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第1章:広がりの章 〜運命の出会い〜
22 お買い物からの異変
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地下鉄の車内、繋いだ手から伝わる温もりが、二人の心を穏やかに満たしていた。
「お昼はラーメンでいいかな?」 嘉位の問いかけに、香織はくすりと笑みを漏らした。
「嘉位は本当にラーメンが好きね。私たちの初めてのデートもそうだったわ」
「香織も気づいているだろうけど、僕の家ではラーメンなんてまず食卓に並ばないんだよ。だから僕にとって、ラーメンは最高の贅沢品なんだ。ファーストフードもね。大好きなんだよ」
誇らしげに言い切る嘉位の姿は、まるで宝物を自慢する子供のようで、香織はその純粋さに胸が熱くなる。
「確かに、お屋敷では頂いたことがないわね。
ふふ、いいわ、行きましょう。
京都の美味しいお店もチェックしておいてね?」
「もちろんだよ。香織と一緒なら、どこで何を食べても最高だけどね」
***
地上へ出ると、目の前に『一風堂』の看板が見えた。
二人は吸い込まれるように店内へ入り、香織は初めて見るお品書きに目を輝かせた。
「この赤い、辛そうなのにするわ! 」 運ばれてきた一杯を口にした香織は、その刺激的な旨味に声を上げた。
「う! 思ったより辛い! でも、この絶妙な辛さが後を引くわ……美味しい! 」
「へえ、次は僕もそれにしてみようかな」 庶民的な幸福に腹を満たし、二人は再び手を繋いでブランド街へと歩き出した。
***
到着したのは、外国人観光客が列をなす、世界屈指の高級ブランド店。
嘉位が一歩足を踏み入れると、店の空気が一変した。奥から血相を変えて飛んできたのは、エリア責任者を務める男性だった。
「こ、これは山本様! お久しぶりでございます」
「ああ、一覧を見て確認したいことがあってね。忙しいところ悪いけれど」
「とんでもございません! 商品はすでにお預け……いえ、特別室の方へご用意しております。どうかこちらへ! 」
畏まりすぎる責任者の様子に、嘉位は少し困惑したように香織を指した。
「ああ、紹介するよ。僕の婚約者になる香織だ」
「はじめまして、香織と申します。今日はお時間を取っていただきありがとうございます」
香織が上品に微笑むと、責任者は目を見開いて感嘆の声を上げた。
「おめでとうございます! 昨年ご来店の折には『女性には興味がない』と仰っていた山本様が……。
香織様、お式の際はぜひ私共にご用命を。世界に一着だけのドレスを、当店の職人が心血を注いでお作りいたします! 」
「はい、その時はぜひお願いするわ」 香織は頬を染めながらも、凛とした態度で答えた。
***
――嘉位が漆黒の限定カードを取り出し、会計の確認をしようとした、その時だった。
店内に鋭い怒鳴り声と、何かが壊れる激しい音が響き渡った。
店員たちが血相を変えて駆け回り、一瞬にして静寂が混沌に塗り替えられる。
「山本様、近頃この界隈では、転売目的の集団による商品強奪事件が多発しておりまして……!」
責任者の顔から血の気が引いていく。
「ネットで見ましたが、これほどとは。自動巻き時計の不正転売も問題になっているが、業界全体のルールを壊すような真似は看過できないな」
嘉位の瞳から、先ほどまでの穏やかな光が消えた。
代わって宿ったのは、巨大財閥を背負って立つ冷徹な「支配者」の鋭さだった。
「僕が対応する」
「そんな! 山本様を危険な目に遭わせるわけには――」
「いや。ここで止めなければ被害は拡大する。僕が行こう」
嘉位は香織の方を向き、一瞬だけ優しい眼差しを戻した。
「香織、少し待っていて。すぐ片付けてくる」
店長やスタッフを引き連れ、階段を駆け下りていく嘉位の背中。
