22 / 105
嫁のお取り扱い(1)
しおりを挟む
夕食後、私はギルの私室に招かれていた。
ギルの私室に入るのは初めてだなと、呑気に眺めていた五秒前の私は、知る由もありませんでした。
(どうしてこうなった!?)
押し倒されております。ギルによってベッドに、現在、押し倒されております。
「えっと……ギル、これって?」
私の肩の横に両手を突いて覆い被さるギルに、状況の説明を求める。
これもそれも無いような気もするが、何か事情があるとも限らない。
「シナレフィーが初めてミアの唇にキスした時、倒れたと聞いたから。最初から安全を考慮してみた」
事情があったー!
ミアさん、倒れたのか。シナレフィーさんに色々吹き込んでいるあたり、ロマンチストぽいところがあるから。うん、彼女ならクラクラして倒れかねない。
ギルはそれを心配したと。そうか、押し倒してきたのは、ギルの優しさか。前提が、まずおかしい気はするけれど。
ところで、これはやっぱり街で言っていた「予約」の受け取り待ちということですよね。私の要望通り、二人きりになって。私が倒れる準備までしているあたり。
色々考えてくれるのは、素直に嬉しい。でもこう「さあ、するぞ」が前面に出てしまっていてはロマンが無いので、私はミアさんと違って「ああ、うっとり」と倒れることは無さそう。
ボーンボーン……
暖炉の側に立つ柱時計が鳴る。食堂ほど大きくはなく、私の腰の高さほどだ。
「サラ、こっちを向いて」
無意識に時計を見遣っていた私を、ギルが呼び戻す。
ち、近っ。顔近い。目を閉じたギルって初めて見た。あと、ギルの銀髪が触れている頬がくすぐったい。
そ、それから――
「んっ」
ごちゃごちゃと考えていたすべては、一瞬で雲散した。
(キス、キスして……る!)
同時に今度は目の前のことに、意識が集中する。
うあぁ……駄目、見てられない。あ、見てられないなら目を閉じればいい。
ぎゅっ
固く瞼を閉じる。
結果、視覚に分散されていた意識が触覚に一点集中することに。
(わー、わー)
唇の上、下、端。滑らかに動くギルの唇を、つい追ってしまう。
ただ重ねられただけのはずが、どうしてか触れられるたびに酷く熱い。
外から、内から熱くて。私は息苦しさに、助けを求めるようにギルの片腕に手を添えた。
その気持ちが通じたのか、ギルが少しだけ顔を離す。
「ギル――ん、む……っ」
彼の名を呼んだことで開いた隙間から、ギルの舌が腔内に侵入してくる。
通じてなかった。さらに状況が悪化した。
逃げ惑う私の舌を、ギルがまるで見えているかのように的確に追ってくる。
(うわわ……キスって本当に音がするものだったの)
擬音だと思っていたクチュクチュという音が、まさにそのまま私の耳を犯している。
それが止んだかと思えば、
「ひゃあっ」
その音を生み出していたものに直接耳を食まれ、私の肩は大きく跳ねた。
「サラ……もっと、したい……」
肩ばかりか私の全身を震わせるようなギルの囁きが聞こえた直後、再びギルの舌に私の舌が絡め取られる。
「は、ふ……」
きゅっと、彼を掴んだ手に力が入る。
(そっか、通じてなかったんじゃない)
ギルが口にした「もっと」は、きっと私の本音でもある。
ギルに触れた私の手は、彼を引き寄せている。
「サラ、もっと……」
ギルの片手が私の頬に掛かり、上向かされ、口づけが深くなる。
頭の奥がぼんやりとしてきて、体中から力が抜けていく。
それは固く閉じていた瞼も同様で、薄らと戻ってきた視界に、私を貪るギルが見えた。
「は……」
キスの合間に聞こえる吐息は、ギルのものなのか、私のものなのか。
「もっと欲しい……」
(私も……)
そう答えようとした私の声は、音にならなかった。
そして私は、
「……サラ?」
倒れたというミアさんがロマンではなく、物理的に倒されたのだと、次に目が覚めた夜中に悟ったのだった。
バタン
きゅう
ギルの私室に入るのは初めてだなと、呑気に眺めていた五秒前の私は、知る由もありませんでした。
(どうしてこうなった!?)
