魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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システムという名の特殊能力(2)

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「本当は、その図鑑の付箋が貼ってある頁を見ながら、触媒の選別をしてもらおうと思っていたんだ。けど、手に取ってわかるのなら、図鑑要らずだな」

 ギルが私を手招きし、ソファーが置かれた場所へ行く。
 ソファーと対のテーブルから二つの植物を取り上げたギルは、それぞれを片手に持った。
 両方とも黄色の花が咲き、茎の一部が大きく膨らんだ形状をしている。ぱっと見同じに見えるが、こうして見せるということは違うのだろう。
 私は彼の意図がわかり、まずはその片方に手で触れた。

「『マルワウリ』。野菜。食べるとHP微回復」

 現れたアイテム説明欄を読み上げる。
 続けて、もう片方に触れる。

「『トトカウリ』。毒草。魔法の触媒として使用される」
「おおぉ……俺の一時間の格闘が、一瞬で。もうそれだけで食って行けそうな、便利過ぎる能力だな!」

 ギルが感嘆の声を上げる。
 確かに、この能力自体が商売になりそうだ。訓練を積んだプロしか鑑定できないようなものが、手に触れた瞬間にわかるとか。プレイヤーキャラがいつも特別扱いされるのは、もしやこのシステムという名の特殊能力のお陰だったのでは。

(ん? ということは……)

 チラリとミニマップに目をやる。

「ギル。ここの隣の部屋ですけど、倉庫とか宝物庫とかそういうのじゃないですか?」
「ああ、倉庫だな」
「あ、やっぱり。見えるんです、有用なアイテムが収められている箱が」

 そう、見える。目を引いて止まない、皆大好き宝箱マークが。

「え? 見える? どういう状況だ、それは」

 ギルが倉庫がある方の壁を振り返る。

「いえ、壁を透過してという意味じゃなくて。この辺りに自分を中心とした情報付きの地図が、見えるんです」

 私はミニマップがある宙を指差した。
 ギルが私が指差した空中を、目を凝らして見る。

「さっきのギルが探していた本も、それでわかりました」
「俺が何を探しているのかも、知らないのに?」
「はい」
「お前は神か! というか、滅茶苦茶冷静だな!?」
「私の世界では、割とよく見かける仕様だったので」
「よく見かける!? 手に取っただけで初見のアイテムの判別が付くとか、城内配置が筒抜けとか。俺はお前の世界に、絶対に住めそうにない。頭がおかしくなりそうだ」

 ギルが驚愕の表情で頭を抱える。
 何だか元の世界について誤解を与えたようだけれど、まあいいか。

「あっ、そうだ。これって、私がオーブのある村に一緒に行けば、在処がわかるんじゃないでしょうか」
「! 確かに!」

 瞬時に立ち直ったギルが、バッと私を見てくる。

「ただ、ミニマップはオートマッピングで……えーと、つまり実際に歩いた場所とその周辺しか見えなくて。だからある程度、近付く必要があって。近くなら、さっき倉庫を言い当てたように、部屋に入らなくても中にあるのがわかると思うんですが」
「充分過ぎるほどの能力だ。お前がいれば、魔界に帰れる日も近いな」

 上機嫌でギルが、手にした植物を元の場所に戻す。

「ギルの役に立てそうで、良かったです。それでこの籠に積んである植物を、選別すればいいんですか?」
「ああ、左の布に『マルワウリ』、右に『トトカウリ』で分けて欲しい」
「わかりました」

 ソファーに座るよう勧めた彼自身は他へ移ったため、私は二人掛けの中央に座った。
 テーブルの中央にある籠から、中身を一つ摘まみ上げる。
 『トトカウリ』。右、と。

「サラ。夕方になったら、俺と一緒に街に出よう。いいか?」
「視察ですか? お付き合いさせて下さい」

 執務机の辺りから飛んできたギルの声に、私は彼の方を見て答えた。

「あー……うん、そう、視察。よろしく」

 ギルが私を見て、それから左斜め上を見ながら「笑うな、魔王城」と口を尖らせる。例によって魔王城と、テレパシーな会話をしているらしい。
 ギルの声しか聞こえないはずなのに、魔王城は気の置けない相手なのが伝わってくる。どことなく、ギルがやり込められているような雰囲気も。
 私はこっそり笑いながら、選別作業の途中だった自分の手元に目を戻した。
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