豪運少女と不運少女

紫雲くろの

文字の大きさ
上 下
45 / 49
第1章

私の豪運は最長の魔法使いを届ける。

しおりを挟む
島ほどはあろうかという巨大な船内で猫の獣人は必死にある人物を探し回っていた。
荷物やら多くの船員でごった返す甲板でいつしか相棒の少女とも逸れてしまい、人混みに飲まれそうになっていた。
一面に灰色や茶色などの地味な色が広がる中、あの目立つ白色だけを頼りに辺りを入念に探していた。

「何処を見ても特徴あるあの姿が見えないにゃ・・・・」

始めの内はワクワクしていたその獣人も、多くの慌ただしく行き交う人々とすれ違っていくたびに肩を落としていた。
期待を胸に握りしめていた手が緩む頃、突如獣人の視線が高くなった。

「にやぁあああああ!」

獣人はその出来事にあられもなく悲鳴を上げてしまった。
誰かに背後から持ち上げられたことだけは分かったが、その人物が誰かということまでは把握できなかった。

「誰だか知らないけど、離すにゃ!」

獣人は振り返りながらその人物の手から逃れようと必死でもがいていた。
当然全身が浮いているので暖簾に腕押しのような状態で手足が空を切っている。

「可愛い猫・・・捕まえた!」

背後から聞こえるおっとりとしたその女性の声に聞き覚えはなかった。
そして人形のように抱きかかえられ、更に両手で圧力まで加えられ始める。
その女性の持つ2つの大きなクッションに圧力は軽減されるどころか、逃げ場をなくし全身の関節まで響いてきたのだ。
探している人物ならそれを喜んで、よだれを垂らしながら受け入れるであろうが私にそういう趣味はないのと、あまりの怪力にそれどころではない。

「く、苦しいにゃ・・・・・。いい加減に・・・・。」

腰に下げている魔剣に手をかけようとした時、正面から懐かしい声が耳に届いた。

「久しぶりね!ロモ=クーシャ!」

「その声・・・・まさか・・・・。」

「リロよ!」

改めて見ると2年前から何一つ変わらない少女の姿がそこにはあった。
白い帽子とマント、それに不釣り合いな体型と不機嫌そうな表情、見間違うはずもなかった。

「お前!心配したにゃ・・・・ってさっきから誰だか知らないけど離すにゃ!」

「その子は私の大事な友人なの!離してくれる?」

「ごめんなさい。」

殺人級の圧力から開放された私は地面に降ろされるも、その人物は執拗に撫でてくる。
この時、2年前に目の前の少女からいやらしい事をされ続けていた親友の気持ちが理解できた。

「こいつにゃ・・・。それにしてもあの生意気で、ちんちくりんのお漏らしガキが成長したにゃね」

「再開して早々、お漏らしガキって!ひどいわね!」

目の前の少女を改めて見ると姿は相変わらずだったが不思議と若干大人びて見えた。

「その反応・・・確かにリロだにゃ。さっきから撫でて来るこの失礼な奴は誰なんだにゃ?」

「この子は私の妹、ララよ!」

「おねーちゃんをガキ扱いするあなたも失礼だと思う」

「お前に言われたくないけどにゃ・・・ってリロの妹!?」

ふんわりとした匂いと豊満な体付きから、おそらくこの少女の姉、兄弟の一番上の長女だと確信していた私は驚いた。
その妹はレアを超える抜群のスタイルを持っていて、一見すれば良くて親子、辛うじて歳の離れた姉妹という表現が適切だったのだ。
12歳ほどの子供のような兄と姉、そして親の様な妹、奇妙な兄弟関係に獣人の頭は次第に混乱し始めた。

「そうよ!」

「うぅ・・・。混乱するにゃ・・・。妹はいくつにゃ。」

「12歳・・・。」

「あんた!もうちょっとしっかりしなさいよ!」

「うぅ・・・わかった、おねーちゃん」
そこで私は目の前の少女が、なぜ自分よりも大きなレアに対して強気に出ていたのかがわかった。

「もう、親子にしか見えないにゃ・・・」

「そうでしょ!私が立派な親で、ララが頼りない子供のように見えるわよね!」

「何でそうなるにゃ・・・逆だにゃ・・・。」

「なんですって!?」

子供のように怒る少女の背後から見慣れた人物がゆっくりとこちらにやってきた。
その姿を見た獣人の少女は怒る少女から大きく視線を移動させた。

「まぁまぁ・・・二人共、それぐらいにして・・・。」

「お、お前・・・。」

思い馳せていたその人物を見た瞬間、涙が溢れだす。
ここまでの苦労とその思いが一気に溢れ出し、気がつけばその人物を抱きしめていた。

「レノ!!どれだけ心配して・・・・。」

その言葉を聞いた目の前の人物はよそよそしい態度を取った。
「あ、あの・・・。ごめんなさい!」

その対応から私は徐々に勘違いに気が付いた。
そして親友は、レアと共に行動しているという情報を得ていたのを思い出した。
(あの親友はここには居ない・・・とすれば・・。)

