ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta

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第1章:広がりの章 〜運命の出会い〜

1 旅立ち、アルバムをめくりながら

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 窓の外には、どこまでも深い群青が広がっていた。

 高度三万フィート。成層圏を往くプライベートジェットの静寂は、ここが地上の喧騒から切り離された聖域であることを告げている。

 私は膝の上の重厚な革張りのアルバムを、そっと開いた。

 一枚の写真が目に止まる。泥と汗、そしてあり得ないほどの歓喜にまみれた四人の集合写真。



 今の平穏な空からは想像もできない。かつてこの世界には、絶望的な未来が予言されていた。

 ――東京都水没。死者・行方不明者、推定二百万人。

 その破滅のシナリオが「ただの悪夢」として歴史の闇に葬り去られたことを、今、世界の誰も知らない。



 知っているのは、ここにいる四人だけだ。






「なにしてるの? 香織。あ、アルバムだ。懐かしいね」



 隣に座る八重が、ページを覗き込んで目を細める。 高度を上げたジェット機の機内、窓外の青空を反射する彼女の瞳は、アルバムに刻まれた過去へと旅をしていた。卒業式に握りしめたハンカチの感触、その刺繍の模様までもが、昨日のことのように脳裏へ蘇る。



「……信じられないよね。全部、本当にあったことなんだって。夢じゃなくて、これが私たちの運命なんだもの」


 香織は慈しむような微笑みを浮かべ、さらに隣の席をそっと指し示した。 

 そこには、深い眠りに落ちた二人の英雄の姿があった。



「えへへ、二人とも……すっかり寝ちゃってるね」

「無理もないわよ。卒業式の後に、二時間もサイン攻めにあったんだから。待たされているこっちの身にもなってほしいけど……まあ、世界一の旦那様を持っちゃったんだから、これくらいは『年貢』だと思って諦めるしかないわね」




 八重は肩をすくめ、悪戯っぽく唇を尖らせた。だが、その視線はどこまでも優しい。

 彼女はアルバムをめくり、一枚の集合写真で指を止めた。



「思えば、一年生の頃の香織は見ていられなかった。笑ったと思えば泣いて、感情のジェットコースターが激しすぎて……。最初なんて、嘉位に胸を揉まれちゃったんでしょう?」


「ちょっと、八重! 違うよ、あれは事故だって! 」

 香織は弾かれたように顔を赤くし、抗議の声を上げた。 
「初めての出会いは……そう、入学式。風が吹き抜けて、プリントが舞って……。先輩たちに追い回されていた嘉位と、たまたま、本当にたまたまぶつかっちゃっただけ。

 倒れそうになった私を彼が支えようとして……でも、反射的にひっぱたき返したことだけは、今でも反省してるけど」



「ふふ、あの巨乳だもの。罪な身体よね」 「もう、八重ったら! 恥ずかしいよ……」




 香織は手で口元を隠し、機内の通路を歩くCAの視線を避けるように身を縮めた。

 だが、話題は止まらない。

 アルバムは、あの懐かしい初デートのページへと進む……。




「見て、これ。山本財閥の御曹司との初デートが、まさかのラーメン屋。世界の『YAMAMOTO』が、だよ? 私は香織が何を着ていくかパニックになってるのを見て、どうなることかと思ったわ」



「本当に……あの時は八重がいなきゃ、裸で行くところだった。U-15の日本代表で、あんなに綺麗な目をした男の子と二人きりなんて。頭の中が真っ白で、味も覚えてないくらい」


 写真は、修学旅行での夜、そして初めてのキスの瞬間を象徴する空気を纏っていた。 


「告白されて、そのまま初キスなんて。ドラマでもやりすぎだって言われる展開を、嘉位は平然とやってのけたんだものね」





 しかし、幸福のページをめくると、そこには深く鋭い『影』が潜んでいた。 

 実の父親による、冷酷な嫌がらせ。娘やその友人までも道具として使い、香織を絶望の淵へと突き落としたあの事件。


「……あれは、本当にキツかった」 八重の眉が悲しげに下がる。香織は一度アルバムを閉じ、深く、静かに息を吐き出した。


「いいの。すべては終わったことだから。嘉位も、お母様も、私の母も……全部を話してくれたから。あの方(父)は、今はアフリカにいるんだっけ。連絡はないけれど、それが彼の選んだ道だと思っているわ」



「結婚式にも来なかった。あの時、嘉位が見せた怒りの顔……私は今でも忘れられない。でも、あんなに怖い顔をしていた嘉位が、私のために泣いてくれた時、ああ、この人は私を魂から愛してくれているんだって……あらためて確信したの」




 八重は香織の震える手を、そっと力強く握りしめた。 「その旦那様は、香織が一番辛い時に海外へ行っちゃうしね。

 一人残された香織が泣き崩れて、私もどうしていいか分からなかった。でも、それも全部……嘉位の言う通り、『試練』だったのね」


「うん。……あ、見て。これがクリスマスの時の写真。帰国したばかりの彼に、突然プロポーズされて」

 香織の指先が、宝石のように輝く思い出をなぞる。 「一生の宝物よ、八重」 「ええ、私もよ。……見て、その『宝物』が今、口を開けて寝そうになってるわよ」



 八重の冗談に、二人は静かに、機内の照明に溶け込むような声で笑った。 


 嘉位が見ているのは、どんな夢だろうか……。


 卒業式の演説で全校生徒と教師を泣かせ、世界中の要人と渡り合い、日本を、そして救い上げてきたその双眸は、今はただ穏やかに閉じられている。


「嘉位が二歳の頃に過ごしたフランス、ドイツ、アメリカ……ハネムーン以外にも、これから何度も行くことになるんでしょうね」 

「嘉位と一緒なら、たとえ地の果てでも、私はついていくわ」

「そうね。私も同じ。由良を一人にしたら、何をしでかすか分からないもの」



 八重は欠伸を一つ噛み殺し、愛する旦那の肩へと頭を預けた。 


「香織、私もそろそろ眠るわ。ヨーロッパまではまだ長いから。おやすみ」 


「うん、おやすみなさい、八重……」




 高度を上げ続ける飛行機の窓外には、ダイヤモンドを散りばめたような星空が広がっている。 


 香織は、眠っている
 嘉位の横顔をじっと見つめた。 


 伝説は、あの日、あの風が吹いた入学式から始まったのだ。


 甲子園の81球、水没の回避、英雄としての勲章。 


 そのすべてを抱きしめて、物語はさらに加速していく。


「嘉位……おやすみなさい。……愛してるわ」




 彼女が瞼を閉じた瞬間、機体はさらに高みへと、未知なる未来へと滑り出した。
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