押し倒されております。ギルによってベッドに、現在、押し倒されております。
「えっと……ギル、これって?」
私の肩の横に両手を突いて覆い被さるギルに、状況の説明を求める。
これもそれも無いような気もするが、何か事情があるとも限らない。
「シナレフィーが初めてミアの唇にキスした時、倒れたと聞いたから。最初から安全を考慮してみた」
事情があったー!
ミアさん、倒れたのか。シナレフィーさんに色々吹き込んでいるあたり、ロマンチストぽいところがあるから。うん、彼女ならクラクラして倒れかねない。
ギルはそれを心配したと。そうか、押し倒してきたのは、ギルの優しさか。前提が、まずおかしい気はするけれど。
ところで、これはやっぱり街で言っていた「予約」の受け取り待ちということですよね。私の要望通り、二人きりになって。私が倒れる準備までしているあたり。
色々考えてくれるのは、素直に嬉しい。でもこう「さあ、するぞ」が前面に出てしまっていてはロマンが無いので、私はミアさんと違って「ああ、うっとり」と倒れることは無さそう。
ボーンボーン……
暖炉の側に立つ柱時計が鳴る。食堂ほど大きくはなく、私の腰の高さほどだ。
「サラ、こっちを向いて」
無意識に時計を見遣っていた私を、ギルが呼び戻す。
ち、近っ。顔近い。目を閉じたギルって初めて見た。あと、ギルの銀髪が触れている頬がくすぐったい。
そ、それから――
「んっ」
ごちゃごちゃと考えていたすべては、一瞬で雲散した。
(キス、キスして……る!)
同時に今度は目の前のことに、意識が集中する。
うあぁ……駄目、見てられない。あ、見てられないなら目を閉じればいい。
ぎゅっ
固く瞼を閉じる。
結果、視覚に分散されていた意識が触覚に一点集中することに。
(わー、わー)
唇の上、下、端。滑らかに動くギルの唇を、つい追ってしまう。
ただ重ねられただけのはずが、どうしてか触れられるたびに酷く熱い。
外から、内から熱くて。私は息苦しさに、助けを求めるようにギルの片腕に手を添えた。
その気持ちが通じたのか、ギルが少しだけ顔を離す。
「ギル――ん、む……っ」
彼の名を呼んだことで開いた隙間から、ギルの舌が腔内に侵入してくる。
通じてなかった。さらに状況が悪化した。
逃げ惑う私の舌を、ギルがまるで見えているかのように的確に追ってくる。
(うわわ……キスって本当に音がするものだったの)
擬音だと思っていたクチュクチュという音が、まさにそのまま私の耳を犯している。
それが止んだかと思えば、
「ひゃあっ」
その音を生み出していたものに直接耳を食まれ、私の肩は大きく跳ねた。
「サラ……もっと、したい……」
肩ばかりか私の全身を震わせるようなギルの囁きが聞こえた直後、再びギルの舌に私の舌が絡め取られる。
「は、ふ……」
きゅっと、彼を掴んだ手に力が入る。
(そっか、通じてなかったんじゃない)
ギルが口にした「もっと」は、きっと私の本音でもある。
ギルに触れた私の手は、彼を引き寄せている。
「サラ、もっと……」
ギルの片手が私の頬に掛かり、上向かされ、口づけが深くなる。
頭の奥がぼんやりとしてきて、体中から力が抜けていく。
それは固く閉じていた瞼も同様で、薄らと戻ってきた視界に、私を貪るギルが見えた。
「は……」
キスの合間に聞こえる吐息は、ギルのものなのか、私のものなのか。
「もっと欲しい……」
(私も……)
そう答えようとした私の声は、音にならなかった。
そして私は、
「……サラ?」
倒れたというミアさんがロマンではなく、物理的に倒されたのだと、次に目が覚めた夜中に悟ったのだった。
バタン
きゅう
0
あなたにおすすめの小説
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる