入厨 ‐いりくりや‐

天野 帝釈

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変人と飼い婆ぁ

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老婆の家に帰るとまた、土産にもらった豆腐と葱で味噌汁を作る。

棟梁のおかみさんが作ったらしい自慢の味噌で、豆の甘い匂いが残った出汁いらずの一品だ。

そこいらの豆の絞りかすで作ったような安物とはわけが違う。

婆ぁの飯はこれに柔く炊いた米を混ぜて豆腐をぐちゃぐちゃに潰せば良いだろう。

どうやらこの婆ぁは味噌が好きなようだ。

この味噌汁を飲めば泣いて喜ぶかもしれねぇ。

そういやいくら丈夫といえど、そろそろ肌寒くなってきたし、俺の分の布団も買ってもいいな。

と男は思いながら、今日貰った魚の尾にまでたっぷりと塩を付けて焼いて、
前に漬けておいた糠漬けを出し、自分の分の簡単な御膳を作ると、老婆の近くまで行く。

自分の飯を食いながら、丁度よく冷めたおじやをまた、少しずつ老婆の口元に持っていった。




どうにも犬や猫を飼うより自分にはこの婆ぁを飼う方が楽しい。

泥棒になるような変人なのだから当然かと妙に納得して黙々と箸を進めた。
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