鈴の音が集まる場所

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2話:幼馴染のお姉ちゃん(1)

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「部屋、暑かったか……?」

不可思議な、生々しい夢を見て飛び起きてしまった後も浅い睡眠を繰り返しては、先に起きたコウスケに驚かれて身体を起こした。
寝巻きだけではなく、腹を覆っていただけのタオルケットや敷布団のシーツにも寝汗が流れて冷えきっている。
これではまるで、お漏らしをしたようだ。

「いや、暑くはなかったんだが……」

コウスケは凄く心配した表情を浮かべる。
こんな時に茶化さずに心配してくれるコウスケだからこそ、俺は今でも関係が続けられたのだと思う。

「変な、夢を見たんだ」

左腕に微かな視線を向けては、あの夢が何かの引き金になっている認識で間違いなかった。

「変な夢?
……、昨日言っていた腕の模様はどうなっている?」

コウスケに両腕を差し出す。

「昨日は右腕と言ってなかったか」
「今朝、変な夢を見て起きたら両腕に同じ模様が出来てたんだ」

コウスケは腕を上げたり下げたり。しまいには、腕の肌をなぞる。

「くすぐったい……」
「うーん」

コウスケは、俺の反応を見ていたようだった。

「分からないな……。よし、神社に行ってフジヒコにも見えるか聞いてみよう。
もしかしたら、村の外でなにかに取り憑かれていて、スズナリ様の力で具現化してるのかもしれない」
「今までの私生活にこんなこと、一度もなかったが……」

コウスケはタンスから適当な衣服を引っ張りだすと、投げて渡す。

「デカいかもしれないが、今はこれに着替えておけよ。
せっかく遊びに来てくれたのに、風邪引いて寝込んじゃったらお前も嫌だろ?」

彼は本当に──かけがえのない親友だ。



神社へはコウスケの車ではなく、気持ちを落ち着けるのと涼むために八椿村を歩いた。

「おやっ、おやおや」
「お久しぶりです」
「おやまぁ、アキラちゃんじゃない~!元気してたの??」
「アキラだって?」

村の中ははほとんど田んぼや畑の畦道で、都会のようにコンクリートで舗装されている場所はほとんどない。多少、舗装されている箇所があるくらいだろうか?
もちろん、早朝にそんな道を歩けば祖父母のような村人たちが朝から農作業に勤しんでいた。
久しぶりに会って話すと暖かい気持ちになれる。俺は、きっとここの生活が大好きだったのだろう。

「ほらほら、ユイちゃん。アキラちゃんだよー!」

おばさんの一人が大声を出すと、遠くから「アキラ?」という声が聞こえる。
走って駆け寄ってきたのは、片手に収穫したばかりのトマトを持って、すっかり大人の女性になっていたユイだった。

「アキラじゃない!すっかり大きくなって~!」
「ユイ姉は目線が下になっちゃったな」
「女だもん。男の子には勝てないからね。
それにしても、声も低くなっちゃって……驚いた。
いつから帰ってきてたの?」
「昨日から。コウスケの家に世話になってるんだ」
「そっかそっか」

ユイ姉は相変わらず明るい笑顔で微笑んでいた。
ユイ姉は幼馴染の中では唯一の早生まれで、俺たちより一学年上のお姉さん的な存在であった。
そして、俺の中では憧れの存在。
いつでも優しくて、頼り甲斐があるのにおっちょこちょいで。
──いつまでも、目で追っていたい人だったのは、どうやら今でも変わらないらしい。

「コウスケの家で世話になるなら言ってくれたら良かったのに!
私だってアキラとお喋りしたかったんだから~!」
「悪い悪い。タクヤとリンには伝えていたから、言ったものだと思ってた」
「あー!私だけ省いて~!」

この掛け合いも変わらない。
みんな姿が変わっても、昔のままの姿を残していた。

「そうだ。もう少しで作業終わるからさ、少し待っててくれない?
朝ごはんがまだなら家に来なよ。手料理を振舞ってあげる!」
「それなら収穫を手伝うよ。アキラもいるし、男二人の手があれば時短にもなるだろ?」
「ふふ、助かるー!」

そういって手伝う二人だったが、二人でユイの半分ほどしか収穫できなかった。


「ふふ、ありがとうねぇ~」

コウスケが運転する軽トラの後ろを俺とユイ姉はのんびり歩く。
背を伸ばしながら、助かった~と話す彼女を見て思わず笑みが零れる。

「ユイ姉の足元にも及ばなかったな」
「私は毎年お手伝いしてるんだから、あのくらいはね。
慣れてないなら、そんなものだって~」
「そっか」

どうにも照れくさい。
ユイ姉はずっと変わらない。

「アキラが村を出たって聞いて驚いたのも、もうだいぶ昔だね」
「突然だったからなぁ……。みんなにロクに挨拶も出来なかったから、それだけがずっと気掛かりだった」
「コウスケと文通してたでしょ?だから、私たちはアキラの近況を聞いてたけど──アキラは、私たちがどうなってるか分からないもんね」

ユイ姉は前を真っ直ぐ見つめている。
その視線は、懐かしいものを見る目だった。

「みんなで駆け回った日々も、もう遠い過去なんだもんね」

過ぎ去ってしまった過去は戻ってこない。
それは、あまりにも尊いものだった。
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