「そういうことにゃか・・・。」

「そう!あの街で出会った、別の方のレノお姉ちゃんよ!」

「久しぶりだにゃ」

「はい!ロモさん!」

その人物は2年前あの地で知り合っただけだったがこうして見ると、とても懐かしい感じがした。
なぜならその少女はあの親友の様な容姿と、レアのような優しい性格でどことなく馴染み深かったのだ。
相手もそう感じたのか、勢い良くこちらを抱きしめてくる。

「うぐっ!これは・・・」

その大きさはリロの妹ララに負けず劣らずで獣人を再び窒息寸前へと追い込んだ。
獣人が息苦しさを感じて、もがき出すと急いで少女は離した。

「だ、大丈夫ですか?」

「危なかったにゃ・・・どいつもこいつも、でかいにゃ・・・」

「やっぱり大きいわよね!」
そういいながら少女はレノの胸を触りだした。

「相変わらずのセクハラガキにゃね・・・・。」

レノは恥ずかしそうにそれを制止するように腕組みをした。

「うぅ・・・恥ずかしい」

「まぁ・・・・所構わず、揉まなくなったのは成長してるにゃ。」

「当たり前じゃない!夜にしか揉まないわよ?」

「ちょっとリロさん・・・それは内緒ですよ!」

「私もおねーちゃんと揉んでる」

ララは無邪気に返答する
おそらく、その意味を知らないのだろう。

「変態姉妹にゃ・・・。どうせ妹のも揉んでそうだにゃ。」

「流石に妹のは揉まないわよ!」

妹は不満そうに自分の胸に手を当てる。
「おねーちゃん、揉んでくれない・・・」

「うぅ・・・」

乗船前に褐色少女のテアと遊んでいたリィアがこちらを見つけて駆け寄ってくる。

「どうやら感動の再会は果たせた様じゃの!」

「おかげさまでにゃ!」

その少女を見て何かを感じたのか、リロの表情が一瞬で強張った。
「アンタ、まさか・・・」

気が付くと少女はリィアにハンドガンを突きつけていた。

「リロ!?」

「その魔力見ればわかる、あんたリヴァイアサンでしょ。」

「いかにも・・・」

そして少女はこちらにも疑いの目を向けてきた。
「ロモあんた・・・、まさか龍族の・・・・。」

「違うにゃ!ちょっと待つにゃ・・・。ッ!!」

二人の間に割り込もうとした瞬間、私よりも巨大な籠手が浮遊しながら行手を遮った。
それを操っているであろうララは無表情でこちらを見つめながら呟く。

「おねーちゃんの邪魔はさせない・・・」

「アンタの所為で!私たちは!!」

観念するようにリィアは肩の力を抜いて目を閉じた。
「うむ、好きにするが良い!」

少女は引き金に指を掛ける。
「じゃぁね」

「リロ!そいつは!」

私は必死で籠手の間から手を伸ばしていた。


発砲音が響きわたり諦めた瞬間、リロが握っていたハンドガンが宙に舞っていた。
杖を持った見慣れた少女がそこには立っていた。

「何!?誰!?」

「おぬしは・・・」

「私のリィアちゃんを虐めないで!!」

その声の主に全員の視線が集まる。

「テア!!」

「アンタ・・・確か、一年前の・・・」

「そう!私は最長の魔法使いの子孫!テア=ルーンラング」

「にゃに!最長の魔法使い!?」

「2年前から最長の魔女様と龍族が結託して・・・・そういうことだったの。」

「意味分かんない。リィアちゃんは私の友達なの!」

「まぁいいわ!あなた達ともどもまとめて!!」

リロは腰に下げていた杖を手に取ろうとする。

「やらせない!」

「っ!」

驚くべき事に、一瞬の内にテアがリロの背後に回り首元に短剣を突きつけていた。
獣人の動体視力を持ってすらそれを見極めることは出来なかった。

「おねーちゃん!!」

ララの声と共に二人の手元が緩むのを私は見逃さなかった。
すかさず短剣と杖を握った。

「二人ともそこまでにゃ!」

「ロモ・・・」

「子猫さん・・・」

そこへ大男とアルがやってきた。

「テア、これはどういう事だ!?」

「何?面倒ごと?」
しおりを挟む

処理中です...