魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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『嫁』と『契約』(4)

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「ギル」
「うん? ――おわっ」

 私は繋いでいた手を離し、バッとギルの腰に抱き付いた。

「え? サラ? え?」
「……ここでしかできないこと、しています」

 ギルを慌てさせてみたい気持ちもあった。でも、それ以上に自分がこうして見たかった。

「お、おう、そうだな。なるほど、なるほどなー……」

 ぎゅう
 ギルの背中で腕をクロスさせ、密着する。

(ひゃっ)

 頭にあったギルの手が、私の背中まで降りる。もう片手は、私の腰に回された。
 う、わぁ……自分で抱き付いておいてだけど、恥ずかしい!
 壁に頭をぶつけたいところを、代わりにギルの胸に額を擦り寄せる。

「……サラ」

 ぞくりとする色気のある声が耳元でして、私はピタリと動きを止めた。
 私の背にあったギルの手が肩に移る。

「これから、キスは唇にしても?」
「……っ」

 そういう声も出せたんですね!?
 結局、慌てさせられるのは私なわけで。知ってた!

(わ、わ、わ)

 ギルの手が、首を辿って、頬まで来て止まる。
 その『これから』は今これからなの? ここでしちゃう? されちゃう?

(でも、してもいいかと聞かれたら、駄目な理由は無い……よね?)

 私はそろりと顔を上げ、

(あ、駄目な理由あった)

 そこで自分たちが、いつの間にか周りにいた魔物たちの注目を浴びていることに気付いた。
 可愛い動物のような容姿から、如何にもなキマイラまで。皆一様に遠巻きでこちらをガン見というこの状況。中には結構近くで見物している猛者までいた。
 そうでした。ここ、往来の真ん中でした。
 城へ続く大通りで、その城の主(つまり有名人)がイチャイチャしている。それは注目も集めるというもの。
 公開処刑はご容赦願いたい。私はそっとギルの肩を押し、呑まれかけたピンクの雰囲気からの脱出を図った。

「……二人きりの時なら」

 離れた私に目に見えてしょぼくれたギルへの、フォローも忘れない。
 途端、ギルに元気が戻って、

「じゃあ、予約な!」
「わぁっ」

 私を肩の高さまで持ち上げたギルが、その場で一回転。

「サラは俺の嫁だ。皆、歓迎して欲しい!」

 観衆は大歓声。
 飛び交う祝福の言葉。
 しまいには拍手まで巻き起こる。
 上機嫌なギルに、私まで自然笑顔になった。

(何だか、結婚式みたい)

 森で花嫁衣装を着せられた時よりも、ずっとそう思えた。
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