魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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勇者の暗躍(3)

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「私のことはいいでしょう。それで、溶岩地帯の拡大は収拾がついたんですか?」
「あっ、言うなよ。俺は「鉱石を取ってくる」って建前をだな……。まあ、何とか。流れを変えて、魔王城までは来ないように調整してきた」
(えっ!?)

 ギルの穏やかでない台詞に、私は口の中のサラダをしやくしながら注意を向けた。
 『ちょっと溶岩地帯まで』の真相が、まさかそんなだったとは。

「火山が突然活性化した原因は、おそらくカシムが火の精霊のほこらを壊したからだと。火の精霊が火山へ移り住んだんでしょう。彼は他の精霊の祠も狙っているようです」

 言いながらシナレフィーさんが、ギルに折り畳まれた紙を手渡す。
 それを受け取ったギルは、紙を広げて紙面に目を落とした。

「そこにあるように、今頃カシムは精霊の村に乗り込んでいると推測されます。妃殿下の情報が思うように集まらず、精霊に矛先を変えたんでしょう。妃殿下側から契約を外せないなら、仲介者側の精霊をどうにかしてしまえばいい。大胆な発想ですが、理屈には合っています」
「お高くとまった精霊が、住処を壊されたくらいで人間の言うことを聞くとも思えないけど」
「多分、人間側もそう思っていますよ」
「どういうことだ?」

 紙面から顔を上げたギルが、シナレフィーさんを見る。

「噴火で魔王城が潰れても、火の精霊が消滅して勇者の契約の効力が弱まっても、どちらに転んでも人間には都合が良いということでしょう」
「いや、火の精霊が消滅したら人間だってまずいだろ。次の精霊が生じるまで、何年も気候が極寒となるはずだ」
「そこは二百年前の技術を使うつもりでしょう。人工精霊なんてのも、在ったはずですから。現状、人間が自分たちの都合で文明レベルを下げているんです、同じように都合次第で引き上げますよ」
(文明レベルを下げた?)

 私は絶妙な焼き加減のステーキを頬張りながら、シナレフィーさんの言葉を頭の中で繰り返した。
 今のシナレフィーさんの言い方では、オプストフルクトは二百年前の方が発展していたと取れる。そして、その気にさえなれば、今にもそこまでの生活水準に上げられるとも。
 私は、この世界の人が二百年前の文明レベルに戻るのが怖いのだと思っていた。だから、世界の生物環境を変えようとしているギルを、敵と見なしてるのだと。
 でも今の話が本当なら、私の推測はまったく違ってくる。
 私は次の肉にナイフを入れる前に、ギルに顔を向けた。

「オプストフルクトは、ギルたちが来る前の方が発展していたんですか?」
「ん? ああ。元々先代がここに来た理由が、こっちの精霊に、増えすぎた人間の数を減らして欲しいって頼まれたからだからな」
「人間の天敵を新しく創造するより、一時的に外部から持ってくる方が簡単かつ、生態系バランスも再構成する必要がない。精霊にとっては、良いこと尽くめです」

 シナレフィーさんが補足する。そして彼は、四等分したステーキを重ねて刺したフォークを口の中へと入れた。顔に似合わずワイルドな食べ方です。

「人間の数は減らしたけど、先代も俺も知識を取り上げる真似はしていない。シナレフィーが言うように、人間が知識を使っていないのは、事情はわからないが向こうの都合だ」
「そうなんですか」

 自分たちの都合で知識を使わない。便利なものがあるのに、敢えて使わないなんてことあるだろうか。
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