魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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百年花(1)

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 ギルに倒された翌日の私は、キスの時間において『夜以外は三秒まで』のルールを彼に言い渡すところから始まった。昨夜のレベルでやられると、良くて膝から崩れ落ち、悪けりゃベッドに逆戻りさせられるが故に。
 しょんぼりするギルに、垂れた犬耳の幻が見えた。でも振り切った。頑張った、私。
 そんな午前を経て、現在午後の三時頃。
 私は魔王城の中庭に来ていた。そこで栽培している『百年花ひやくねんか』が咲いたと、花壇の一画を管理しているミアさんに誘われたからだ。

「ふふっ、サラさん。昨夜は陛下のお部屋に泊まったとか」

 「夕べはお楽しみでしたね」のニュアンスで、ミアさんに微笑まれる。
 ちなみに、ミアさんには初顔合わせの後すぐに、『さん付け』をお願いした。寧ろこちらが彼女を様付けで呼びたいくらいですから。ええ、今日も神々しいです。

「その……キスの時間に倒れて、部屋に戻りそこねただけです……」

 昨夜、目が覚めたらギルに添い寝されていた。その上、ガッチリと彼に抱き込まれており、抜け出せなかった。
 着衣の乱れは無かったし、最初に押し倒されていた理由が理由なので、何事も無かったと思う。朝食時にシナレフィーさんと「昨夜の調合」について話し合っていたので、あの後ギルは一旦どこかへ行っていたとも思うし。
 あと今、ミアさんが身に覚えがありそうな顔をしたので、この推測で合っていそう。
 お互いに曖昧な笑顔を返しながら、二人で庭を歩く。
 そして陽の光が当たらない場所に、白い百合に似た百年花は咲いていた。

「わぁ……綺麗ですね」

 十株ほど植わっているすべてが、満開だ。見た目と同じで、香りも百合に似ている。
 花壇の前に屈んだミアさんに、私も倣った。

「レフィーが来る前にサラさんと見られて良かったわ。レフィーに見つかったなら、また「ああ、咲きましたか」の一言で、ブチッと摘んでいってしまったでしょうから」
「あはは……シナレフィーさんにとっては、触媒は触媒なんでしょうね」

 以前、ミアさんは、百年花の他にも触媒を育てていたと言っていた。「また」と言うからには、きっとそれが咲いた時にでもブチッとやられていたのだろう。

「百年花は魔界に在るものも含めて、すべての花が同日に一斉に咲いて、三日後に今度は一斉に散るのですって」
「へぇ……世界を超えて同調シンクロするわけですか。不思議ですね」
「この世界では、魔界から持ち込んだものが細々と繁殖しているだけだけれど、魔界には一面に百年花が咲く草原があるそうなの。とても綺麗なんでしょうね」
「それは圧巻な光景でしょうね。――あ、でも今、咲いているってことは見られないのか……」

 百年花は名前が表すように、百年に一度しか咲かないらしい。人間の寿命では、ここで咲いているのを見られただけでも運が良かったといえる。

「あら。サラさんも陛下と結婚されたから、見られるかもしれませんよ」
「え?」

 どういうことかとミアさんを見遣れば、彼女がにこりと私に笑顔を向けてくる。

「唇に、キスをしたんでしょう?」
「えっ。えっと……そう、です」

 かぁ
 そんな定番の擬音が付いたなと思える程、私の頬は瞬時にった。

「こうガッツリ、来られたわよね?」
「そ、そうです、ね……」

 あの。何の拷問ですか、これ。
 モヤモヤ
 ギルの形を取りそうになっている妄想を、慌ててパタパタと追い払う。

「息もままならくらいに、濃厚な……」
「そそそうですねっ」

 ですから何の拷問ですか。
 モヤモヤが、くっきりハッキリしちゃったじゃないですか。
 あ、ギルが近い。幻のギルが近い。またギルにキスされ――

「竜の体液を人間が摂取すると、老化が緩やかになるみたいなの」
「へ?」

 ヒュンッ
 桃色の空気がなくなるとともに、幻のギルも消える。
 助かったような、惜しかったような。
 というかミアさん、完全に私の反応を楽しんでましたよね。お茶目要素も持ち合わせた美人とか、最強か。
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