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とんだ『花嫁』(1)
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ザッザッ
小石が多く混じった土の道を、数人が歩く音が森に響く。
足音の主は、五人の若い成人男性。柱と布張りな屋根だけの簡素な輿の担ぎ手が四人、それを先導する者が一人。
そんな彼らを、私――花木沙羅は輿の上から眺めていた。
(何だろう、この状況……)
不意に強い風が吹き、腰まである黒髪が靡く。黒髪に濃褐色の瞳。そんな何の変哲もない容姿が、この世界では珍しいようだった。
この世界。そう、ここは私にとって、異世界だ。私は数十分前までは、日本で当たり前のように暮らしていた。
なのに大学の帰り道、いきなりその当たり前は消え失せた。足元に妙な模様が現れたかと思えば、まったく別の場所で座り込んでいた。
薄暗い室内、床には直前まで見ていたものと同じ妙な模様。そして私の戸惑いを余所に、喜び合う人々……。状況から私は、彼らの都合で自分が所謂異世界召喚をされたのだと悟った。
それからは、あれよあれよという間に、彼らの計画通りことを進められた。
純白のドレスに着替えさせられ、ベールと花冠を被せられ。まるで花嫁衣装のようだと思っていれば、本当に私に課せられた役目は『勇者の花嫁』だとか。
ザッザッ
おそらく勇者が待っているだろう場所に向かって、輿が進んで行く。
チャリッ
足を動かした拍子に、私の両足首に繋がれた鎖が鳴った。鎖の先は、輿の柱に繋がれている。
(逃げるとしたら、勇者に引き渡される時よね)
まさか輿ごと勇者には渡さないだろう。となると、問題はどこへ逃げるか、だ。
ここに来るまでの獣道は、一本道のようだった。この道をもっと行ったところに彼らの本拠地とは別の村や街があれば、そこが一番の候補地か。
可能なら、勇者に直接交渉という手もある。何の慣習だか知らないが初対面の異世界人と結婚とか、勇者からしても不本意なはず。交渉の余地はあると思う。
ぐるぐると思考を巡らせていたところ、鎖がまた鳴る。今度は輿が止まった反動が、そうさせた。
(勇者は……まだみたいね)
私は辺りを見回してみた。それらしき人影は見当たらない。
目に入るものといえば、開けた場所の中心にある円形の石畳。その中央に、如何にも伝説の剣ですといわんばかりの、石碑に刺さった剣が祀られている。
輿は石碑の前へと下ろされた。担ぎ手たちが四方に数歩下がる。先導者だけが残り、私を見下ろしていた。
「カシム隊長」
担ぎ手の一人が、先導者に呼び掛けた。
それを合図に、先導者――カシムと呼ばれた男が佩いていた剣を抜く。
剣とか本当、ファンタジーだ。ただそう思いながら、最後まで引き抜かれた剣を眺めていて――
「え……?」
だから私はそれが自分の喉元に向けられたことに、一拍遅れて気が付いた。
(え? どういうこと?)
剣先に釘付けになる目を、意識して無理矢理カシムへと移す。
「……っ」
ぞくりとする、冷たい緑の瞳と、目が合った。
「『一族』の犠牲を代償として、私は勇者の資格を得る」
感情の見えない声が、カシムの口から発せられる。
私にとっては見慣れない、浅葱色をした彼の髪が風に揺れた。
(一族……?)
何故、剣を向けられているのか。それだけで手一杯なところへ、さらにわからないことを言われ眉根を寄せる。
「名も無き私の妻よ。お前に愛は与えられないが、代わりに最上の感謝を贈ろう」
「!?」
カチリ
今この瞬間、私の中でパズルのピースが嵌まった音がした。
『勇者の花嫁』、『一族の犠牲』。自分が嫁ぐ相手は、この男。そして彼が妻を娶るのは、一族として殺すため。
(それ、生け贄って言わない?)
小石が多く混じった土の道を、数人が歩く音が森に響く。
足音の主は、五人の若い成人男性。柱と布張りな屋根だけの簡素な輿の担ぎ手が四人、それを先導する者が一人。
そんな彼らを、私――花木沙羅は輿の上から眺めていた。
(何だろう、この状況……)
不意に強い風が吹き、腰まである黒髪が靡く。黒髪に濃褐色の瞳。そんな何の変哲もない容姿が、この世界では珍しいようだった。
この世界。そう、ここは私にとって、異世界だ。私は数十分前までは、日本で当たり前のように暮らしていた。
なのに大学の帰り道、いきなりその当たり前は消え失せた。足元に妙な模様が現れたかと思えば、まったく別の場所で座り込んでいた。
薄暗い室内、床には直前まで見ていたものと同じ妙な模様。そして私の戸惑いを余所に、喜び合う人々……。状況から私は、彼らの都合で自分が所謂異世界召喚をされたのだと悟った。
それからは、あれよあれよという間に、彼らの計画通りことを進められた。
純白のドレスに着替えさせられ、ベールと花冠を被せられ。まるで花嫁衣装のようだと思っていれば、本当に私に課せられた役目は『勇者の花嫁』だとか。
ザッザッ
おそらく勇者が待っているだろう場所に向かって、輿が進んで行く。
チャリッ
足を動かした拍子に、私の両足首に繋がれた鎖が鳴った。鎖の先は、輿の柱に繋がれている。
(逃げるとしたら、勇者に引き渡される時よね)
まさか輿ごと勇者には渡さないだろう。となると、問題はどこへ逃げるか、だ。
ここに来るまでの獣道は、一本道のようだった。この道をもっと行ったところに彼らの本拠地とは別の村や街があれば、そこが一番の候補地か。
可能なら、勇者に直接交渉という手もある。何の慣習だか知らないが初対面の異世界人と結婚とか、勇者からしても不本意なはず。交渉の余地はあると思う。
ぐるぐると思考を巡らせていたところ、鎖がまた鳴る。今度は輿が止まった反動が、そうさせた。
(勇者は……まだみたいね)
私は辺りを見回してみた。それらしき人影は見当たらない。
目に入るものといえば、開けた場所の中心にある円形の石畳。その中央に、如何にも伝説の剣ですといわんばかりの、石碑に刺さった剣が祀られている。
輿は石碑の前へと下ろされた。担ぎ手たちが四方に数歩下がる。先導者だけが残り、私を見下ろしていた。
「カシム隊長」
担ぎ手の一人が、先導者に呼び掛けた。
それを合図に、先導者――カシムと呼ばれた男が佩いていた剣を抜く。
剣とか本当、ファンタジーだ。ただそう思いながら、最後まで引き抜かれた剣を眺めていて――
「え……?」
だから私はそれが自分の喉元に向けられたことに、一拍遅れて気が付いた。
(え? どういうこと?)
剣先に釘付けになる目を、意識して無理矢理カシムへと移す。
「……っ」
ぞくりとする、冷たい緑の瞳と、目が合った。
「『一族』の犠牲を代償として、私は勇者の資格を得る」
感情の見えない声が、カシムの口から発せられる。
私にとっては見慣れない、浅葱色をした彼の髪が風に揺れた。
(一族……?)
何故、剣を向けられているのか。それだけで手一杯なところへ、さらにわからないことを言われ眉根を寄せる。
「名も無き私の妻よ。お前に愛は与えられないが、代わりに最上の感謝を贈ろう」
「!?」
カチリ
今この瞬間、私の中でパズルのピースが嵌まった音がした。
『勇者の花嫁』、『一族の犠牲』。自分が嫁ぐ相手は、この男。そして彼が妻を娶るのは、一族として殺すため。
(それ、生け贄って言わない?)
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