないだろう。

「にゃ!?遊んでいたのかにゃ!?」

「うぅ・・・。」

「どうりで手元にあったわけにゃか・・・・。まぁ結果オーライだから許すにゃ。」

「ありがとうございます・・・。」

安堵してしばらくしてから私は徐々に、先程から感じる違和感に気が付き始めていた。

「おかしいにゃ・・・」

「えっ!?」

「敵が・・・少な過ぎるにゃ・・・・」

「ロモさんどういう・・・・。」

対峙したリヴァイアサンは伝説級モンスター以上の存在で、魔王軍四天王の手下・・・。
あの地で起きたのは複数体で包囲網を作っての殲滅戦で今回もそのはずだった。
単騎で突撃するような存在ではない・・・・コイツにも仲間や手下達が居るはずなのだ。
そして徐々にアイネも違和感に気がつき始める。

「ロモさん、先程からなにかおかしいと思いませんか・・・・。」

「確かに・・・先程から戦闘音が一切聞こえないにゃ・・・。」

「静かすぎて不気味ですね・・・・。」

島の彼方此方で戦闘が起きているにも関わらず、一切の戦闘音が聞こえないのだ。
島民が戦闘民族とは言え、水中戦を得意とするリヴァイアサンの手下たちとの戦闘がすぐに終わるはずもない。

(そうか・・・・奴め・・・・ワシを囮に・・・・・)

「お前、生きてっ!」

私はスフィアブレットを再び握りしめて、左手に短剣を取った。

(まぁ、待て小猫娘。ワシの負けじゃ・・・投降すると言っても、もはや引き分けに近いがな・・・。)

「お前!どういうことにゃ!!」

(フフッ・・・ワシも貴様らも哀れだのう・・・まぁ待っておれ。来るぞ・・・)

「来る!?何がですか!」

ゴゴゴ・・・・

黒い雲に覆われた空と、何もない水平線に囲まれた島中に、地響きのような不気味な音が響き渡る。
それを境にして島の鳥達が一斉に飛び出し、獣達の鳴き声が方々で上がり始めた。

「ロモさん!これは!?」

「にゃ・・・・何かやばいにゃ・・・。」

感じる限りは、伝説級モンスターのマグナ・クェークのブレス以上の威力を物語る地響きであった。
テウリアを半壊させる以上の攻撃がこちらに向かってくる最悪のシナリオまでは想像できた。

「ろ、ロモさん!東の方です!」

「にゃ・・・あれは・・・・」

それは見覚えのある極大の光だった。

(アイツがあの杖で放っていた魔法を軽々と上回る光・・・・。)

こちらにこの島を軽々と飲み込む程の大きさの魔法が向かって来ていた。
その光にアイネは、すぐさま腰を抜かして地面に座り込んだ。

「ひ、ひっ!私達はここで・・・」

「引き分けとは、そういうことかにゃ・・・・・・」

(あぁ。あれは、龍ノ咆哮(ドラゴンロア)。我が軍の新兵器じゃ・・・・)

「アイネ、スフィアブレットをありったけ出すにゃ!」

「は、はい!」

アイネからスフィアブレットを手渡しでもらった。

「3つかにゃ・・・・。まぁやってみるにゃ。」

(くくっ、まさに業といったところかのう・・・・)

「お前!四の五の言わずに、手伝えにゃ!」

(このワシが、子猫娘にまで説教を食らうとは・・・・。その諦めぬ心意気、気に入った!最後だ、良かろう!)

そう言うとリヴァイアサンの周りに魔法陣が現れだした。

(八極水陣・・・逆水(さかみず))

「見たことも、聞いたこともない魔法・・・・。」

(魔法ではない。神通力と呼ばれる、魔法ができる前にこの世を統べていた力じゃ。)

「そんな物が・・・。」

「聞いたことないにゃ。」

(あぁ、既に衰退した技術じゃからのう。これで10秒間は魔法の威力が上がるはずだ)

「10秒!?そんな。短すぎますよ!」

(発動条件やら時間が、ちと厳しいがのう・・・。)

「まぁそれまでに間に合わせるにゃ!」

それを合図に私は、スフィアブレットを握りしめてありったけのイメージをした。

(レノ・・・いま一度、私に力を貸してくれ・・・。お前のパートナーを・・・私達のあの日々を取り戻すために!!)

イメージするのはあの光と同等以上の魔法だが当然今までやったことは無い。
相殺までは行かずとも少しだけでも軽減させて、私を英雄と慕ってくれたアイネだけでも助けたい気持ちがあった。

「あっ、あれは!」

島の遠くから沢山の魔法が極大の光目掛けて突っ込む。
中にはキラーゴブリンが放ったと思われる魔技バスターもあったが極大の光の勢いは衰える事はなかった。

「あのキラーゴブリンの魔技でも変わらないなんて。」

(流石と言ったところじゃのう。どうする、子猫娘よ。)

「少しだけでも進路を変えてみせるにゃ!!!この身が砕けようとも此処に居る人たちだけでも!!」

イメージすると、私の握りしめた手が次第に強く輝き出す。

(にしてもこれほど膨大な魔力を一体何処から引っ張り出しておるのか・・・。)

溢れ出す魔力によって体の方方に切り傷が出来始める。

「ロモさん!」

(子猫娘よ、貴様の体とは言え魔力に耐えきれんぞ!ここはワシと一緒に水中に逃れるのじゃ!)

