魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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『勇者の花嫁』から『魔王の花嫁』へ(3)

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「ん? お、部屋の用意が出来たらしい」

 ギルが斜め上の空間を見上げて、唐突にそう口にする。ファンタジーお約束のテレパシー会話という奴だろうか。
 ギルが私に目を戻す。

「わっ」

 肩にポンッと手を置かれたと思えば、パッと目の前の景色が変わった。
 瞬間移動! ファンタジーのお約束コンボいただきました!

「おお、俺の部屋の隣だな。そうだよな、嫁だもんな。さすがわかっているな、魔王城」

 テレパシーの相手は城!
 城そのものが部屋の用意をするとか。何て画期的で無駄のないシステム。
 でも魔王の近くに、いきなり得体の知れない人間を置いていいんだろうか。セキュリティ的にそれはどうなんだろう。

「ん? わかってる、わかってる。そこは彼女の許可が下りるまでは開けない。誓って開けない」

 魔王が滅茶苦茶満足げにしてるから、そこが最優先事項なんだろうか。そんな気がしてきた。

「サラの世話役は……やっぱり見た目が人間に近い方がいいよな?」
「そうですね」

 ギルの提案に、私は迷いなく頷いた。
 例えば、さっき見た食人蔦の中身が包容力抜群のおかんだとして、その胸に飛び込めるかと言われるとできる気がしない。見た目、大事。

「よし、じゃあこいつにしよう。リリ、来い」

 ギルが床に向かって話し掛ける。すると直ぐさま彼の正面の床が、ポゥッと発光した。
 次いで、十二、三歳くらいの少女が床からニュッと浮き上がってくる。

「お呼びですか、魔王様」
「リリ、お前は今日からサラの世話に付いてくれ」
「サラ?」

 不思議そうに自分を見てきた少女に、私は「よろしくね」と微笑んでみせた。
 巻き毛な金髪に青い瞳。まるで精巧なお人形みたいな少女だ。

「サラは俺の嫁なんだ」
「嫁……お妃様!」

 ガラガッシャン

「わああああああっ」

 突然リリが崩れ、私は悲鳴を上げた。
 そう、崩れた。分解したとも言う。

「え、ちょっ、え、大丈夫!?」
「大丈夫だ。リリは『呪いの人形』なんだ。驚くとたまにこうなるけど、すぐに元に戻るから」

 あ、本当に人形なんだ。しかも『呪いの』って付くんだ。まあそうだね、魔王の部下だしね。

「お騒がせしました、サラ様。このような大役、リリはとても嬉しいです。誠心誠意お仕えさせていただきます!」

 ギルの言葉通りすぐに復活したリリが、ガバッと頭を下げる。

「もう一時間もしないうちに、食事の用意ができるはずだ。それまで部屋で寛いでいてくれ。じゃあ、また後で」

 ギルが片手を上げたかと思うと、フッと消えてしまう。
 きっと先程シナレフィーさんと話していた仕事の報告を受けに、執務室に向かったのだろう。

「さあさあ、サラ様。どうぞ、お入りになって下さい。魔王城が言うには、気合いを入れてサラ様の好みにしたとのことですよ」

 ギルがいた空間をぼんやり見ていた私は、リリの声掛けに引き戻された。
 自分が整えたかのように、リリが誇らしげに扉を開ける。

(……これは)

 『気合いを入れて好みに』。リリが言うように、魔王城がものすごく頑張った感は見て取れた。

「部屋の中央に……たつ

 魔王城に炬燵。何てシュールな光景……座椅子まである、それも四つ。
 残念ながら窓を含め、壁と床は城本来の石造りのまま。炬燵と座椅子以外の家具も、ファンタジー的な洋風だ。故に中央のその一画だけがとっても浮いていた。
 頑張った。魔王城、頑張った。
 気になって仕方がないので、私は真っ先に炬燵に入った。どういう原理なのか、ちゃんと温かい。

「あー……色んな意味で、温かい」

 木製の天板に、頬をぺたりと付ける。

「これ、何て魔物ですか……サラ様。リリ、食べられちゃいそうです……」

 隣を見れば、私の真似をしたリリが一瞬にして取り込まれていた。

「これはね、炬燵って言うの。うん、魔物だね。これは魔物」

 特に冬場は強力になる。入ったが最後、出られなくなる。

「コタツ……いいですね~……」
「いいよね~……ありがとう、魔王城」

 自分はテレパシーは使えないだろうが、私はそれでもお礼を述べた。
 そして私はギルが勧めた通り、食事に呼ばれるまでの時間を心ゆくまで寛いだのだった。
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