鈴の音が集まる場所

ネオ

文字の大きさ
6 / 15

2話:幼馴染のお姉ちゃん(3)

しおりを挟む
ちりんちりん。
鈴の音が鳴り響く。
頭の中をこだまして、脳に異常を訴えている。

「うぅ……」

目を覚ますと昨夜見た夢と同じように神社の前の広場で立ち尽くしていた。
起きたのにも関わらず頭の中で反響する鈴の音は未だに鳴り響き、まるでアキラを歓迎してるようだった。

「いっ……」

頭が軋む。疲れすぎているのか、あの栄養剤は摂取するべきではないものだったのか。

──ただ、コウスケがああいうんだ。コウスケが嘘をついているとは到底思えないし。

頭を振り、顔が下を向いたまま目を開くと、目の前に桃色の靴が見える。
それは女性もので──目の前に立っていたのは、倒れて寝ているはずのユイ姉だった。

「ふふふ。おはよ、アキラ」

にこにこと笑っているユイ姉は現実とそう変わらない。
姿はコウスケと同じように現実とは異なり、首元があるオフショルダーの服に胸から腹にかけてコルセットのような鎧、前は膝まで、後ろは足元まで広がる桃色のフリルスカートに桃色のロングブーツを履いている。

「ユイ姉」
「もう体調は大丈夫?」
「え?」

ユイ姉は俺を囲むようにして歩く。それは、俺の行動すべてを見張るように。

「村からいなくなっちゃったの……アキラの体調が悪くなったからだって聞いてたから」

ユイ姉は俺の背中へ回って近寄ると、ユイ姉の細い指で背中をなぞる。本当ならくすぐったさを感じる場面なのに、どうしてなのか。感じるのは恐怖心だった。

「俺が……?」

確かに村を出た後、どこも悪くないのに病院に入院して検査を受けさせられた時はあった。しかし、それはコウスケにすら話してない。

──なぜ、ユイ姉が知っている?

「……どうして、そのままいなくなっちゃったの?」

ユイ姉は背中をとんっと押す。
飛ばされた勢いで前に出て、後ろを振り返ろうと身体を捻るとユイ姉は大きな斧を振りかざしていた。
降ろす瞬間、咄嗟に後退して抜刀する。

「どうしてスズナリ様の元から離れてしまったの?
どうして、私たちを──私を置いていったの?」
「ユイ姉、落ち着いて……」

ユイ姉の独白は止まらない。
いつも前向きで、明るくて、村の太陽であるユイ姉は、今は泣きそうな声で叫びながら、体が遠心力で持っていかれそうなのを無視して感情のままに、斧を振り回している。

──刀じゃ、斧には近寄れない。

「──いつまでも村に縛られたくない」
「え」

俺の足はその言葉に足を掬われて参道の傍らに敷き詰められている石の上に尻餅をつく。

「お姉ちゃんはずっと言われてた。女は笑え。こどもを産め。家のために尽くせって。頑張って抗ったけど、結果は無駄。
村から逃げれないなら意味が無い」

村から逃げたらいいじゃないか、なんて無責任な言葉は言えなかった。

「お母さんやお姉ちゃんみたいになりたくない。
私は好きでもない誰かと結婚したい訳じゃない」

ユイ姉の独白を聞きながら、胸の痛みをごまかしながら間一髪のところを避ける。

「どうしてアキラはいなくなってしまったの。
私は、私は……アキラのことが好きだったのに。
寂しいよぉ……」

ユイ姉の頬に、一粒の涙が流れ落ちる。
ユイ姉はその場に座り込み、まるで幼子のように泣きわめく。

「ユイ姉……」

ユイ姉の傍に寄ろうと、少しでも慰めになってくれればいいなと。
ユメのセカイがユイ姉が現実世界とは違うこともすっかり忘れて、不意に近寄ってしまったのが間違いだった。

「俺はユイ姉の傍にいるから……」

ユイ姉の肩に手を置いた瞬間だった。

「……ホント?」

ユイ姉は顔を上げると先ほどまでの涙は枯れて、歪んだ笑みを浮かべていた。
その瞬間だった。右腕側に大きな反動を感じて視線を向けると、ユイ姉の持った斧で右腕と右脇腹を切断されていた。

「ぁ……ぐっぁぁああ」

時間差で激痛が走り、嫌な汗がにじんでくる。
コウスケの痛みもこんな感じだったのだろうか。
──夢なのに、こんなにもはっきりと痛みを感じるなんて。

「アッハッハッハ!!!!」

ユイ姉は歓喜が混ざる高笑いと共に立ち上がる。
参道に芋虫みたいに這いつくばっている俺を見下ろして、ユイ姉は斧を再び構えた。

「このままだとね、スズナリ様に供物を捧げられない。
私がスズナリ様に選ばれないの。我が家の悲願と私の逃避という夢が叶えられない。
だから──ごめんね?」

悠長に語っているユイ姉はついに斧を振り下ろした。
しかし、振り下ろした──いいや、ユイ姉の斧が落ちた先は、参道の石畳だけだった。

「ごめん、ユイ姉」

ユイ姉に落とされた右腕の元へ転がって、左手で持った刀でユイ姉の両腕を切り落とした。
バランスを崩したユイ姉を左腕で受け止めるように刀で胸を刺した。

「アキラ……」
「ユイ姉、置いていってごめん」

ユイ姉の亡骸を抱きしめながら、ゆっくりと目を瞑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

意味が分かると、分からないと怖い話【体験談+】

緑川
ホラー
ショートショートの寄せ集め。 幻想的から現実味溢れるものなど様々、存在。 出来の良し悪しについては格差あるので悪しからず。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...