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第1章:広がりの章 〜運命の出会い〜
23 御曹司嘉位の実力
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怒号が飛び交う店内の中心へ、嘉位は迷いなく割って入った。騒いでいる男の前に立ちはだかると、氷のように冷ややかな中国語を浴びせる。
「その掲示が読めませんか? 読めないのであれば、私が説明しましょう」
「うるせえ! 欲しいモデルがないなら、下のグレードで我慢してやるって言ってんだ。その分、値引きしてさっさとよこせ!」
男が凄むが、嘉位の眉一つ動かない。
「ないものは出せません。それくらい子供でも分かりますよ。……ところで、パスポートか身分証を見せていただけますか?」
男は忌々しげに財布を開いた。
厚みのある札束が覗き、その奥に証明書のようなカードが見える。
「ほらよ! 文句ねえだろ!」
嘉位の視線が、その一瞬、男の手元を射抜いた。
「……少し、お待ちいただけますか」
嘉位はスマートフォンを取り出し、短く命じた。
「番号はこれだ。五分でカタをつけろ。あとは任せる」
再び男に向き直ると、嘉位は平然と告げる。
「取り寄せに三十分かかりますが、よろしいですね?」
「当然だ! このガキ、さっさと手続きしろ!」
嘉位は静かに、届いた返信を確認した。
「……こちらのお店で、最初から買うつもりはありませんでしたね? あなたの財布、一枚目と最後だけが本物で、間の厚みはただの紙だ。カードもすでに止めておきましたよ。あなたの国の当局と連携してね」
「てめえ! いつ俺の財布を……! 俺を誰だと思ってる、殺すぞ!」
「どうぞ。脅迫罪も追加されました。あなたは転売組織の一員で、本国でも多額の詐欺容疑がかかっている。お迎えが来ましたよ」
***
その時、店内に十数人の私服警官と大使館職員が雪崩れ込んできた。
「逮捕する!」
「強制送還の手続きに入る、連れて行け!」
「冗談だ! 何もしてねえ!」と絶叫する男を、嘉位は冷めた目で見下ろす。
「二億円相当の余罪、すべて調べ上げました。この国で犯罪は横行させない。国へ帰って、罪を償ってください」
サイレンの音が遠ざかり、店内に静寂が戻った。
***
香織が駆け寄り、エリア責任者たちが震えながら嘉位を囲む。
「……山本様、なんと御礼を申し上げればよいか……」
泣き崩れていた店員が、不思議そうに嘉位を見上げた。
「あの、どうして一瞬で分かったんですか? ずっと近くにいた私でも気づかなかったのに……」
嘉位は優しい微笑みを浮かべ、店員の目線に合わせて話し出す。
「財布が開いた一瞬で、カード番号を暗記し、お札の揺れ方で紙の質感を覚えたんです。それらをデータベースと照合しただけですよ。由良とトランプの動体検知を競っていた時の技術と同じです」
「一瞬で全部暗記……!?」 店員たちは絶句した。
香織はもらい泣きをしながら、誇らしげに嘉位の腕を掴む。
「さすが嘉位……。あなたのその力は、人を守るためにあるのね」
「山本財閥の御曹司、その実力……お見事です!」
責任者の感嘆の声に、店内からは自然と拍手が沸き起こった。
「山本様、今回の品物は、お詫びとして代金はいただきません!」
「いや。それでは、さっきの男と変わりませんよ。
僕は正当な客として、香織に似合うものを選びたい。きちんとお支払いします」
嘉位の潔い言葉に、店員が「私に担当させてください!」と名乗りを上げた。
「ああ、お願いするよ。……さあ、香織。お買い物の続きをしようか」
香織は最高の笑顔で頷き、店員の案内で鏡の前へと向かった。
騒動の後とは思えないほど、二人の周りには温かく、誇り高い空気が流れていた。
全ての買い物を終え、夕闇が迫る街を抜けて、二人は再び地下鉄に揺られた。
