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魔界へ帰ろう計画(1)
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食事の内容は、驚くほど普通の洋食だった。
使っている材料こそ聞いたことのない野菜やら肉やらだったが、見た目と味はごく普通のステーキ定食だった。奇声を発したり紫の煙を上げたりなんてことは、最後までなかった。それどころか、魔王城の食卓に上がるのは毎回、人間の一般的な食事らしい。
そこに至ったきっかけは、本来の姿では満足行く量の食料確保が困難で、人型なら少量で腹が膨れるのではというギルの思いつきだとか。で、ドンピシャな効果を得られたギルは早速シナレフィーさんにも勧めて、以来二人は省エネのために日常的に人型を取っているのだという。
ファンタジーにおいて人型の魔王は珍しくないが、皆が皆ギルのような切実な理由でないことを願う。ちなみにギルの種族は、古代竜とのこと。そりゃあ食料の確保が難しいだろう。正体を見なくとも相当大きなことは、容易に想像がつく。
コトッ
食事が終わり、リリが食後の紅茶を出してくれる。人数分を並べ終えると、彼女は着席する私たちを残して退室した。
私の隣にギルが座り、ギルの前にシナレフィーさん。シナレフィーさんの隣には、予想通り美人(清楚系!)の彼の奥さんが座っている。食事の前にミアという名だと紹介された。
食事の席は、やたら長いテーブル――ではなく普通の四人掛けテーブルだった。貴族的なあれの実物を一度見てみたかったので、少し残念だ。
「サラが召喚されたときの話だけど、その時にオーブを見なかったか?」
ギルは紅茶を一口飲んだ後、私にそう聞いてきた。
私は今回の食事の際に、自分があの場にいた事情をギルに話していた。
異世界から来たなど信じるだろうかと心配だったが、まったくの杞憂。「俺たちも魔界からこっちに来ているしな」とあっさり信じてくれた。言われてみれば、ごもっともである。
ちなみに今回の食事中にした会話は、その話題のみだ。ギルとシナレフィーさんの見事な食べっぷりに、呆気に取られているうちに終わってしまっていた。
「んー……」
私は目を閉じて、召喚された時のことを思い起こした。
「あった……かも」
目を開け、ギルに頷いてみせる。
召喚された部屋の中央、台座の上にそれはあったと思う。
勇者だ魔王だと聞いてすぐピンと来るくらいには、私はゲーム好きだ。オーブが丸い宝石を指すなんて常識中の常識。私が見たあれで間違いないだろう。
「やっぱりそうか。あれは元々俺たちが、こちらの世界に渡る時に使用したものだ。サラが異世界から喚ばれたというから、そうじゃないかと思った」
「オーブの所在がわかったのは、朗報ですね」
「ああ。触媒の方は渋い結果だったが、一番の問題だったオーブの在処がわかったというのは、大きな前進だな」
嬉しそうに話すギルと、やっぱり無表情のシナレフィーさんが頷き合う。
「そうだ、サラにも話しておく。俺たちは今、魔界に帰る計画を立てている」
既に紅茶を飲み終わったらしいギルが、私の方に身体ごと向き直って言う。
私は自分のカップに口をつけながら、彼の方を見た。椅子の背に片腕を掛けたギルは、だらしないどころかそれがまた格好いい。イケメンは得である。
「オプストフルクト――ああ、この世界のことな。ここに魔族たちを連れて来たのは、先代の魔王なんだ。当の本人は勇者と呼ばれる人間に殺されてもういないし、だったら俺が魔界に引き上げても構わないだろうと思って。そんなわけで、俺が魔王に即いた日から準備を始めたわけなんだけど、そこで勇者が『転移のオーブ』を持ち去ってたことに気付いたんだ。参ったよ」
「オーブもですが、宝物庫も根こそぎやられてましたね。炎竜の奥方のために貯め込んだ財宝だったと聞いた時は、さすがに多少は同情しました」
「あー……」
溜息をつく二人に、私は苦笑いを浮かべた。
(私もラスダンは隅々まで歩いて宝を集める派です、申し訳ない!)