「あ、あともう少しにゃ・・・」

口の中に血の味が広がる。
外側だけでなく内側にも膨大な魔力による傷害が出始めていた。途切れそうになる意識を皮一枚で耐える様に辛うじて気力で保っていた。

「今一度、私に力を!」

そう叫ぶと、私の周囲に纏わりついていた魔力が一瞬にして手に収まったかと思えば、そこからは想像出来ない程の極大の光が爆音と共に勢いよく放たれた。

「ろ、ロモさん!」

(子猫娘め!やりおったわ!!)

周囲はもとよりアイネや巨体であるリヴァイアサンまでもがその魔力の勢いに海へと吹き飛んだ。

「二人とも!!」

そして放たれる魔力が周りの空気をつたい呼応するかの様に大地と海を同時に揺らしていた。
それと同時に私の身体中が一斉に悲鳴を上げる。
肉が裂け骨が軋みながらすり潰れるような感覚と不老不死によって再生する痛み、まるで万力に押し潰される様な逃げ場の無い想像を絶する痛みであった。

「ぐっ・・・このままでは・・・私までっ!!」

(しっかりせんか。子猫娘!!協力したワシが馬鹿みたいでは無いか)

「そうですよ。ロモさん!私だってやれます!」

「二人とも・・・」

リヴァイアサンの尻尾に支えられているアイネは私を支えていた。
向かってくる魔法の光と恐らく当たったであろう水平線の向こう側の空が真っ赤に染まり始める。
互いの魔法の威力が辛うじて拮抗しているのか遠くの空は更に赤く深く染まり続けていた。
しばらく遅れて大地を揺るがすほどの凄まじい衝撃波と爆発音がこちらに訪れた。

「にゃ・・・これは意識が・・・保てなくなるにゃ・・・・」

「うぅっ・・・こ、鼓膜が破れそうです!」

(これは・・・・油断すると意識を持っていかれそうじゃのう。)

平衡感覚を失い膝を付きながらも必死で手をかざした。
この島で短い間にあったやり取りや少しづつだがアイツに近づいていることを実感した私は不思議と負ける気がしなかった。

「はぁあああああああああああっ!」

辺りが真っ白な閃光に包まれる。
気が付くと、空が元の色に戻り爆発音が止んでいた

(子猫娘め、やりおったわ。)

「や、やった!」

親友の力を借り受けた私の力を持ってしても魔力切れからか、凄まじい倦怠感に見舞われて一歩も動けない状況だった。
時折視界がかすみ、うつ伏せになりながら肩で息をするように呼吸していた。

「はぁっ・・・・はぁっ・・・・。」

「ろ、ロモさんしっかり!!」

(小娘どもよ、どうやら安心するのは早いようじゃのう・・・・。)

「今度はなんですか・・・。」

(2撃目は想定してなんだ・・・)

先程よりは小さいようだが軽々とこの島を飲み込む様な光が再びこちらに向かってきていた。

「そんな!あんな魔法を連続して打てるなんて!」

「お、終わるのかにゃ・・・でも・・・私は!」

私はうつ伏せで必死で重くなった手をかざす。

(その意気込み、嫌いじゃないよ子猫さん。)

私の脳内に別の声が響き渡る。
それは近くに居たリヴァイアサンの声色でもなく聞いたことがない若い男の声だった。

「だ、誰にゃ!?」

「えぇ!?誰なんですか!?というかもう間に合いませんよ!!!」

巨大な光が目の前まで迫っていた。

(クリスタルロック!!)

その声が聞こえた瞬間、島以上の巨大な水晶体が水中から現れた。

「にゃに!?これほどの物質を一瞬で!」

(くくっ・・・。運が良いのやら悪いのやら。久しいのう・・・忌まわしき結晶小僧。)

(あれ?誰だっけ?)

(ワシすら眼中にないとは、相変わらずよの・・・。)

「というか!ぶつかりますよ!!」

巨大な光が水晶がぶつかり辺りに眩しい光が散らばる。

「うぅっ!!」

「にゃ・・・眩しいにゃ!!」

しばらくしてその光が収まると島中から歓声が上がったのが分かった。

「ロモさん!助かった、助かりましたよ!!」

「にゃ・・・。あれを一瞬で防いだのかにゃ・・・・。」

アイネが遠くの水平線を指差す。

「なんですかあれ!?」

「次から次へと。今度は何にゃ!!」

光とは反対の方から黒い禍々しい船が現れた。
だがそのフォルムには見覚えがあった。

「か、貨物船にゃか・・・」

「貨物船ですか?でもあんな真っ黒な船、見たことありませんよ!」

(くくっ・・・・。我らの宿敵、最強の魔法使いの船団・・・筆頭一番艦・・・黒砕船)

「最強の魔法使いにゃ!?」
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