繋いだ手は一度も離れることなく、平然と何事も無かったように見せる嘉位と、目の当りにした王子様に瞳を輝かせながら強く手を握り返す香織
二人は、ゆっくりと家路についた。
「その掲示が読めませんか? 読めないのであれば、私が説明しましょう」
「うるせえ! 欲しいモデルがないなら、下のグレードで我慢してやるって言ってんだ。その分、値引きしてさっさとよこせ!」
男が凄むが、嘉位の眉一つ動かない。
「ないものは出せません。それくらい子供でも分かりますよ。……ところで、パスポートか身分証を見せていただけますか?」
男は忌々しげに財布を開いた。
厚みのある札束が覗き、その奥に証明書のようなカードが見える。
「ほらよ! 文句ねえだろ!」
嘉位の視線が、その一瞬、男の手元を射抜いた。
「……少し、お待ちいただけますか」
嘉位はスマートフォンを取り出し、短く命じた。
「番号はこれだ。五分でカタをつけろ。あとは任せる」
再び男に向き直ると、嘉位は平然と告げる。
「取り寄せに三十分かかりますが、よろしいですね?」
「当然だ! このガキ、さっさと手続きしろ!」
嘉位は静かに、届いた返信を確認した。
「……こちらのお店で、最初から買うつもりはありませんでしたね? あなたの財布、一枚目と最後だけが本物で、間の厚みはただの紙だ。カードもすでに止めておきましたよ。あなたの国の当局と連携してね」
「てめえ! いつ俺の財布を……! 俺を誰だと思ってる、殺すぞ!」
「どうぞ。脅迫罪も追加されました。あなたは転売組織の一員で、本国でも多額の詐欺容疑がかかっている。お迎えが来ましたよ」
***
その時、店内に十数人の私服警官と大使館職員が雪崩れ込んできた。
「逮捕する!」
「強制送還の手続きに入る、連れて行け!」
「冗談だ! 何もしてねえ!」と絶叫する男を、嘉位は冷めた目で見下ろす。
「二億円相当の余罪、すべて調べ上げました。この国で犯罪は横行させない。国へ帰って、罪を償ってください」
サイレンの音が遠ざかり、店内に静寂が戻った。
***
香織が駆け寄り、エリア責任者たちが震えながら嘉位を囲む。
「……山本様、なんと御礼を申し上げればよいか……」
泣き崩れていた店員が、不思議そうに嘉位を見上げた。
「あの、どうして一瞬で分かったんですか? ずっと近くにいた私でも気づかなかったのに……」
嘉位は優しい微笑みを浮かべ、店員の目線に合わせて話し出す。
「財布が開いた一瞬で、カード番号を暗記し、お札の揺れ方で紙の質感を覚えたんです。それらをデータベースと照合しただけですよ。由良とトランプの動体検知を競っていた時の技術と同じです」
「一瞬で全部暗記……!?」 店員たちは絶句した。
香織はもらい泣きをしながら、誇らしげに嘉位の腕を掴む。
「さすが嘉位……。あなたのその力は、人を守るためにあるのね」
「山本財閥の御曹司、その実力……お見事です!」
責任者の感嘆の声に、店内からは自然と拍手が沸き起こった。
「山本様、今回の品物は、お詫びとして代金はいただきません!」
「いや。それでは、さっきの男と変わりませんよ。
僕は正当な客として、香織に似合うものを選びたい。きちんとお支払いします」
嘉位の潔い言葉に、店員が「私に担当させてください!」と名乗りを上げた。
「ああ、お願いするよ。……さあ、香織。お買い物の続きをしようか」
香織は最高の笑顔で頷き、店員の案内で鏡の前へと向かった。
騒動の後とは思えないほど、二人の周りには温かく、誇り高い空気が流れていた。
全ての買い物を終え、夕闇が迫る街を抜けて、二人は再び地下鉄に揺られた。
繋いだ手は一度も離れることなく、平然と何事も無かったように見せる嘉位と、目の当りにした王子様に瞳を輝かせながら強く手を握り返す香織
二人は、ゆっくりと家路についた。
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