そして心の中で手を合わせた。
使っている材料こそ聞いたことのない野菜やら肉やらだったが、見た目と味はごく普通のステーキ定食だった。奇声を発したり紫の煙を上げたりなんてことは、最後までなかった。それどころか、魔王城の食卓に上がるのは毎回、人間の一般的な食事らしい。
そこに至ったきっかけは、本来の姿では満足行く量の食料確保が困難で、人型なら少量で腹が膨れるのではというギルの思いつきだとか。で、ドンピシャな効果を得られたギルは早速シナレフィーさんにも勧めて、以来二人は省エネのために日常的に人型を取っているのだという。
ファンタジーにおいて人型の魔王は珍しくないが、皆が皆ギルのような切実な理由でないことを願う。ちなみにギルの種族は、古代竜とのこと。そりゃあ食料の確保が難しいだろう。正体を見なくとも相当大きなことは、容易に想像がつく。
コトッ
食事が終わり、リリが食後の紅茶を出してくれる。人数分を並べ終えると、彼女は着席する私たちを残して退室した。
私の隣にギルが座り、ギルの前にシナレフィーさん。シナレフィーさんの隣には、予想通り美人(清楚系!)の彼の奥さんが座っている。食事の前にミアという名だと紹介された。
食事の席は、やたら長いテーブル――ではなく普通の四人掛けテーブルだった。貴族的なあれの実物を一度見てみたかったので、少し残念だ。
「サラが召喚されたときの話だけど、その時にオーブを見なかったか?」
ギルは紅茶を一口飲んだ後、私にそう聞いてきた。
私は今回の食事の際に、自分があの場にいた事情をギルに話していた。
異世界から来たなど信じるだろうかと心配だったが、まったくの杞憂。「俺たちも魔界からこっちに来ているしな」とあっさり信じてくれた。言われてみれば、ごもっともである。
ちなみに今回の食事中にした会話は、その話題のみだ。ギルとシナレフィーさんの見事な食べっぷりに、呆気に取られているうちに終わってしまっていた。
「んー……」
私は目を閉じて、召喚された時のことを思い起こした。
「あった……かも」
目を開け、ギルに頷いてみせる。
召喚された部屋の中央、台座の上にそれはあったと思う。
勇者だ魔王だと聞いてすぐピンと来るくらいには、私はゲーム好きだ。オーブが丸い宝石を指すなんて常識中の常識。私が見たあれで間違いないだろう。
「やっぱりそうか。あれは元々俺たちが、こちらの世界に渡る時に使用したものだ。サラが異世界から喚ばれたというから、そうじゃないかと思った」
「オーブの所在がわかったのは、朗報ですね」
「ああ。触媒の方は渋い結果だったが、一番の問題だったオーブの在処がわかったというのは、大きな前進だな」
嬉しそうに話すギルと、やっぱり無表情のシナレフィーさんが頷き合う。
「そうだ、サラにも話しておく。俺たちは今、魔界に帰る計画を立てている」
既に紅茶を飲み終わったらしいギルが、私の方に身体ごと向き直って言う。
私は自分のカップに口をつけながら、彼の方を見た。椅子の背に片腕を掛けたギルは、だらしないどころかそれがまた格好いい。イケメンは得である。
「オプストフルクト――ああ、この世界のことな。ここに魔族たちを連れて来たのは、先代の魔王なんだ。当の本人は勇者と呼ばれる人間に殺されてもういないし、だったら俺が魔界に引き上げても構わないだろうと思って。そんなわけで、俺が魔王に即いた日から準備を始めたわけなんだけど、そこで勇者が『転移のオーブ』を持ち去ってたことに気付いたんだ。参ったよ」
「オーブもですが、宝物庫も根こそぎやられてましたね。炎竜の奥方のために貯め込んだ財宝だったと聞いた時は、さすがに多少は同情しました」
「あー……」
溜息をつく二人に、私は苦笑いを浮かべた。
(私もラスダンは隅々まで歩いて宝を集める派です、申し訳ない!)
そして心の中で手を合わせた。
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