香織は、その頼もしくもどこか危うい、世界を背負う男の背中を、
ただ祈るような思いで見つめることしかできなかった……。
「お昼はラーメンでいいかな?」 嘉位の問いかけに、香織はくすりと笑みを漏らした。
「嘉位は本当にラーメンが好きね。私たちの初めてのデートもそうだったわ」
「香織も気づいているだろうけど、僕の家ではラーメンなんてまず食卓に並ばないんだよ。だから僕にとって、ラーメンは最高の贅沢品なんだ。ファーストフードもね。大好きなんだよ」
誇らしげに言い切る嘉位の姿は、まるで宝物を自慢する子供のようで、香織はその純粋さに胸が熱くなる。
「確かに、お屋敷では頂いたことがないわね。
ふふ、いいわ、行きましょう。
京都の美味しいお店もチェックしておいてね?」
「もちろんだよ。香織と一緒なら、どこで何を食べても最高だけどね」
***
地上へ出ると、目の前に『一風堂』の看板が見えた。
二人は吸い込まれるように店内へ入り、香織は初めて見るお品書きに目を輝かせた。
「この赤い、辛そうなのにするわ! 」 運ばれてきた一杯を口にした香織は、その刺激的な旨味に声を上げた。
「う! 思ったより辛い! でも、この絶妙な辛さが後を引くわ……美味しい! 」
「へえ、次は僕もそれにしてみようかな」 庶民的な幸福に腹を満たし、二人は再び手を繋いでブランド街へと歩き出した。
***
到着したのは、外国人観光客が列をなす、世界屈指の高級ブランド店。
嘉位が一歩足を踏み入れると、店の空気が一変した。奥から血相を変えて飛んできたのは、エリア責任者を務める男性だった。
「こ、これは山本様! お久しぶりでございます」
「ああ、一覧を見て確認したいことがあってね。忙しいところ悪いけれど」
「とんでもございません! 商品はすでにお預け……いえ、特別室の方へご用意しております。どうかこちらへ! 」
畏まりすぎる責任者の様子に、嘉位は少し困惑したように香織を指した。
「ああ、紹介するよ。僕の婚約者になる香織だ」
「はじめまして、香織と申します。今日はお時間を取っていただきありがとうございます」
香織が上品に微笑むと、責任者は目を見開いて感嘆の声を上げた。
「おめでとうございます! 昨年ご来店の折には『女性には興味がない』と仰っていた山本様が……。
香織様、お式の際はぜひ私共にご用命を。世界に一着だけのドレスを、当店の職人が心血を注いでお作りいたします! 」
「はい、その時はぜひお願いするわ」 香織は頬を染めながらも、凛とした態度で答えた。
***
――嘉位が漆黒の限定カードを取り出し、会計の確認をしようとした、その時だった。
店内に鋭い怒鳴り声と、何かが壊れる激しい音が響き渡った。
店員たちが血相を変えて駆け回り、一瞬にして静寂が混沌に塗り替えられる。
「山本様、近頃この界隈では、転売目的の集団による商品強奪事件が多発しておりまして……!」
責任者の顔から血の気が引いていく。
「ネットで見ましたが、これほどとは。自動巻き時計の不正転売も問題になっているが、業界全体のルールを壊すような真似は看過できないな」
嘉位の瞳から、先ほどまでの穏やかな光が消えた。
代わって宿ったのは、巨大財閥を背負って立つ冷徹な「支配者」の鋭さだった。
「僕が対応する」
「そんな! 山本様を危険な目に遭わせるわけには――」
「いや。ここで止めなければ被害は拡大する。僕が行こう」
嘉位は香織の方を向き、一瞬だけ優しい眼差しを戻した。
「香織、少し待っていて。すぐ片付けてくる」
店長やスタッフを引き連れ、階段を駆け下りていく嘉位の背中。
香織は、その頼もしくもどこか危うい、世界を背負う男の背中を、
ただ祈るような思いで見つめることしかできなかった……。
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